ジャッカルの日、ジャッカル

ジャッカルの日

前々から見たいと思っていた。2時間以上あるが、全くあきさせないのはさすが。ブルース・ウィリスやリチャード・ギアの「ジャッカル」を見た後、原作も読んだ。で、だいぶ変更されてるのがわかったが、それでも私はこの映画はわりと好きである。ラスト近くがぐずぐずなのが欠点だが、それなりに楽しめる。こちらはほぼ原作通り。トーンは平坦で、変にいじくり回して盛り上げを狙うなんていう姑息な手は取らない。1962年、ド・ゴール暗殺未遂事件が起きる。主犯のバスチャン役はジャン・ソレルか。見たことはないが「痴情の森」という映画に出ている。彼の処刑後、右翼過激派・・OAS・・の勢いは下降気味。ド・ゴールを狙うのは、約束を破って(方針の転換とも言う)アルジェリアを独立させたのを恨んでということらしい。次のボス、ロダンはこうなりゃ逮捕歴のない外国人殺し屋を雇うしかないと言い出す。主要メンバーは顔が割れているので表立っては動けない。呼ばれたのは暗号名ジャッカル・・金髪の英国人。演じるのはエドワード・フォックス。若い彼を見るのは初めてか・・いや、この後「クリスタル殺人事件」でクラドック警部やってたな。私には「チャーリーとチョコレート工場」や「名探偵ポアロ」や「ミス・マープル」に出ている年取ったフォックスが、エドワードの方なのか弟のジェームズの方なのか区別がつかない。元々はジェームズの方が先に有名になったらしい。ところが突然俳優業を引退し、宗教活動に入ってしまった。その後また俳優に戻ったが、その間にエドワードの方はこのジャッカル役で有名に。それまでは(すでにいくつかの出演作はあったが)無名も同然だったらしい。「クリスタル」のところでも書いたが、彼は小柄(173センチ)できゃしゃな感じ。でもこの「ジャッカルの日」では小柄なのも目立たないし、体つきもなかなかたくましい。ちょっと老け顔で、バート・ランカスター風味。顔立ちよりも、大股で歩くところや、左右に振れるような肩が印象に残る。免許証や身分証の偽造、分解して持ち運べるサイレンサー付きの銃など、さまざまな準備がドキュメンタリー風に描写される。

ジャッカルの日2

舞台はフランス、イギリス、イタリア、オーストリアなど。まだケータイもなく、コンピューターも一般的じゃない時代。何をするにしても人の手によってだが、その代わりどちらかがものすごく速いとか、有利ということもない。車のスピード、情報処理の速度などに差はなく、追いつけるのは・・逃げられるのは・・多分に運のよさ、悪さ・・みたいな。一瞬で照合も、宇宙から監視も、ハッキングもなしで、まだ手の届くところにあると言うか。うつし方も画面がめちゃくちゃに揺れるとか、1秒間に数カットとか、そういうのなしで、いたってまとも。さて、ジャッカルは報酬として50万ドルを要求。1960年代なら1ドル360円として1億8000万円か。何かあったらすぐ中止すると宣言していた彼が、計画が漏れて追われ始めても続行するのはおかしいという意見もあるが、私はそうは思わない。前金25万ドルで行動するわけだが、あちこち飛び回るわけだから交通費がかかる。銃にしろ偽造書類にしろ、いいものを手に入れるには大金がかかる。これらは必要経費だが、それ以外のこと・・泊まるなら高級ホテル、飲むなら高級ワイン、食べるものも支払うチップも。車だってポンコツというわけにはいかない。仕事は一日や二日で終わるものではなく、何週間、何ヶ月も。となれば金はいくらあっても足りない。贅沢な生活をこれからも続けたい、続けるためには計画を推し進めるしかないのだ。メンツもあるだろうが、大部分は金欲しさ。フランスが主な舞台だが、みんな英語しゃべってる。英語を話せるフランス人俳優を集めたのか、吹き替えか。マダム・モンペリエ役はデルフィーヌ・セイリグだが、セリフが短くて簡単なものばかりに思えたのは気のせいか。ジャッカル役の候補にはロジャー・ムーア、マイケル・ケイン、ジャック・ニコルソンらがいたらしい。その中でもムーアが有力だったようだが、監督(フレッド・ジンネマン)はあまり有名でない人を起用したかったようで。確かにムーアやケインにはすでに一定のイメージ(洗練された色男とか)があるし、ニコルソンじゃ英国人には見えない。第一国境や空港通してもらえなさそう。

