殺人者はライフルを持っている!

殺人者はライフルを持っている!

これはWOWOWあたりでだいぶ前に一度見たことがある。その時はさほどおもしろいとも思わなかった。晩年のボリス・カーロフが出てるというので見ただけ。少し前、中古DVD売場で見つけたが、その時は迷ったものの買わなかった。先日またそこへ行って、そう言えば前回迷ったのがあったっけ、何だったっけ・・と思ったが、題名が思い出せない。で、端から順番に見ていくと・・あった、あった、まだ売れずに残ってた。定価じゃ買う気になれないけど、980円ならまあいいか・・と。よく見たら特典もついてるようだし。いろいろ自分に言い訳しながら購入。日本では未公開で、作られたのはカーロフが亡くなる二年ほど前。81歳で亡くなったから、79歳くらいか。脚が彎曲してギブスをつけていたとか、肺の病抱えていたとか、まあ年だから仕方ないけど、当時もうだいぶがたが来ていたようで。つまりそういう老人が主人公だから、あんまり目覚ましいアクションは望めないってこと。それにしても「フランケンシュタイン」などでカーロフは大男というイメージがあるけど、実際は180センチくらいらしい。監督で出演もしているピーター・ボグダノヴィッチの方が背が高い。「フランケンシュタイン」などでは、共演者にわざと小柄な人出してきているのかしら。この映画は、カーロフ扮する老怪奇映画スター、バイロンと、銃乱射事件を起こす青年ボビー(ティム・オケリー)を交互に描いている。バイロンはカーロフそのものに見えるし、ボビーはテキサスで銃乱射事件を起こしたチャールズ・ホイットマンがモデル。最初はカーロフが殺人を犯すことになっていたとか、途中で死ぬことになっていたとか、脚本はいろいろ変更があったようで。ボグダノヴィッチのコメンタリーや製作秘話はなかなかおもしろく、買ってよかった。話を戻して、バイロンは新作の封切前日になって、突然引退すると言い出す。プロデューサーやサム(ボグダノヴィッチ)達は驚き、当惑するが、バイロンの決意は固い。秘書のジェニー(ナンシー・スー)にとっても寝耳に水だ。彼女とサムは好意を抱き合っているが、その関係も危うくなりそう。別に秘書をやめてもらってもかまわんよ・・とバイロンは言うけど。サムは次の脚本は会心の出来・・と、自信持ってただけに、引退宣言は大ショック。バイロンにしてみれば、自分はもう時代遅れ、用ずみの人間という気がして仕方がない。

殺人者はライフルを持っている!2

新聞を見れば、物騒な記事が載っている。昔は人々は自分の演技にふるえ上がったものだが、今じゃ現実の方がよっぽど怖い。深夜・・バイロンが泊まっているホテルに酔っ払って現われたサム。バイロンがテレビで見ているのは、31年頃の「光に叛く者」。ハワード・ホークスの作品だそうだ。ホテルでのバイロンを見ていると、どうしても「ゴッド・アンド・モンスター」のホエールを思い出してしまう。きれいになでつけられた銀髪、ゆったりと暖かそうな服装。泥酔したサムは、バイロンのベッドで寝てしまう。バイロンは仕方なく、その横で寝る。ここらへんも「ゴッド」思い出してしまう。朝・・ホエールが悪夢から目覚め、やれやれ夢かとホッとしたら、隣りにクレイが寝ている。ウワッと思ったらそれも夢で。「ゴッド」の脚本にはあったこのシーン・・何でカットしたのよ~!昼になってやっと目を覚ましたサムは、隣りで寝ているバイロンに気づいてギョッとする。まあ老人だし、見ようによっては死体にも見えるからね。その後起き出したバイロンが、鏡にうつった自分を見て驚くところは笑いどころだ。イギリスへ帰国する彼のため、切符を持ってきたジェニーは、室内の様子に不審顔。今だったら、勘違いされちゃ大変と、大急ぎで弁解するところだが、この時代はそんな必要なし。のどかな時代だったのだ。一晩たってバイロンの気持ちにも変化が。引退の意志は変わらないけど、舞台あいさつはする気になってる。もっとも、打ち合わせに現われた司会担当のラーキン(サンディ・バロン)とか言うDJのアホさかげんには呆れ、うんざりするけど。・・ボビーはごく普通の青年。ベトナム帰りで、ハワイで挙式して、両親と同居している。清潔でぴかぴかで、生活臭のない家の中。きれいすぎてうそくさい。母親はよっぽどきれい好きなんだろう。妻のアイリーンは電話交換手。今夜も夜勤だ。自分は何だかおかしい・・今夜は一緒にいて欲しい・・と頼むが、妻は取り合わず出かけてしまう。彼がこの後殺人鬼に変身することはわかっているので、見ている我々はその理由を捜す。突然頭がおかしくなった・・病気なのか。不満や不安、怒りや恨みを抱えているのか。スリルを求めているのか、サド的な喜びに浸りたいのか。結局よくわからないけど、妻への「俺を無能だと思うか」という言葉がカギなのかな。無能じゃないことを見せるには?

