シンプル・プラン

シンプル・プラン

(興行成績は)一週目が10位、二週目はもうランク外。原作はけっこう有名らしいけど、この分じゃ長くなさそうだ。気の毒なので見に行く。せっかくブリジット・フォンダが来日し、記者会見の時には5億円の札束を用意したってのに。でもまあヒットしないのは無理ないかも。何しろストーリーが暗い。私なんかは大金を目の前にしたって、これは自分のものじゃないからと手は出さないけど、ルーみたいな人がいたら物事はうまくいかない。ネコババしても隠し通せるような人じゃない。後先のこと考えずペラペラしゃべり、がまんというものができない。ハンクにどうしても金が欲しいと言ってくるのはギャンブルですってしまったからだが、ギャンブルに手を出したのも大金が手に入るという当てがあるからだ。こういう人がいると、何を計画したって、かたっぱしから崩れてしまう。警察に届け出なかったばっかりに、殺人だの何だのと、どんどん深みにはまっていくさまは、見ていてやり切れなくなる。結局ルーもジェイコブも死に、ハンクが生き残るが、お札の番号の一部が控えてあるということがわかり、暖炉で燃やしてしまう。こういうストーリーはこの映画(あるいは小説)が初めてではないだろう。見る人の誰もが「こうすればいいのにバカなことを・・」とか、「あるある、そういうことって」と、共感できる。出演者は地味だし、寒々とした感じでストーリーが進む。・・で、見終わった時にあんまり残るものがない。どんな映画も二回見るぞ・・が信条の私も、これは一回でいいや・・と思ったくらいだ。結果的には二回見たけど、そう思わせるくらい暗くてやり切れない。前ここ(東宝エルム2)で見た「ウェディング・シンガー」よりは、お客は多かった。男の人が多く、中高年のカップルも多い。すぐれた映画だとは思わないけど、内容はわかりやすい(と言うか身につまされる)し、頭がくらくらするようなドンパチやアクションがあるわけでもなく、じっくり見られるところがいい。ビリー・ボブ・ソーントンは映画によって全然違うタイプの役を演じるのでちょっと有名な人だ。どんな人かという興味もあって見にくる気になった。ふかわりょう君と「サンダーバード」のパーカーを足して2で割ったような顔をしている。

シンプル・プラン2

失業していて、壊れたメガネを買い換えるお金もないし、もう中年だというのにキスをしたこともないほどモテない。弟のハンクが「だって貧乏でも好きになってくれた女の子がいたじゃないか」とびっくりして言うと、「あれは友達と100ドルで一ヶ月付き合うという賭けをしたのさ」とほろ苦い顔で言う。「でもそれでも楽しかったからいい」と、あきらめたような心境なのが泣かせる。ルーにウソの告白をさせてテープに取ろうとするところでは、初めは全然関係のない話をし、いつの間にかゲームに引き込むところの演技はなかなかうまい。うますぎて、かえってこの人最後には本性をあらわして、事態を引っくり返すんじゃないかしら・・なんて、妙な期待を抱かせる。だからハンクに「もうオレは疲れたよ、殺してくれ」なんて頼むところでは「えッ、そんなのアリ?」と思ってしまう。ここでなぜ死にたいのか、またなぜハンクが殺す気になるのかがすっきりしない。伏線はあるけど弱すぎて説得力がないのだ。・・以上が公開当時書いた感想文。監督サム・ライミのことは何も知らなかった。この作品が気に入ったので、後に「ギフト」も見に行った。原作も読んだが、内容はかなり違う。久しぶりにビデオを見直したが、これはDVDが高くて手が出ないから、中古を見つけて買ったのだ。何度見ても暗く、救いようのない内容だと思う。ハンク(ビル・パクストン)の妻サラ(フォンダ)によって、事態がどんどん悪くなっていってるのがわかる。フォンダはインタビューで「ハンクにできないただ一つのことは計画を練ること」と言っている。確かに計画を練るのはサラで、ハンクは誰かの後始末をしていることが多い。サラは出産のせいもあるが、修羅場に居合わせたことがない。他人事でいられるから、次々に案を出すが、それが全部裏目に出る。原作ではジェイコブ(ソーントン)は中盤あたり・・ルー(ブレント・ブリスコー)の事件のあたりで退場する。これが映画だとジェイコブとハンクの、兄弟としての愛憎が中心になっている。ラスト近く、兄を手にかけたことで、ハンクにはもうこれ以上ひどいことはない・・ということになる。お金の一部は番号を控えられているから、使えば足がつく。10分の1の確率に賭けるほどバカじゃない。