ジャッカルの日3

映画が終わるとたぶんフォックスの顔ってはっきり思い出せない。暗殺者ってそういう目立たないタイプのはず。捜査に当たるのはフランスとイギリスの警察。フランスは当事国だから当然として、イギリス側の・・ド・ゴール暗殺犯が英国人だったなんてことになったら大変というムードも興味深かった。もし英国人でなかったらあそこまで熱心には・・。フランス側の担当ルベル役ミシェル・ロンズデールは知らない人。ぱっとしなくて鈍重な感じ。一度、あとはこちらでやるからもういいとお役御免になって、文句言うわけでもなくあっさり引き下がり、ベッドで眠りこけているのが微笑ましかった。何しろ眠る暇もないほど働き詰めだったからね。ルベルの助手キャロン役は何とデレク・ジャコビ。この頃の彼はスティーヴ・レイルズバックによく似ている。警視総監も見たことある。「エバーアフター」などのティモシー・ウェストだ。会議の時、内務大臣の左隣りにいる人も見たことある。ナチの将校とかやってなかったっけ。調べてみたら「将軍たちの夜」のレイモンド・ジェロームだった。ウォレンスキーを拷問する時うつるのは「六つのナポレオン」で見たばかりのヴァーノン・ドブチェフ。ラスト近く、カルスロップ役でちょこっと・・ほんのちょこっと出てくるのは何と「シャーロック・ホームズの冒険」の二代目ワトソン、エドワード・ハードウィックだ。ヒゲがないとこういう顔なのね。ジャッカルの依頼で銃を作る老人はシリル・キューザック。ニーアム・キューザックのお父さんらしい。結局暗殺は失敗する。ジャッカルの死もあっけない。身元もわからないまま埋葬されるが、参列しているのはルベルだけ。そういうわびしいムードがよかった。これだけのことをやっても一人の男・・ド・ゴール・・の運の強さにはかなわない。あれだけのことをやってもルベル達の苦労はすぐに忘れ去られる。関係ないけど出てくる車・・「メンタリスト」でジェーンが乗ってる車に似てないか?前や後ろが何かで挟んだような形していて、うつる度にヤマザキのランチパックみたいだ・・と。

ジャッカル

ちょっと意外だったのは評価が低いこと。「ジャッカルの日」のリメイクらしいが、私は見たことなし。内容はかなり変更されているらしいが、前作も原作も知らずに見たせいか、私はおもしろく見られたし、よくできてるとも思った。ブルース・ウィリスの殺し屋と、リチャード・ギアの元スナイパーの対決。ミスキャストと書いてる人もいるが、二人ともよかったヨ。この逆でもおもしろかっただろうし。1997年のモスクワで始まり、その後ヘルシンキ、モントリオール、シカゴと、舞台があちこち飛ぶ。途中よくわからない部分もある。2時間ちょっとあるが、もう少しスリムにできたと思う。テレクというボスがいて、弟を殺されたのを恨み、ジャッカル(ウィリス)という凄腕の殺し屋を雇う。弟を殺したのがFBI副長官プレストン(シドニー・ポワチエ)と、MVD(ロシア内務省)のコスロヴァ少佐(ダイアン・ヴェノーラ)。では標的はFBIの長官か。ジャッカルは正体不明で、顔を知ってる者はほとんどいない。役に立ちそうなイザベラ(マチルダ・メイ)という女性を捜すため、プレストン達は服役中のデクラン(ギア)に協力を求める。彼は元IRAのスナイパー。過去を隠し、夫や子供とひっそり暮らしているイザベラ。彼女を引っ張り出すことは、彼女や家族に危険が及ぶということである。絶対に彼女のことは表に出さない、記録に残さないこと。デクランはしつこく念を押す。二人が恋人どうしだったことはすぐわかる。実はデクランもジャッカルの顔は知ってる。昔イザベラはジャッカルに撃たれ、そのせいでおなかの赤ん坊・・デクランの子供・・は死んでしまった。二人にとってジャッカルは憎い仇なのだ。イザベラは万一に備えてお金や銃を用意しており、それがラストに生きてくる。演じているのがギアなので、デクランにはいい人ムードが漂う。そのせいでミスキャストと言われたのかな?ウィリスは珍しく悪役で、口数も少なく、手際よく準備していく。テレクには7000万ドルの報酬を要求する。法外な金額だが、銃だけで20万ドル、台座が4万ドル、他にもヨットとか・・。いやとにかく暗殺には・・復讐には・・金がかかるのだ。テレクさんよ、自分でやったら?と言うか、あんなバカ弟のためにそんな大金・・。そこまでして復讐する価値、あのアホにある?

