ストーリービル 秘められた街

ストーリービル 秘められた街

これを見たのはだいぶ前。ジェームズ・スペイダーのファンになって、彼の出演作あれこれ物色していた頃中古ビデオを見つけて買ったのだ。今は昔と違って誰かのファンになったからと言って出演作全部を集めたりしない。でもこの作品はサスペンス物らしいし、この頃のスペイダーはまだやせてるし、内容がアレでも目の保養にはなるかと・・。今の彼は脂美・・じゃない、脂身だからなあ・・。一回目見た時の印象は何じゃこりゃ・・だった。意味がよくわからない。美女が(洋風からオリエンタルまで各種)出てくる。でもスペイダーの美しさにはかなわないけどウヒ。たくさんの謎(一番の謎は、なぜビデオをとらせたかということだが)、死体、欲望と官能、理想と野心、忌わしい過去とサスペンス・・ストーリービルはそのすべてを隠す街。迷い込んだら出てこられない迷路・・とか何とか宣伝文より。地方議会を目指す弁護士のクレイ(スペイダー)。選挙運動中なのに、結婚してるのに、美女リー(シャーロット・ルイス)に誘われるとふらふらついて行き、エロティックな一夜を過ごす。その後彼の元にリーが現われ、二人の情事を父親のザングが盗撮していたと告げる。ビデオテープを取り返しに行ったクレイは、ザングに殴られ気を失う。しばらくして目を覚ますと、ザングは殺され、パトカーのサイレンが・・。危ういところを逃げ出したクレイだが、リーが犯人として逮捕されたと聞くと、一計を案じ、彼女の弁護を買って出る。なぜテープにとられたのか。ザングを殺したのは誰か。その一方で彼には気になっていることがあった。三年前の父レイの死。ある事件の証言当日、自殺した父。しかし本当に自殺だったのか。石油採掘権に絡む詐欺。そしてクレイ自身の出生の秘密。・・何か盛りだくさんすぎて、何が何だかさっぱりわからない。しかもどことなくのんびりムード。焦点がぼけてる。何じゃこりゃと思ったのも当然だな。それでも今回は二度目のせいか、この映画の持つ独特なムードに引き込まれた。まず流れてくる音楽がいい。カーター・バウエルの静かな曲。思わずサントラ買っちゃいました。いいですよ、これ。建物や小道、クレイの出馬応援パーティでちらりとうつるあやつり人形。ううッ「いつかあなたに逢う夢」みたいだ。こういう場所にフレッチャーが来て、子供達に人形見せていても不思議じゃないわウヒ。

ストーリービル 秘められた街2

クレイは若くてハンサム、有能な弁護士、庶民の味方。叔父のクリフォード(ジェイソン・ロバーズ)達の強力な後押しもある。対立候補のホリスターは手ごわいが勝算はある。見ていて思う。クレイは本当に議員になりたいのか。彼にはがつがつしたところがない。死んでも当選してやるというところがない。どこかさめている。彼には美しい妻メラニーがいる。でもメラニーは浮気している。その証拠もつかんだ。でも今はまだ黙ってる。選挙運動中だからスキャンダルはまずい。そう、まずいんですよクレイ君。まずいんです。まずいんですってば!まずいって言ってるでしょうが!それが何でリーの誘いに乗ってひょこひょこついて行くんですか?しかも人目を忍ぶふうでもない。おかしいなあ、アンタそれでも弁護士かよ。さて、クレイにはいちおうそれなりの理想や野心はある。でもそれはクリフォードのそれとは一致しない。クリフォードにはクリフォードの思惑がある。ネタばらししてしまうと、実は彼はクレイの父親。酒の量が増えたクレイの母親コンスタンス(パイパー・ローリー)。彼女はさして隠しもしていない。恥じてもいない。彼女は思い出(嫁ぐ前の若くて美しかった自分、男性にモテモテだった日々)の中に生きている。クリフォードにはそれ以外にも秘密があった。レイの死は自殺ではなく、彼が殺したのだ。彼らの父(クレイにとっては祖父)にまでさかのぼる秘密。住民をうまくだまして手に入れた土地。その土地(石油が出る)のおかげで祖父は大金持ちになった。しかし詐欺に気づいたレイは、それを証言しようとした。そんなことされては困る・・とクリフォードは兄を始末する。今まで通り金持ちでいたいから。レイの死で事件はうやむやになってしまう。今また彼はクレイを議員にするために画策する。ホリスターにはよからぬうわさがある。ベトナム戦争時グリーンベレーだったホリスター、何やら後ろ暗いことをやったらしい。ホリスター陣営のセキュリティ担当トレヴァリアン警部補(マイケル・パークス)も元グリーンベレー、ザングはベトナム人で元軍人。三人はベトナムでは知り合いだったのか。その後アメリカに渡ったザングは、表向きは合気道の道場をやっていたが、裏では娘を脅し、売春をさせていた。今回も娘にクレイを誘惑させ、ビデオを撮影し、ゆするつもりだった。

