リトル・ミス・サンシャイン

リトル・ミス・サンシャイン

この映画は前々から評判は聞いていたものの、見に行く気はなかったのよ。美少女コンテストだの家族の再生だのとあまりそそられない内容。でも!ポール・ダノ君が出ているらしい。ポール・ダノなんて言ったって誰も知らないだろうけど「テイキング・ライブス」で主人公マーティンの少年時代やって強烈な印象。その後ジェシー君つながりで「卒業の朝」見て、こちらもよかったのよ。ちなみに「テイキング・ライブス」は原作を見つけたので早速読んでみた。もう感想は書いちゃったけど、読めば映画のこともっと深くわかるかな~ってワクワクしたけど・・。残念ながら他人の人生生きるっていう設定が同じなだけで、あとは全く別な話。がっかりしたけど最後まで読みましたよ。モチ映画の方がずっとおもしろいです!少し前「キング 罪の王」とかいうのが公開された。これにもポール君出ているんだけど見逃してしまった。内容にはそそられないけど、ポール君の演技は見てみたい。さて「リトル」は適当なところでやってくれれば見てもいいかなーと思っていたら、シネマ・アンジェリカでやり始めたので見に行った。オスカー二つとったから少しはお客入るだろう。何しろここはいつ行ってもガラガラで、心配になっちゃうんだもの。その日は「映画の日」だったので30人くらいはいたと思う。小さな館だけど私はけっこう気に入っている。さてこの映画、よくできていると思う。よくまとまっており、どうなるのかなという興味が持続し、見た後は満足感がある。ばかばかしいとかありえないとかいう場面もあるけど、描写が抑えめなので納得させられる。実際にこうなんだろうけど、恐ろしくばからしくありえないように見えるのが美少女コンテスト。着飾った美少女(と言うより醜悪なバケモノ)と、応援する親(限りなく勘違いしているバカ)。これほど気持ちの悪い見世物も他にないのでは?会場をちょっと覗いたフランクとドウェーンが、毒気にあてられたようになってすぐ出てくるシーンが印象的だった。彼らのは正常な反応だと思う。さて話が飛んだけど、ひょんなことから美少女コンテストに出場できることになったオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン・・「サイン」で達者な演技を見せていた)。メガネをかけたちょい太めのお嬢ちゃんで、優勝なんかできっこない。それを一家して連れて行くってのは・・映画だから?いや・・子供がかわいいからだろうなやっぱ。

リトル・ミス・サンシャイン2

やたらテンションの高い父親リチャード。演じているのがグレッグ・キニアだから勝ち組、成功論なんて唱えたって説得力なし。本を出して大儲けなんてムリ。自分でもうすうすわかっているはず。でも成功の夢にしがみついている。そこが哀れ。トニ・コレット扮する妻シェリルはしっかり者。この映画では彼女自身のことはほとんど問題にされない。それでいて家族のかかえる問題はみんな彼女にのしかかってくる。生活は苦しい。夫の成功を信じたい。どこかで疑っているけど、でも信じたい。本が出せれば、売れれば生活は楽になる。リチャードが振りかざす成功論にはうんざりだが、本当に成功するなら何だってガマンできるわよ!アラン・アーキン扮するグランパ(名前ないの?)はヘロインの常用者で、老人ホームを追い出されたらしい。言いたい放題、口の悪いエロジジイだがオリーヴをかわいがってくれる。長男のドウェーンは数ヶ月家族と口もきかない。部屋に閉じこもっていて、出てくるのは食事の時だけ(高校生だが学校ではどうしているのか不明)。彼は家族を嫌っている。どうしようもない怒りを沈黙で表わす。家庭内のぎくしゃくしたムードに影響されないのはオリーヴだけ。コンテスト出場が決まって大喜びだ。常識から見て待っているのはみじめな現実「負け」だろうけど、せめて出場の夢だけはかなえてやりたい。それに加えて今度は自分の兄フランクが自殺未遂を起こす。原因は失恋で、しかも職まで失ってしまった。抜け殻状態の兄をほうってはおけず家に引き取る。このような家族の問題の前では、シェリル自身の健康とか仕事とか悩みといったことはあとまわしにされる。彼女ならどんなピンチも切り抜けられる。そりゃあ時にはヒステリー起こしてリチャードと大ゲンカする。でも怒りや失望でぐちゃぐちゃになりながらも何とか前に進もうとする。こういうシェリルの姿には特に女性は共感するのでは?そうそうそうなのよ、みんな私に押しつけるのよ。私にだって「個人」が「プライベート」があるのに気づいてもらえない。みんなは私に問題を押しつけて気が楽になる。私なら何とか解決できると、解決してくれると思い込んでる。私にだって自分の健康や仕事の悩みがある。妻は母は嫁は鋼鉄の機械じゃない。時には壊れるし(病気)いなくなったり(死)もする。その時になって初めて「お母さんも人間だったのだ、不死身じゃないんだ」と気づくのよ!

