臨死

臨死

私はわりとこういうタイプの映画は好きである。小規模でハデなスターは出ていなくて、でもしっかり美形は出てる。多少の出来の悪さ、ストーリーのつじつまの合わなさも大目に見ることができるような。これはWOWOWの「ハリウッド・エクスプレス」で紹介されているのを見たのが最初。高校生が何かの理由で霊の状態に。自分は見ることも聞くこともできるけど、まわりには気づいてもらえない。よくある設定だ。日本では未公開で、いつしか忘れていたが、ふとWOWOWで「臨死」という題でやってることに気づいて。その時見たのか、後でDVDレンタルして見たのか・・まあレンタルで見たんだろうけど気に入って、しばらくしてからまたレンタルして、とうとう中古DVD手に入れて。主演はジャスティン・チャットウィン・・クセのある顔立ちだ。「DRAGONBALL EVOLUTION」でブレイクするかと思ったが、だめだったようで。映画は大コケ、評判はものすごく悪い。シリーズ化するつもりだったろうに。私はまだ見ていない。そのうち見てみたいとは思ってる。他に「宇宙戦争」も彼目当てでレンタル・・中古ゲット。他に彼は何と「テイキング・ライブス」にも出ているのだった。冒頭二人の青年が出てきて、私はポール・ダノ君の方にばかり気を取られて。でももう片方のチャットウィンも、ものすごく強烈な印象。殺され方もむごい。まああまりにも強烈なので、かえって大人しそうなダノ君に走っちゃったんですけどね。「臨死」では育ちもよく、頭のいい優等生ニック役。いやホント、キラキラ光る澄んだ瞳の美しいこと!天使がキスをしそうな小さな口もかわいい。体もほっそりしている。でもラスト近くの病院でのシーンでは、意外に毛深くてありゃりゃ・・となる。あどけない寝顔に胸毛・・こりゃビミョー。それと・・彼、今は大丈夫だけど将来も大丈夫なんでしょうか髪。あの量を保てるんでしょうか。ああいう分け方・・額が広くて・・広いのはいいけど後退しちゃったらどうしよう。分け目が広がったらどうしよう。ウッ、大丈夫ですよねえ・・って誰に同意求めてる。DVDカバーには全米大ヒットって書いてあるけど本当ですか?どちらかと言うとコケた方じゃないの?スウェーデン映画のリメイクで、原作もあるらしい。

臨死2

ウッ、読みたいよ~!どうでもいいような本はばんばん出版されてるのに、こういうのの訳は全然出てくれない・・。結末はオリジナルではニックが死に、アニーは生きのびるようで、リメイクとは逆。でもニックが助からないんじゃこの映画リメイクする意味がない。ニックは優等生だが、心の中では孤立感いだいている。この孤立感が映画のテーマでもある。彼は父親をなくし、慕う気持ちは強いが、逆に母親(マーシャ・ゲイ・ハーデン)のことはうとましく思っている。彼女は彼を支配しようとする。レールに乗せ、行き先も決めてしまう。それでいて冷淡で無関心。ニックが何か話しても会話が成り立たない。朝食のシーンでの目玉焼きとベーコンが悲しくもおかしい。何不自由なく暮らせるのは母親のおかげだが、彼女にとって自分は何なのだろう。ニックは密かに金をため、航空券を買い、ここからおさらばするつもりだ。自分は留学し、作家になるのだ。やりたいことができぬまま死んだ父のようにはなりたくない。この年代の頭の鋭い子の常で、彼はガールフレンド、スージーのこともさめた目で見ている。彼女は美人で母親公認・・要するに似たタイプの女。彼を支配し、ハンサムで金持ちで頭のいい彼をお飾りに、自分も輝こうという魂胆。愛してるかどうかは別問題。だからニックが行方不明になっても彼女は悲しまないし、心配もしない。ニックにはピート(クリス・マークエット)という親友がいる。彼は典型的ないじめられっ子である。小さい時からずっとそうで、いじめられるのが日常化している。いじめる方も、まわりに一目置かれ、家も裕福なニックを標的にしたりしない。ニックは受け流すし、母親は(いかに無関心に見えても)いじめを知ったら黙っちゃいないだろう。今日もピートは学校のトイレで不良のアニー(マルガリータ・レヴィエヴァ)とその仲間に金を巻き上げられる。アニーにしてもその手下にしてもつるんでいるからこういうことができるわけで。一人じゃできない。また、ピートのようなタイプは親や教師には黙っているからいじめ続けるのだ。アニーの家庭環境は劣悪で、彼女もやはり孤立感を味わっている。手下とは何の心のつながりもない。弟のヴィクターのことを思いやるやさしい一面はあるが、そういうのを見たからって彼女に好感いだけるものだろうか。

