スズメバチ

スズメバチ

この映画は音響設備のいいところで見たらさぞかし臨場感があったことだろう。私が見たのは小さなところだったけれどそれでも迫力十分で、これほど「銃弾雨あられ」を実感させてくれた映画は初めてだった。「トリプルX」にくらべればスケールは小さいし、倉庫の中という限られた空間での戦いなんだけど、迫力では決して負けていない。最初は別の場所で別の種類の人間がそれぞれ行動している。特殊警察のエレーヌは国外で逮捕されたマフィアのボスを護送する任務につく。ナセールやサンティノは倉庫からパソコンを盗んで一儲けしようとしている。ルイはいつも通り倉庫の夜間警備の仕事。乗り込んできたナセール達はルイ達警備員を閉じ込め、せっせと獲物を運び出す。仕事はうまくいくはずだった。ところがそこへ飛び込んできたのが、ボスを奪回しようとするマフィア軍団に追われた装甲車。ナセール達はてっきり警察に気づかれたのかとあわてるが、相手は警察より何倍も恐ろしい集団。一方エレーヌ達は応戦しているうちに、ここに自分達以外のグループがいるのに気づく。ナセール達にとってはとんだとばっちりだが、巻き添えはごめんだと言ったところで道理の通じる相手ではなし。泥棒だの何だのと言っている場合ではない・・と警備員も含め皆で協力して戦うこととなる。困ったことに通報されないようナセール達の細工で、携帯電話を始め外部との連絡手段が断たれてしまっている。警報装置を鳴らして誰かに気づいてもらおうとしたが、たちまち壊されてしまう。装甲車を見失った特殊警察の方も必死で捜索しているが、今日はあいにくパリ祭で人手がない。そんなこんなで不運が重なったうえ、軍団はボスのためなら死もいとわない狂信者ばかり。ボスは売春組織の元締めで多くの女性を苦しめてきた極悪人でもある。政治的に思想的にどうのという描かれ方はせず、売春組織のボスとしての悪玉ぶりが主に描かれるので、命を投げ出すような狂信的な信者がいるというのはちょっと説得力に欠ける。武器密輸の元締めでもあるのだが、そっちの方は映画の中ではあまり重きを置いていないように思える。登場人物の背景はあまり詳しくは説明されない。エレーヌは未婚の母で、今回の相棒ジョヴァンニとは前にも仕事をしたことがある。ジョヴァンニは結婚しているがなぜかエレーヌのことが気になるようだ。一方ナセールとサンティノのつながりは今時珍しいほど強い。

スズメバチ2

まるで二人の間には何かあるんじゃないのと思いたくなるような・・。サミー・ナセリ扮するナセールは顔つきといい行動といい頼れる兄貴そのものだが、負傷したとたん今までの男らしさはどこへやら、気弱な泣き言ばかり言うようになる。サンティノは最初銃を持つことに拒否反応を示していたから、過去に何かあったのだろう。自信たっぷりのナセールにくらべると、ソワソワと落ちつきがない。それがナセールが負傷し仲間がピンチに立たされると、いやでも銃を使わざるをえなくなる。ピンチをしのいでいくうちに、今までの臆病さは消え、だんだん勇敢な男へと成長していく。年上の女性に愛される美青年役ばっかりのブノワ・マジメルだが、アクションもいけるってことをこの映画は証明してくれた。これからももっとアクション映画に出てちょ。さてサンティノには弟がいて、留守番役なのだが、いつまでたっても仲間が戻らないのでとうとう様子を見に行く。そして倉庫がとんでもないことになっているのを発見し、結局は彼の通報でエレーヌ達の居どころがわかる。この映画のウリはヒロインエレーヌの活躍である。強くて冷静で男まさり。でも「バイオハザード」のアリスのようなスーパーウーマンではない。女性として女性の敵であるボスを心から軽蔑せずにはいられない。彼が皆の命まで賭けてつかまえておかなきゃならないような男でないことはわかっているが、彼を裁判にかけ、罪を償わせるためには敵に引き渡すわけにはいかない。あくまでも任務を遂行するエレーヌだが、そんな彼女でもどうしようもないくらい事態は悪くなってきた。ジョヴァンニを始め味方は次々に殺されるし、銃弾は残り少ない。いくら倒しても敵は減らない。だんだん追いつめられ逃げ場を失う。ところがそこでルイという男の存在が重みを増してくる。この男の過去もほとんど説明されない。私はこのパスカル・グレゴリーが出演していることは知らなかったので、冒頭彼を見た時にはてっきり悪役だと思った。昼下がりテレビがつけっぱなしで、中年の男がのんびりと庭でワインか何かを飲んでいる。散らかったテーブルの上の肉の食べ残しやグラス。そのうちに出かける支度を始めるが、銃は持ってるし小さな女の子の写真は飾ってあるし沈痛な表情で家を後にするし・・で何やらいわくありげ。バイクで走る姿を見てこりゃ絶対誰かを暗殺しに行くのに違いないと思った。

スズメバチ3

彼は一匹狼の殺し屋なんだと思っていたら・・着いたのは倉庫。どうも彼は夜警らしい。ヴァイオリンを弾き、犬はそれに合わせて吠える。そんなことをしている間にナセール達が忍び込むという話の流れ。どうやら彼は二年ほど前までは消防隊員だったらしい。なぜやめてしまったのかその理由は明らかにはされない。ヴァイオリンは写真の女の子のものらしいが、その子は死んでしまったのか遠くにいるのか。彼との関係は・・娘それとも孫?全く説明がないだけにかえっていろいろ想像しちゃうのよね。盗みに入られてもムダな抵抗はせず大人しくしばられる。でも事態が急変して自由になってからは、皆より年長ということもあってまわりを助けていくこととなる。倉庫の設備に詳しいし、消防隊員としての知識・経験がある。若い者のように浮き足立つこともなく、ピンチになっても何とか切り抜ける頼もしさ。P・グレゴリーって今まであんまりいいとは思わなかったのよね。別に嫌いじゃないんだけど、いつもぺチャクチャしゃべりすぎでハナにつくというか油っこいというか。それが今回は余計なことはしゃべらず黙々と行動する。ホントかっこよかった。見かけはオジンだけどけっこう動作身軽だし・・ってこの人私より年下なのね。ウーム(ショック)。ラストはどうなってるのかよくわからず「ルイはどうなったの、ルイは・・」とモヤモヤ気分。エレーヌとサンティノが助かったのははっきりしてるけど、何か死体みたいなのあったし。二回目注意して見ていた。ナディアも助かったのね。あの死体はマルシアルと、車で通りかかった不運な父子(?)だったのね。そしてルイは結局助からなかったのね。三人を逃がすために自分はとどまってあの爆発でやられちゃったのだわ。はー残念。彼が助かればもっとスッキリした気分で終われたんだけどなー。・・てなわけで少々重苦しい気分にさせられたけど、でも本当に迫力満点で、ハリウッド式「お金じゃんじゃんつぎこみました」っていうんじゃなくて、「お金じゃないよアイデア勝負よ」ってのがとってもよかった。たった一つの欠点はエンドロール。ラップは歯切れのよさが命なのにモタモタしたしゃべりが延々と続く。フランス語にラップは合いません。さて結論。男は顔じゃない、ピンチの時にどういう行動が取れるか・・なんですね。マジメル目当てで行ってパスカルにしびれて帰ってきましたわ。