シックス・パック

シックス・パック

レンタル店でふと目についたので・・。おフランス製で、ちょっとアレなやつ・・ちょっと病的に残酷な、でも斬新なやつ。それくらいの知識しかない。公開当時新聞で記事を見たようなないような・・。題名だけは知ってたけど、意味不明だし、今まで見る機会なかった。偶然ビデオが目にとまらなけりゃこの先も見ることなかっただろう。夜・・遊園地で一人で遊ぶ女性。なかなかかわいいが、恋人はいないのかちょっと人恋しげ。そのうち自分を見ているハンサムな青年に気づく。悪い気はしない。もしかしたらステキな出会いかも・・。でもなあ・・危ないよなあ・・見ず知らずの相手だよん。ひとけのないところへ連れていかれ・・かなり長い念入りな描写。このコが五人目の犠牲者。犯人はよほどの異常者らしく、遺体は皆悲惨な状態。ここまででわかることは、犯人が誰かってのは最初からはっきりしているということ。刑事のナタンとソールのコンビ。ナタン役はマンジュー作るからアンコ煮な・・じゃない、リシャール・アンコニナ。リノ・ヴァンチュラに似てるかな。知らない人だ。ソールの方は「TAXi」シリーズのエミリアンことフレデリック・ディファンタール。最初は彼だとわからない。途中であれ?・・となる。彼だっておバカコメディーにばかり出ているわけじゃない。でもどうしても思い出してしまう、比べてしまう。最初のうちはわりとまともな捜査してるように見える。こりゃ期待できるかも・・と、思うわけ。こういうの・・おフランス製犯罪物・・だとたいていぺちゃくちゃしゃべって、仕事そっちのけで女に色目つかったり、聞き込みするのに暴力ふるったり、思いつきで行動したり、何やってんのという感じになるけど、そういうのがない。特に若いソールは女のコに目が行ったりするはずだが、そういうのなし。ナタンも真面目。自宅に帰ってからも資料を読み、壁にいろいろ貼りつける。ひとりもので恋人もいないようだ。他の連中は土曜だから働きたくないとか、徹夜したけど無駄だったとか文句ばっか垂れるけど、彼は土日も関係なし。もうこれ以上犠牲者を出したくない。そんな感じなので、こりゃ久しぶりに真面目で緻密な筋の通った犯罪物見られるかな・・と期待したのよ。でも・・だんだん・・いつも通りのおフランスになってきましたな。

シックス・パック2

手がかりなんか何の役にも立たないとか、こういう犯罪・・連続殺人・・はフランスにはなかった、だから外国人・・アメリカ人の仕業だ・・となる。あちゃ~こりゃいかん。六番目の事件が起きそうになるが、未遂に終わって、犯人の最初のミスか・・と思われたその時・・あっという間に警官二人惨殺。女性の場合と違い、犯人は男性には時間かけたくないようで。そりゃ自分が返り討ちにあう危険もあるし。でも問題はその後です。集まったパトカー、惨劇があったらしい建物・・こりゃ絶対犯人が六番目の女性追いかけ、殺したんだと思うでしょ皆さん。でも違うんですナタンの悪夢。知人に聞かされた”ダディ・ハリー”という殺人鬼の夢見ちゃったんです。そこまで行くのにシャマラン監督並みの気の持たせ方させるんですよ引っ張りすぎ。見てる人をじらしにじらす。その後ナタンはこの”ダディ・ハリー”に会うためシカゴへ飛ぶ。あの~警官殺しは?ずーっと後までこの事件は無視される。普通身内がやられたら一般の事件以上に燃えて総力あげて捜査に臨むと思うが。だんだん・・作り手が自分勝手な・・好きなようにやり始めたぞという感じ。一瞬でも緻密さを期待した私がバカだった!多くの人が書いているが、”ダディ・ハリー”との会見はレクター博士を意識している。なぜこういうの出してきたのかな。今回の犯人と比較させるため?「何年入ってるんです?」と呆れるほどの愚問を発するナタン。彼はなぜ”ダディ・ハリー”に会いたかった?会って何を感じた?普通の人に見える・・それだけ?私が思うに、”ダディ・ハリー”には殺人の動機があった。狂った考えだけど、彼なりに筋は通ってる。でも今回の犯人・・シックス・パックは動機が不明。本人は結局何も言わなかったから、動機があったかどうかも不明。アメリカで10人殺し、その後二年ほど前にフランスへ渡ったらしい。ここらへんもいいかげん。その後の捜査もいいかげん。やれ観光局の職員だ、やれアメリカ大使館の職員だ。五人目の犠牲者の写真(死の直前、遊園地でとったもの)には、背後に誰かうつっていて、それと一致すれば犯人だ!フランス人って最新の技術見せるの好きだなあ。見て見て~こんなこともできるんだぞ~すごいだろ~オッホン。アメリカやイギリスに負けたくないんでしょうね子供っぽい。