ストーリービル 秘められた街3

このクレイにしかけられた罠だが、ビデオ撮影を命じたのがホリスターというのなら話の筋は通る。ライバルを蹴落とすための昔ながらの卑劣なやり方。公表されたくなかったら出馬を取り消せ。クレイもホリスターも知らなかったが、トレヴァリアンはクリフォードの手先だった。おそらくクリフォードは金で買収したのだろう。ホリスター陣営の情報は筒抜け。ベトナムでのうわさは、文字通りうわさにすぎず、ホリスターをたたく材料にはならない。だったらその材料を作ればいい。ホリスターが盗撮を命じ、欲の深いザングがゆすりを考えているのなら、それを利用してやれ。ザングを殺し、こっちに不利になるテープを取り戻す。ホリスターは表立っては何もできない。ザングを殺したのが誰で、テープは誰が持っているのか。クレイに送られてきたのはコピーで、マスターテープは別にある。ホリスターにだってクレイ側の仕業だと予測はつくが、何たって元々は自分の発案。ザングの死が自分とつながらないことを祈るばかりだ。しかしそのうち、どこからともなくうわさが流れ始めるはずだ。ホリスターとザングのベトナムでのうわさが再浮上する。マスコミが取り上げ、ホリスターは一気にイメージが悪くなる。そして落選・・。クレイが道場に乗り込んだ時の指紋や血痕は、トレヴァリアンがうまく取り計らう。クレイに疑いがかかることはない。・・見ている我々は、このような筋書きを思い描く。ところが・・ビデオ撮影を命じたのはクリフォードなのだ。何で?何でクレイに不利になるようなことをわざわざするの?我々は当然ちゃんとした理由を要求する。クリフォードには何か理由があるはずだ。でもその期待は裏切られる。クリフォード自身自分がなぜそんなことをしたのかわからないのだ。おいおい、ぼけたのかよ!こら、脚本家しっかりしろッ!せっかくのサスペンスがこれじゃ盛り下がるじゃないかッ!かろうじて考えられるのは・・クリフォードがクレイを貧しい人々から引き離すためにこれをやったということ。クレイは黒人やアジア人の弁護を主にしている。貧しい人々の味方なのだ。しかしもっと上を目指しているクリフォードは、クレイには金持ちの白人を相手にしてもらいたいのだ。理想主義だけじゃ政治家はやっていけない。クレイには・・自分の息子には・・議員から州知事、さらにその上を目指して欲しいのだ。

ストーリービル 秘められた街4

このビデオを公開されたくなかったら今後は黒人やアジア人とは距離を置くことだ。もちろんクレイはホリスターの仕業だと思い込むだろう。ホリスターったら、きれいな女の子使ってボクをユーワクさせ、恥ずかしいビデオとっちゃった。ボクを蹴落とすため汚い手使ったんだわ~何て卑劣なやつ。どうしようこんなことクリフォードには相談できないし困ったわ~。こうなったらあの界隈には近づかないようにしよ~っと。これからはクリフォードの言う通り金持ちの白人相手に仕事しよ~っと・・とかさ。クレイが思ってくれたらクリフォードはばんばんざい。だけどクレイはリーの弁護なんか引き受けちゃって、話をややこしくするのだった。・・さて、妄想はこれくらいにして(妄想かよッ!)・・リーの弁護に関しては当然みんな渋る。しかしイメージアップのため・・とクレイは説得する。ただ・・選挙運動と殺人事件の弁護・・両立できます?しかも検事は昔クレイが同棲していたナタリー。いや~映画だからこそありうるむちゃくちゃな設定ですな。映画だからこそクレイには捜査の手はのびない。リーはむろんクレイの登場にびっくりする。彼女は現場にいなかったので父親が誰に殺されたのか知らない。もしかしたらクレイが犯人かもしれないのだ。警察の連中はリーが犯人だと思っている。法廷で彼女はどの程度しゃべったらいいのか。クレイとの関係は隠した方がいいのか。特にナタリーに質問されている時は困る。もし口をすべらせたら・・。てなわけで法廷シーンは緊迫感はあるが、クレイは何考えてるのかねという気もする。その時の状況や凶器のナイフなどに関しては、クレイは現場にいたから有利である。気を失っていた時間は別として、誰かがウソをつけば彼にはすぐわかる。都合よく重要な証人を見つけることができ、とうとう犯人を追いつめる。ザングを殺したのはトレヴァリアンだった。逆上した彼はクレイを撃つ。しかしとどめを刺す前に何と判事が彼を撃ち殺す。ここらへんもむちゃくちゃですな。何で判事が銃持ってるの?命拾いしたクレイ、選挙に大勝し、浮気妻メラニーはお払い箱。喜ぶクリフォードにクレイは父を殺したのはあんただ・・と冷たく言い放つ。こんなにいろんなことがあったのに、クレイは議員になるつもりのようだ。私としては当選を辞退し、これまで通り庶民の味方、街角の弁護士でいて欲しかったのに。

