シークレット・エージェント

シークレット・エージェント

題名だけ見るとハードボイルドタッチの本格的なスパイ映画に思えるが全然違う。救いようのない泥沼にはまったような人達ばっかり出てくる。一回見ただけじゃ主人公ヴァーロックの立場もよくわからない。ロシアのスパイらしいがロンドン警察の警部にも情報を流す。自分の家ではポルノショップみたいなのをやっているが、1880年代のことだから画面からは何も伝わってこない。妻の母親はどうしてもがまんできない・・と涙ながらに引越していく。ヴァーロックがいい人だというのはわかるが、出入りの度に店を通るのが辛い。その気持ちはわかるなあ。ここはロシアやフランスからの亡命者のたまり場になっていて、イギリスは彼らに避難所を提供する代わりに情報も手に入るというわけだ。ヴァーロックはロシアの大使館員から、おまえは働きが悪いからクビだ・・と言われた後、グリニッジ天文台を爆破すれば考えてやる・・と持ちかけられる。ロビン・ウィリアムズ扮する偏執狂的な爆弾魔から時限爆弾を手に入れるが自分では行かず、義弟に行かせる。義弟は木の根っこにつまずき、爆死してしまう。体はバラバラになってしまうが、着ていたコートには迷子札が縫いつけてあった。というのもこのスティーヴィーは知恵遅れで時々錯乱するため、ヴァーロックの店から、引越しした母親の家に行くまでの間に何かあっても身元がわかるようにと姉のウィニーが縫いつけたのだ。店を出ていく夫と弟を見て「まるで親子みたい」と微笑んだウィニーだが、弟の死とその原因を知って打ちのめされる。クリスチャン・ベール扮するスティーヴィーは人を疑うことを知らず、馬車に乗っても馬にムチを当てるのさえ見ていられないほど気がやさしい。ヴァーロックを親切な人だと心から思っている彼を、夫はだまして連れ出し、死に至らせたのだ。もちろんヴァーロックだってこんなことになるとは夢にも思わず、ウィニーにどうやって話そうかと悩み苦しんだのだ。しかしそのうちに「おまえが(弟を)散歩に連れていけなんて言うからだ」とか「じゃ、私が死ねばよかったのか」などと、怒りや後悔のせいでついついホンネが出てしまう。こういう暗いシーンが延々と続き、あげくの果てにウィニーはナイフで夫を刺して殺してしまう。刺した後で「あなたを愛したことなんて一度もなかった。何もかも弟のためよ」と言うシーンは衝撃的だ。夫に尽くす貞淑な妻だとばっかり思っていたのに。

シークレット・エージェント2

弟のためにがまんがまんの演技の毎日だったとは・・。見ているこっちも「えっそうだったの?」とびっくりだ。だまされていたヴァーロックが哀れに思えてくる。次のシーンではウィニーが指輪をはずし、船からいなくなる。これで終わりかな・・と思っていると、ジェラール・ドパルデュー扮するオシポンが「若い女性が入水自殺」という切り抜きを手に酒を飲んでいるシーンになる。そこから話が戻って、ウィニーがオシポンに一緒に逃げようと持ちかける。彼は前々から弟にやさしく接してくれたので、ウィニーは彼に好意をいだいていたのだ。全財産を持って大陸に渡るつもりが、港に向かう汽車が駅を出る直前オシポンは飛び降りてしまう。最初は彼が飛び降りてひとりぼっちになってしまったため、ウィニーは絶望して自殺したのだと思った。ところが切符を買うからと預かったお金の多さにオシポンが驚くシーンがあるし、その後財布を返した様子もなし。結局オシポンはどたん場でお金を持ち逃げしたってわけだ。映画の前半でヴァーロックがオシポンのことを「あいつは若い女に貢がせては捨てる男だ」と言うシーンがある。その時は信じず、かえってそんなことを言う夫に反感さえいだいたウィニーだったが、男の本性を知って愕然とする。それでもうお金もないし生きる希望もないしで入水自殺してしまったというわけ。昼間から酒を飲み、切り抜きを見ているオシポンは、ある程度は悪いことをしたと思って落ち込んでいるのだろうが、サイテーな男だ。一人残された年老いた母親はいったいどうなるのか。お金を取ったのだって、夫を殺したとわかれば絞首刑になるから絶対に戻らないと計算した上での行動なのだから。パトリシア・アークエット扮するウィニーは泣いているか絶望しているかで、主役はヴァーロック役のボブ・ホスキンスじゃなくて彼女かしらと思うくらい彼女を中心にストーリーが進行する。私がこれを見に行ったのは彼女が目当てなので、救いようのない暗い映画だな、何のために作ったのかなと思いつつも、出番が多いのをうれしく思った。パトリシアに注目したのはニコラス・ケイジに一時夢中だったからで、ケイジへの熱はさめたが、パトリシアは相変わらず好きで「ナイトウォッチ」も見に行った。さて今夜は「千と千尋」があるけどそんなのはどうでもよくて、明日の「ダークシティ」の放映が待ち遠しくて今からドキドキなのだ、はー(とため息)。