モデルとキャラクター

スコット

まだまだ続くぞ、サンダーバード。ジェフの人形は「ボナンザ」のローン・グリーンがモデルだそうだ。ぺネロープのモデルがブリジット・バルドーだということは有名だけど、他の人形にもモデルがあったらしい。「ボナンザ」は子供の頃、私の田舎では「カートライト兄弟」という題名で放映されていた。でも当時は8時になると子供は寝ることになっていたから、あんまり見たことはなかった。母親が異なる三人の兄弟と、父親との話だったらしい。子供には複雑なことはわからん。末っ子を演じたマイケル・ランドンはその後「大草原の小さな家」で有名になった。グリーン扮する父親は白髪で顔つきもジェフと似ていないが、性格は似ているのだろう。私がジェフを見ていて思い浮かべるのはグレゴリー・ペックである。四角くて整った顔立ち、渋くて意志の強そうなところがね。スコットはショーン・コネリーがモデルだそうだ。これはちょっと意外だった。太い眉や頬にシワ(えくぼと言うべきか)のあるところは似ている。当時は007が大人気だったが、コネリーはすでにカツラのお世話になっているとのウワサがあった。カツラのお世話になってあの程度?というのがその時の印象である。カツラなしの写真を見た時はショックだった。当時はあんまりいいとは思わなかったコネリーも、年齢を重ねるにしたがってすばらしい俳優だと思えてきた。コネリーが嫌いと言うより、女たらしのボンドが嫌いだったんだけどね。

話を戻して、頭が重そうなくらい髪の多いスコットはしたがってあんまりコネリーのイメージとは結びつかない。性格の方も色男のボンドとはかけ離れた生真面目タイプだし。私が似ているなあ・・と思うのはジョージ・チャキリスである。髪とかアゴの真ん中がペコンとへこんでいるところがね。ただスコットの人形はいくつかあって、映画版の写真を見ると顔がのっぺりしていて冷静沈着な彼のイメージとは合わない。プロフィルにおもしろい文章がある。ファンの書いたものではなくサンダーバード関連のちゃんとした本に載っていたものなのだが、「彼にはごうまんなところが少しもないので、もっと大変な仕事をする彼の弟達でさえも、(指揮を取る)彼を手伝うことをいとわない」とある。確かに五人の中で一番先にかけつけて状況を判断し、指令を出すが、肉体的な労働をするのはバージルが最も多く、アラン、ゴードンがそれに続く。ある本にはスコットなんかいなくたって、ジェフの指示と2号の働きがあれば仕事はちゃんとかたづく・・なんて書いてある。でも本当にそうだろうか。

2号や4号は直接救助作業をするから、被災者と接触することはあるが、救助にあたっている現場の人と接触することはあまりない。国際救助隊は救助を要請されたと言っても部外者であるから、関係者との間にワタリをつける人がどうしても必要となる。ここはこうして欲しいとか、この部分は秘密にして欲しいとか、双方に条件があるはずで、いくら彼らでもかってに作業をするわけにはいかない。まああんまり相手がわからんちんの場合は無視してやっているけどね(火星ロケットのエピソードとか)。それと救助隊の秘密を守るのはスコットの役目である。1号や2号を撮影したフィルムやら写真やらの始末に追われているのはいつもスコットである。バージル達は現場で作業しているからそんなことに気を回すヒマもない。セキュリティに関してはスコットにおまかせである。・・てなわけで相手と信頼関係を築ける誠実さと、まわりに気を配る慎重さがあり、おごったところの全くないスコットは、一見何もしていないように見えて実は重要な役割を果たしているのである。

彼については「早口で頭の回転が速い」とか「大胆で精力的で決断力があって勇敢で」などと形容されている。五人の中で軍隊経験のあるのは彼だけで、それだけにこういった形容は彼を仕事一筋の生真面目タイプに思わせる。ところが実際はそうでもなくて、けっこうドジなところもある。フッドを追いかけてトンネルに逃げ込まれてしまったり、その後出てきたところを再び追いかけて攻撃してもとどめを刺さず、やめてしまうなどツメが甘いというか。まあフッドが悪運強く生きのびるのはお約束でもあるのだが、それにしてもね。警告したのに撮影を続け、車で逃げるテレビ局のレポーターのことを「クレイジーホース」と言っていたのが印象的だった。「何てヤツだ」と言うにしても、今の映画やテレビだと違う言い方をするのだろうな・・もっと汚い言葉で。またスコットは見かけによらずひ弱で、太陽号のエピソードではアランよりも先にダウンしてしまう。ニセ者が現われて救助活動ができなくなった時には、助けを求めている人がいるのに・・と悲痛な顔をして落ち込んでいたし、頼もしいリーダーというだけではない繊細な部分が彼にはある。子供達にせがまれて救助隊出動のまねごとをさせられたスコットが納屋に突っ込み、ひどい目に会うシーンも出てくるが、この時のスコットはよく考えもせず「試してみるか」と軽かったしね。

ジョン

ジョンは誰がモデルかわからないが、「0011ナポレオン・ソロ」でイリヤを演じたデヴィッド・マッカラムに似ていると思う。顔は似てないけどブロンドで物静かで知的なところがね。子供の頃は私はジョンが一番好きだった。プロフィルには「彼はトレーシー兄弟の中でも最も物静かで知的である。他の兄弟よりも体つきはきゃしゃで、とほうもなくしなやかで優美である」とある。この「とほうもなく」というのがいいね。例えば世界一のビルの火災のエピソードでラスト近く、スコットやブレインズ達がにぎやかにしゃべっている時、カメラが移動するとそこにジョンもいることがわかる。彼は話には全く加わらず、タバコを手にひっそりとたたずんでいる。彼の場合立っているというよりたたずんでいるという形容がぴったりで、その姿はまさに「とほうもなく優美」である。1話の登場シーンではサンダーバード5号の窓から無限の広がりを持つ宇宙をながめている。「国際救助隊のスペースモニターとしてサンダーバード5号に配置されたジョンは、ありあまる時間を大好きな気晴らしである天文学に費やす。それでもサンダーバード5号での任務は、兄弟達のように救助に加わることができないという欲求不満を彼に感じさせてしまう」そんな彼だが表には出さず、孤独に耐えている。アランが不平言いまくりなのとは対照的だ。ところで5号にいるのはジョンかアランだけだし、救助を求めてきた交信相手とは声だけの関係である。本部に連絡する時は顔がうつるが、相手は家族である。つまり部外者には全く会うことがないのだが、それでも二人はいつも制服を着ている。誰に見られるわけじゃなし、パジャマだろうがパンツ一丁だろうがかまわないのに。でも長時間一人で過ごすということは、自分に対して例えあまり必要でないことでも決まりを作って厳しく課さないとやっていけないんだろうな。必要のあるなしを問わずきちんと制服を着、トレーシー島での時間帯に合わせて寝たり起きたりする。