殺人者はライフルを持っている!3

彼は若くて健康だけど、飛び抜けたところがあるわけじゃない。いちおう射撃の腕はいいけど、戦場ではないここでは、役に立つのは狩りの時くらいで。ものすごいハンサムとか頭がいいとかスポーツの才能があるとか、そういうのじゃない。優越感感じるとしたら、照準の中に誰かをとらえた時くらいなもの。その時だけは、相手の運命を自分が握っていて。自分は言うなれば神で・・。そういうことなのかな。もちろん悪いことだと承知し、今までは抑制してきたけど、最近そのたががゆるみ始めているような。誰かに相談したいけど、止めて欲しいけど、こんなことどうやって話す?話したとしてわかってもらえる?すでに自分は着々と準備している。ライフルやピストルを買い、弾も大量に仕入れる。自分も父も銃砲店のお得意様だから、怪しまれもせずいくらでも売ってもらえる。今だったら許可証とかうるさいんだろうけど、この頃はのどかな時代。ボビーは何のためらいもなく妻を、母を、運の悪い配達人を撃ち殺す。動揺もせず、後始末のような・・それにしては不可解な行動を取った後、車で出かける。目を付けておいたタンクの上から、ハイウェイを走る車を狙い撃ち。ほぼ無表情。そのうち銃声に気づいた従業員が様子を見にくるが、撃ち殺される。いくら何でも・・のこのこ近づいてきて「何をしている」ってアンタ・・。のどかにもほどがある。そのうち白バイやパトカーがやってきて、そのうちの一台に追われるが、ドライブイン・シアターに逃げ込む。今晩バイロンが舞台あいさつすることになっているところだ。こうやって二人の世界はだんだん近づいてくる。キャストのうち、ボグダノヴィッチはまだ若く、つるんとしている。予定していた俳優がだめになって、自分が出演することになったらしいが、演技は可もなく不可もなくと言ったところ。マイケル・カランによく似ている。ナンシー・スーは中国系か。39歳という若さで亡くなったらしい。ところでこの映画、黒人はほとんど見かけない。バイロンの新作映画として使われるのが、63年頃の「古城の亡霊」。これは日本でも公開されてるようだ。城のあるじに一夜の宿を求めてくるフランス軍将校は、何と若き日のジャック・ニコルソンだ!ハイウェイで撃たれる女性は、ロバート・ウォーカー・ジュニアの奥さん・・そう言われたって誰だか知らんけど。遠すぎて顔も見えないし。

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ホテルのラウンジの客としてサル・ミネオが出てくれたそうで、画面の右側に数回男性の頭がうつるけど、向こう向きなのでミネオかどうかは不明。コメンタリーなどで何度も低予算、撮影日数の少なさを言っていて・・。本職の役者の他に、友人・知人、友人の友人まで動員したとか。ドライブイン・シアターの電話ボックスで死ぬ男性はマイク・ファレル。彼が出演しているのはネットで見て知っていたけど、いつまでたっても出てこなくて。暗くて見逃しちゃったのかしらと思っていたら、エンドクレジットで電話ボックスの男と出て・・。それでやっと、あああの人・・とわかったわけよ。でも顔はほとんどうつってないから、気づけったってムリムリ。え?ファレルって誰だって?テレビの「インターン」に出ていた人ですよ。オケリーはこの作品の他に「クリスチーヌの性愛記」に出ている。すごい題名だが別にポルノではなく(見たことないけど)、ジャクリーヌ・ビセットが出ている。「インターン」のクリストファー・ストーンも出ているようだが、彼53歳くらいで死んじゃったのね。スティーブン・ブルックスも死んじゃったし・・。話を戻して、オケリーは俳優をやめたのか消息不明らしい。感じとしては、マット・デイモンとかマーク・ウォールバーグ風味。「パニック・イン・テキサスタワー」のカート・ラッセルに比べると狂気度は薄め。ボグダノヴィッチによると、この映画は評判はよかったものの、興行的には失敗したらしい。ほとんどお蔵入り状態みたいな。ロバート・ケネディやキング牧師の暗殺事件があって、その影響をこうむったらしい。銃を使った事件は今でもなくならず、子供が被害にあうなど痛ましいケースも。その度に規制の声が上がるけど、必ず反対の声も上がり、そうこうしているうちに次の事件が起きる。私は単純に・・一映画ファンとして「パニック」のDVDが出て欲しいと願っているけど・・ムリかしら。さて、暗くなって駐車場もぎっしり埋まり、いよいよ上映開始だ。スクリーンでのバイロンは今よりちょっぴり若い。そのうちバイロンとジェニーを乗せた車が到着。舞台あいさつって、途中で映画を止めてやるの?興味がそがれない?上映前にやるかと思ったら、映画始まっちゃったし。じゃあ終わってからやるのかなと思ったら、途中でとか言ってるし。「古城」とこの映画のクライマックスをうまく重ねるのがキモなので、終わってからというのはありえないんだけど、途中というのはなあ・・理解に苦しむ。

