サイバークローン

サイバークローン

監督は「ヒドゥン」のジャック・ショルダーという宣伝文に釣られてビデオをレンタル。製作総指揮の一人としてキーファー・サザーランドの名前も。主演はC・トーマス・ハウエル。二役だし出ずっぱりだし、彼にとってはさぞやりがいがあったろう。ベンとアレックスのうち、ベンはハウエルのいつものキャラ。アレックスはいつもと違うキャラ。だから私にはアレックスの方が新鮮に思えた。ベンはコンピューターゲームの開発か何かの仕事をしている。妻エリザベス(ビリー・ゼーンの妹リサ・ゼーン)、息子ニックと幸せに暮らしている。そこへアレックスという男が割り込んでくる。ヒゲをのばし、髪の色は違うものの気味悪いほどベンに似ている。建築家らしいが、仕事をやめ、ベンのいる会社へ移ってきた。彼は少しずつ、でも確実に接近してくる。エリザベスやニックともすぐ仲良くなる。気軽につき合えばいいとわかっていてもベンは彼が好きになれない。やることなすことすべて気にくわない。元々ベンは一つのことが気になるとのめり込んでしまうタイプ。彼が何か言ってもまわりが取り合ってくれないので、そのうち自分の殻に閉じこもるようになる。一人で調査に没頭する。エリザベスも、ベンと心が通わなくなってきた・・と感じ始める。そして彼女はベンが敵視している当のアレックスに相談を持ちかけるのである。もちろん彼は親切に相談に乗ってくれる。心配してくれるし、(最近ではベンも言ってくれない)お世辞も言ってくれる。思慮深いエリザベスだが、おだてられれば悪い気はしない。さて、「サイバークローン」という題名からSFっぽい響きを感じるが、そっちの方はあまり重きを置いていない。いちおう一通りの説明はされる。ベンはアレックスがあまりにも似ているので、自分達は一卵性双生児ではないか、自分は養子なのではないかと思い始める。母親を問いつめ、実子でないことは確認できたが、そのうち母親はアレックスに殺されてしまう。産院の医師レイノルズも何か隠しているようだ。ベンの友人ヘンリーはサラザーという学者のことを調べてくれる。彼はクローン研究の草分け。動物から一歩進んで人間にもそれを応用したい・・となれば、産院の医師の協力も必要だろう。サラザーは今では人とのつき合いを断っている。強引に面会したベンは、彼に自分と同じアザがあるのに気づく。アレックスにもある。

サイバークローン2

どうやらベンもアレックスも(サラザーの)クローンらしい。彼とレイノルズの実験で生まれたクローンは全部で六人。死産等で子供ができずにいるベンの母親のような女性に、養子として(違法に)斡旋したらしい。サラザーは六人のうちの一人サイモンを育てたが、破壊的な性格で、最後は自殺してしまう。その際サラザーの研究も灰になり、それでもう何もかもいやになって人里離れたところへ引っ込んだというわけ。サラザーには「そのままにしておいてくれ」と言われるが、当事者であるベンはそうはいかない。アレックスは自分の人生を乗っ取るつもりに違いない。・・SF風味はここまでで、あとはサイコサスペンス風味。アレックスは周到である。本来はベンと全く同じだが、髪を黒く染め、カラーコンタクトで目の色を変えている。ニックの誕生日に車のおもちゃをプレゼントするが、中には盗聴器を仕込んである。バスケットのシュートの仕方を練習し、ゲーム製作のために必要なパソコンの操作を勉強する。禁煙し、果ては歯を抜く。アレックスにつきまとっている男がいて、そのうち保険会社の調査員だとわかる。最初はクローン研究に関係しているのでは・・と思わせる。ベンはサラザー達はクローンを誕生させ、環境にどう影響されるのか調べているのでは・・と考える。見ている我々もそう思う(人間の場合何十年もかかるが)。しかし結局そういうSF的なものは関係してこない。ある日アレックスのところへその調査員プレズローが訪ねてくる。彼はウェストマンという男のことを調べている。ウェストマンは保険に入った後自殺した。加入して二年たてば自殺でも保険は下りる。プレズローはウェストマンが身代わりを殺し、自分が死んだことにして保険金を詐取したのではないかと疑っているようだ。ウェストマンの前にはバレッキという男も自殺している。アレックスと名乗っているこの男は本当は誰なのか。このプレズローは不注意な男だ。なぜもっと用心しないのだろう。ベンに味方が現われたか・・と見る者に思わせといて、あっという間に殺されてしまう。その際アレックスは自分はサイモンだと言う。彼がプレズローを埋めている頃、ベンはアレックスの部屋を探っていた。何しろ同じ顔してるから、ヒゲをそったと言えば警備員も疑わずカギを貸してくれる。ベンはクローゼットでファイルを見つける。クローン達の資料である。