5号での暮らしはほとんど描かれないが、26話はそういう意味では貴重で、ちゃんとブルーのパジャマを着て、読みさしの本を片手にベッドで寝ているジョンがうつる。そばの椅子にはガウンがかけてある。警報にたたき起こされるとそのガウンを着て(引っかけるのではなくちゃんと着て)対応する。さすがに髪の毛は乱れていて、そんなところが胸キュンなのだ。アランと交代するというので荷造りをするが、茶色のバッグなんかを用意してウキウキしているのがかわいい(いじらしい)。2065年だぞ、宇宙ステーションだぞ、宇宙ロケットだぞ・・それでも荷物はやっぱりバッグに詰めるの?かわいそうなのはこういう時に限って緊急コールが入ること。喜んでいたジョンは「甘かった・・」と言いつつ任務につく。

彼は孤独を愛する男ということになっている。天体観測をしたり、著書を執筆したりすることもあるだろうし、5号は122メートルもあるから毎日の整備点検だけでも大変だろう。だけどそうは言ってもひとりぼっちの生活はやっぱり辛いはずだ。それがよくわかるのが26話。ジェフがペネロープの牧場に招待され、留守の間スコットが指揮を取るという内容。ジェフをオーストラリアへ追っぱらったものの、スコットは落ち着かずしきりにジョンを呼び出し「何か変わったことはないか」と聞く。ジョンは「どうしたスコット、なぜ呼ぶ」と言いつつその度に律儀に答える。子供向けの人形劇だから深読みする必要もないのだが、私には誰かと話をするというジョンのうれしさが想像できた。ジョンは表には出さないけれど、人とのコミュニケーションに飢えていると思う。

もっともジョンは元来が無口な方なので、家に帰ってきたからといって急に多弁になるわけではない。5話のように後ろの方で皆の話に耳を傾けるだけのジョンからは、いつも離れて暮らしているために、まわりとうまくコミュニケーションが取れなくなっているのでは・・という印象を受ける。アランの言葉から5号での任務は一ヶ月交代なのだということがわかるが、最近の本ではアランが一ヶ月、ジョンが三ヶ月となっている。一年のうち九ヶ月である。かわいそうなジョン。16話はジョンが救助に出動した貴重なエピソードである。普段人と離れているために・・と言うか、他の兄弟にくらべ出動回数が少ないために、ラストの方で救助に対する考え方の違いでスコットと議論になる。そばで本を読んでいたジェフが静かにしろと言わんばかりに一方的に裁定を下してその場をおさめるのだが、スコットは「ちょっと話し合っていただけです」とジェフに言う。スコットは13話(サンダーバードを撮影したフッドにトンネルに逃げ込まれてしまった)とか、26話(スコットの判断で出動した)で、ジェフにかなり強く怒られていることでもわかるように、長男として風当たりの強い立場にある。従順な彼は怒られても口答えはしないが、それでもとばっちりが弟の方に行かないよう兄らしくかばってやっている。そういうところは親に対するのとはまた別の、兄弟どうしの強いきずなが存在するのだとわかって、おばさんはまたまた胸キュンなのだ。経験が浅いために他の兄弟とは違う考え方をする、やや理想主義者のジョンの一面をこの16話では見ることができる。とは言え、救助にあたるジョンの姿は律儀そのもので、一生懸命さは他の兄弟と変わらない。律儀さの他に彼には冷静さもある。「恐怖のモノレール」ではジェフが直接国際救助隊に救助を求めた。そばには第三者がいるから「何ですか、パパ」なんて軽率に返事をしたらいっぺんに正体がばれてしまうところだが、そうはならない。まあジェフ・トレーシーと名乗った時にはそばに誰かがいる・・とあらかじめ打ち合せてあったのだろうが、どんな時にも冷静さを失わないジョンだからこそこの仕事が勤まるのだということがよくわかるエピソードだ。

バージル

さてバージルは誰がモデルかな。話は飛ぶけどブレンダンの「完璧なる殺人」で、主人公のジョニーが鏡に貼りつけている写真、ぼやけていてはっきりしないが私にはモンゴメリー・クリフトのように見える。時代設定は1950年代なんだろうが、その頃カッコイイ存在というとクリフトだったのだろう。バージルは髪の感じや額が広いところがクリフトに似ていなくもない。子供の頃はバージルはあんまり好きではなかった。髪も目も茶色で平凡だし、第一顔つきが老けている。当時は年齢はもちろん、アランが末っ子だということ以外兄弟の順番もはっきりしなかった。スコットが長男らしいがバージルの方が年上に見えるしヘンだな・・と思っていた。30数年たって改めて見てみると、バージルは顔立ちといい性格といい非常に魅力的に見える。

話はそれるが1話のラストで彼がピアノで弾いていた曲が気に入ったのでサントラを買ってしまった。2分と短いのが残念だが、いい曲だと思う。白いピアノであれを弾くバージルを見たとたん、彼という人間の多様性がこちらにも伝わってきた。バージルはどのエピソードでもせっせと働いている。彼が出動しないのはケガをしている時くらいだ。いや、ケガをしていても出動しようとしたが、ジェフに「寝てなさい」と止められてしまった。2号の操縦の他に、1話では同時に3台の高速エレベーターカーをあやつっているし、2話では2台の磁力牽引車だ。爆薬も彼がしかけていたし、一人でいくつもの仕事をするので、アランかゴードンを連れて行けばずっと時間短縮になるのに・・といつも思う。出動人数が少ないのはもちろん製作上の都合だろう。あやつる人形の数は少ない方がいい。そういうことを考えずに、内容だけで見ると、そこにはジェフの考えが働いていると思われる。5号にいる一人を除き、残りの四人がいつも出動していたら作業時間は短縮されるかもしれないが、万一の場合四人全員死亡なんてこともありうる。相撲の海外巡業と同じで(飛行機に関取全員が乗ることはなくて、必ず2機に分散して乗るそうだ。万一墜落した場合、全員が乗っていると場所が開けなくなる)危険はあらかじめ分散しておくのだ。バージルはいつでも一番きつい仕事をするが、不平を言ったり弱音を吐いたりすることはない。ゆったりした表情は角度によってはちょっとにやけて見える。1話で3台の高速エレベーターカーを配置につけた時の、左右を見やる表情がいい。国際救助隊の初仕事、それも非常に困難な仕事に取りかかるというのに余裕たっぷりのにやけ顔。それが1台が故障し、ファイアーフラッシュ号の着陸やり直し・・となると、眉毛が逆さまに(?)なって緊張した顔つきになる。故障した車は暴走して滑走路にとめてあった飛行機にぶつかり、炎上させてしまう。国際救助隊の初仕事にはポカもあったのだ。最初からパーフェクトじゃないところがリアルでいい。