シックス・パック3

一方ナタンはなぜか誰かに襲われる。向こうの・・この場合おフランスだけど、まず忍び込んだり殴り合ったりしてから・・ナタンは気絶までしてから用件を話すのね。いったい何やってるんだろ。普通にピンポン押してドア開けてあいさつして話せばいいじゃん。何者かが言うには自分達もあの大使館員に目をつけてるから、余計なことはするな、手を引け・・と。自分達が始末つける。でも、じゃお願いします・・とはならない。こうなりゃ意地だ。そう、写真にうつっていたのはダグラスというアメリカ大使館員で、文化担当。今はちょうどアメリカとフランスが通商協定結ぼうと交渉しているところ。こんな時期に大使館員逮捕したらえらいことになる・・と言うか、外交特権があるからダグラスには手出しできない?でもナタンはそんなの知ったこっちゃない。やつに罠を仕かけてやる。次の女性に狙い定める前に、こっちで囮用意して、ソールと二人で24時間見張って・・。もちろんソールは止めるけど、それでいてやってくれそうなコがいる・・マリーヌだ・・と引き合わせる。キアラ・マストロヤンニ・・彼女出てるの忘れてたよ!やっと登場。女刑事・・腕っぷし、足っぷし(←?)強そう。このマリーヌがまたいいコで・・。こんな美女ならボーイフレンドがいても不思議じゃないが、いないようなんだななぜ?ソールが夢中になってるってわけでもない。彼女は地味で・・何と言うか道歩くにしても胸張って颯爽と・・というタイプじゃない。うつむいて歩くようなコ。今回の仕事もすぐにうんとは言わなくて、あれこれ用心深く質問して納得してからやっと承知する。アメリカ映画だと出てきたとたん「大丈夫自信はあるの任せて」となるけど、こういうふうに「どうしようかなできればやりたくないけどだって本当に大丈夫なの?」と迷うのが普通でしょ?美女だけどちょっともっさりしていて、口の重いイモねえちゃん。素性がばれないよう職業は家でできる仕事(ネット・テレクラ)とし、その一方ボーリング場で目立つ行動をするというわけのわからない設定。ダグラスがそのボーリング場に出没するという当てでもあったのか・・いやたぶんナタンの当てずっぽう。

シックス・パック4

で、彼女はせっせとボーリングの練習をし、ネットで男性とチャットをし。ダグラスが女性に目をつけるきっかけとなる観光局関係の描写はなし。チャットしに来るわけでもない。ちゃんと描写して欲しい気もするが、彼が幽霊みたいに(現実の世界では)埋もれたまま出てこない作りも悪くない。当然のことながらマリーヌはストレスがたまってくる。いつ相手が現われるかわからない、いつ襲われるかわからないってのは精神的にきついと思う。現われなくてもどこかで見ているかもしれないから気が抜けない。早く終わりにしたいけど、その時が来て欲しくない。囮としての役目が果たせず他の女性が犠牲になるのはいやだが、自分が殺されるのはもっといやだ。彼女の様子がおかしい・・と、ナタンが駆けつけるシーンもあるが、何と囮になってからもう二ヶ月半もたっているんだと!いつの間に・・と言うか、そりゃおかしくなりますってば!と言うか、何でその間ダグラスは行動起こさなかったんですかね。あの謎の連中も。ナタン達はダグラスの方は見張ってないようで。じゃちゃんとマリーヌ見張ってるかと言うと・・そのうち油断し始める。絶対許されないことだけど、腹減ったから、ちょっとくらいいいだろう・・で、持ち場を離れる。そういう時に限って事件は起きるのだ。マリーヌも、人が大勢いるボーリング場の中なんだから何とかなりそうなものだが、いざとなると恐怖心の方が先に立って、悪い方へ悪い方へと行ってしまう。彼女自身あと一投でパーフェクトゲームというので、身につけていた無線はずしちゃう。その方が投げやすいからだが、それが命取り。やっと外へ出ると、いるはずのナタン達の車がない!ここらへんは見ていてもいや~な気分、ドキドキする。すべてが悪い方へ転がる。自分が訓練された警官であることも、犯人の手口知ってることも、格闘の経験あることも、何の役にも立たない!自分は今ひとりぼっち!怖い!で・・ナタン達はいつまでたっても異変に気づかない。ここらあたりになるともう彼らの呆れるほどの無能さに言葉もなくすわけ。仕事引き受けた時点で彼女の運命は決まっていたの!今までの捜査、執念、二ヶ月半の苦労は何の役にも立たない。ナタンとソールが救いがたいバカだから!いよいよダグラスとの対決・・となっても、応援する気にもならん。