リトル・ミス・サンシャイン3

さてトニ・コレットは何に出ても水準以上のものを感じさせる人だ。マリア・ベロと同じで演技にあぶらが乗っていて、前からうまいんだけどこれからもうまくなっていくような、そんなパワーが感じられる。コンテスト会場を目指し、いろんな困難に出会いながらも車を走らせる一家。途中でグランパが急死したのにはびっくり。「ディパーテッド」でも途中からマーク・ウォールバーグはぱたっと出なくなって、それでもアカデミー賞ノミネートされて不思議だったけど、こっちはホントに出番終わっちゃった。こういう役でもオスカーとれるんですね。一家で旅の途中、老人が急死するというのは「ホリデーロード4000キロ」でもあったな。しかもその死がギャグにされちゃうので、見ていても笑っていいのか悪いのか・・。人の死を単純に笑い飛ばすのは不謹慎なような気がして・・。旅の途中で一家一人一人にそれぞれ降りかかってくる困難。グランパの場合は「死」だった。リチャードは「挫折」。本の話がパーになる。シェリルは夫への「失望」。モーテルで大ゲンカするのが隣室にも聞こえてくる。フランクは気をつかってテレビをつけ、ケンカがドウェーンに聞こえないようにするが、フランクがいなくなるとドウェーンはテレビを消す。最初は両親のいがみ合いを聞いて悲しんでいるのかと思わせといて実は・・わざと聞く。聞いて楽しんでいる。彼自身が不幸だからまわりが不幸になるのがうれしい。まあこのシーンはちょっとぞっとしますよ。そしてこういう屈折した役にポール君はぴったりなんですの。若いから、家族だからこそ生まれる残忍さ。でも100%ねじ曲がっているわけではなくて、大人の醜さへの憎悪、家族から逃げたいという独立心など、成長の過程で見られる普通の反応のちょっと形の違えたもの。自分はこんな大人にはなりたくないとか、こんなやつらと一緒にいたくないとか・・たいていの子供は一度は思うはず。逃げたい無視したいと思っているとかえって家族がよりよく見えてしまう(逆に自分のことは見えなくなるけど)。例えばオリーヴを置いてけぼりにしてしまうシーンとか。最初にオリーヴがいないのに気づくのが彼なの。その時のポールの演技がよかった。「オリーヴがいない」と口に出せばすむことだけど、何しろ彼は沈黙の誓いを立てているからまずメモ用紙を捜すのよ。

リトル・ミス・サンシャイン4

ドウェーンとフランクは最初から一歩引いたポジションにいる。いわば傍観者。中央でもめているリチャードやシェリル、口を出すグランパ、コンテストのことで舞い上がっているオリーヴ達を横からながめている。二人は最初から負け組。ドウェーンは冷笑や拒否という砦を築いているし、フランクは無気力。旅行中この二人だけは変わらないのかな。これ以上絶望することも挫折することもなくいくのかな。結果的には最初調子がよくて途中でぽしゃるリチャードよりは状態マシなのでは?なんて思っていると・・やっぱりあるんですよ。途中でどっかーんと試練が・・。感心したのはその持っていき方のうまさ。結果的には「ディパーテッド」がオスカーとったけど、「リトル」がとっていてもおかしくなかった、それくらいうまくできてる。バラバラなように見える六人だけど、リチャードとシェリル、グランパとオリーヴ、フランクとドウェーンという組み合わせができてる。フランクもドウェーンもはぐれ者どうし。また自殺をはかるといけないから一人にはしておけないフランクは、他に部屋がないせいもあるがドウェーンの部屋に居候。ドウェーンは不服だったはずだが、肩をすくめて受け入れる。彼はニーチェに傾倒して沈黙の誓いを立てているから、例え不服でも口に出して拒むことはできない。フランクは世界で自分が一番不幸だと思い込んで抜け殻状態だが、妹の家に来てみれば自分なんか普通に見えてしまうほどの混乱状態。ドウェーンがメモを差し出す。「地獄へようこそ」・・そう、確かにここは一種の地獄。彼は地獄から抜け出すために空軍士官学校へ入ってパイロットになるのだ。それまでの辛抱だ。ところが・・ひょんなことから色弱であるとわかり、パイロットの夢は破れ・・ついでに沈黙も破れる。私がこの映画で一番印象的だったのがこのシーン。ドウェーンは車の中であばれ、外へ飛び出し「ファ~ック!!」と叫ぶ。この映画でのポール君の記念すべき第一声がこれ。すべてを超越していると自負していたけど、一挙に現実と言うか地獄へ突き落とされた瞬間。これもやっぱり見ている人の多くが共感したんじゃないの?わかるわかる・・他の者はやすやすと落ち込んでも、自分だけは穴にはまらないように・・って十分注意してことを運んでいたのに同じ目に会う。ちくしょう、自分もあいつらと同じレベルかよ・・って目の前が真っ暗になる。