ストーリービル 秘められた街5

クレイは祖父やクリフォード達のやったことを公表し、だまされて土地を手放した人達にできる限りの償いをする気でいる。父がするつもりだったことを息子の彼が(クレイにとってはクリフォードではなくレイが父親なのだ!)代わりにやるのだ。ナタリーとの仲も復活するかもしれない。リーのことは何も考えていないようだ。彼女はほんのゆきずりの相手でしかなかったのか。本命は常にナタリーで・・。意外とクレイは冷酷で抜け目のないタイプかも。・・これまで書いてきたように、サスペンス物としてはいくつも穴(しかも大穴)があり、すぐれた作品とは言えない。しかしどことなく引きつけるものがある。ムードたっぷりと言うか。中には勘違いムードもある。合気道の道場。エロティックな一夜というのがこの映画の売りだけど、南部の町の娼館・・というのではありきたりすぎる。東洋風の味つけをしてちょっと変わったムード出したい。道場だから畳敷き。障子を開けるとオフロがあって。道着着たリーがクレイ投げ飛ばして。道着脱ぎ捨てればすぐオフロ入れる。道場って神聖な場所なんだけどなあ・・。でもそんなことはどうでもいいのね。ただのムード盛り上げるための小道具。何もない道場と同じくらいすっきりしているのがクレイのアパート。選挙期間中でこっちの方が何かと便利だから・・と寝泊まりしている。本当はメラニーと顔を合わせたくないのだろう。ここは昔ナタリーが住んでいた。二人は何で別れたのか。でも今でも相手に引かれている。ラストはその二人が言葉もなくじっと見つめ合う。いずれ劣らぬ美男美女・・いややっぱりスペイダーの方が美しい。それにしてもナタリーはコンスタンスに似ているな。クレイの好みがわかる。すっきりして余計なものが何もないアパートはよかった。何もないからこそいろんなものが満ちている。ナタリーとの思い出、静寂、クレイの美しさ(なんちゃって)。逆に南部風の大きな屋敷には人やものがいっぱいだが、空虚さがある。酒びたりの母、昔を懐かしむだけのクリフォードの老友パッジ、愚かな妻メラニー、そして暗い秘密をかかえ込んだクリフォード。ジェイソン・ロバーズ、パイパー・ローリーといった懐かしいスターの他にウッディ・ストロードも出ている。「リバティ・バランスを撃った男」などで知られるが、長身で精悍な顔立ちだった彼もすっかり年を取って・・。まあ仕方ないけど。

ストーリービル 秘められた街6

マイケル・パークスは「天地創造」のアダム役で知られる。他にサングラスかけて「さすらいのライダー」とか。近年は「キル・ビル」などタランティーノ作品によく出ているようだ。私はこの映画スペイダー目当てで見て、彼の演技や美しさに圧倒されたんだけど、印象に残るキャラという点ではトレヴァリアンの方が上である。彼はいわばクレイの尻ぬぐい役。クレイに限らずいろんな連中の尻ぬぐいしてきた。それはもちろん金目当て。金のためなら手を汚すこともいとわない。でもお金を払ってくれる連中のことは憎んでいるし軽蔑している。彼らは揃いも揃って阿呆だ。中でもクレイのような若くて美しくて苦労知らずのおぼっちゃまで世間知らずで正義の味方ぶってる青二才なんか特に嫌いだ。俺のおかげで警察にもつかまらずのほほんとしてられるってのに、あのバカ何をしつこく嗅ぎ回っているのだ?せっかくリーを犯人に仕立て上げてやったというのに弁護なんか買って出やがった。しかも追っぱらったはずの目撃者まで捜し出し、法廷で証言させやがる。これじゃ悪いのは俺一人ってことになるじゃないか!えーいこうなったらヤケだ、クレイを始め俺をバカにするやつはみんな殺してやる~!・・と思ったかどうかは知らないが、とにかく逆上したトレヴァリアンは発砲し、そのあげく判事に撃ち殺される。彼が死んだおかげでクレイは助かった。命が・・ってだけじゃなく、弁護士生命、政治家生命が。もしトレヴァリアンが逆上せず、真相ぶちまけていたら・・。クレイはリーとの情事がばれた。殺人現場から逃走したことがばれた。それらを隠して法廷に出ていたこともばれた。殺人には無関係とは言え、クレイのイメージはホリスター並みにダウンしたことだろう。トレヴァリアンの死は彼にとってはラッキーだったのだ。もしかしたらクレイはこうなるのを狙っていたのかも。そんなクレイにはとてもじゃないが「よかったね、おめでとう」なんて言えない。くすぶった怒りをかかえたまま死ぬしかなかったトレヴァリアンの方によっぽど共感持てる。さて・・いろいろ書いてきたけどこの映画、一回目より二回目、二回目より三回目・・と、回数を重ねるごとに好きになってくる不思議な映画。ヒロインの美しさには何度見ても驚嘆させられる。ええそう、ヒロインですよクレイは。だって何かあるとすぐ気を失うじゃないですか。失神してる間に事件が起き、裁判終わってますぜ。