ザ・クリーナー 消された殺人

ザ・クリーナー 消された殺人

この映画は前々から見たいと思っていた。DVDが100円レンタルになったら・・と待っていたが、ケーブルテレビでやってくれた。と言うか、レンタルビデオ店には相変わらず行っていない。おもしろくなりそうな設定なのに、結局は今いちで終わってしまったというのが一般の批評。今回改めて調べてみたら、けなしている人の方が多いようで。殺人とか事故とか自殺などの、誰もが嫌がる場所をきれいに掃除する仕事をやっているトム(サミュエル・L・ジャクソン)。彼は元警官だが、今はステリクリーン社の社長として・・と言っても社員は数人?・・何とかやっている。もちろん自ら現場へも出向く。今日も社員のミゲルがやめたいと言ってきた。血や悪臭、汚物・・そのうち悪夢に悩まされるようになる。仕事と割り切って・・と言われても、なかなかそうはいかない。取りあえずミゲルは現場へ行かなくてもすむような仕事に回す。でもその分トムが出向くはめに。この冒頭からの・・あるいはメインの事件の合間に挟まれる仕事の描写がおもしろい。ありきたりと言えばそれまでだが、手際がいい。適当に凝った映像。こういう職種だと「サンシャイン・クリーニング」があったけど、あっちはお気楽と言うか。うわっつらをなでるような軽い印象。ワーワーキャーキャーと不謹慎。トムは一人で黙々と仕事する。道具も手順もきちんとしていて無駄がない。ああそうか、ああやってるのか。こういうの・・綿棒とか・・使うのか。血まみれだったソファがぴかぴかになったけど、それくらい高級な・・高価なものなんだろう。今回掃除した屋敷は留守だったので、指示通り植木鉢の下にあった合鍵を使った。向こうの人は植木鉢とか玄関マットの下によく鍵を置くよなあ・・。「刑事コロンボ」でもよくやってるけど、何で自分で持ち歩かないの?さて、仕事を終えたトムは、うっかり鍵を持って帰ってしまう。次の日返しに行ったらアン(エヴァ・メンデス)が出てきたが、掃除を頼んだ覚えはないと不審顔。依頼主を調べても・・殺人現場だから警察だが・・そんな刑事はいないとのこと。表面的にはタダ働きさせられたってことになるけど・・。その頃元市警本部長ヴォーンの汚職、収賄がマスコミをにぎわしていた。裁判で証言するはずだったノーカットという男が失踪。何と例の家だ。アンはノーカットの妻だ。どうやらトムは証拠隠滅に利用されたらしい。でも届け出る気はない。

ザ・クリーナー 消された殺人2

そのうち彼に複雑な事情があるのがわかってくる。きびきびとした仕事ぶり。事務的にこなし、余計なことは考えず、訓練されたような精神状態。同窓会でそれとなく宣伝するしたたかさ。家に帰っても手順通りに動き・・洗濯物さえきちんとたたんでカゴへ。石鹸で念入りに手を洗い、ベッドはきちんと整えられ、とても清潔だ。これでひとりものなら(こういう映画の主人公として)申し分ないが、残念なことに(←?)娘ローズがいる。彼の妻は殺されたらしい。犯人はつかまえて刑務所へ。そこで刺殺された。ローズは宿題と偽って母親のことをほじくり返す。見ている我々にもそのヒルという男がトムによって・・間接的に・・殺されたのだと予想がつく。昔トムの相棒だったエディ(エド・ハリス)も手を貸したはず。あのミゲルは刺青があり、刑務所にいたことがあるらしい。もしかしたら彼が協力?そのお礼として彼を雇い、やめたいと言ってきてもすぐには解雇せず、別の仕事に回すなど便宜を図る?いずれにせよ14歳で思春期のローズは、トムをてこずらせる。彼女は母親が殺された時、その場にいたらしい。まだ6歳でそんな経験すりゃ心に傷が残る。父親もいなくなるのではという不安に取りつかれてる。そんな彼女にトムが言い聞かせるのが「前進だ」。後ろを見るな、前だけ見ろ・・ってそりゃ無理ですってば。とは言え、トムの過去、背景にいろいろくっつけすぎですな。その後アンがトムの会社に現われ、夫の失踪について何か知ってることはないかと探りを入れるんだけど、トムはなかなか話さない。それもそのはずトムもヴォーンから賄賂を受け取っていたのだ。ヒルが殺され、トムが疑われた時。警官をやめ、今の仕事を始める時の準備金。いろいろ便宜を・・。だからアンが見せてくれたノーカットの名簿にもトムの名前は載っている。今ノーカットの失踪を調べているバーガス(ルイス・ガスマン)も賄賂を受け取った一人。まあこのようにノーカットの失踪には、ヴォーンの汚職もみ消しが絡んでる・・と。トムは届け出たりすれば、逆に殺人の容疑者にされてしまうと・・そういうことですな。でもあの・・ハリスが出てきた時点で見ている人全員こいつが・・って思っちゃうんですけど。いくらガスマン出してきて、「こいつが怪しい大作戦」展開しても無駄なんですけど。いくらエディだけは賄賂受け取ってなくても、いくらローズの名付け親で彼女をかわいがっていても、子供相手に奉仕活動していても、トムに協力し忠告してくれても・・やっぱり彼は怪しいのだ。

