ジャーヘッド

ジャーヘッド

アカデミー賞は「クラッシュ」、誰もが「ブロークバック・マウンテン」だと思っていたでしょうに意外でした。私?「グッドナイト&グッドラック」応援していましたよ。ストラザーン応援していたの。でも一部門もなし、とほほ。「ブローク」は何でみんな確実と思っていたのかな。あたしゃムリだと思ってました。と言うか、とったら画期的なことだと思っていました。だって「ゴッド」でマッケランとれませんでしたから。彼がストレートで、あの役演じていたのならとれたかもしれない。今回ホフマン、ゲイ役でもとれたんだから。でもあの神がかり的な演技に、賞は素通りしてイタリア男のところへ行ってしまった。だから今度もね、別のに行くと思ってた。でもそれが「クラッシュ」だとは思わなかったけどさ。言っておきますが私の中では第71回アカデミー主演男優賞はベニーニではなくてイアン・マッケランですッ!さてと・・ジェイクも残念だったけどまあまだ若いしいつかきっととると思うよ。「ジャーヘッド」は最初見るつもりはなかった。湾岸戦争だし・・。でもピーター・サースガード出てるし・・。「フライトプラン」見てはまった後、ちょうどWOWOWで「ニュースの天才」やったので見たのよ。そしたら・・ドツボにはまってしまいました。いやー何て演技がうまいんでしょう!何て言うか・・表情は静かなんだけど目だけが動くの。無意識なのか演技なのかわからないけど目が雄弁なの。能面のような静けさと、内にみなぎるパッションが同時に存在するの。す、すごい・・。出演作が同時に二作公開されているわけだけど、「ジャーヘッド」の方はベストテンにも顔を出さなかったし、もしかしたらコケたのかも。二作同時にっていうのはジェイクもそうね。と言うか三作連続ね。「プルーフ」「ジャー」「ブローク」と来てるもん。話はそれるけど、アカデミー賞の会場にピーターも来ていましたな。ちらりとうつったけどジェイクの応援ですかね。ピーターはジェイクの姉マギーと交際中だから、家族同然ってことでしょう。「ジャー」は一見戦争映画に見えるけど違うみたいだし、出演者も地味。シネコンの上映回数あっという間に減らされそうな雰囲気。だから一週目の金曜日に行ってきましたよ。ここは午後は指定席になるはずなのに、受付のお姉さんは「お客さんいませんからいいですよ」だってさ。やっぱりねえ。結局九人で男性がほとんどでした。

ジャーヘッド2

私のお目当てはサースガードだけど、彼は脇役。しかもみんなジャーヘッドなので見分けがつきにくい。ガスマスクなんかつけたらピーターはどこ?ジェイクもがんばっていたけどやっぱり目を引かれてしまうのはサースガードのトロイ。スオフォードとコンビを組む。何を考えているのかよくわからない。チームの中では冷静でまともなように見える。でも時々おかしくなる。ファウラーのようなおかしさとは違う。彼は恥知らずでもあるが、気違いめいた行動を取る一方、普通に行動する。誰もが多かれ少なかれ経験する狂気。スオフォードだって例外じゃない。ファーガスに銃を突きつけて彼を死ぬほどおびえさせた。でも元に戻った。正気と狂気を行き来しながら彼らは成長する。トロイが不安定になるのはみんなと違う時のようだ。誰かの狂気を彼は静かに受けとめる。でも彼自身の狂気は?彼はもうすぐ除隊させられる。入隊の時犯罪歴があるのを隠していたのがばれたらしい。何の犯罪だったのかは不明。ラスト帰国したスオフォードのところへファーガスが訪ねてくる。トロイの死の知らせを持って。彼の死因は?この映画不明なことが多い。でもそれでいいという気もする。戦争だって一部のことしか知らされないでやってる。いや末端の兵士なんてほとんど何も知らされないでやっているのでは?この映画では普通の戦争映画とはちょっと違うものを見せられる。イラク軍が油田に火をつける。まるで竜巻のようだ。黒い煙、赤黒い炎、昼も夜も燃え続ける。夜もほの明るい。曹長のサイクスが言う。「こんな景色他で見れるか?」風向きによっては油が降ってくる。油の細かい黒い粒。どこからともなくスオフォードの前に現われた一頭の馬・・。どこから来てどこへ行くのか。幻想的なシーン。「世にも怪奇な物語」の「黒馬の哭く館」を思い出した。現代的な戦争の真っ只中とは言え、舞台は砂漠。文明とは無縁の原始的な状況。照りつける太陽、気温は45度もあり、水を飲め水を飲め水を飲むのが仕事。見渡す限り何もなく、誰もいないように見えてふいに現われる敵とも味方ともわからないアラブ人。小さな丘に上ると別の世界があったりする。攻撃され焼け焦げた死体死体死体。破壊された車車車。あれ?どうして三回くり返すのかな。トロイがスオフォードの隣りで言っていたな。撃て撃て撃て。その間に照準合わせるのかな。呼吸整えるのかな。精神集中するのかな。