臨死3

さて、ニックは家出の計画が母親にばれてだめになり、将来への希望を失ってしまう。ただ彼は空しさに打ちのめされはするが、まわりに暴力ふるったりは決してしない。怒りや絶望は内へと向かい、沈澱する。アニーの方は暴走しやすい性格。後先考えず行動し、まわりに迷惑かける。感情は表に暴力となって噴出する。恋人のマーカス(アレックス・オローリン)は車泥棒で、今も仮釈放中だってのに車を盗もうとする。ただ彼は悪党には違いないが、自分の分はわきまえている。車の知識があるから車を盗むのだ。人を殺したり、今アニーがやらかしたようにウインドーをぶち破って宝石を盗んだりはしない。しかしアニーはマーカスに危機感いだかせる。刑務所送りになったことがなく、怖いもの知らず。この瞬間スカッとできればいい・・くらいに軽く考えてる。マーカスは強盗の件を警察に密告。アニーはそれがピートの仕業と思い込み、痛めつける。ピートには答えようがないが、苦しまぎれに密告したのはニックだとウソをつく。どうせ彼は今頃家出して飛行機の中のはず・・彼のせいにしても実害はあるまい。そんなこんなのせいでニックは理由もわからずアニー達に袋だたきにされ、ひん死の状態のまま森の中の穴に捨てられる。殺しちゃったぞ・・どうする・・と、あわてる手下達。あわてるくらいなら最初からこんなことするなっての。君達先を見通せるようもっとレンコンを食いたまえ!って何のこっちゃ。次の日早くも母親はニックを心配し警察に届ける。無関心のように見えるが実は息子のことは心から愛しているのだ(お約束の展開)。刑事ターソン役カラム・キース・レニーはなかなか渋くて見ていて楽しめる。ちょっとダニエル・クレイグに似ているが、キラキラ感はなく、地味。「ブレイド3」に出ているらしいが見たことなし。「シルク」や「X-ファイル:真実を求めて」に出ていたらしいが覚えなし。そういうタイプなんだろう。いちおう「X-ファイル」のパンフ見てみる・・第二の誘拐犯役・・ウーム(わからん)。第一このパンフ、テレビシリーズのことばっかで映画のことろくに書いてないし。テレビシリーズのDVD買わせようっての見え見えだし。まあいいやそのうち見る機会あるだろう第二の誘拐犯。