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理解に苦しむと言えば、私には何で車に乗ったまま映画を見るのかわからない。ポップコーンやコーラを買うには車を降りて売店へ行かなくちゃならないし、トイレだってそう。映画館に入って見るのと変わらないじゃん。ボビーはスクリーンの裏側に潜んでいる。たぶん自分で小さな穴を開け、そこから狙い撃ちする。映画の音のせいで銃声は聞こえないし、車は密室でみんな前を向いている(いちゃついてるカップルは別として)。隣りで何かあっても気づきにくい。しばらくたってから車が逃げ出し始める。ここらへんの盛り上がりは今いち。もたもたしてるし、暗くてわかりにくい。たぶん今ならもっとカットを短くし、鋭い音、割れるガラス、飛び散る血しぶき、あおる音楽など、持てる手段を総動員するだろう。ただ、実際の現場はああいうもどかしい感じなのだろうとは思う。何が起きてるかよくわからないまま、とにかく出口に殺到する。別に、すべてを見渡す神の視点で描く必要はない。先を争って出ていく車を見て、バイロンは「大人気のようだな」とつぶやく。自分の最後の映画なのに・・。一方ボビーは、銃や弾を下に落としてしまう。下に降りるのは容易ではない。狭いし暗いし、へたをすれば足を踏みはずして落ちてしまう。そのうちバッグも落としてしまう。ミスが多くなる・・と言うか、最初からさほど緻密な感じはしない。自宅には自分がこれから殺人を犯すという予告をタイプして残してきた。タンクの上からコーラのビンとかゴミをポイポイ捨てるし、立ち去る時には銃やらナイフやらを置いてきた。それにしても最初の殺人からすでに8時間たってる。ラジオのニュース等で何も流れないのはおかしい。父親はとっくに帰宅して死体を見つけ、通報してるはずだが。わざと描写しないのかな。ボビーはフィルム交換中の映写技師まで撃ち殺す。ってことは「古城」が途中で切れるってことだ。だから今か今かと期待するわけだが、なかなか切れない。映画終わっちゃうぞ~!ボビーはライフルも落としてしまったので、外に出てピストルを撃ち始める。その頃にはジェニーも撃たれているが、どの程度の傷なのか不明なので、あんまりドキドキしない。命に別状はなさそうだが。バイロン達の車は、あいさつに備えて前の方にとめてあったので、外に出てきたボビーが見える。

殺人者はライフルを持っている!6

この後のバイロンの行動・・杖はついているものの、ガシガシと歩いていき、弾が額をかすめてもひるまない。ボビーはこっちからバイロン、反対側(スクリーン)からもバイロンが迫ってきて、しかも同じような服装なので混乱し、スクリーンを撃ったりする。たぶんボグダノヴィッチが一番力を入れたのがこのシーンだろう。実際の行動と、スクリーンでの行動・・うまくタイミングを合わせている。弾がなくなったボビーは、バイロンに顔をペンペン張られただけでしぼんでしまう。バイロンはなぜこんな無謀な行動を取ったのか。自分の引き際を汚されたから?いやたぶんジェニーが撃たれたからだろう。気難しい自分に辛抱強く仕えてくれた、大事な娘のような存在。やめていいよと言いつつ、そばにいて欲しいのが見え見え。バイロンの私生活は説明されない。妻は?子供は?切符の取り方(豪華客船など)から見て、金持ちなのは確かだが。対決後のバイロンの言葉・・「これが現実なのか」。つかまえてみれば、ただの無力な青年。銃なしでは何もできない。逆に言うと、銃があればこんな大それたことができてしまうということ。自分が映画の中で演じ、観客に与え続けてきた恐怖とは全く別の恐怖。一方ボビーは引っ立てられつつも「百発百中だろ?」と得意げ。罪悪感ゼロだ。モデルのホイットマンはつかまる前に死んだが、ボビーは生きてる。でもこの後どうなるなんて考えていないんだろうなあ。映画は人間達のその後はうつさない。ラストシーンは翌朝の駐車場。前夜ぎっしり埋まっていたけど、今はボビーの車が一台ぽつんととまってる。私にはそれだけで十分なラストだけど、コメンタリーによると、うつしたのは巨大スクリーンの上からで、偶然空に雲がかかり、駐車場がだんだん暗くなり始めたのだそうで。コメンタリーってこういう時便利だよねえ。見る側にとっては見逃してしまうようなことも教えてもらえる。得した気分になる。作り手側にとっては、見てもらいたい聞いてもらいたいこと伝えられる。このシーンだってエンドクレジットのせいで、画面の下から暗くなり始めてるなんて普通じゃ気づかない。と言うわけで、今回久しぶりに見たわけだが、前見た時と違っていろいろ考えさせられた。何と言うか「積み重ね」のようなものを強く感じた。カーロフの、長い年月の間に作り上げられてきた風格、気品のようなもの。若さやみずみずしさの代わりに出てくるもの。肉体はそのうち朽ちてなくなるけど、フィルム、あるいは人の心に残るもの。何だか彼の他の作品も見たくなってきたぞ。