ジャーヘッド3

スオフォードは腕のいい狙撃手としてトロイとともに重要な任務につく。敵の大将を狙撃する。いや・・しかけていた。そこを邪魔される。突然現われた味方に。1秒の差で。いとも簡単に作戦は変更される。狙撃の代わりにちゃちゃっと爆撃して終わり。撃たせてくれと取り乱したトロイを静めようとするスオフォード。感情の爆発の後の虚脱感。我に返って気を取り直し、隊へ戻ってみればどんちゃん騒ぎ。戦争は終わった。待って待って待って、待ったあげくに一度も人間に向かって撃つこともなく戦争だけが終わった。たった一回のチャンスもあえなく散った。彼らは戦場にいたのに・・戦争は通り過ぎて行ってしまった。ほとんど何もしないうちに終わってしまった。でも多くの兵士にとってはそれが現実。生きて帰れるんだから幸せ?彼らが不在の間に・・恋人は他の男とくっついた。妻は近所の男とくっついた。留守の間に子供が生まれ、家族との幸せをかみしめる者もいる。何事もなかったように仕事に復帰する者もいる。戦場で生き残ったのに、帰国して死んでしまった者もいる。そりゃあさ、ランボーみたいに精神ボロボロになる者も出てくるわな。訓練の時からあんな異常な状態なんだもの。全くの正常な状態じゃ戦争なんかやってられない。正常な状態で異常なことをやるのが戦争。異常な状態で正常を保たなければならないのが戦争。全員が正常だったら戦争は起きず、全員が異常だったら地球はとっくに滅びてる。「バーディ」でアルが言っていたっけ。「ジョン・ウェイン映画にだまされた」・・って。今は誰に、何にだまされるのだろう。入隊する者の中には確かにヒーローになりたくて入ってくるのもいるんだろうな。スオフォードみたいに何となく入っちゃった者もいるけど。ジェイミー・フォックス扮するサイクスは軍隊が性に合っちゃった男。天職だと思っている。こういう役でよく出てくるのがサミュエル・L・ジャクソン。疲れを知らずうるさくがなりたてる。でも頼りになる。フォックスはジャクソンまでいかない。若いし細いしあんまり貫禄もない。でも十分頼りになる。彼の言うことは、リズムに乗って言うことは(ラップみたいにしゃべるのよ)まともなことに聞こえる。戦場で生きのびるための知恵。覚えていて損のない知識。どんな時も冷静で、兵士は時に狂気に走るけど、彼は走らない。