ポカと言えば3話では3号に乗り込むアランとスコットの位置が、パペットのシーンとミニチュアのシーンとでは入れ替わってしまっている。「サンダーバード」はパペット班と特撮班とが別々に撮影していたらしいから、こんなミスが起きてしまったのだろう。このシーンをカットせずそのまま放映したってことは、とり直しているヒマがなかったのかな。2話のジェットモグラ号が地上に戻るシーンではフィルムの逆回しをしている。下に落ちるはずの砂が上に上っているぞ!あと穴に落ちて引っくり返っているはずのゴングの操縦席が逆さまになっていないとか。まあ今ではビデオやDVDで何度もくり返し見ることができるから、こんなアラ捜しも楽しめるってことだけど。子供の頃はそんなことには全然気がつかずに夢中になって見ていて、別のこと、例えば引っくり返った高速エレベーターカーの中で変なふうに逆さまになっているバージルの姿がやたら印象的だったりした。だって人形劇であんなシーンが出てくるなんて想像もつかないことだ。それにしても2号にも高速エレベーターカーにもシートベルトはついていなくて、これってかなり危険。さすがに1号のスコットは胸と脛の2ヶ所をベルトでがっちり固定している。機体が水平になったり垂直になったりするのだから当然だけど。スコットは4話で謎の戦闘機に攻撃された時、左の額にケガをする。兄弟だからというわけでもないだろうが、アランもバージルも同じところにケガをする。アランの場合はよそ見をしていて木にぶつかるのだが(大ワニのエピソード)、バージルは救助が終わって基地へ戻る途中海軍のミサイル攻撃を受ける。で被弾した2号を懸命にあやつってトレーシー島へ帰り着こうとするのだが、いつの間にか意識を失ってしまう。スコットの懸命な呼びかけで海に突っ込む寸前、意識を取り戻し、機首を上げる。その後の「エンジンは良好だが尾部が変だ」と言う時のぼんやりとした表情がリアルだ。まぶたが落ちかかって、受け答えは正常なんだけど、半分くらいは自分でも何をしゃべっているのか、何をしているのかよくわかっていない状態。普通のシーンでは人形は目は動くけれどまばたきはしない。それだけに目を閉じるシーンがあると不思議と印象に残るのだ。2号の着陸を見届けてスコットが「降りた・・」とつぶやくシーンでも目を閉じる。すると彼の安堵感がこちらにも強く伝わってくるのだ。

ところでこの「ニューヨークの恐怖」のエピソードではバージルの自室が出てくる。テレビのそばの本の背にはHUGOの文字が・・。ヴィクトル・ユゴーってことかな。兄弟の中ではバージルはたくさん本を読んでいそう・・。目が覚めて「2号は・・」と心配するバージルの目の下にはクマができている。憔悴した彼が再び眠りにつくところはいじらしいと言うか、胸キュンものと言うか・・。ところで火災を起こした2号。色がグリーンでずんぐりとした形のせいか、私には焼きピーマンに見えて仕方がないんですけど・・。1号にしろ2号にしろ攻撃されると意外に弱い。まあブレインズは兵器としてではなく、あくまでも救助用としてサンダーバードを設計したのだから無理もないんだけれどね。「世界一のビルの大火災」ではバージルとスコットが切断用の新しいガスを試していて中毒で倒れてしまう。病室に移されて、まずバージルが目を覚ます。この時のバージルの、目は覚ましたけれど、まだはっきりとは目が開かないようなぼーっとした表情がいい。まわりの話を聞いているんだけれど無意識にまぶたがスーッと落ちかかってくるような。まぶたの微妙な落ち具合で人形の表情が細かく変わるのには驚いてしまう。この時はバージルもスコットも不精ヒゲが生えている。バージルはヒゲが生えてもさほどむさくるしい感じはしないが、スコットの方はとたんにむさくるしくなる。顔立ちがくどいせいかな。ゴードンやジェフにもヒゲシーンはあるが、アランやジョンにはない。ベビーフェイスのアランや美しい(?)ジョンにはヒゲなんか生えないのだ!なんちゃって。26話で寝ているところをたたき起こされた直後のジョンは、昼間(宇宙だからこういう言い方はヘンだが)起きている時とは顔つきが違う。ちゃんと目のあたりがはれぼったくなっている。これもまぶたのせいだろう。ジョンに起こされたスコットの方はヒゲが生えてひどい顔だったのは言うまでもない。

さてバージルは老けて見えると前に書いたが、顔立ちはなかなかきれいで、特に鼻の形がいい。スッと鼻すじが通っているので横顔が美しい。太陽号のエピソードの時のように防寒用の帽子をかぶっていたりすると、老けて見える原因の髪や広い額が隠れるので、彼が実はとても美男子なのだということがわかる。いつもばっちり髪型をきめているけど、作業の途中でそれが乱れたりすると顔つきも変わって見える。耐熱服を着ることも多いが、額のところにくるんとカールした髪が一ふさ落ちかかっていたりして、とたんにたくましいイメージからけなげなイメージに路線変更となる。防寒服の時はちゃんと首から手袋をぶら下げていて、そのかわいいことと言ったら!

