スフィア

スフィア

これは最初WOWOWで見たのだと思う。その後古本屋で原作を買って読み、DVDも買った。時々読み返し、見返し・・。それなりに楽しめるが、満足感は得られない。できそこないだとは思わないが、残念な出来ではある。心理学者のノーマン(ダスティン・ホフマン)はヘリで太平洋上へ。そこには艦隊が・・。飛行機の墜落・・助かった乗客の初期治療・・つまり心のケア・・そんな理由で呼び寄せられたのだと思ったら・・全然違った。海底ケーブルを敷設中、何かのせいでケーブルが切断。どうも海底に巨大な・・800メートルもある物体が沈んでいるようだ。それも宇宙船みたいな・・。それで水中ハウス(ハビタット)を作り、ノーマン、数学者ハリー(サミュエル・L・ジャクソン)、生物学者べス(シャロン・ストーン)、宇宙物理学者テッド(リーヴ・シュレイバー)を集めたのだ。宇宙人との接触に備えて・・。責任者はバーンズ(ピーター・コヨーテ)。ハビタットには二人の女海軍兵士フレッチャー(クイーン・ラティファ)とエドマンズ。主な出演者はこの七人。今考えるとけっこう豪華。でも最初見た時はシュレイバーのこともラティファのことも知らなくて・・印象に残らなかった。そもそもべスらが選ばれたのはノーマンの報告書のせい。以前政府の依頼で、異星人に遭遇した時の対応について書いたが、半分くらいは適当に・・SF小説とか参考にしてでっちあげたところも。だってこんなの真面目に読むやつなんて・・。3万5千ドルの報酬も魅力的だったし。もしもの場合適任と思われるメンツもあげておいた。それがべスら三人。ノーマンに悪気はなかったが、あいにくありえない事態が現実に起こってしまった。ノーマンの知らないうちに報告書は”バイブル”になってしまっていた。さて、原作はマイケル・クライトン、監督はバリー・レヴィンソン。ホフマンは名優だしストーン、ジャクソンなど脇も揃ってる。私の見たところ特撮もセットもよくできていると思う。でもアメリカではヒットしなかったようで。製作費の半分しか稼いでいない。私が感じたのは・・ノーマンのキャラに魅力がないこと。ホフマンは名優には違いないし、この映画のある部分は彼で持ってる。でも・・鼻につくのである。しかもこの映画余計な設定くっつけている。過去・・15年ほど前・・ノーマンとべスは愛人関係にあり、破局した時べスは睡眠薬自殺をはかったのだ。

スフィア2

彼女は首にも傷があり、事故だと言ってるがそれも自殺の?何やら裏がありそうで、作り手のコメンタリーが入ってないのが残念だ。まあとにかくノーマンはべスと関係を持ち、それでいて僕には妻子がいるそのことは君も承知のはずだなどとぬかすゲス男なのだ。手っ取り早く金を稼ごうと報告書をでっちあげるようなずるい人間なのだ。すぐに人を分析し、一段高いところにいるかのようにふるまう。こういう鼻持ちならないのを主人公に据えちゃいけませんな。しかもとびきり鼻のでかい役者使うからますます・・。原作だと二人の間には愛人関係はなし。何だ・・映画用かよ。べスは若い頃同棲していた学者に研究成果を横取りされたという苦い経験はあるが、ノーマンとは友人関係のみである。ストーンも微妙だ。彼女はこの役を射止めようとだいぶアピールしたようだ。そりゃそうだろう。ホフマンやジャクソンらと対等にわたり合うチャンスだし、登場人物少ないから目立つことができる。女兵士二人は途中退場するしね。原作ではハリーの方が若く30歳くらい。テッドは40歳くらい。映画とは逆である。ハリーには(例え球体のせいでどことなくおかしくなっているとしても)頼りになりそうなところがある。ノーマンでさえ、ハリーなら何とかしてくれると思っている。そういうキャラなので、若い黒人俳優ではなく中年のジャクソンにしたのか。ハリーとテッドにはライバル意識があり、ある意味二人ともあせっている。数学者にしても物理学者にしても大発見や大発明をするのは若い時が多い。自分はどんどん年取っていくのに、まだ目覚ましい業績を出してないとか?ハリーのキャラはなかなかいいと思う。数学者らしく明快なものの見方をする。ノーマンが報告書のことをすぐハリーに話すのは、彼ならごちゃごちゃ言わないからだ。ノーマンのずるを怒るより、正直に話してくれたことの方を重く見る。だから怒らない。宇宙船内の様子から、彼はすぐはっきりとした結論を導き出す。宇宙船は結局アメリカのもので、サンゴのつき方からして少なくとも300年は沈んでいたと思われる。ブラックホールのせいで未来からタイムトラベルしてきたのだ。フライトレコーダーに”未知への突入”とあったのは、自分達の報告が記録として残らなかったからだ。記録が残っていればブラックホールの存在も、タイムトラベルすることもわかっているから、”未知への突入”とは言わない。