ザ・クリーナー 消された殺人3

そのうちノーカットの死体が見つかる。顔はめちゃめちゃにされてるけど、アンは夫だと確認。あのぅ・・それだと顔を破壊する意味ないじゃん・・と言うか、顔を撃たれたってこと?検視医役でロバート・フォースターがちょこっと。で、彼がもらした一言がトムを驚かせる。ノーカットはパイプカットをしていた。でもアンはトムに、家族を持ちたかったのに夫は子供を欲しがらなかった。授かったけど流産してしまったと話していた。今の今までノーカット殺しの動機はヴォーンの汚職もみ消しだと思っていたのに。植木鉢の下に鍵があったということは・・合鍵を持っていたということは・・アンが妊娠したということは・・愛人が犯人!!ここでみんなびっくりするわけよ。180度方向転換。失踪した夫を案じるけなげな妻、真相を知りたいという勇気のある妻・・そ、それがただの不倫妻。で、相手ってもしかして・・いえ、やっぱりエディで。彼はずーっと独身で、家族に憧れていて・・熱望していて・・だから妊娠を知って狂喜する。ところが流産。てっきりノーカットが中絶させたと思い込み。最初の方で殺人現場らしきショッキングなシーンが出てくるけど、あくまでも現場。死体が転がってるわけじゃない。で、その後も何が起きるというわけでもなくずーっと来て。トムが警官に車を止められ、殴られ、すわバーガスあたりの脅迫かと思わせるけど、それ以上のことはなくて。アンが広い屋敷に一人でいるのが怖いと言うので、ミゲルの家に連れて行って。彼には妻と幼い子供二人がいるのに。彼らにまで危険が及んだらどーする!と、案じていたら何事もなく。エディに罠を仕かけるはずが裏をかかれ、しかもどうやらそばにはローズがいるらしい!と心配させといて、駆けつけてみれば何事もなく。最後の最後エディがトムに銃を突きつけ、あわや・・という時、アパートの前にはバーガス達が駆けつけたから、トムが死ぬか、エディが窓から飛び降りるか・・どっちかと言えば後者だな・・と思っていたら、ローズがエディを撃ち殺し。こんな・・すでに悲惨な経験している子供に、さらに悲惨・・殺人という行為させて・・そりゃ意外な結末ではあるけれど、ちょっと安易すぎないか?普通はローズが、「やめて、おじさん!パパに何するの!」とトムの前に飛び出し、エディが観念して窓から・・となるんじゃないの?

ザ・クリーナー 消された殺人4

結局一つの事件の裏にはこういう事情があった、出てくる人全員何かしら重荷を背負っていた・・そういう話。トムは血まみれのソファを新品みたいにしたけど、人間の心はそうはいかないってことか。トムはソファを見る度血を思い出すだろうし、アンはその状態を見ていないにもかかわらず、ソファのそばで動揺する。私にとってこの映画で一番印象的だったのは、きれいになったソファだな。こういういい部分・・心に残るシーンもちゃんとあるのだ。でも全体的には・・不倫かよ、あんなささいな理由で殺人かよ・・となる。期待して見ていた人は当てがはずれ、物足りなく思う。それは私も同様だけど、アンの流産は・・女性にとっての流産は・・決してささいなことではないと思う。エディはノーカットが中絶させたのだと思っている。手切れ金と称して小切手を送り付けてきた。それが彼には許せなかった。でも、見ている方はノーカットのことをどう思うべきなのか迷うわけ。情報が不足している。彼がアンに暴力をふるい、そのせいで流産したというのならわかる。でもそうじゃないんでしょ?エディがヴォーンだのバーガスだのを出してきて隠れ蓑にした理由はわかる。単にノーカットを殺したのではアンが不審に思う。トムが鍵を返し忘れるなんてことがなければ、すべてはうまくいった。多少不審なことがあってもトムは警察に届け出たりしない。後ろ暗い過去があるからだ。でも何も知らないアンが、真相を知りたいとトムに近づいた。そしてだんだんややこしいことに。そのうちトムの正義感に火がついて、いくらエディが忠告しても聞かない状態に。それにしてもアンはなぜああやって動き回ったのかね。夫のこと全然愛してなかったのに。あの名簿だってヴォーン関係の連中が手に入れようと動き回るはずだが何もしてないし。どこもかしこも描写不足。でも・・先に「サンシャイン・クリーニング」見ちゃってますから。あっちに比べりゃちゃんと仕事描写されてる。それだけでも拾い物。ジャクソンはいつもと髪型違う。色が黒いから(←?)顔でわかるのは目だけ。で、目だけ見ると彼ってウィル・スミスに似ている。新発見。監督はレニー・ハーリンでこれまたびっくり。ミゲル役はホセ・パブロ・何でも鑑定団・・じゃない、カンティージョ。彼がカーペットの、血のついた部分を切り取るラストシーンは(意味不明だが)よかった。