サイバークローン3

サラザーはサイモンが自殺したと思っているが、死んだ(殺された)のはクローンの一人である。サイモンはそのクローンに化けるが、しばらくするとあきてくる。あるいはそのクローンが特殊な能力・技術を必要とする職業だった場合、化け続けるのが難しくなってくる。するとサイモンは次のクローンと入れ替わる準備をし始めるのだ。そうやってハーマン、バレッキ、ウェストマンらの人生を渡り歩き、アレックスまで来たのだ。今生き残ってるのはサイモンとベンだけである。ベンを殺し、死んだのはアレックスということにし、自分サイモンはベンの家族、仕事、暮らしを手に入れる。それで完了である。元々は、自分が持っていないものを他のクローンは持っているというねたみから始まった。でも他人の生活を手に入れても結局は満足できない。今度こそ今度こそ・・と他人の人生を生き続け・・って、それじゃ「テイキング・ライブス」だろッ!!でもそんな生活ももう終わりだ。ベンの生活には何もかも揃ってる。今度こそ自分は腰を落ち着けるだろう。今や彼は見かけはベンと全く同じである。ベンを失神させ、アレックスの財布やカードを持たせ、車の排気ガスを引き込んで自殺したように見せかけりゃオッケー。何事にも周到なサイモンだが、ここで失策をやらかす。ベンが死ぬまでちゃんと見届けりゃいいのに、ベンの家へ行き、エリザベスとベッドイン。待ちきれなかったらしい。途中で意識が戻ったベンは、やっとのことで車から脱出。まあねえ・・こういう時のために妻、あるいは子供との間だけで通じる合言葉とか決めておけばよかったのよ。盗聴されていないかどうか家の中調べるとか。以前泥棒に入られて、今ではそれがサイモンだったってわかってるけど、盗んでいったように見せかけて置いていったものもあるんじゃないか・・とか。そういうのムリとわかっていても、ベンがすべてに後手後手に回っているのが見ていてもどかしい。事実を知るヘンリーはあっさり殺されちゃうし。サラザーがベンを訪ねてきて話をしたのは屋外だから、サイモンは知らない。こっちの方から解決の道は開けるのでは・・という希望はある。だがサラザーは気力がない。自分で問題の種まいておきながら何の責任も取ろうとしない。年だから仕方ないが、ない力をふりしぼってでもベンの味方してくれないと、見ている方は辛い。

サイバークローン4

少しくらいは努力しろよアンタ。「このままにしておいてくれ」だなんて虫がよすぎる。何人殺されようがかまわないのか。・・それにしてもサイモンはなぜサラザーを生かしておくのだろう。真っ先に殺すはずだが・・。冒頭サイモンが家を出ていくのを見ていた女性はアレックスの妻だろう。彼女は本当のアレックスが殺されたのは知らない。なぜ夫が出ていくのか理由がわからなかったろう。悲しそうな顔をしている。でも・・殺されずにすんだ。クライマックス・・ベンとサイモンの取っ組み合いは、どっちがどっちだかわからないし、誰も見ていないのが不安材料だ。生き残った方が自分こそベンだと主張するに決まってる。エリザベス、覗きに来いよ!ニックが一度本当のベンを見分けた時点で、何か目印・・引っかき傷とか・・つけておけばよかったのよ。何でこんなこと書くかと言えば、エリザベスもニックもベンだと信じているけど、生き残ったのはサイモンだから。ベンは排気ガスで殺されそうになったばかりだから、臭いとかついてるはずだが。結婚指環のあととかあるはずだが。そういうの通り過ぎちゃって、エリザベス達がすぐ本物のベンと信じちゃうのは変。もっとも死んだのはベンだなんて考えたくないから、無理に思い込もうとしてるのかも。特にエリザベスは・・。いくらクローンでもそのうち違和感感じ始めるはず。他人になりすますのってそんなに簡単じゃない。でも今書いたようにエリザベスがサイモンをベンとして受け入れる可能性は大いにある。アレックス(サイモン)に口説かれた時まんざらでもなかったしぃ・・。でも私が一番望ましいと思う結末は、ニックがベンを見分けること。甘いと言われようが二番煎じと言われようが純真な子供の心は(「ヒドゥン」のジュリエットのように)真実を見抜く。ニックには本当のパパはどっちなのか本能的にわかる・・そういうふうにして欲しかった。あんな後味の悪いやつじゃなくてね。ついでに、サイモンが、いくら外見が同じでもなかみまで同じになるのは無理なんだって悟るとか。まあ今だったら絶対DVDの特典として別ラストがおさめられるだろうな。てなわけで前半は「ボディ・スナッチャー」を思わせるSF風味、後半は「テイキング・ライブス」的サイコサスペンス風味。一作で二度楽しめる作品。ついでに言うとハウエルファンには彼の美しさが二倍楽しめるウハウハ作品(たぶん)。