臨死4

相棒タニー役ミシェル・ハリソンはきれいに整った美人だが、やはりキラキラ感はなく、存在感に欠ける。「ペイチェック 消された記憶」や「トゥルー・コーリング」に出ていた。ラーソンとタニーの捜査ぶりはなまぬるくて、見ていて物足りない。ニックが失踪して一晩しかたってないから、警察がやる気出さなくても当然だが、同じ高校のアニーが盗品持っていて逮捕されたばかり。それも男の声でタレコミがあったから。この二つをなぜ結びつけて考えない?アニーがなぜすぐ釈放されるのかもよくわからない。アニーの父は元警官。ラーソンとは知り合いで、彼自身子供の頃の無邪気なアニー知ってるから、変わってしまった彼女に対処できない。一方ニックは体から魂が抜け出し、さまようが、最初のうちは自分の状態に気づかない。朝になって学校へ行き、まわりが自分のうわさしているのを聞く。本人の目の前でこんなこと言うか?からかっているのか?・・自分のいないところでは人は自分のことをどう話しているのか、誰も見ていない時人はどういう行動を取るのか・・誰でも一度は想像したことがあるだろう。気づいてもらおうとものを投げても、ふと見ると元の状態のまま・・という描写は工夫が感じられる。霊なのにカゲがあるのはおかしいとか、人にぶつかったりせずすり抜けるはずなどという意見もあるが、まあいいでしょう。私としてはチャットウィン見続けることができるのはうれしい限り。それにしても事態はニックに不利だ。いくら呼びかけてもピートには通じない。ピートは自分からは決して置かれた状況から抜け出さない。何かあると呼びつけられ、よくないことを手伝わされ、用がすむと帰ってよろしいとなる。自分から行動を起こすことはなく、その場しのぎ。ウソにウソを重ね、嵐が自分の上を通り過ぎるのを待つ。いくら真実を話すチャンス、後戻りできるタイミングを与えられても手を出さない。そこが自分の居場所になってしまっているのだ。いよいよとなるとニックの部屋へ忍び込み、金を盗む。どこかへ逃げよう・・でも彼には具体的な計画は何もないはずだ。親も彼のうわべしか見ていない。警察の取り調べをさえぎって、家に連れて帰る。自分の家、自分の部屋にいればもう安心・・というわけだ。これでは何の解決にもならない。ピートはとうとう自殺をはかるが、最後まで逃げ続けたとも言える。

臨死5

真相を書いた遺書残したようにも見えん。悩み続けた彼は気の毒だが、親友であるニックのことはどう考えていたのだろう。なぜ一度も助けようとしないのか。なぜああやってほうっておくのか。彼が死ねば両親は警察のせいにするだろう。取り調べのせいで息子の精神はズタズタに・・とかさ。自分達が納得できる理由見つけて・・つまり何でも人のせいにしてそれで終わり。ピートも家の中で孤立感を味わっていただろう。でもアニーにもピートにも同情する気にはなれないね。私が気の毒に思ったのはマーカスである。前にも書いたが彼は悪党だが今回のことはとばっちりである。宝石強盗だけでも迷惑なのにアニーは殺人までしでかしたらしい。何かやっても助けてもらえると思っているのだからいやになる。恋人とは言え、こんな爆弾みたいな娘・・ほとほと愛想が尽きた。殺人がばれればアニー以上に自分は困る。前科者だから無関係だと申し立てたところで信じてもらえないだろう。強盗も殺人も全部自分の仕業にされてしまうことだってありうる。困ったマーカスはピートに手伝わせ、ニックの体を森の穴から河原に移す。ダムの下流にあり、放流されれば一気に流される。あのまま森に置いても(誰かがしゃべらない限り)見つからないと思うが・・。体を移されたことを当のニックが気づかないのはおかしいと思うが・・。まあそこは目をつぶるとして、穴から覗き込んだマーカスは「気の毒に・・ひでえな」とつぶやく。アニーやピートよりはまだ人間らしい。とは言えマーカスはアニーの尻ぬぐいをしなければならず、そんな状況へ追いやったのはアニーで、それでいて途中で気が変わって(と言うかニックの呼びかけが彼女には聞こえ、彼女を悩ませるのだ)ニックの体をどこへやったと銃を突きつけ、マーカスを脅すのだ。気が変わるくらいなら最初からこんな事件起こすなよッ!ところで自殺したピート、アニーに撃たれたマーカス・・二人ともどうなったの?ピートはどうでもいいけど(←?)マーカスは?この映画あいまいな部分多い。それでいてアニーが死んでしまったらヴィクターはどうなる。そこんとこはっきりさせなきゃ・・と余計なエピローグくっつける。アニーが死に、ニックが生き返ったところで終わりでいいじゃんよ。

