スラッシュ!

スラッシュ!

私がこれを見たのは、スティーヴ・レイルズバックが出ているから。90年代の終わり頃になるとチョイ役が多いから、出番が多いとうれしい。出演作はこういうホラー映画が多い。あまりなじみのない若い俳優があれこれ出てきて、いちゃついたり逃げ惑ったりしたあげく殺される。さんざん不条理な世界見せといて、最後はわりとあっけらかん。えッ、あれは何だったの?これでいいの?・・取り残されてる私をよそにジ・エンド。この映画もそう。あんまりちゃんとした・・いや、全然ちゃんとしてない。それでいて後味はさほど悪くなく、その点は珍しい。ロックバンド”スラッシュ”のボーカル、マック(ジェームズ・オシェア)には不可解な記憶がある。後でわかるが、それは彼が7歳の時のこと。納屋で遊んでいたら、誰かが入ってきた。女性の死体を運び込んでいる。他にも数体あって、何やら装置がつけられ、血を抜かれているようだ。隠れているのに気づかれたけど、相手はランプを倒し、そのせいで火事になってしまう。相手も火だるまになったけど、最後まで見届けたわけじゃない。燃える納屋から急いで逃げ出したからだ。その後母親は彼を連れて家を出た。それっきり農場には近づいていない。年月がたち、記憶はぼやけてしまったが、それでも帰る気にはならない。ある日突然薄気味悪い男が訪ねてきて、伯母の死を告げる。葬式のため、仕方なく帰ることにする。ちょうどバンドは運が向いてきたところ。オーディションは一週間後だから、一晩くらいなら・・。行ってみると、ケータイも通じないド田舎で、メンバー達も呆れる。葬式の時、ジェニーという女が何やら不吉なことを言い出し、マックの父ジェレマイア(レイルズバック)を怒らせる。何となく横溝正史風味。こういう女性は殺されることになっている。冒頭バカップルが殺されるのもお約束。二人とも頭空っぽで、運転する時前を見ない。案の定事故を起こす。まわりは畑だから、誰かいる!となってもそれはカカシで・・。な~んだとなるが、実は人間で。オシェアは知らない人。マーク・ウォールバーグが風邪ひいたみたいな感じ。トム・ライリーやポール・ウォーカーにも似ている。下がきちきちのジーンズで、上半身裸というシーンが多いが、寝る時くらいはああいうきついのは脱いだら?血流が悪くなって、だから悪夢を見るのでは?

スラッシュ!2

まあ美形とまではいかないが、オシェア君のおかげで何とか見ていられる(他の若手男優は不作)。バンドも、ロック系とは言え、わりと静かな方なので助かった。ワーワーギャーギャーウォーウォーじゃ困る。とは言え、演奏している彼らの自己陶酔ぶりにはうんざりだ。他のメンバーは、マックと恋仲のスージー(ズレイカ・ロビンソン)。ロッドはグルーピーのキャンディといちゃつきっぱなし。キャンディは占いをやるようだ。キース、イアン、カールの三人はカカシ男によって殺される。カールはいつもビデオカメラを手にしていて、何でもうつしたがる変態。こういうキャラもこういう映画にはよく出てくる。殺された後もカメラは撮影し続け・・ってのもお約束。ハッパ吸ったり酔っ払ったりケンカしたり仲直りしたり。いらついたり嫉妬したり。まあ舞台が農場というのが変わってるだけで、あとは他のホラー映画と同じ。みんなはこんなド田舎からは早くおさらばしたい。オーディションに遅れたら大変だ。バスで出発してやれやれとなるが、いくらも行かないうちに故障で止まってしまう。代わりの部品が来るまで二、三日かかる。もちろんこんなこと誰かが・・ジェレマイアが仕組んだに決まってる。メンバーは退屈しまくるが、マックはマキ割りなどに汗を流す。やってみるとさほど悪い気はしない。ジェレマイアもほくそ笑む。彼が息子をここへ引き止めておきたいのは見え見え。自分達は土とは切っても切れない関係にある。祖父のジェスロから自分に受け継がれた血は、孫のマックにも伝わっているはず。彼は密造酒も作っている。葬式の時、牧師だか神父だかの役を務めていたジーンは、本職は保安官。酒をもらう代わりに密造を黙認している。ジェレマイアには何か薄気味悪いものを感じているはずだ。彼には本気とも冗談ともつかないことを言う癖があって、まわりの者を不安にさせる。マックが家に戻った時も、銃を突きつけ、息子の顔を覚えていないのかと思わせる。その後ふざけていたのだとわかるが、マックはおもしろがるどころではない。ただ、こういう言動はこういう土地、ジェレマイアの過去を知っている者にとっては、さほど奇矯には見えないと思う。頑固で口が悪いがその一方で働き者で信心深い、典型的な農民タイプ。おまけに妻子に逃げられたひとりもの。

スラッシュ!3

人をからかって喜ぶくらいは大目に見てやろう・・ということになるのでは?さて、DVDを買った時に見て、それっきりだったので、ラスト、ジェレマイアがどうなったのか、犯人は誰だったのかとかはすっかり忘れていた。今回再見して、ああそうだったのか・・と。14年前の火事は、マックはまだ子供だったし、実際以上に思い込んでいたというのはありうる。てっきり焼け死んだと思ったら、男・・ジェスロは大ヤケドを負いながらも生き延びていたと。でも、彼の存在がここで作男として働くビリー・ボブに気づかれずにすむっていうのはありえない気が・・。たぶん密造所は半分は隠れ蓑。実際に酒は作っているけど、地下があって、ジェスロはそこに潜んでる。幼いマックは死体を見たけど、今でもジェスロは同じことやってる。冒頭のバカップルも、バンドのメンバーもここで血を抜かれている。乳しぼりならぬ血血しぼり。集めた血は肥料として畑にまく。だから作物はよく実る。う~ん、てことはここらへんではしょっちゅう失踪事件が起きているはずだが。さて、マックに伯母の死を知らせに来たのはビリー・ボブ。この映画の後味がいいのは、彼のキャラのおかげ。演じているニック・ボラインは知らない人。クランシー・ブラウンやジェイク・ビジーによく似ている。見るからにうさんくさく、何を考えているかわからない。バンドの連中は無学な田舎者と見下してバカにするが、彼は意外と頭もよく、器用。射撃はうまいし、歌はだめだけど教会でオルガンを弾いているからキーボードも弾きこなす。何か言われても怒ったり言い返したりせず、受け流す。怪しい外見のせいで一時は彼が犯人・・と、マック達に思われてしまう。スージーなんぞはナイフで刺してしまい、あらら彼死んじゃうのかしら・・と心配させる。でもラスト・・欠けたメンバーの代わりにちゃっかりバンドに加入してキーボード弾いてる。それで、ああよかった・・となる。これが半年後の話で、マックの作った”マクドナルド農場”という曲は大ヒット。めでたしめでたし・・となる。今回の火事・・ジェスロはだめだったけどジェレマイアは生き延びて・・これからも同じことを・・。何たって自分達は土から離れることはできないのだから。でも彼は焼け死んだと思われてるわけで、農作業やってたら見つかっちゃうぞ!