3 ロケット太陽号の危機

今回は3話の「ロケット太陽号の危機」についてちょっと書いてみようと思う。まあ私の「ちょっと」は「とことん」と同義語だけど・・。その前に5号について少し。5号の位置が極秘であることは知られているが、よく考えてみるとこれはおかしい。5号の建設はさぞ大変だったことと思う。今の形のまま打ち上げということはありえないし、3号が宇宙空間に機材を降ろして(?)ゼロから建設というのもムリだ。5号の核となるもの、あるいは基盤、取っかかりとなるものが打ち上げられ、地球を回る軌道に乗った後、3号がいろいろ運んで今の形になったのだと思う。その際ジェフは衛星打ち上げの許可をちゃんともらっているはずである。32話を見ればわかるが、ジェフは無許可で回っている衛星を強く非難している。彼が5号を無断で打ち上げたとは思えない。小説版では5号は個人所有の天体観測衛星として、国連の人工衛星追跡センターに登録されていることになっている。つまり位置は極秘ではないのだ。5号はステルス性能を有し、レーダー探知されないようになっている。また万一他の衛星や宇宙船が接近してきた時には一時的に軌道を変更し、やり過ごすこともできる。しかし正式登録されたものなら隠れる必要はないし、いるべきものがいなかったらかえって不審に思われてしまう。私が見ていて一番不思議に思うのは5号にTHUNDERBIRDとかINTERNATIONAL RESCUEという表示がされていることである。存在を極秘にしたいのならステルスだのなんだのよりあの表示をやめた方がよっぽど簡単だと思うんですけど。

さて3話で登場する3号。いったいどれくらいのスピードが出るのだろう。地球から太陽まではだいたい1億5000万キロある。「危険空域まで65時間」とアランは言ったけど、3日もあれば太陽まで(の距離を)飛べるってことよね。最近話題になった火星は最接近時で地球からの距離が5575万8000キロ。太陽にくらべればずいぶん近い。その火星へ行くのにゼロエックス号は6週間かかっている。手間ヒマかけて、お金もつぎ込んで、あんなバカでかいの作って、はなばなしく出発させたけど、そっとお見送りした3号の方がスイスイと火星へ行ける能力があるってことになる。1日か2日でね。でもこう書いたからと言って設定がいいかげんだとか非難しているわけじゃないのよ。楽天的な作りだというだけ。私が気になっているのは別のこと。一つは太陽号にしろ3号にしろ逆噴射ができなくなって危機に陥るわけだが、逆噴射エンジンに点火させる電波(ビーム)が届かないって騒いでいるのに、3号から太陽号へのアランの声は届いているってこと。アランの声だってビームで送られているんでしょ?ところで吹き替えだと放射線と言っていて、ずっと放射能に関係するものだと思っていたけど違うのね。もう一つはテレビで生中継された太陽号の先端部回収シーン。あれはどこから撮影されたものなの?テレラジオカメラって何なの?地球から太陽の近くでやっていることをあんなふうに撮影できるものなの?そんなに性能のいいものならゼロエックス号が火星でやっていることもラクラク撮影できちゃうよね。こっちの方がずっと近いんだもの。あんなふうに太陽号を真横からうつすんじゃなくて、太陽号に取りつけたカメラからドッキングを撮影したってふうにすれば真実味があったのに・・。でもそれだと軌道をそれたのがブレインズにわからないか・・。