ジャーヘッド4

最初からそうなのか、克服してそうなったのかは不明。ジャクソンほど迫力はないし、怖くもないけど、でもこれはこれで説得力のあるキャラクター。経験を積んだために何事にも動じなくなっているのではない。まだ経験は浅いんだけど、でも何かが備わっている。サイクスは図体の大きいガキどもを一人前にしなくちゃならない。鍛えて戦力にしなくちゃならない。待つのにあきてぐずるのをなだめなくちゃならない。(報道陣に対して)ボロを出さないようにしなくちゃならない。その上生きて無事に帰国させなくちゃならない。ホント大変だと思う。そういうサイクス役にフォックスはぴったりはまっていて、いかにも自然。「ステルス」はサイテーだったけど今回は見事でしたよ、感心した。たった一つを除けば完璧、いや二つかな。戦争が終わって何もできなかった兵士達は腹いせに空に向かって銃を撃ちまくる。でもサイクスまで一緒に撃ってどうする。しかも筋肉モリモリを見せびらかして・・。もう一つはスオフォードに打ちあけ話をするところ。神様が人間まで降りてきてしまってはだめ。神様は上にいなくちゃ。わからない存在でいなくちゃ。サイクスは別に神様じゃないけど、軍隊命のこんこんちきで、スオフォードみたいに何で軍隊に入っちゃったんだろ、自分はここで何をしているんだろ、何のために戦争しているんだろ、早く帰国したい・・なんて考えたりしない。性に合ってる。好きだからここにいる。・・でもそのことを人に説明する必要があるのかな。そりゃあサイクスは悩んでいるスオフォードをなぐさめ、アドバイスするために自分のことを話したんだろう。でも聞いてる方にはそうは聞こえない。どんな人間も他人に自分の話を聞いてもらいたい。自分のことをわかって欲しい。自分のことを覚えていて欲しい。そのためにはオレもおまえも同じ人間なんだと言うことが一番。思わせることが一番。・・私にはそういうふうに思えて仕方がなかったな。トロイがいろんなことが不明だったのと同様、サイクスも不明なままでいて欲しかったな。前から軍隊にいて、今もいて、これからもいる・・。そういうのでいいじゃんよ!しんみり思い出話なんかするな!弱味を見せるな(しかもわざと)!そう言えば「キャプテン・ウルフ」でもウルフがゾーイに自分のこと話していたっけ。心を通わせるには一番いい方法かも。

ジャーヘッド5

でも・・甘くなるな、ビターで行け!その方がモアベターよ。映画だから全部真実というわけでもないと思う。あちこちいじくっていると思う。でもこういう戦争映画もあるんだなーって思った。血が飛ばなくても、パックリ内臓飛び出さなくても怖いホラー映画みたいなもの。でも一般受けはしないんだろうなあ。たいていの人は戦闘シーン期待して見にくるんだろうなあ。あの砂漠を見て感じたのは・・アメリカ軍よりもベドウィンの方が、砂漠とうまくやっていけるんだろうなあということ。昔ながらのつき合いをしているぶんには、地球にも影響しないということ。57万5000人もの軍勢(アメリカ軍以外も含めて?)が必要とする水の量は?ガソリン等で汚す空気は?出すゴミの量は?自然に戻らないものは・・例えば水を飲むのに使ったペットボトル。数回使えばあとはゴミ。ちゃんと持ち帰ったの?戦争が終わって軍が引き上げたとしても、砂漠は彼らが来る前の砂漠とは確実に違っていると思う。あの燃える油田のせいでどんなに大気が汚染されたことか。どんなに貴重なエネルギー資源が失われたことか。石油はアラブ人のもの?それを使う人間のもの?いや、地球のものでしょ。人間はそれを使わせていただくのだ。限りのあるものだから大切に使わなくちゃいけない。でも大事にしない。敵に渡すくらいなら燃やしちゃえ!地球・人類という考えは存在しない。自分、自分達、自国どまり。戦争に従事する者が事態の一部しか見ることができないように、ほとんどの人間は自分達のことしか考えない。今この瞬間にも地球ではいろいろな争いが起きているわけだが、例えて言えば彼らは(地球という)同じ家に住んでいながら火をつけ合っているようなものだ。一緒に住むことは考えない。自分達だけで住むか、一緒に住むにしても優位に立ちたい。火が消せるうちはまだいい。そのうち手が回らなくなって一緒に焼け死ぬのがオチだ。そのことになぜ気づかない?家が焼け落ち、住むところがなくなって・・つまり地球・人類の滅亡直前になって自分達の愚行に気づいて後悔しても遅いんだけどなあ。「ジャーヘッド」は戦争がどうのこうのという映画ではない。どっちが正義でどっちが悪ということもない。そこに生きている人間を描く。そこに生きている者の他に、戦争をテレビで見ている者もいる。そのどっちも大して正確なことは知らないでいるのだ。奥の深い映画だと思う。