ジキル&ハイド

ジキル&ハイド

これはかなり前一度見て、珍クライマックスにはびっくり。今回数年ぶりに見直した。原作はかなり興味深い。スティーヴンソンの原作と比較してとか、一種の恋愛物に仕立て上げてるところがすばらしいとか、そういうことではない。ヒロイン、メアリーの日常が興味深いのである。貧しい生まれ、酒飲みの父親による虐待、働きづめに働いたあげく病死する母。一方ジキル博士一人のために、屋敷には五人(原作では六人)の雇い人がいる。貧富の差、階級の差。メアリーの毎日は重労働だが、彼女自身は自分は恵まれていると思ってる。寝る場所、着るものがあり、食事は腹いっぱい食べられる。わずかだが貯えもある。当時の家事は大変だったろう。石炭を燃やすからどこも煤で汚れる。家の掃除、石炭運び・・際限なく仕事が続く。私は原作を読む度、「プライドと偏見」の女性達を思い浮かべる。おしゃれ、パーティ、ダンス、手紙、未来の夫捜し。メアリーはどちらかと言えば「埋もれた青春」(アホ映画「巌窟の野獣」ではない、念のため)のヒロインに似ている。若くて健康で労働をいとわず、甘っちょろい未来を思い描いたりしない。張りつめた表情のジュリア・ロバーツは出ずっぱりで、いつもとは違う私を見て・・とばかりに熱演する。ジョン・マルコヴィッチは静と動を見事に演じ分ける。それでいて今いちジキルの苦悩には共感できない。ダンヴァース卿が殺された時の彼の言葉「地位のあるやつだから迷宮入りというわけにはいかん」。娼館の女主人ファラデー(グレン・クローズ)の失踪はたぶんろくに捜査されない。ダンヴァース卿に比べれば・・。博士の家の住居部分、それと同じかそれ以上に広い研究室部分。階段教室や、鎖のいっぱい垂れ下がった空間・・なかなかいいムードだ。出演者は地味だが堅実な人達を揃えている。メアリーの父親がマイケル・ガンボン。母親役の人は「カレンダー・ガールズ」に出ていた。同僚アニー役の人は「名探偵ポアロ」の「青列車の秘密」のメイド。従僕ブラッドショーはマイケル・シーン、コックのケント夫人役の人も味がある(顔がでかい!)。暗くて盛り上がりに欠ける、やや退屈な映画だが、ものすごくひどい出来というわけでもなく、普通に見ていられる。しかしそんな好意的な見方も、アホCGの前には・・。誰か止める人いなかったんだろうか?