スフィア3

記録が残らなかったということは、誰もここから生還できなかったということ。我々は皆ここで死ぬのだ。宇宙船内部の探索、不思議な球体の発見(この映画の前半最大の見せ場のはずだが、そのシーン何で入れないんだろう)、謎の知的生命体ジェリーとの交信・・前半はまあそれでも期待しながら見ているが、そのうち退屈になってくる。ハリー・・一番明確な判断下せそうな彼が寝てばかりなので、どうも盛り上がらないのだ。しかもハビタットを襲う巨大イカは彼の夢の産物だ。この・・夢ってのがいけませんな。インパクトが弱い。夢ってそれを見ている人が一番影響受けると思うが・・。他人の夢のせいで次々人が死ぬっていうのは・・。生きようと努力した人が死に、お気楽に寝ていた人が助かるっていうのは・・。宇宙船が墜落したのは、球体のパワーで乗組員が殺し合ったせいか。操縦席にいたミイラの頭には撲殺されたと見られるあとが・・。ところで他の乗組員はどこに?「惑星ソラリス」「イベント・ホライゾン」「スーパーノヴァ」など、いろんな映画が思い出され、新鮮味がないのもバツ。後半になるとカメラがゆれまくりなのもだめ。火災やら爆発やらいろいろ起こるけど・・おもしろくない。いつまでたってもノーマンはいやなやつだし、ハリーは寝てるし、べスはろくなことしない。何と爆破装置をしかけてしまうのださすがシャロン・ストーン!(違うって!)クライマックスも・・右往左往するのを見てハラハラドキドキすべきなのか、もたついていると見るべきなのか。いやとにかく夢や幻覚の扱いって難しいね。バーンズはあんまり魅力ない。おまえまでノーマンとべスのことでぐじぐじ言うなよって感じ?今ここでそんなこと蒸し返したって何の足しにもならん。テッドはいいやつなのに死んじゃうし(こらノーマン、助けろよ!)。私がいいな・・って思ったのはフレッチャーとエドマンズ。あまり見せ場はないけど、一番ちゃんとしていたでしょ。私情や私生活持ち込まず。300メートルの深海、閉ざされた空間、休みなしの勤務もたんたんとこなす。まあ二人というのは少なすぎる気もするけど。さて、多くの犠牲者出して、金のかかった施設も破壊して・・ラストはおててつないでこのことは忘れましょう・・だってさ。こんなんでいいの?球体は飛び去るけど、また新しい獲物求めて?と言うか、海底で300年も時を無駄にするとは思えんが・・。

スフィア4

球体にとって時間の観念は違うのか。中も空洞だったようで、描写もされず物足りない。何でもブラックホールのせいにするのもアレだ。数十年後宇宙を旅するアメリカの宇宙船が遭遇するのは、今飛び立った球体よね。船に取り込まれ、ブラックホールによって300年前の地球の海底へ。そして発見され・・って、あら?同じことのくり返し?さて、DVDを見たついでに原作も読み返した。女兵士は四人になっていて、まあ妥当。女ばかりというのは「UFO」のムーンベース思い出す。女性の方が協調性があり、真面目に仕事に取り組み、がまん強いってか?原作ではローズという女兵士が食事を作ってくれる。映画だと小さく区切られたキャビネットのようなものから好きな食べ物を取り出していた。まるで「ダークシティ」のようでムフフ。原作でのノーマンはさほどいやなやつでもない。髪が短く、筋肉質のべスはシャロン・ストーンそのものだ。強さの中に弱さも合わせ持つべスは自殺願望があり、クライマックスではさんざんノーマン達の足を引っ張る。読んでいていらつく。こんな女置いてけ!原作だとハリーやべスのパワーのせいで、何人か現われる。いるはずのない人間で、どことなく様子がおかしいが、ビデオテープにもちゃんとうつる。べスの場合は女ミイラだ。映画にこれらのシーンを入れなかったのはたぶん見た人全員が「惑星ソラリス」思い浮かべるからだろう。ハリーの他にべスも球体に入ったと気づいたノーマンは、自分も入る。ここらへん映画と違う。彼は球体の中で何かと対話する。相手ははっきりしないが、こういうのはたいてい鏡のようなもので、自分と対話しているのだ。質問をして答が返ってくるのは自分がそう思っているからであり、答が返ってこないのは・・例えば球体はどこから来たのかとか、あなたは誰だとか・・自分が知らないからだ。それにしても・・数十年後にブラックホール探査の有人ロケット飛ばすほど、冷凍睡眠の技術が完成するほど、科学技術は進歩しますかね・・。まあ何だかんだ書きましたけど・・どちらかと言うとけなしてますけど、それでもこの映画は楽しめますよ。これからも時々見返すと思う。ところで・・思った通りWOWOWで3月に「月に囚われた男」が放映される。もう少しDVD買うの待ってりゃよかったかにゃ~。