スリーピー・ホロウ
ジョニー・デップの映画をWOWOWでだいたい同じ時期に三本見たけど、これはそのうちの一本。映画館で彼を見たことはまだない。主人公はニューヨーク市警察(といっても1799年のだけど)の捜査官で、犯罪が拷問による自白や、ちゃんとした検死もなしに裁かれたり処理されることに異議を唱えるが、かえって難事件の起きたスリーピー・ホロウという田舎の村に追いやられてしまう。名前はイカボッドで、もう名前からしてカッコ悪いことこの上ない。私なんかすぐイカポッポを連想しちゃう。臆病で魔女の家に入る時には小さな子供を盾にしたりする。恐ろしい目に会うと気絶しちゃうし、ベッドでふるえているところなんかマンガの「トムとジェリー」そっくり。勉強家で仕事熱心で、ゲームでキスをされたカトリーナにポーッとなってノートにあれこれハートだらけのマンガを描いちゃう。とにかくかわいい。首を狙う幽霊騎士の謎解きとは別に、彼には毎晩のように見る悪夢の問題がある。子供時代のイカボッドをやった子は、よく見つけてきたなあと感心するほど似ている。母親役のリサ・マリーは「マーズ・アタック!」で何ともいえない不思議な動きをしていたっけ。「マーズ」はくだらない映画だと思うが、彼女の出ているシーンだけは動きが実写なのか作り物なのか判断がつかず、非常に印象に残っている。さてイカボッドの母は魔女で、夫、つまりイカボッドの父親に殺されてしまう。奥の部屋は拷問器具でいっぱいで、母親は「鉄の処女」に閉じ込められている。ふたが開いて血が洪水のようにあふれ出すシーンがこの映画では一番怖い。幽霊騎士が次々と村人の首をぶった斬るので、この映画はPG-12か何かに指定されているんだけど、首を斬るシーンでは血はほとんど流れない。これは不自然なことだけど一瞬のうちに切り口が焼かれたからという設定になっている。そのぶん母親が体中から血をあふれ出させながら倒れるシーンが印象的というわけ。カトリーナも魔女で、イカボッドは騎士をあやつっているのが彼女だと思い込んで村を去ろうとする。しかし犯人は意外にも・・となるのだが、映画でははっきりとした説明はないけれど、魔術には白魔術と黒魔術があるのよね。薬を作ったり呪文を唱えて、病気を治したりケガの治療をしたりするのが白魔術で、イカボッドの母もカトリーナもこっちの方。
スリーピー・ホロウ2
人を呪ったり、今回みたいに亡霊をあやつって次々に人を殺させたりするのが黒魔術の方。イカボッドの父は狂信的な聖書信奉者で、何の罪もない妻をむごたらしく殺してしまったというわけ。事件は解決してラストはめでたしめでたし。画面はブルーを基調としており、かかしとかかぼちゃの飾り物とか風車とか、いいムードだ。その反面死んでからかなりたった死体が全然腐ってないとか、血が吹き出すとかおかしな部分がある。森に住む魔女の顔がいきなりマンガみたいになるのは悪ふざけもいいとこ。騎士がやっと自分の頭部を取り戻し、首を据えた後の復活シーンは「インビジブル」そっくり。まあこっちの方が先だと思うが。とにかくやらにゃあソンソン!・・とばかりにCGだか何だかをくり出してくる。ティム・バートンさんよ。J・ディクスン・カーの「火刑法廷」を一度読んでみなさいよ。ハヤカワ文庫の107ページのあたりをさ。騎士の首がつながったら変なシーンなんか入れないですぐにクリストファー・ウォーケンの顔にしちゃうのよ。で、元通りになったんだけど何だかおかしいっていうふうにするのよ。「火刑」の場合は女の人のことを言っているんだけど、「その女の首のあたりもなんだか変な気がした」とか「その女の首はぴったり躰にくっついていなかったような気がするんです」っていう表現。どう?こっちの方が怖さがぐっと増すと思わない?首のあたりがモヤモヤしてて、つながってるようないないような・・。そういうのがなくて何でも「作ったぞー見て見てー」ってやってるから結局は「あんまり怖くないホラー映画」で終わっちゃうのよ。さて文中で「鉄の処女」という言葉を使ったが、映画の中にそういう言葉が出てくるわけではない。ノベライズ版でも棺としか書かれていない。でもちょっと世界の悪女達の伝記を読んだことのある人なら、あの「血がどばー」のシーンで、ハンガリーの血まみれ伯爵夫人ことエリザベート・バートリが若い女性から血をしぼり取るために使った器具を連想するはずである。「火刑」に出てくるブランヴィリエ侯爵夫人にしろこのバートリさんにせよ、人間として何かが欠落しているわけだが、じゃあ信仰篤いイカボッドの父親は何をしたかといえば妻殺しである。しかも絶対後悔なんかしていなくて、自分は神の名において正しいことを行なったと信じているはずである。あんなオヤジに似なくてよかったね、イカボッド君。