隣人は静かに笑う

隣人は静かに笑う

予告編では「気持ちが悪い」だの何だのと、いかにもショッキングな内容のように思わせる。ファーストシーンは子供がフラフラと歩き、そのうち血がポタポタと落ちてくる。タイトルシーンはこれでもかと言わんばかりに恐怖をあおるような映像で、ゾンビでも出てきそうだ。しかしその後は拍子抜けするくらいまともな内容で、冒頭のシーンはいったい何だったの?と言いたくなる。ジェフ・ブリッジス扮するマイケルは、FBI捜査官だった妻が死んだのは仲間のミスだ、FBIは何の釈明もしない・・と三年間も恨み続けている。大学でテロについての講義をしているが、話す度に自分で自分の傷口に塩をすり込んでいる。教え子の恋人がいるが、息子のグラントは彼女が新しいママになるのでは・・と心おだやかではない。「前は(彼女を)好きだったけど」という言葉が泣かせる。いいお姉さんでいるうちはいいけれど、ママになりそうだ・・と思うと嫌う感情が出てくる。恋人のブレディも辛いところだ。子供には警戒心を持たれるし、マイケルの心には今でも亡き妻のレアがいる。マイケルは冒頭のケガをした少年を助けたことから隣人のオリバーと親しくなるが、ふとしたことからオリバーの素性に不審をいだき、あれこれ調べ始める。手紙を盗んだり、オリバーの書斎に入ったりする。プライバシーの侵害だとブレディは怒るがマイケルは聞き入れず、オリバーが16歳の時パイプ爆弾で役所を爆破しようとして少年院に送られたフェニモアという男であることを突きとめる。オリバーに「何か知りたいのなら通りを渡って直接自分に話せ」と面と向かって言われ、マイケルはこそこそ嗅ぎ回って過去をあばいたことを後悔する。オリバーは子供を世間の目にさらしたくない・・と過去を隠し、改名して真面目に暮らしているのだ。ここでのオリバーの態度には見ている方もころりとだまされてしまう。本当にマイケルの思い違いで、オリバーはテロリストでも何でもなく、改心したよき家庭人なのだ・・と思わされてしまう。しかし次のシーンでそれが引っくり返る。皮肉にもマイケルの言うことを全然信じず、オリバーを弁護していたブレディが彼が爆弾らしきものを運ぶところを見てしまう。車であとをつけているうちに相手に気づかれてしまい、交通事故に見せかけて殺されてしまう。再びオリバーを疑い始めたマイケルは、今度は息子のグラントを誘拐されてしまう。

隣人は静かに笑う2

まあマイケルほど運の悪い人はいないのでは・・と思うくらい、彼には次から次へと不幸が襲う。爆弾を積んだバンに息子が乗っているのを見たマイケルは必死に追跡するが、途中で横から飛び出してきたオリバーの車に邪魔をされてしまう。ここで殴り合いがあって、どういうわけかオリバーの方がやられ、再びマイケルはバンを追う。相手の目的はFBIで、前もって友人の捜査官ウィットに連絡してあったのに、バンは入口の検問をパスして中に入ってしまう。半狂乱になるマイケルだが、いつの間にか運転手は別人になり、バンの中はカラッポで爆弾もなし。息子もいない。ウィットに「運転手はちゃんと許可証を持ってる。今許可証なしにここにいるのは君だけだ」と言われたマイケルは愕然とし、自分の乗ってきた車に走り寄ってトランクを開ける。そこにあったのは・・というわけでFBIはドッカーンと吹き飛び、皆死んでしまう。マイケルがオリバーと殴り合いをしている間に、オリバーの仲間が車に爆弾をしかけ、皮肉なことにマイケルは自分で爆弾をFBIに運んでしまったというわけだ。皆死んでしまったから、犯人は妻のことでFBIを恨んでいたマイケルということになってしまう。そう言えば授業の時もおかしかった・・などと学生も証言する。まあまわりの者から見て確かにマイケルはアブナイ人に見える。オリバーを演じたティム・ロビンスは顔がしもぶくれなので、うつる度にパタリロそっくりじゃん・・とおかしかった。グラント役の子は「アンブレイカブル」にも出ていて、けっこう演技がうまい。この映画では連邦ビル爆破事件にも触れていて、犯人は別にいるのでは・・と調べていたマイケルが今度はFBI爆破の犯人にされてしまう。そういう皮肉な出来事を描いているのだが、私はそのことよりも夫婦でテロリストで、目的のためには手段を選ばないオリバー達が、自分の子供のことはどう思っているのか、そっちの方が気になった。ケガをした息子を心配し、助けてくれたマイケルに感謝しているオリバー達はごく普通の親である。そんな彼らは息子とテロ活動のどちらを優先するのかな。それと自分達のやっていることを知られたらどうするのかな。終わり方のせいで後味の悪い気持ちにさせられる映画だが、クライマックスの部分はスリルがあり、トランクを開けて中に爆弾があるのを見つけるところまで、こっちまで息をのんで画面に見入ってしまった。