地獄から来た女ドラゴン

地獄から来た女ドラゴン

これは民放で見たのが最初。「燃えよ!女ドラゴン」という題になってる。確か土曜洋画劇場で、1時間半枠だったからごっそりカットしてあるが、たぶん賭場のシーンだろうから、あんまり影響はない。ただ、それ以外のチョコチョコカットしてある部分はジュディ・リーのアクションが多いので、それは大いに困る。何たってこの映画の魅力はリーのアクションにあるのだから。最初に見た時に録画したのか、次の機会に録画したのか、もう昔のことなので覚えていない。次の機会があったのかどうかも記憶がおぼろ。調べてみたら土曜洋画劇場での放映は1976年5月らしい。あの頃はビデオデッキも高かったが、テープも高かった。1本が4500円もした。大手の電気店だと3700円。録画したものをあれもこれも残しておくわけにはいかず、この映画もCMをカットし、いらない部分(冒頭の兄が殺されるシーンとか)を削り、要するにリーの出ているシーンを中心にしたもの・・50分くらいのを残してある。その頃はベータだったから、後にVHSにダビングした。その後再放映されたのだろうか。されていれば絶対録画したはずなのだが。今のところ日本ではビデオもDVDも出ていない。ちょっと高かったけど、パンフレットを入手した。書くことがないのか、”空手の起源”なんていう一文が載ってる。輸入8ミリフィルムを入手したこともある。もちろんダイジェスト版。輸入ビデオも手に入れた。どこ製か知らんが・・何しゃべってるのかわからんが、ストーリーは別にどうでもいいようなものなので、これでかまわない。ただ、ビデオデッキの生産も中止されたことだし、これからどうなるのかというのはある。特に輸入ビデオはあまり当てにならない。同じく何宗道の輸入ビデオを買ったことがあるが、ある日ケースから取り出したらバラバラになってしまった。他にいつだったか浅草まではるばる見に行ったことがある。たぶんその時ノーカット版を見て、テレビではここがあそこがカットされていたのだな・・とわかった次第。どちらかと言うと私はこの映画のまわりをぐるぐる回っていたようなものだが、一度でもスクリーンで見ることができたのは幸運だった。

地獄から来た女ドラゴン2

女性クンフースターというと、茅瑛(アンジェラ・マオ)、上官霊鳳(シャンカン・リンホー)、徐楓(スー・フェン)あたりが日本では知られているが、私にとっては嘉凌ことジュディ・リーが一番だ。顔立ちのかわいらしさ、動きの美しさがばつぐんだ。丸顔で頭部が小さく、体つきはそれに比べのびのびと、ゆったりとしている。これが例えば上官霊鳳だと、同じ小柄でも顔が大きく、手足が短い。武術の力量はともかく、見ていてもぴんとこない。さて前置きが長くなったが、冒頭一人の青年が町の有力者で悪党の白(パイ)のところへ乗り込んでくる。タバコをくわえ、手にはなぜか鳥カゴを持っている。正義の味方のつもりで自信たっぷりだが、おバカにしか見えない。腕は立つのだが敵の卑怯な罠に落ち、惨殺される。でも・・ちっとも気の毒じゃない。何で鳥カゴ?ネットで調べたら、この青年馬永貞も、妹馬素貞も白も実在の人らしい。パンフレットにはそんなこと書いてないし、映画の本でも読んだことがなかったからびっくりだ。この映画の舞台は19世紀後半の上海らしい。「チャントンから来たのか?」というセリフがあるが、山東省のことか。馬兄妹は山東省出身らしいから。また、馬永貞は王羽(ワン・ユー・・ジミー・ウォング)など、いろいろな人によって演じられているらしい。英雄と言うにはちょっと・・という、要するに評価の別れる人だったようで。鳥カゴを下げているのも(私が知らないだけで)、見ている人には意味がわかるのか。馬素貞の方は龍君兒(「少林寺木人拳」に出ていた人ね)などが演じているらしい。まあ見る機会はないだろうけど。またまた話を戻して・・チャンが殺された二ヶ月後、ふらりと現われたのがサ・チェン・マ(リー)。吹き替えでは兄がチャン、妹はメイになっている。食事をしようと立ち寄った店で早速一騒ぎ起きる。パイのところのチンピラ連中が来て、店のシューをねちねちいたぶる。飛ばされたシューが煮炊きしているカメか何かに当たって、コウ・トウ・ファン(楊羣)がしゃがんで火の番をしていたとわかる。この後コウがチンピラどもを追い払い、サ・チェン・マにこの町からすぐ出ていくよう忠告する。

