15 大ワニの襲撃

「サンダーバード」にはほとんど動物は出てこない。それはもちろん扱いが難しいからだ。2話の冒頭、いろんな動物が出てくるところは、あまりにも長々とうつしているのでこれは時間稼ぎのためだな・・とピンとくる。画質が違うから本編とのつながりが不自然だ。7話のカトリーヌはきっと頭だけで、首から下はないと思う。うっ、不気味な想像をしてしまった。つまり首から下は画面にはうつらないから、作るのを省略したと思う。だから乳しぼりは無理だと思うよ、スコット君。でもスタッフはやる時はとことんやるのね。きっと15話の製作中は何度も後悔したと思うけど。今ならCGで処理するんだろうけど、ここでのワニ君達の演技(とスタッフのがんばり)にはホント脱帽。だって子供のワニには見えないもん。迫力満点ですばらしい。ただ一つ不満なのは、建物のまわりで吠えている(?)時の声が人間の声に聞こえるってこと。聞き苦しいと言うか、安直と言うか、どうせならもっとうまくマネをしましょうね。

さてこのエピソードで何が印象的って、そりゃあなたファイルズさんに決まってますがな。ワニよりもね。最初見た時「この人絶対男だ!」って思ったもの。男性が女性に変装していて、カルプとぐるなんだ・・って。カルプを嫌っているとまわりには思わせといて実は・・。だってそうでなければ嵐の夜、ピカッと稲光がして階段の上にたたずむファイルズさんの姿が浮かび上がるなんていうホラー映画みたいな演出はしないでしょ。・・だからファイルズさんはやっぱり女性で、カルプとはぐるではありませんでしたというストーリーは今いち納得がいかなかった。途中で絶対に正体を現わすぞ・・と思っていたのに。まあでもそれは子供の頃の話で、今見るとまた別のことに興味をそそられるんですけど・・。

オーチャード博士と助手のミクギルは典型的な研究者タイプ。地上三階、地下一階の大きな邸に住んでいるけれど、おそらくは二人して朝から晩まで地下の研究室にこもりっきりなんだろうな。まわりはジャングルで暑いだろうし、沼地で湿っぽいだろうし、いろいろ虫とかいるんだろうけど、誰にも邪魔されずに研究ができるから、そんなこと全然気にならない。食事もそうじも洗濯も、それと大事な保安管理もファイルズさんにおまかせ。沼地で雨が大量に降ったら川は増水すると思う。カルプが覗いていた窓から水が流れ込んだら研究室はどうなるの?夜、くつろいでいる男三人。部屋の明かりの具合が悪いんだけど「いつもこうなんです」「そのうちに直しましょう」なんてのん気なことを言っている。研究室なら急いで直すはずだが、それ以外はほったらかし。きっとファイルズさんが直すだろう・・なんてね。自分達ではなーんもしないし、不便だとも思わない。扉がスーッと開くのを三人して黙って見ているシーンがいい。警戒心ゼロで、何となく見ている。カルプのような人間につけ込まれるスキはいくらでもあるというわけ。研究室のカギの保管もファイルズさんまかせ。大事なサーミンを入れた戸棚にはカギもついていない。戸棚の上は通気用の窓らしく、網しか張ってない(・・だから水とか土とか入るってば・・)。この家の前の所有者はロペスという人で、ファイルズさんもカルプもその頃からの使用人。未来の話だけど、家の内装にはそんなところは何にもなくて豪華だけど落ち着いたクラシックな感じ。場所は不明だがオーチャード博士が実験用のウサギを「北アメリカから持ってきた」と言っていたから、南アメリカの奥地なんだろう。川にはワニがうようよいて、そのせいか窓にはちゃんと銃眼もついている。ロペスの仕事は川を使った何か後ろ暗いものだったろう。でなければ秘密の抜け道を作ったりはしない。ファイルズさんはミセスだから結婚しているはずだが、ダンナのことは不明である。想像をたくましくすれば、ダンナとロペスとカルプの三人で密輸のような危ない仕事をしていて、ある時それが元で殺されたか、逮捕されたか・・。下っ端のカルプはうまく難を逃れて・・。

テレビ放映のぶんでは抜け道に関するファイルズさんの話はカットされている。彼女は抜け道があることは知っているが、それがどこにあるのかは知らない。知っているのはカルプだけ。このことはなかなか興味深い。利口なファイルズさんはなまじそんなものを知っていると後で面倒なことになる・・とあえて知ろうとしなかったのだろう。今回の研究のこともどの程度まで知っていたのだろう。カギをああやって枕元に置いていたということは、薬の重大性を知らなかったということだろう。彼女にとってはカギをどこかにしまってその場所を忘れることの方があってはならないことだった。それにしてもファイルズさんは起きている時の顔の方がまだマシだ。寝顔ときたらものすごくて、カルプは彼女を見て飛び上がったんじゃないの?さて冷静でもあるファイルズさんは、いざという時にはオーチャード博士もミクギルも頼りにはならないってことをちゃんと知っていた。だからピンチに陥るとすぐに国際救助隊に連絡するよう言う。