さて救助要請を受けてから出動するまでにはかなりの時間がたっている。ミンミンは「もう3時間も・・」なんて言っていて、確かにのんびりしているように見える。ただよく見ると彼らが作戦を練っているのは夜である。これが地球上のどこかへ行くのであれば、すぐに飛び立てる。しかし3号の行き先は太陽。夜飛び立てば太陽とは逆方向に向かうことになる。だから朝になって太陽が顔を出してから出発する方が合理的だ。まあ夜だろうが何だろうが飛び立って、地球を回る軌道に乗り、太陽へのいい角度になったところで再度噴射という手もあるだろうが・・。3話にはロボットのブレイマンも出てくる。未来の話なんだからもっとロボットが活躍してもよさそうなものだが、「サンダーバード」では意外なほど描写は控えめである。彼を題材におもしろいエピソードができたろうに。他のエピソードでの、スイッチを切られてそこらへんに置かれているだけのブレイマンを見ると、いいキャラなのに惜しいなあ・・と思う。3話でブレイマンがすることは、ブレインズの予定を言い、難しい計算をし、チェスをする・・これだけである。彼は歩けるのだろうか・・いつも座っている。彼はブレインズ以外の人間とも話せるのだろうか・・「2010年」でチャンドラは言っていた・・皆さんのアクセントは彼(HAL)を混乱させる・・と。日本でロボットと言えばアトムだろう。彼はなめらかに動くし、感情豊かで人間とよく似ている。でもアトムのようなロボットの誕生はずっと先の話だ。と言うか作れるのだろうか。アトムと同じく誕生日は過ぎたがHALもまだできていない。ある本によれば、A.I.(人工知能)の分野は、初期に長足の進歩を遂げたために、研究者達はかなり楽観的な未来予測をしていたそうだ。「サンダーバード」や映画の「2001年宇宙の旅」が作られた1960年代もそうだった。HALのような人間と対話できるA.I.は近い将来に実現すると思われていたのだ。しかし現実は違った。

楽観的という点では「サンダーバード」での原子力の扱いがそうだ。「原子炉の危機」で救助活動に参加したがるペネロープは、放射能汚染についての知識がゼロのようだ。知識があるはずのジェフが救助への同行を許すのは普通では考えられないことだ。当時作り手が放射能についてどう考えていたのかは興味深いことだ。とほうもなく楽天的に原子力を扱っているその根拠は何なのだろう。夢のエネルギーだとでも?さて話を戻して、ロボットに関しては楽観的でなかったのか、あるいは興味がなかったのか、ブレイマンの見かけは古くさく、能力も限定されている。ちょっと気のきいたストーリーテラーなら、ブレイマンにエプロン姿で調理の手伝いくらいさせただろう。もっともそういうことをさせなかったおかげでブレイマンは(見かけは未来風ではないが)リアルな存在になった。情緒を持ったA.I.は現在まだ実現していない。ブレインズはブレイマンの能力を高めることに夢中になっているが、人間的な感情の開発については無関心なようだ。「サンダーバード」には二種類のロボットしか出てこないが、警備ロボットのように人間の代わりに危険な仕事をするもの、ブレイマンのように高度な計算能力を求められているもの、どちらも人間的な感情は必要とされない実用的なロボットである。2026年、あるいは2065年という設定のドラマにアトムのようなロボットを登場させるのがリアルなのか、させないのがリアルなのか・・私には後者の方がリアルだと思えるのだが悲観的すぎるかね。ブレインズがブレイマンに感情を持たせなかったことも興味深いが、メカに音声機能を持たせなかったことも興味深い。「ミサイル接近」とか「目的地まであと2分30秒」とかね。機械が音声を発することは、機械を人間ぽく感じさせる一番手っ取り早い方法だと思う。でも「サンダーバード」ではそういうのは全部人間がしゃべっている。まあブレインズがどう考えているのかってことではなくて、作り手の姿勢がそうなんだってことなんだけど。メカにはものすごい意欲やこだわりを見せているのに、それに人間的なものをつけ加えようとは思っていない。2号にしろ、ジェットモグラ号にしろ、圧倒的な重量感、存在感を出しているけど、あくまで機械として表現している。今の私達は機械の出すいろいろな音(モーターの音とかではなく、意図的につけ加えられた人工的な音)に囲まれているから、そういうのをほとんど出さないメカにはかえって新鮮味を感じるけどね。たまに出てくる小さなメカには人間味を感じてしまう。ファイアーフラッシュ号のまわりをウロチョロしている4号とか、ゴングのまわりをウロチョロしている自動テレスコープ。バカでかいものには人間味がないから余計・・ね。自動テレスコープは私のお気に入りだ。2話では出ているシーンをかなりカットされちゃっていたけど。見る度にゴキブリを思い出しちゃう(ゴキブリは私のお気に入りではないけど)。