ジャッカル2

さて、正体がばれてないとは言え、アメリカへ入国するには手間がかかる。でも彼を待ち受ける側にはスキがあって、今いち危機感に乏しい。相手はたった一人じゃないかとか、自分達はベテランだとか、多くの捜査官はジャッカルをなめてる。あれほどデクランが注意したのに、イザベラの名前を不用意に報告書に記し、そのせいで捜査官やコスロヴァはジャッカルに襲われ、命を落とす。見てる方としては、冷静で仕事一筋のコスロヴァには好感持ってる。デクランとは思いが通いそうな雰囲気があるだけに、殺されてしまうのは残念だ。さて常に注意深く、真剣な態度を崩さないデクラン。ジャッカルが仇だということもあるが、元々生真面目な性格なのだ。たぶん愛国心が変な方向へ行っちゃってスナイパーになったのだ。今じゃ故郷へ帰りたいと願っている普通の男。途中ジャッカルと出くわすが、自分を見ても驚かなかったのを見て、自分の加入をすでに知っていたのだと気づく。つまり味方の中に内通者がいるのだ。また、ジャッカルが瀕死のコスロヴァに残した言葉から、標的は大統領夫人だと知る。この流れは、意外と言うより、説得力に欠ける。大統領本人ならともかく、7000万も出させて・・。一方ジャッカルだが、最初の方の用心深さや手際のよさはどこへやら、だんだん行動が雑になってくる。いや、それまで通り行動してるんだけど、人を殺しすぎなのだ。社会に不安を与えるのが目的のテロリストならともかく、彼の場合はできるだけ痕跡を残さないよう気を配るはずだが。一番目立ってしまうのは殺人事件。死体が見つかれば警察は動くし、メディアも注目する。銃の台座を作ったのはラモン(ジャック・ブラック)。長髪でおしゃべりでお調子者。ちゃんと仕事して、代金受け取って、それで終わりにすりゃいいのに、興味持ちすぎる。欲を出しすぎる。その時点で悲惨な運命決定するけど、自信過剰で警戒心ゼロの彼は気づかない。銃が姿現わすシーンはドキドキした。オリジナルとは違うらしく、不満を述べてる人もいるが・・人を殺すための道具だが・・それでも美しい。ラモンが殺されるシーンは、威力見せるためだと思うけど、やりすぎだな。

ジャッカル3

こういう・・後始末しようがない殺人をするかな。デクランが相手と知った時点で、自分を隠すのはやめにしたのかな。暗殺が、じっと機を待つというのではなく、リモートコントロールで、離れた場所からというのも目新しい。大統領夫人の警護に狩り出された警官のフリをする。どんなに厳重に監視しても、網の目をくぐり抜ける方法はいくらでもあるのだなあ。たぶん映画だから暗殺は失敗し、デクランは大勢の中からジャッカルを見つけ出すことができる。デクランは現場を見渡し、近くに地下鉄の駅があるのに気づく。犯行後ジャッカルは地下鉄で逃げるつもりなのだ。この部分はスナイパーならではの思考経路だ。準備は入念にするが、決行後のことも考える。この・・全体を見渡すという行為、ものの見方は、私のまわりでは最近とみに行なわれなくなってるように思える。ほとんどの人は目先のことしか考えないし、一部のものしか見ようとしない。話がそれたが、デクランに協力する隊員は何とダニエル・デイ・キムだ。その後は地下鉄構内での死闘。いやホントデクランたら刑務所で何をしていたんだろう。現役バリバリの刑事か捜査官みたいじゃないの。ギア様の渋くてステキなこと!ジャッカルの方はだんだんいつものウィリスになってきて・・。べらべらしゃべるし汗やら何やらで濡れてるし、そのぶん魅力が薄れて行く。しゃべるヒマがあったらすぐ行動に移せっての。長引かせるからだんだん自分に不利になる。他とは違う殺し屋のはずなのに、最後は結局そこらの連中と同じになっちゃうのが残念。なぜかイザベラが登場し・・見てる人全員なぜプレストンじゃなくて彼女なの?と、首を傾げる。主人公は絶体絶命のピンチをヒロインに救ってもらわなきゃならないのだ。それがハリウッド映画の鉄則なのだ。まあラスト・・プレストンの粋な計らいで、デクランは故郷へ帰るという夢をかなえる。よかったねえ、ランボーみたい。コスロヴァ役のヴェノーラは「ミディアム」の「邪悪な人形」に出ていたようだ。イザベラ役メイは「スペースバンパイア」の人。服を着てたんじゃわからないって!ポワチエはこの頃70くらいだろうけど、若々しい。FBI副長官がこんなふうに現場に出てくるか?って気もするけど。