シンプル・プラン3

サラの反対を押し切って暖炉で燃やし、終わりにする。心の中はともかく、表面的には元の生活に戻る。これが原作だと、ハンクは次々に報いを受ける。ニセのFBI捜査官バクスターが現われた時、ハンクは保安官カールの命が危ないとわかっていて、赤ん坊の病気を口実に、飛行機捜しに同行しなかった。カールは殺され、バクスターは逃亡。しかし途中で発見され、撃ち合いの末射殺される。ハンクにとっては筋書き通りだ。ところが確認のために呼び出され、出向いてる間に、サラはとんでもないことをしでかす。犯人は死んだ・・ルーやジェイコブも死んだ・・あのお金のことを知っているのは私とハンクだけ。これでもう安心だ。シャンパンでお祝いしよう。もちろんあのお金の中から・・100ドル札を一枚・・最初に使うのは私!!彼女はお札の番号が控えられているのを知らない!それを知ったハンクは驚愕する。大急ぎで酒屋へ行き、強盗を装ってお札を奪い返そうとするが、相手に抵抗され、殺してしまう。それだけではすまず、偶然店に立ち寄ったお客・・老婦人まで殺すはめになる。疲れ切って家に戻ると、サラはじゅうたんのようにお札を敷きつめ、全裸で寝そべってハンクを誘う。全く何て女だ!この部分を映像化したら、さぞ見ごたえがあったことだろう。でもこれをやっちゃうと、ジェイコブとのあれこれが吹っ飛んでしまう。映画が強調したいのは兄弟愛。災難はまだまだ続く。ここまではサラは部外者でいられたけど、そうもいかなくなる。ハンクはサラの誕生祝いに・・と、フロリダのコンドミニアムを競売で買うが、これが詐欺だった。二人して汗水垂らして働いてためた貯金がパー。お金を見つける前よりも貧乏になってしまった。あのお金があると思えばこそ、これに手を出したのだが・・。そしてあのお金を燃やすはめに・・。その後二番目の子供が生まれ、兄を偲んでジェイコブと名付けるが、その直後上のアマンダが水の事故。命は取り留めたものの、一生障害が残る。そんなこんなでハンクとサラは一生働かなければならないし、心はもう通わないし。後悔や苦労を抱えたまま、これからも生きていかなければならないのでしたとさ。

シンプル・プラン4

映画での、今の生活に満足していると思われたサラが、不満をぶちまけるシーンは、共感できる。なまじ当てがあるから、今足りないものへの不満がつのる。何でこんなふうにケチケチして暮らさなければならないのよ!いつまであのお兄さんの面倒見なきゃならないのよ!で、お金さえあればこんな思いしなくてすむ・・と、思っちゃう。その金が自分のものではない・・誘拐の身代金だとしても、それを出した親が金持ちだとしても、だからってそれをネコババしていいとはならない。大晦日・・両親の墓参りに行って偶然そのお金を見つけた時、ハンクは警察に届けるのが当然と考えた。そばにルーがいて反対し、ジェイコブもそれに同調。それが転落の始まりだった。そばにいつでも使える銃があったせいで、次々に死人が出た。銃がなければここまで事態は悪化しなかったかも。映画で心に残るのはカール(チェルシー・ロス)。いつも明るくて親切。心にやましいことがないから表情も晴れやか。映画ではハンクは飛行機捜しに同行する。サラの必死の説得も聞かず・・。そうだよな、いくら何でもカールを見殺しにするような、そんな行動は取れないよな・・と、ある意味ホッとして見ていたけど・・。カールがバクスター(ゲイリー・コール)に殺されても、ハンクは悼むどころか好都合だと思ってる。カールのこと心配してたんじゃなかったんだ!もうこうなるとジェイコブにはハンクについていくことができない。元々彼は人と争ったり、だましたりすることが非常に苦手。誰とでも仲良くし、誰にもよく思われたい。ハンクがすぐ、弟の自分とルーと、どっちの味方なんだ・・と言ってくるのが彼には耐えられない。弟も友人もどっちも大事に決まってる。彼は疲れ切り、生きていく気力を失う。そしてハンクに殺してくれと頼む。映画を見た時には唐突に思えたけど、今ならその気持ちはわかるなあ。で、話をカールに戻すと、職業から言って彼が一番銃を使う機会が多いと思うけど、管理はわりとずさん。保管庫のカギはすぐそこにあり、ハンクは(バクスターに対抗するため)銃を盗むけど、弾が装填されてない。あわててカールの引き出しを捜すと、弾が剥き出しのまま入ってる。しかも込めようとしても口径が合わないのか、入らない!これじゃいざという時困るだろッ・・と思いつつ、それですむくらい、この町は平和なのだと・・平和だったのだと・・。