地獄から来た女ドラゴン3

楊羣(ヤン・チュン)は、私は見たことないが「金瓶梅」に出ている。「スクリーン」で見たことがある。「スクリーン」でもパンフレットでもヤン・クワンになっている。リーを見出したのは彼で、他の作品でも共演しているらしい。また、「燃えよデブゴン」にも出ていたらしい。彼は田村高廣氏によく似ている。シュー役の人は赤塚真人氏によく似ているし、リーは由美かおるさんと丘みつ子さんに似ている。コウは町を牛耳るパイ一味を何とかしたいと思っているが、兄弟子のチャンは殺されてしまったし、今はどうしようもない。サ・チェン・マが妹で、復讐のために現われたことには気づいていない。彼女の方も黙っているのは、誰の手も借りず一人で復讐するつもりだからか。その後の賭場のシーンなどは、はっきり言ってどうでもいいシーンだ。当時の香港映画はこういう・・弱い者をねちねちいたぶるシーンや、いじめられていた者が仕返しするシーンが、延々と続くことが多い。さっと通り過ぎるということがなく、これでもかとばかりに執拗に見せる。観客はいじめられている者に同情し、仕返しのシーンに溜飲を下げるのか。そりゃあコウやシューの置かれた立場を表わしているのはわかる。働きたくても仕事にありつけない。パイの手下が我が物顔で仕切っていて、仕事が欲しけりゃ股の下をくぐれ・・と、屈辱的なことをやらされる。コウがそいつらをやっつけると、今度はシューが一味に股下くぐりをやらせる。それを見て人々はやんやの喝采。何だ結局はおんなじことやって喜んでいるんじゃん・・と、見ていてうんざり。最初の方ではサ・チェン・マはちらちらとしか出てこない。棺を二つ注文して、店主を驚かせたりする。その後ヤン達に絡まれ、やっつけるが、はっきりとは見せない。白人の用心棒もお約束。ピストル持っていて、ヒゲをこねくり回しているだけ。演技は素人同然。この時代だからてっきりロシア人かと思ったら、吹き替えではイギリス人、パンフレットには米人、ユーチューブだとユーロピアンと言ってる。まあどうでもいいことだが。パイはチャンの家族が復讐に来るのではと思っている。チャンの妹は彼よりもっと強く、母親はそれ以上に強いといううわさがある。

地獄から来た女ドラゴン4

運の悪いことにコウの母親と妹、シューの一族がみんなして田舎から出てくる。こりゃてっきり・・とパイは皆殺しにさせる。迎えに行ったシューも殺される。相手がただのおのぼりさんというのは一目瞭然だが、アホな悪党連中にはそんなことわからない。悲しみと怒りでいっぱいのコウの前に現われたサ・チェン・マの態度や言ってることは、無神経でおかしい。罪のない人達が自分と間違われて殺されたのに、何とも思っていないようだ。その後通りを歩いていた彼女はパイ達にばったり。いきなり襲いかかる。ここでやっとリーのアクションが見られる。と言うか、オープニングクレジットでも見られるのだが。テレビ放映の時はズッタズタに切り刻まれて、短くなっている。流れている音楽が飛び飛びなので、カットされているのだな・・とわかる。本来のオープニングを見ると、赤っぽい背景の前でリーが飛んだり蹴ったりかまえたりする。顔はよく見えないが、黒い髪がなびく。使われているのは「黒いジャガー」のテーマ曲で、スリリングな感じなのに、リーを見ていて感じるのはしなやかさ、たおやかさ、流れるような美しさ。ここは本当にカットしないで全部見せて欲しかった。で、話を戻して料理店でのアクション。待ちに待った瞬間だ。ただし途中でコウが参入すると流れが滞ってしまう。出てこなくていいのにぃ~!ヤン・チュンのことはよくわからないが、「金瓶梅」に出ているくらいだからアクション専門てわけでもないのだろう。顔ものっぺりしている。専門じゃないとしたら、なかなかがんばっているとは思う。ただ、スピードはなく、動きも重い。調べてみたら1935年生まれらしい。リーは1950年(サイトによっては51年)生まれで、15も離れていたのではオッサンに見えるのも当然だ。コウの参入はサ・チェン・マにとっては迷惑だが、彼は家族や友人の仇討ちに燃えている。しかも・・コウさんを助けろとばかりに町の人も参入し、乱戦になる。出てこなくていいのにぃ~!途中でコウは用心棒に撃たれ、サ・チェン・マはひとまず退却することにする。この後は麻酔もなしでコウの胸をナイフでグリグリ、銃弾を摘出する。コウは悶絶の後、気絶する。サ・チェン・マが黒い膏薬みたいなのをピタピタフーフーするところはちょっと・・深刻なシーンなのに笑える。