6話では島を訪問したペネロープに「君は僕らより冒険で忙しそうだ」と皮肉を言う。救助作業に参加したがる彼女を巧みに言いくるめて留守番役をさせてしまう。ネズミを怖がるペネロープを笑う・・などなど女性の扱いは物慣れたもの。救助に同行したゴードンが「お気に入っていただいて光栄です」なんて堅くなっていたのとは対照的だ。「ペネロープの危機」では、あわやというところで彼女の命を救う。二人で地面に伏せてモノレールが通過するのを待つ間、じっとペネロープを見つめるバージル。片手がペネロープの首のあたりにあって、ここは「サンダーバード」の中でも一番色っぽいシーンだろう。「魅惑のメロディー」のラストでは二人してカスのピアノ演奏を聞いている。夜更けのバー。お客は二人だけ。そばにはシャンペンが冷えていて大人のムードだ。一緒にいるのがスコットではなくてバージルというのがいい。スコットだとムードは出ない。7話では海底に沈んだファイアーフラッシュ号のパイロットを助けるためブレインズも同行する。事故の原因を考えているブレインズが「そうか、わかったぞ・・いいや、やはり違う」と独り言を言うのを横目でちろんと見るバージル。「ええと、考えさせてくれ」と言うブレインズに「乗員は無事かな」と話しかけ、「横から口出さないでよ」と言われた後、視線を一度前に向けてからまたブレインズを横目でちろんと見るところ。ブレインズが救出方法を思いついて「そうすれば機体は浮くはずだ」とゴードンに指示を与えている時にすかさず「生きていればね」と言うバージル。せっかちだったりムッとしたり皮肉っぽくなったり・・バージルは本当に表情が豊かだ。目の動きだけなんだけどね、ホント不思議。

バージルについて書くことは「サンダーバード」全体について書くようなもので、いくら書いてもキリがない。彼は頭のよさでも肉体的能力でもスコットより優秀なのは確かだが、スコットと違うのはかなり情熱家だということ。もちろんそれは女性にほれっぽいとかそういうことではなくて、仕事に対しての話だが。プロフィルには「人の命を助けるためなら自分の命を危険にさらすこともいとわない。結果として彼はいつも国際救助隊が巻き込まれる状況の中でも、実質的に一番危険な部分を受け持つこととなる」とある。危険を顧みない性分は崇高なものだが、指揮官としてはちょっとまずい。バージルとしては自己を殺さなければならない指揮官の地位にいるよりも、下で働くことの方が性に合っているだろう。いざとなれば命令を無視して自分の思うままに行動できる位置の方が・・。26話で長男のスコットは出動したことでジェフに叱責される。バージルは「僕は兄さんは正しかったと思うな」とはっきり言っている。自分の考えを押さえつけなければならないスコットと、自由にものが言えるバージルとの立場の違いが明確に出ているシーンだ。「年齢以上に落ち着いた態度と分別。体力と勇敢さの他に、才能のある画家、ピアニストという、より温和な面も持っているバージルは複雑な若者である」・・そう、バージルの特徴は「複雑さ」である。繊細で冷静で真面目、勇敢でせっかちで情熱家、ユーモラスで皮肉っぽくセクシーですらある。2号のコンテナに搭載する多種多様なメカに劣らず、バージルという男性は多面的な存在と言えるだろう。

ゴードン

さて五人も兄弟がいると顔も性格も全然違うのが一人くらいいるものだが、トレーシー兄弟の場合はゴードンがそれである。彼を見ていて思い浮かぶのはジョン・レイトン。若い人にはなじみがないだろうが、テレビシリーズの「ジェリコ」で人気のあった人。「霧の中のジョニー」という歌でも有名だ。彼は金髪で目はブルーだからゴードンとはちょっと違うが、顔の感じはとてもよく似ていると思う。ゴードンは他の四人とは全然似ていないが、実は体つきも全然別だ。テレビの画面を見ていてもそういうのはほとんど伝わってこないが、五人のうちスコット、バージル、ジョンの三人は同じ体型である。上半身にくらべ下半身が細く、貧弱ですらある。アランは上半身は三人と同じだが、下半身は適度に丸みをおびていて、足も三人より太い。だから全身をうつした写真を見るとアランが一番バランスのいいきれいな体型をしている。ゴードンは上半身がっちり、下半身はアラン以上にがっちり・・で全体的にずんぐりとしている。水泳のオリンピック選手だったのだから当然なのだが。プロフィルによると「すべてのマリンスポーツ、スキンダイビングから水上スキーまで大いに楽しんでいる。海洋学のエキスパートで、国際救助隊のために修正改良された独自の水中呼吸装置の設計者でもある」とある。ここまではよい。問題はその後で、「国際救助隊が活動し始める直前、ゴードンはスピードボートの衝突事故に巻き込まれた。彼の船は400ノットのスピードで転覆し、船体はこなごなになり、ゴードンは病院のベッドで四ヶ月を過ごした。今、彼はサンダーバード4号のパイロットとして世界で最も進んだ一人乗り潜水艇をあやつる」・・これはちょっと問題である。

400ノットというと、時速に直すと約780キロである。ボートでこんなスピードって出るのかな。2号にミサイル攻撃をしかけた海軍の新鋭艦センチネルは200ノット出るらしいが、それでも新幹線より速いことになる。うーん、いくら未来の話でも無理な設定なんじゃない?・・という突っ込みはさておき、とにかくゴードンは大事故に巻き込まれたのだ。どこをケガしたのかは書いてないが、おそらくジェフは妻に続いて今度は息子の一人も失うことになるのか・・と思ったことだろう。元々強靭な肉体を持つゴードンは事故にも負けず回復したわけだが、全く元通りかどうかはこれまた不明である。ゴードンの出番が非常に少ないのは事故の影響がいまだに尾を引いていて、ジェフが心配してあまり出さないようにしているからではないだろうか。危険という点では宇宙飛行士の三人だって、中でもレーサーでもあるアランの方がよっぽど危険な生活を送ってきたはずである。それでもジェフはアランを宇宙以外の仕事にも度々行かせ、ゴードンはいつも留守番である。またゴードンは17話でアランやミンミンと一緒に釣りに行っている。彼のキャラクターからして(おそらくは初心者の)ミンミンの世話をやいたりしてにぎやかにふるまうはずなのに、ずっと椅子に寝そべったままだ。あまり元気がいいとは言えず、この時も出動しなかった。3話では太陽号の救助に向かう2号や3号の心配をするジェフの隣りで黙って話を聞いている。普通なら「心配ありませんよ、パパ」くらいは言うところだ。太陽号が危機を脱したと思ったら今度は3号が・・というニュースを聞き、驚愕するジェフとゴードン。「信じられん、信じないぞ」と言うジェフ(さすが気丈・・)の横で打ちのめされたような顔をしているゴードン。彼はいつでも元気いっぱいのノーテンキ野郎ということになっているのだが、どうもそんな単純な性格ではないようだ。

何だか彼を見ていると、明るい性格なのは確かだけれど、表には出てこない何かを内にかかえているように思える。ペネロープさんが言っていたようにね。順風満帆だった生活が事故で一瞬のうちに暗転してしまった。生まれて初めて死を実感しただろうし、四ヶ月の入院生活の間にはいろいろ考えたことだろう。出動回数が少ないのはまだ体が完全に回復していないせいだ。顔立ちが他の家族と似ていないのは事故に巻き込まれた彼が顔にも重傷を負い、整形手術を受けたからなのだ。え?想像力がたくましすぎるって?でもどこかの本に書いてあるようなゴードンだけ父親(あるいは母親)が違うのだなんていう憶測よりはマシでしょ?