さて3話のポカシーン。他にもまだありました。2号が出発する時、右側に2番コンテナがうつっている。・・てことは2号は3番コンテナをつけたってことだ。でもアルコン山に到着して電波中和車が出てくるのはどういうわけか6番コンテナなのよーん。この電波中和車がちょっとタイヤがスリップしてから走り出すところがすごく好きなの。2話の磁力牽引車の時にも同じような描写があったけど、そのシーンも好き。行こうとする方向の反対方向にまず動くというのは太極拳もそうなのよーん。さてブレインズは、ブレイマンの計算能力を高めるためにチェスを教えるんだけど、次に打つ手のサーチ能力イコール計算能力の向上という考え方は当時実際にあった。映画の「2001年」でもHALとプールがチェスをするシーンがあったしね。ところで最初にブレイマンが出てきた時、彼のそばでテープレコーダーが回っていたけど、何を録音していたのかな。私の妄想~ブレイマンの音声認識能力を開発するためにブレインズが自分の声を録音していたのだ・・なんちゃって。人間が普段何気なくやっている音声認識(耳で聞き分けること)と画像認識(目で見分けること)。でもそれをコンピューターにさせる(プログラムする)のは非常に難しい。一度にたくさんの人間に声をかけられて、そのうちのどれに反応したらいいのかわからなくなって混乱しているロボットをテレビで見たことがある。ブレイマンが文字入力ではなく、音声によって動く以上まず必要なことはブレインズの声を認識することだと思う。だからブレインズは自分の声を録音し、声紋を記憶させ・・。ちなみにブレイマンの声もブレインズと同じくデビッド・グラハムが担当している。

さて劇場版でのアランは、スィンギング・スターに行きそびれてふてくされていた。次の、楽しそうなゴードンやミンミンに文句を言うプールサイドでのアランもやっぱり機嫌が悪い。この間にゼロエックス号は地球を飛び立って火星に到着している。つまりアランは6週間たってもまだふてくされていたってことになる。そんな子供っぽいところのあるアランだが、3話での彼は意外としっかり者で体力もあることを証明する。3号に乗っている時の彼は、自分の担当分野だということもあるが、自信を持って行動している。彼が前面に出ているぶん、脇に回ったスコットは生彩がない。ゴードンは今回も留守番だったが、会議の時あれやこれやと(なまじ知識があるために)まわりくどい考え方をするブレインズとは対照的にスパッと決めの一言を言う。岡目八目じゃないけれど、当事者じゃないだけに物事がよく見えているのだ。さて子供の頃にはわからなかったけれど、今見てわかるおもしろさというのもある。アランの「溶けないよう祈るだけだ(字幕では暑さに耐えなければ)」というセリフと、そのすぐ後のバージルの「凍りつかないといいけどな(寒さに耐えなきゃ)」というセリフ。灼熱地獄と極寒地獄(ん?こんな言い方あるかな)の対比がうまい。これと同じようなシーンは26話にもある。ジェット機でトレーシー島に急ぐジェフの「カモン、ベイビー」のセリフのすぐ後で、潜水球のワイヤーを切断しようとあせるゴードンの「カモン、ベイビー」。これがまた見ていて思わずニヤリとしてしまううまい作り方・・って脚本を同じ人が書いているのね。ゴードンに言われてみたいな「カモン、ベイビー」・・辞書によるとベイビーは俗語で「若い女」、若くない女は何て言うの?3話でのブレインズは「カモン、ブレイマン、カモーン」と計算を急がせていましたけどね。3話は、救出に向かった3号が、今度はピンチに陥ってしまうというひねった設定になっていて、出番のなさそうだったバージル達の見せ場がちゃんとある。ところがブレインズが電子計算機ではなくブレイマンを持ってきてしまい、いつもは余裕たっぷりの彼がオタオタしたり落ち込んだり・・。ブレインズはバージルと一緒に仕事をすることが多い。そしてバージルと一緒の時のやり取りは聞いていて楽しい。30話とか32話とか。年齢はブレインズの方が一つ上だけど、いつもバージルの方がうんと年上に見える。あきらめの早い(早すぎる)ブレインズと、決してあきらめないバージルとの対比がいい。それでいてブレインズの専門分野はバージルにはさっぱりわからない(と言うか難しすぎて誰にも理解できない)。最近「FAB ANNUAL2003」の日本語訳が出たが、そのシーンでの「複雑な方程式にバージルはめまいがした」という描写には笑ってしまった。私には冒頭の三角振幅からして理解不能だ。ブレイマンの箱のそばに立っているバージルのちょっと困ったような表情が美しい。仕事をしているブレインズにコーヒーをいれるという気配りもいい。ハンサムで性格がよくて、結婚したらいいダンナ様になること間違いなし!・・てなわけで3話は太陽号よりも3号よりも何よりも「バージルステキ!」のエピソードなのでありました(アホ)。