地獄から来た女ドラゴン5

ちょっと状態が落ち着くとコウはすぐ殴り込みに行こうとする。サ・チェン・マが慎重に計画を練ってと言っても聞かないので、傷口をどついてあきらめさせる。ここらへんの気の強さ、ストレートぶりが印象的。主導権取ってるのは彼女。彼女はコウに大人しくしてるよう言い、自分は有力者の老人に話をつけに行く。パイ退治の助けを借りるつもりなのだが、これは結局無駄足となる。協力を取りつけ、大急ぎで帰ってみると、コウは殺されていて。しかも兄と同じに斧を打ち込まれていて。雷鳴の中、彼女は着ているものをガッと・・あら?下にもしっかり着ているぞ。上も下も重ねて着ていたのでは動きにくかっただろうに。そりゃ二枚着てりゃ手荷物は少なくてすむけど・・ってそういうことじゃないってば。要するに白装束・・死に装束ってことなんだろう。夜・・雷が鳴ってびびる手下どもを安心させるパイ。そこへ殴り込んできたのがサ・チェン・マ。「ひとごろしぃ!」・・実際は「パイ・ライ・リー!」と言ってる。ここでやっとパイは彼女がチャンの妹だと知る。パイの声をやっているのは大塚周夫氏。サ・チェン・マの声は藤田淑子さん。「トムとジェリー」のジェリーの声でおなじみだ。ここでの彼女のタンカが小気味よい。パイの疑問に答えて「ふんッ、ころしにきたのよぅ!」。「いきてかえれないのはかくごのうえだけど・・あんたもいかしちゃおかないわぁ~!」と叫ぶと、クライマックスの死闘に突入します。いやホントすごいです。これを見てるから、今時のちゃらちゃらしたごまかしまくりのアクションには頭にきます。おらおらもっとちゃんとやらんかい!リーを見習え!白い服にパッと散った血。大量ではなく少しってのが・・美。黒い髪がなびき、白い顔に赤味がポッ。倒しても倒しても敵は後から後からわき出る。でもサ・チェン・マは戦い続ける。セリフはほとんどなく、ワーとかウーとか男の声が大半で、たまにヤーとか女性の気合がまじるのがまた・・たまりませんな。そのうち目つぶし用の白い粉が出てきて、投げ合いになったり乱戦気味に。一番腕の立つ用心棒やってる人は間寛平氏に似ている。頭を斧で割られてお亡くなりになる。死闘の間に逃げる暇は十分にあったのに、パイはウロウロしてるだけ。そのうち自分一人になってしまう。

地獄から来た女ドラゴン6

他の映画だとここでパイと一騎打ち・・となるけど、ここではならない。逃すものかとサ・チェン・マは斧を投げつける。別のところでも書いたが、斧を36本投げつけるなどとデタラメを書いてる人がいて、何を六倍してるんだよ。有力者の老人が「兄さんは36人殺した」とか言うけど、それと混同しているのとちゃう?息絶えようとするパイを見て満足げな表情を浮かべたサ・チェン・マだが、突然異変が彼女を襲う。血を吐き、倒れそうになる。最初見た時はかなりびっくりした。あらッ、彼女死んじゃうの?いつの間にか窓の外は明るくなっている。一晩中戦っていたのだ。ダメージを受けていないはずはない。悲壮なシーンだが、聞こえるのは「コケコッコー!」が二回。ナイス・タイミング!パイがチャンの目をつぶしたように、彼女も最後の力を振りしぼってパイの目をつぶすところでエンド。この映画の後もたくさんの映画を見たわけだが、思うのはキャラの単純さ、複雑さ。つまりたいていの香港映画では両親の仇、恋人の仇、先生の仇・・となって、それ以外のことはまるで人生には存在しないように見えるわけ。仕事とか恋愛とか健康とか考えることはいっぱいあるはずなのに、復讐しか考えない。復讐こそが最大の望みで、そのためには自分の命も惜しくない。その単純さがすごい。ぶれがないけど、うるおいもない。私はどうなってもいいの!助けはいらないわ!人のことはどうでもいいわ!兄が殺した36人にも家族はいたなんて言われても、自分には関係ないと言い切る。・・もちろんこの映画がそうであるように、たいていは他の人と関わるはめになる。その場合も、サ・チェン・マとコウの間に何かが芽生えたりはしない。コウのことを恋人と書いてる人もいるが、映画にはそんな描写はなし。コウとは親子ほども年が違って見え、ロマンチックなムードは生まれようもない。でもそれでいいのだ。今の映画は余計なものくっつけすぎる。悩めるバットマンとかさ。悩みなんか自分が抱えているものだけで十分だ。他の人の悩み見たくて映画見てるわけじゃないっての。もちろん強気のサ・チェン・マも弱気になる時はある。老人の前でふと見せた心細そうな表情。そしてその後の鬼神のような戦いぶり。は~お願いしますってば。早くDVDかブルーレイ出してください。他のクズ映画なんか出してる暇あったらこっちの方よろしくお願いしますってば!