そもそも五人の中で彼にだけこんなプロフィルをわざわざくっつけたのはもちろん製作上の都合である。ジョンがあんまり活躍しないのは宇宙ステーションにいるからだし、ゴードンは海専門だからだ。と言って冷静なスコットとバージルばかりだと話が単調になるから、それにちょっと危なっかしいアランを加える。でも宇宙専門のアランがいろいろやってるのにゴードンが出てこないのはおかしいから、こういうプロフィルにしてあまり活動できないのだと思わせておく。そうすればスコット、バージル、アランの三体の人形でたいていの話は間に合う・・とかね。はいはい妄想はこれくらいにしておきましょうね。第一こういうプロフィルって製作当時から用意されていたものなのか、後から作ったものなのかわかんないものね。

さて4号が初めて登場するのは6話の「原子炉の危機」である。でもほとんど見せ場はなくて次の7話で大活躍する。これはまた後で書くとして、他には「ニューヨークの恐怖」「火星ロケットの危機」「海上ステーションの危機」などがある。いずれも非常に危険な仕事で、小さな(約9メートル)4号が重い潜水球やロケットの先端部を持って(?)必死に脱出を試みるシーンにはハラハラさせられる。脱出ったってアニメやCGならもっとスピーディーに描くのだろうが、こっちは全部実写だからそんなふうにはいかない。潜水球だったらまずワイヤーを切断し(頑丈だからなかなか切れない)、上から落ちてくる瓦礫をどかし(その前に自分の方がつぶされそうだ)、磁石でくっつけて持ち上げる。そのままくるりと方向転換なんかできないから少しバックしてそれから方向を変える。重いものを持ってるし水の抵抗だってある。海上ステーションは炎につつまれ、崩れかけているというのにうつる度に4号はまだそんなところでモタモタしてるの!・・って歯がゆいくらい同じところにいる。でもそこがすごくリアル。大きな2号や3号がくるりと向きを変えるところはリアルさに欠けるけど(もちろん撮影スペースの関係で仕方のないことだ)、こういう4号の動きはよくできていると思う。ただ水中のシーンはとるのが難しいのか(もちろん水中であるかのように見せているだけだが)、4号の活躍を最後まできっちりと描くことはあまりない。「ニューヨークの恐怖」でも崩れてきた建物のせいで、地下を流れる川を伝って救助に来た4号が木の葉のようにもまれ、ゴードン大丈夫?といういいところで画面が切り替わってしまう。うーん、そこが何とも残念。とにかく小さい体でがんばる4号はいじらしいと言うか、けなげと言うか。その点1号は華麗だよね。着陸用の翼と脚を出したところなんてバレリーナみたいだ。少し前新聞にコンコルドの写真が載っていたけど、車輪を出したコンコルドは翼と脚を出した時の1号によく似ていると思う。2号はどでーんとかまえた肝っ玉母さんという感じ。昔、父は母の写真の下にわざわざ「航空母艦」なんて書いていたけど、2号もそんなイメージがあるね。おなかの中にはいろいろ入ってるし。

さてゴードンの活躍をたっぷり見せてくれるのは7話である。このエピソードには1話に続いてファイアーフラッシュ号が出てくるが、そんなのはどうでもよくてゴードンに注目!なのだ。海に沈んだファイアーフラッシュ号のエンジンを焼き切るシーンは、残念ながら切る前から切断面がはっきり見えてしまっている。作る側の都合で仕方のないことだが、もうちょっとうまく隠せばいいのに。切断している時の防護メガネをかけたゴードンの表情がいい。エンジン部分が切り離されて軽くなったファイアーフラッシュ号は海面に浮かび上がる。操縦席の横にヌーッと姿を現わすゴードンの顔がいい。髪がぬれているせいかあやつる糸が一部髪に引っかかっている。中では計器が燃え始め、パイロット達がパニックになっているが、辛抱強く作業を続ける。ゴードンの顔がクローズアップされるが、改めて彼が他の四人とは違う顔立ちだということが印象づけられる。窓に脱出用の穴を開けた後ボチャン・・て海に落ちるんだけれど、その前のちょっと身がまえるところがいい。落ちた時の無表情な顔もいい。ここらへんはまさに彼の一人舞台・・彼をこんなにたっぷり見ることのできるエピソードも珍しい。普段はバージルが(陸上で)やるようなことを、ゴードンは一人で次々こなしていく。余計なことはしゃべらず、無表情なままでやるのでいっそう彼の特異さが伝わってくる。知識ではなく本能で行動しているように見えるのがゴードンである。後半はまたまたゴードンが大活躍する。ファイアーフラッシュ号の事故原因を調べるためにスコットが副パイロットとして乗り込み、2号が随伴飛行する。また同じ故障が起こったのでゴードンが2号から乗り移る。この時のゴードンのバージルへの言葉が「また会おう、できたらね」・・スコットも危ないがゴードンはもっと危ない。それなのにこの軽快なセリフ。あまりにもひょうひょうとしているので、さすがのバージルも返す言葉がない。これが吹き替えだと「よーし、じゃあ始める。まかせてくれ」となる。これだとあまりにもありきたりで、ゴードンの特異な性格が伝わってこない。「I hope」と言っているのだから「できたらね」の方が合っていると思うし、緊張感のないゴードンに言葉も出ないようなバージルの表情も納得がいくというものだ。前にジョンのところで書いた「甘かった・・」というセリフも吹き替えだと「あれー?また事件らしい」になっていた。これもありきたりで、家に帰れる・・と喜んでいたのに緊急コールが入ってしまったジョンの複雑な心境を、ちっとも表現していない。

さて1話でメディングスがあんなに苦労していたのに、ここでのゴードンはいとも簡単にファイアーフラッシュ号に乗り移る。そして中にいた男にいきなり発砲され、応戦する。何とか追っぱらったものの機は墜落寸前。ここでゴードンが取った行動は・・。実を言うと「サンダーバード」で一番印象に残っているのがこのシーン。1話で逆さまになっているバージルと、20話で首まで砂に埋められているブレインズも印象的だったけれど、それよりもっと・・。切断された導線を素手でつなげる時のゴードンの顔。この時の目を閉じたゴードンの顔が忘れられなかった。子供心にもあんなことをして大丈夫なのか・・と心配だった。ラストで、パイを焼こうとしてヒューズを飛ばしてしまったおばあちゃん。バージルやスコットのからかいの言葉から、ゴードンが事件解決後いい気になって「電気の修理はまかせろ」・・なんて吹きまくったことが想像される。この時の「まずいぞ」っていうようなゴードンの表情がおかしい。体を堅くして目を動かしているだけなのに、どうしてあんなにストレートに彼の心の動きを表現できるのだろう。本当に不思議で仕方がない。とにかくこの7話はゴードンの魅力が存分に楽しめるエピソードで、私は全32話の中でもこの7話が一番好きだ。