シックス・パック5

かえってダグラスの方応援したりして・・こんな無能な連中につかまるな~逃げて~。何やらいろいろあってナタンは刺されるけど・・死ぬかと思ったら死なないし・・何で?(おいおい)何かのすき間からダグラスの顔が覗くシーンはすごくいい。グーグルで画像検索すると出てくるけど・・異常で、しかも美しい。これ見ると「ザ・クロウ」のヴァンサン・ペレーズ思い出す。ダグラス役はジョナサン・ファース。冒頭遊園地のシーンで登場した時はすごくびっくりした。ペレーズだ!何と美しい!ギョギョッ、フニャ~、デロ~ン(あッ、溶けた!)。マリーヌはもちろん殺されるけど、そのシーンは出てこないし、死体の状況もあまりはっきりとはうつさないので、こちらも助かった。気の毒すぎて見たくない。最初の方でおぞましい写真たくさん見せられるので、今更追加して見せんでもよろし。ただ・・時間的にダグラスがいつも通りのことやるヒマはなかったと思うが。途中であの連中がわらわら出てくるけど何で?何で今更あいつらが出てきて余計なことするのかさっぱりわからん。ああいう行動起こすならもっと早く・・。びっくりするようなシーンがあって・・飛び散るんだけど、何が飛び散るのかは映画見てください。ああやったってことは、連中はダグラスを逮捕したくはなかったのね?ああいうことができるのならマリーヌが犠牲になる前にいくらでもできたはず。ラスト・・ナタンは彼らのせいでマリーヌが犠牲になったと怒り、事件が解決したのは彼女のおかげと言って、映画は終わる。でも見てる人全員首を振るはず。マリーヌが死んだのはあんたのせいだ!囮作戦立てたのはあんた!彼女説得して囮やらせたのもあんた!その場を離れたのもあんた!いつまでも異常に気がつかなかったのもあんた!ダグラスの行先予測し損ねたのもあんた!(プラスソール)途中で連中が出てきて、彼に釘をさしたのも、彼をあおるため。手を引けと迫れば逆に意地でもやっちゃう性格をうまく利用されたのよそんなこともわからんのか!てなわけで、わりといい感じでスタートしたのにどんどん悪くなっていって、ラストは救いがたいほどにとほほ。こんなに後味の悪い作品も珍しい。

シックス・パック6

主人公に誰も共感しないままで・・かえって反感持たせて終わるって・・ある意味すごい。たぶん作り手は見てる人全員に巨悪に怒りを感じて欲しかったんだと思う。ナタンに共鳴するって思い込んでたと思う。思い違いもここまで来ると・・。それにしてもこの映画でのファースはすごいな。また、このキャラの造形もすごい。何しろセリフがほとんどない。確か一回だけだったと思う。ダグラスが何考えてるのか、なぜこういうことをするのか。犯行から分析はされるけど、それが合ってるかどうかは全く不明。この、ほとんど何もわからない状態で登場し、途中経過はあるけれど・・表向きのこと・・名前や職業はわかるけどそれだけ。クライマックスに突入し、終わるけど、でもやっぱり何もわからない。たぶん本人もわかってないし、わかってもらおうとも思ってない。彼のようなモンスターは他にもいるのだろう。美しい容姿と高い知性を持ち、重要な仕事をこなし、まわりに溶け込んでいるのに、なかみは理解不能なモンスター。で、こういうのにあたら若い命を散らされてしまう・・いや、死んだ後までひどいことされる女性がいて。彼女達にスキがあるのは確かだが、十分用心していてもやられてしまうのだから本当に恐ろしい。こういうモンスターは、映画で描かれるにしてもたいていはべちゃくちゃしゃべり出したりして、その異常さが薄れてしまうことがよくある。何だやっぱり自分のこと知ってもらいたいんだわ、黙っていることができないんだわ・・となる。でも今回は最後まで口をつぐんでいて、それはとてもよかったと思う。よくがまんした!(←?)おっそろしく出来の悪い、期待を裏切り続ける映画だけど、ダグラスに関しては文句なし!!再びファースについて書くけど(この映画の主人公は彼!!)、「名探偵ポアロ」の「ヒッコリー・ロードの殺人」で初めて見て、以後注目している。兄貴のコリンはアカデミー賞とったし、前々から日本でも知られているけど、ジョナサンはどうなのかな。コリンよりハンサムで甘い顔立ち。でもだからこそこういう異常な役やるといっそう際立つ。美しい外見、なかみはモンスター・・これがカギ!(何の?)とにかく彼をこの役にキャスティングしてくれてありがとう!他に「トランスポーター」等でおなじみのフランソワ・べルレアンが出ていた。