・・で後半は国際救助隊の活躍になるわけだけど・・どうもこの回の男性陣は頼りないのよね。最初の方でアランが通信設備の故障箇所を修理するんだけど、風が強くて高い塔の上だというのに安全ベルトもヘルメットもなしでやってる。落ちたらイチコロでしょ。案の定落ちそうになるけどここらへんはカットされている。それにしてもあの塔は2号で上から下ろしてもらって何かするという前提で作られているのね。下から登るためのハシゴがついていないわ。様子を見るために邸に入ったスコットは今回もいいとこなし。ところでスコットってホント運のいい人よね。「ピラミッドの怪」では頭のおかしくなったリンゼーに光線銃を弾き飛ばされていたでしょ。あの錯乱状態なら弾は体の方に当たるでしょ。その後のZ団の人もいい腕前。おかげでスコットは命拾い。今回のカルプにしてもすごい名手。だって本箱をどかすために力を使って息だって弾んでいるはず。現われてすぐスコットの光線銃だけを弾き飛ばして・・弾はスコットにはかすりもしない。後ろにぼやっと突っ立っているミクギルにも当たらないし、弾はどこへ飛んで行ったの?奪った光線銃をカルプは上着に差し込んでいるんだけど、シーンによって銃があったりなかったりする。最終的にボートで逃げる時には持っていなかったけど、スコットに返すはずないから川に捨ててしまったのかも。なくしたとわかるとジェフに怒られるからスコットだけ居残って銃捜しとか・・じゃあね、お先に・・と帰る弟達を見送る、とほほなスコット君。

出動要請を受けたジェフは6号装備(字幕だと6番コンテナ)を持っていくよう言っているけど、4号が積まれていたってことは4番コンテナなんでしょ?高性能ガス銃のことが6号装備なのかしらとも思うけど、それだとコンテナとは言わないだろうし。もしかしてバージルやゴードンがジェフに内緒で4番コンテナを選んじゃったとか・・きゃはは。川の水は茶色に濁っているのに、川の中は澄んでいるってのもおかしいし、魚が巨大化してないってのもおかしい。いや別にそれはいいんですけど、4号がちょっとヘン・・。屋根が厚かったりうすかったり・・。4号全体がうつる時には屋根はうすい。ゴードンが試験管を捜しに行くシーンでは驚くほど厚い。あのーところでこの時の4号、ガラスがはまってなくて枠だけのように見えるんですけど・・。「ニューヨークの恐怖」でネッド達が4号のハッチに近づくのを、ゴードンが操縦席から見上げているシーンも見ていて違和感があったけど、あの時も屋根は厚くてがっちりしていて・・。4号もいろいろあるのね。それにしてもゴードンはあっと言う間に潜水服に着替えていましたな。前に書いたから省略するけど、今回のゴードンはホントステキでした。アランは前半塔から落っこちそうになって、危なっかしい性格だってことが印象づけられるけど、後半もやっぱりお約束でポカをする。結局空中バイクって、前進することだけを前提にして作られているのよね。だからバックミラーはついていなくて、後ろを見るには自分が振り返るしかない。それでああいうアクシデントも起きるってこと。改良しなさい。ところでアランが2号から離れる時、2号の窓に◎印がついているんですけどなんなんですか?他のシーンではついていないぞ。ラストはしゃれていて、スコットの「浴室で何を見せるつもりかな」というセリフがすごく好き。色っぽい話とは無縁のスコットが真面目な顔で言うのがいいわあ。

さてこの15話の「大ワニの襲撃」の特徴は、もちろん本物のワニを使って迫力満点のエピソードに仕上げたというところにあるんだけれど、ワニに劣らず人間の方もよく描かれている。事件の原因を作ったのも、状況を悪くしたのも全部人間の方。ワニ達はむしろ被害者だ。あまり具体的な描写はないけれど、「ファイルズさんはカルプの過去に詳しいようだ」なんて気になるセリフもあって、過去に何があったのよ・・と興味をそそられるわけね。せっかくオーチャード博士が言いかけたのに、ブラックマーはさえぎって話を変えてしまって、おいおい話の腰を折るなよ・・と突っ込んでみたりして・・。もっともオーチャード博士にしてもミクギルにしてもそれ以上のことは知らないし、知ろうとも思わないし、例え聞いたとしてもうわのそらで覚えていないんだろうけどさ。何たって頭の中はサーミンのことでいっぱいだから。通信が回復した時のジョンのうれしそうな声が印象的だったな。彼が一番孤独を感じるのは家との通信が途絶えた時だと思う。例え世界中の通信が聞こえていたとしてもね。