1話のラスト、キラノの診察のために島に呼んだドクターが、ジェフの持っている新聞に気がついて国際救助隊のうわさをする。この時はアランとミンミンはテラスでロマンチックムード。バージルはピアノを弾き、スコットとゴードンはチェスをしている。ジェフは相手に適当に合わせ、スコットも全く表情を変えない(さすが大人・・でも目のちょっとした動きがいい。芸が細かい!)が、ゴードンだけはいかにもくすぐったそうな顔でスコットの方を見る。新聞に載った快挙には彼は直接は関わっていないのだが、それでも無邪気に喜んでいる。その後ジェフがうつるが、後ろにゴードンの顔だけうつっている。カメラのピントはジェフに合っているから、ゴードンはぼやけているのだが、それでも首をぐるりと回してジェフとドクターの方を見る。あの不思議な顔つきで。ここがすごく印象的。ジェフよりゴードンに目が行ってしまう。ただの背景にすぎないのに人形にちゃんと演技をさせている。世間に公表できないけれど、ほめられればやっぱりうれしい。聞こえないフリをしていても、興味なさそうにしていてもついついそっちを見てしまうゴードン。何てかわいいの!

長くなってしまったけれどもう一つ。「やあ、バージル。テレビ見てる?」・・とケガをしてベッド生活のバージルのところへやってくるゴードン。エンパイアステートビルの移動を見るために他の皆はラウンジに集まっているけれど、ゴードンはわざわざバージルの部屋でテレビを見る。一人じゃつまらないだろう・・という心配り。うーん、ゴードンてホントいいヤツ。きっと彼がボート事故で長いベッド生活を強いられた時にはバージルがそばにいてくれたんだろうな。そのお返しなんだろうな・・あ、また妄想が・・。プロフィルには「親切で元気がよい。彼にはリーダーとして尊敬されるような体力と粘り強さがある」となっている。ただのノーテンキ野郎ではないことは確かである。

ところで「謎の円盤UFO」のDVDがとうとう発売された。SFとしても人間ドラマとしても非常によくできた作品である。ジェリー・アンダーソンの他の作品、「キャプテン・スカーレット」や「スペース1999」にはあんまり興味はないが、この「UFO」は別。何と言ってもストレイカー司令官を演じたエド・ビショップがいいのよ。「UFO」の魅力の90%は彼にあると言っても過言ではないのだぜい!

アラン

「UFO」はまだ全部は見ていないのだが、いくつかのうれしい発見があった。エンドクレジットのおかげである。1話にはスコットの声のシェーン・リマーが出ている。実物は太ったオジサンだが、声を大いに楽しめる。2話にはアランの声のマット・ジマーマン。残念ながらすぐに死んでしまう役。レギュラーのキース・アレキサンダーは「サンダーバード6号」でジョンの声をやった人。準レギュラーでスカイダイバーに乗り組んでいるジェレミー・ウィルキンはバージルの声の人。「サンダーバード」の本で彼の写真を見た時、どこかで見たような・・という気がしたのよね。今日は「2001年宇宙の旅」のエド・ビショップ出演シーンも確認しましたよ。

さてアランはテレビの弁護士ものに出ていた若い俳優がモデルらしい。ジェームズ・ディーンに似ていると書いている人もいる。まあ確かに似ているけど決定的に違っていることがあって、それはアランは陽だけどディーンは陰だということ。アランは孤独とか絶望とか怒りとかそういった要素とは無縁である。彼の頭上には太陽が光り輝き、勝利の女神は常に彼に向かって微笑むのである。私が似ているなあと思うのは金髪で丸顔のあまーい二枚目トロイ・ドナヒューである。海の似合う育ちのいいおぼっちゃんふうのところもね。彼のプロフィル「甘えん坊でひどくロマンチック。サンダーバード3号のパイロットになる前はレーシングカーのチャンピオンだった。ブロンドでベビーフェイスの宇宙飛行士は年齢に似合わぬ責任感を持って国際救助隊の仕事に専念している。彼の父親はいまだにその経験から、彼をロケット実験でごたごたを起こした大学生、そして気まぐれな生徒として扱っている」・・このごたごたというのはアランがロケットの実験で大学の窓ガラスを全部割ってしまったことを指すのだろう。「コロラド大学ではアランは偉大なスポーツマンであり、冗談好きでもあった。とは言え彼にも落ち着いた面がないわけではない。トレーシー島の近づきにくいところにある岩床や洞窟を探検したりもする」・・笑ってしまうのが「彼は密かにペネロープへの恋心をいだいているのだが、ミンミンと恋愛関係にあるので彼女に知られないように用心している」というくだり。ほんまかいな。

アランには子供っぽいとか甘えん坊とかそういうこととは別に、他の四人とは違っていることがある。まず彼にだけ恋人がいる。ただその恋人ミンミンが、島にやってきた昔の恋人(?)エディとナイトクルーズに出かけたりしてアランをヤキモキさせる。部屋にはエディの写真、おニューのドレス・・全く何を考えているのかねミンミンは。「魅惑のメロディー」のラストでは「出会いと別れのくり返しには慣れてきたわ」などととんでもないことを言っております。くり返し・・ってアンタ、そんなに恋愛経験豊富なんですか?慣れちゃって何にも感じないほど・・。カスのことも「別に何とも思ってないわ」・・ってアンタ、アランに向かってぬけぬけとよく言うよ。まあ恋人がいるってことは楽しい反面しなくてもいい心配もしなくちゃならないってことで、恋人のいなさそうな他の四人の方が気楽そうだ。