リトル・ミス・サンシャイン5

天を仰いで呪いの言葉吐きたくなるあの瞬間・・ありますってば。前の晩は両親のケンカわざと聞いてほくそえんでいたのに・・。誰も無傷ではいられない。生きている限りいやなことはやってくる。これ以上はムリというくらい落ち込んで無気力なフランク。彼も例外ではいられない。グランパにうんとエッチな雑誌買ってきてくれと頼まれ、物色しているとゲイ雑誌もあったので買う気に・・。そこへ現われたのが元恋人の男性。しかもフランクからその恋人を奪い、おまけに何とか言う奨学金も奪った憎いライバルと一緒。これでもかというショックに打ちのめされるフランク。しかし・・彼が買おうとしている雑誌(グランパに頼まれたエロ雑誌)を見た恋人の顔色が変わる。不審そうな表情。エッもしかしてストレートに転向?それともバイ?フランクにとっては屈辱乱れ撃ち○連発。だが・・これが彼の転機でもあった。このエロ雑誌はその後の展開の伏線となる。旅行最大の危機は・・車の故障とかグランパの死とかいろいろあるけど、最大の危機は警官に見とがめられたこと。クラクションが故障してどうにもこうにもやんでくれない。警官にストップ命じられた時も、冷静にしていれば何でもないのに、小心なリチャードはオドオドソワソワ。態度が不審な上、余計なことまで口走るからますます疑われる。トランクを見せろと言われ絶体絶命。だってグランパの死体が入っているんだもーん。もうお客の誰もが「旅行中止!コンテスト出場は幻・・」と思ったその時・・パサッと地面に落ちたのがエロ雑誌。警官はとたんににやついて、リチャードの不審な言動もシーツにくるまれた人型の物体も、いいように解釈する。車にはちゃんと奥さんも乗ってるのにこの男は・・。そりゃソワソワするのもムリないさ、この好き者め・・と仕事そっちのけでエロ雑誌見てご満悦。ところが・・ゲイ雑誌まで出てきたものだからさすがの警官も今度は薄気味悪くなってきちゃった。長居は無用と早々に・・。ここらへんアメリカなら大爆笑なんだろうけど、日本だとお行儀がいいのか誰も声に出して笑わん(にやにやはしてるんだろうが)。まあホントうまくできているんですよ。もう一つの伏線はオリーヴのダンス。おじいちゃんが振り付け考えた・・という時点で気づくべきだったけど、見ている人誰も予想していなかったと思う。さて何とかコンテストには出場できたものの、オリーヴは場違いな存在。

リトル・ミス・サンシャイン6

水着審査などではおくれを取るけど、最後の特技披露で一発大逆転。針金みたいな手足とごてごて飾り立てたヘアスタイル、ケバい厚化粧のバケモノ美少女どもを蹴散らし、心癒すダンスでお客や審査員大感激させるのか・・と思ったら・・とんでもないことになっちゃった。しかもオリーヴ、あんまりダンスうまくない。あの体型だしリズムに乗ってない。意味もよくわかっていなくて、ただおじいちゃんに習った通りに踊ってる。でもってコンテストはメチャメチャ、主催者はカンカン(この女性「ドニー・ダーコ」に出ていた)。結局どのバケモノが優勝したのか不明(どうでもいいけど)。オリーヴのダンスがこの映画のクライマックスだろう。家族までステージに上がって踊り狂うからコンテスト会場のお客だけでなく映画を見ている我々もあっけに取られる。まさかこんなダンスだとは・・。一生懸命なオリーヴがおかしくも哀れ。ただこのクライマックスが成功しているかどうかはよくわからない。何となくちぐはぐ感あったし・・まあもう一度見れば笑えるんだろうが・・。それと私にとってのクライマックスはポール君の「ファ~ック!!」なんですよ。ともあれ毒気に閉口したフランクとドウェーンが新鮮な空気求めて海岸散歩しているシーンはよかったな。フランクは恋人との再会というショックを乗りきろうとしている。もう自殺なんかしない。ドウェーンはしゃべり始めたら自分が驚くほど素直に自然に家族や現実を受け入れているのに気づく。恋人やパイロットだけが人生のすべてじゃないさ!このコンビはとっても印象的だった。ポール君もうとっくに20過ぎているのに相変わらず高校生役。そういうところはジェシー君と同じですな。でも似合うんですよ彼。フランク役スティーヴ・カレルは「40歳の童貞男」で注目されたばかり。私は見てないけどいかにもアメリカっぽいオバカノーテンキ顔。でもこの映画では別人。ヒゲを蓄え、目をギョロギョロさせ、哲学的であり病的であり。演技も前にしゃしゃり出てくるのではなく抑えめ。でもちゃんと存在感があって、コメディーでもシリアスでも両方できるんだわーと感心。いやホント出演者は皆よかった。感動して涙がポロリなんてことはなかったけどおもしろかったし、リアルだった。終わって出てみると次の回を見ようという人達の行列ができていた。たまには活気づくのね、ここも。