次にアランには友達がいる。まあ他の四人にだっているのだろうがエピソード中には登場しない。「オートレーサー・アランの危機」に出てくるケニーはレーサー時代に知り合った整備士である。もちろん彼はレーサーとしてのアランしか知らない。アランは引退したはずなのになぜかすばらしい車と共に現われ、レースで優勝してしまう。ライバルのゴメツと仲間のジョニーはアランが大嫌いである。彼らはお金が欲しい。でもあっさりと優勝をさらったアランは賞金を全額寄付してしまう。アランの育ちのよさ、裕福さ、欲のなさ、運のよさ、それら全部はゴメツにはないものばかり。だから気にさわる。誰が協力したのかすばらしい性能の車に乗っている。前回優勝したくらいだからゴメツにだってレーサーとしての自負はある。すばらしい車を見れば秘密を知りたいと思う。ここらへんの描き方は非常にうまい。アランやおばあちゃんをひどい目に会わせるゴメツ達だが、全然憎めないのは彼らが普通の人間だからだ。嫉妬心、金銭欲、功名心ゼロのトレーシー一家の方がおかしい。いや、待てよ。ジェフには功名心はあるか・・。とにかくアランは何事もないかのように気軽にあいさつし、ゴメツ達のトゲのある言葉もおうように受け流す。何の悪意も持たず、ある意味大人の態度を取る。不平を言ったり、すねたり、落ち込んだり、兄弟五人の中では一番感情をストレートに出すアランだが、それは自分に近しい者に対する時だけであって、こうやって世間に出た時にはちゃんとその場にふさわしい行動を取ることができるのである。

21歳の若者として当然なことだが、アランは5号での勤務が嫌いである。普通交代のシーンでは、交代に来た方が通路を通って5号に入ってくる。ところが6話では、これから5号勤務のジョンのところへアランの方からやってくる。つまりアランはジョンが3号を出て5号に乗り込むまでの数分間すら待ちきれず、自分の方から来たわけ。彼がいかに一秒でも早く地球に戻りたがっているかはせかせかした歩き方からでもわかる。おかげで我々は3号を操作しているジョンを見ることができたぞ!ありがとう、アラン!ちなみに32話ではバージルが3号を操縦している。彼も宇宙飛行士の資格があるらしい。まあ私は劇中に出てこなくても彼らはいちおう1~4号を操縦できるのでは・・と思っている。あるファンがバージルのところで書いていたようにね。彼らにはそれくらいの時間(と頭脳)はあるはずだ。アランはいったん5号での勤務についてしまえばあきらめがつくのか、ジョン同様真面目に責務を果たしている。しかしそこへ行くまでには来るのが遅いだの早く交代したから6時間貸しだのと、怖いものなしの末っ子らしく好きなことを言っている。それはそれでアランらしくて微笑ましいのだが、相手をするジョンの人柄のよさ、暖かさもまたこちらに伝わってくる。「遅くなってごめんね」とか「きびしいな」とかジョンの言葉は兄らしいやさしさにあふれている。アランが5号にいても何とも思わないけど(精神修行じゃ、少しはガマンせい!)、ジョンが5号にいるのを見ると「ごはんちゃんと食べてるかしら、できることなら5号へ行ってそうじせんたくごはんの用意全部してあげたい!」なんて思ってしまう。常にまわりのみんなに愛されているアランと違い、ジョンの場合は誰かが気づいてあげないと忘れられそうで・・。

さて妄想はそれくらいにしてアランのだだっこぶりは「ペネロープの危機」のラストでも発揮される。せっかくの初めてのパリの夜だというのに兄貴達に置いてけぼりにされた・・とペネロープにさんざんぶーたれる。バージルやゴードン(スコットも?)はレビューを見に行ってしまったのだ。まあせめてそれくらいの息抜きはさせてあげないとね。・・でもそこにジョンが加わっていないことにびみょーにホッとしたりして・・。ジョンにはきらびやかなショーは似合わないもん。はー何だか今日は妄想ぎみ。映画版放映のうれしさで心ここにあらず・・。

さてアランは若いだけに体力もあって、太陽号のエピソードではスコットがあえなくダウンしてしまった後も、逆噴射ができない理由を一生懸命考えていたし、この「オートレーサー・アランの危機」でも暑さに耐えて救助を待つ。めでたく救出されたはいいが、ラストではバージル達にいいようにおちょくられてふくれっつらをする。「このトロフィー重いんだ」とか「急いで」といった日本語訳がうまい。相手がスコットやバージルだからアランの素が出る。しょうのないボクちゃんぶり全開で、見ているこちらの顔もゆるんでしまう。それにしても画架から顔をのぞかせて「動くな」とアランに命令する時のバージルの表情の美しいことときたら・・。この時のバージルへの光線の当たり具合は・・何か彼が光り輝いて見えるんですけど、こっちの目がかすんでいるのかな。その後の横顔も非常に美しい。絵の出来に怒ったアランがスコットとバージルを3号搭乗用のリフトで地下に落としてしまうのがおかしいが、その後のシーンにちょっと注目。ミンミンに「たかが絵でしょ(バージルの力作に対してその言い方はないでしょミンミンさんよ)、本物はすごくステキなんですもの」となぐさめられて有頂天になるアランの笑顔で終わり・・と今まで思っていたんだけれど、よくよく見るとその後アランはミンミンの方を見て、顔をちょっと突き出すようにしているのよね。エンドクレジットに入る直前の一瞬だけど。きっとあの後アランはうれしさのあまりミンミンのほっぺにチューくらいしたんでしょうな。それにしてもミンミンは、最初の方でアランを下ろして帰る2号の中で、バージルに寄り添うと言うよりはしなだれかかっていたぞ。両手をバージルの肩と腕に置いて。口では「でも一緒について行きたかったわ・・」などとのろけておりますが、どう見たってバージルを誘惑してるとしか思えん。バージルの半分呆れたような表情と、「ああ、わかっているよ」という妹に言うような暖かい言葉がいい。彼ってホント大人だわ・・それに何てハンサムなんでしょ。

ところでアランはエピソードによって人形が変わるけど、どの人形も本当にかわいい。子供の頃はちっともかわいいなんて思わなかったんだけどね。それってきっと眉のせいね。白くて太い眉は老人を連想させるから・・。一番年下のはずのアランがそんな眉をしているのが子供には解せないわけよ。アランは32話で宇宙服を着るのだが、ヘルメットをかぶると広い額も髪も隠れて大きな丸い目だけが目立つ。しかも人形だから頭でっかち(そう言えば子供の頃、体のわりに頭の大きい子のことを仮分数と呼んでいたっけ)だ。見かけは子供にしか見えないが、やっていることは人命救助。故障して降下中の人工衛星に3号から乗り移るという危険な仕事である。そのまんまるで大きな目に宿る強い使命感には見ていて感動させられるものがある。その一方で大ワニのエピソードでは2号の銃座で「早く怪物をやっちゃおうよ」と大はりきり。隣りのゴードンのクールさとは正反対である。ゴードンにはクールなんていう表現は似合わないんだけど、この時の彼は・・楽しそうなアランとは全く別の世界にいるみたい。勇敢にも(軽はずみとも言う)空中バイクでワニをおびき出そうと外に出るアラン。止めるゴードンの眉間のシワ(キャ!)。案の定木にぶつかって気絶したアランを危機一髪のところでワニから救うゴードンの射撃の腕前(はーカッコイイ!)。ゴードンって時々別の世界に行っちゃってるようなところがあるけど、クールでミステリアスで、ある意味ジョンよりも謎の存在(考えすぎ)。

オートレーサーのエピソードでは力尽きて転落したアランを、バージルが間一髪のところでエアークッション車で受け止める。その後バージルの後ろでへたり込んでいるアランがかわいい。いざとなると頼もしい兄貴ぶりを発揮するゴードンと、常に頼もしいバージル。みんなに助けられ、愛されているのがアランである。もっとも大ワニのエピソードの時は、事件が解決するまで気絶したままほうっておかれたようだけどね。銃座ではりきっている時のアランの天真爛漫な表情は心に残る。無邪気で何のかげりもなく、見ていて心が洗われる。オートレーサーのエピソードで、駐車場の呼び出しのアナウンスの最後につく「サンキュー(失礼しました)」という言葉に対して、「いいえ」と大真面目にスピーカーに向かって答えるところなんか、そのあまりのかわいらしさにおばさんはひなたのアイスみたいに溶けてしまいましたわ・・。吹き替えでは「いいえ」じゃなくて「(ケニーに)会うのが楽しみだな」となっていましたけど。レースの後、ゴメツ達の汚い行為に怒った様子もなくおばあちゃんを迎えに行くアラン。善という言葉を形にするとアランみたいになるのだろうな。まあおばあちゃんまで巻き込んでひどい目に会わされれば、さすがのアランも怒りますけどね。それでも字幕の「貴様」より吹き替えの「おい、まさか君」の方が彼には合っている。とにかく彼は他人を相手にする時は、冷静で大人びた行動を取る。私がちょっと気になったのはケニーのこと。アランは賞金を全部寄付しちゃったけれど、ケニーにお礼はしたのかな?それともボランティア?「オレの車だったらいいのにな、うらやましいよ」という言葉に彼のホンネがぽろっと出ているような・・。すべてにめぐまれているアランのような人物とつき合うのは、善人のケニーでも時にはしんどいかも。

こうして書いてみると、アランが他の四人と違うところとして、恋人の存在、友人の存在を上げたけれど、ライバルの存在というのもあったわけね。アランとゴメツ達を見ていて思い出したのは、ある中国の先生の太極拳の講習会での言葉。推手(太極拳の組み手)に関連しての説明だったと思うが、「甲がけんかをふっかけても乙が相手にしなければけんかは成立しない。成立しないのだからそこには勝ちも負けも存在しない」とおっしゃったのだ。今の世の中何でも言った方が勝ち・・みたいな風潮があるが、上手に受け流しているアランを見ると、見習わなければ・・と思う。さて「陰陽師」のところで姿勢について少し書いたが、参考になるという点では「サンダーバード」も同様である。太極拳をする時にはいろんな注意点があるが、その一つに「虚領頂勁」というのがある。わかりやすく言うと、糸で吊り下げられた状態のように頭や首がまっすぐということである。人形達を見ていて普通の人がまず思うのは動きがぎくしゃくしているということだろうが、観点を変えるととても参考になる動きなのである。参考にすると言っても女性の人形の細い首ではなくて、スコットやゴードンの太い首がいい。首のあたりをよく見て、頭・首・上体のまっすぐさかげん、肩の沈め具合などがイメージとして頭の中に定着するよう努める。太極拳はまず模倣から入るので、頭の中に明確なイメージがあると、自分で形を作る時に楽なのである。ふわふわした歩き方もリラックスという観点から見ればとても参考になる。あやつる糸も人形使いから人形への意念の通り道と考えれば全然気にならない。こういうふうに動かそうという意識の通り道があの糸、勁(意識や目的を持った力)の通り道があの糸なのだ。

「サンダーバード6号」ではミンミンはジェフの言いつけにそむき、アランと一緒に出かけてしまう。ジェフが許さなかったのは、アランとミンミンを二週間も一緒に旅行させることが心配だったからだ。父親として当然の感情で、旧式のプロペラ機だから危ないとかそういうのは口実である。これが二人きりでなく、バージルと一緒(保護者同伴てこと)とか、ゴードンと一緒(仲良し三人組のグループ旅行ということになればミンミンが姉さんぶって万事順調に行くよう仕切るに違いない)というのだったらジェフは反対しないはずだ。アランと一緒にいたいというだけの理由でジェフ達を出し抜いたミンミンはずいぶんかってな女性だと思う。アランは楽しそうに歌っていたけど後でさんざんしかられるぞ。ミンミンは・・しかられないと思う。彼女は一度言い出したら聞かない性格だからしかっても効果はない。彼女を後悔させるにはアランをきつくしかりつけて、彼女のせいでこうなったということをわからせるより他にない。ミンミンの気の強さは父親ゆずりだろう。

キラノにはジェフへの絶対的な忠誠心があり、いつもつつましく控えめにふるまっているように見える。しかしそれはトレーシー島での暮らしに何の邪魔も入らない時だけである。6話で飲み物の出し方でパーカーと争うシーンは、単なる二人の意地の張り合いとして笑ってすませるにはちょっときついものがある。キラノの後ろにでかでかとうつっている、柄を下にして立てかけられたほうき。我々の感覚でいうとこれはお客に帰って欲しいという意志表示である。31話にもほうきは出てくるが、逆さまになってはいない。マレーシアにもこういうやり方があるのだろうか。パーカーが何も言わないのはイギリスにはそういうのがないってことだろうし。あのほうきに自分の生活を脅かすものへのキラノの敵意を感じてしまうのは私だけ?彼にはこの島を取り仕切っているのは自分だという自負があるのだ。

意地っ張りなのはフッドも同様で、アジトはマレーシアの密林(たぶん)、活動場所はロンドンやオーストラリアなどの遠隔地。いっそロンドンに住んだら?キラノをあやつるにはアジトにある像を経由しなくてはならないというなら像を持ってくればすむことでしょ?アジトと活動場所を行き来する効率の悪さを改善しようとしないフッドの意地っ張りぶりにはミンミンやキラノとの共通点が見うけられますな。