臨死6

ヴィクターに限らず人は皆人生と戦っていかなきゃならないのだ。ヴィクターだけ特別扱いするな。子供とは言え彼はけっこうたくましく、ふてぶてしく生きていくのではないか。ニックが助け出されるまでは四日ほど経過している。力まかせに殴られ、落とされ、最後はダムの放流のために水に沈む。よくもまあ助かったものだ。ラスト、ヴィクターの前に現われた時には、顔には何の傷もなく、足を引きずってもいない。骨折とかしていたはずで、後遺症が全くないのはおかしい。話は前後するが、ピートに呼びかけても無駄だと知ったニックは、アニーに呼びかけることにする。自分は死んで成仏できずさまよっているのだと思っていたら、どうやらまだ生きているらしい。昏睡状態の老人や小鳥のエピソードはなかなかいいと思う。特に病院でのからの車椅子や、老人(の霊)との遭遇はゾクッとする。この映画ホラーにしては怖いシーンはほとんどないけど(と言うか、私はホラーだと思ってこの映画を見ていたが、映画サイトとか見るとサスペンス、青春、ファンタジーと書いてあって、ホラーとは書いてない)、こういうシーンも入れておかないとね。もっとも老人と小鳥だけでは少なすぎるような気も。特に病院なんかもっといろいろさまよっていそう。自殺をはかったピートも霊になって出てきて、一歩間違えれば爆笑シーンだ。さて、アニーに関しては作り手も苦労したようだ。あんまりひどい性格にすると見ている人に好意持ってもらえない。最初はふてくされていて暴力ばかりが目立つ不良。でもかわいそうな境遇なんですよ。弟にはこんなにやさしいんですよと大いに擁護し、ぐれたのも無理ないんです環境が悪いんです彼女は悪くないんですの大合唱。最後は改心してニック生き返らせるために命投げ出してまるで聖女のように美しく清らかに死んでいく・・とやりたいのだ。作り手のそういう路線に乗れます?ケッ!冗談じゃない、ピートと同じで彼女にもやり直す機会はたんとあった。でも彼女は足を止めず破滅に向かって突っ走った。何もかも自分の招いた結果。レヴィエヴァは顔立ちが整っていてかなりの美人。ウクライナ出身だそうで、なるほどアメリカ的な美女とはちょっと感じが違う。まあ美人の方が映画見ていても楽しめるが、リアリティーには欠けると言うか・・。美しく神々しくうつそうと光の当て方やうつす角度こねくり回している。

臨死7

逆にリアルすぎるのがゲイ・ハーデンの母親。ニックは絶対父親似だろう(よかったね、母親に似なくて)。さてDVDのコメンタリーで、監督と脚本の人がこの映画のテーマは「孤立感」と言ってたけど、私はそれ以外に「許し」も強く感じた。ニックは自分をこんな目に会わせたアニーに怒る。彼女を屋上から突き落とした時には「やった!」と思った人も多いだろう。でも残念・・霊にはそんな力はなく、アニーは元のまま(せめて原因不明の恐怖感くらい感じさせて欲しかった)。でもそのうちニックはアニーを許す。自分との共通点を見出したから、お互い無意識に引かれ合ってるからとかいろいろ解説していたが(やっぱニックも美人には弱いというのがホントのとこだろうが)、とにかくニックはアニーを許したのだ。彼にはまだ汚れていない素直さのようなものがあり、だから他人を許し、受け入れる余地がある。母親を許すこともできた。普段なぜああいう無関心な態度取るのか結局理由はあいまいなままだが、息子をかけがえのないものと思っていることだけはニックにも身にしみてわかった。母親はアニーを許した。息子をひどい目に会わせたアニーがのこのこ現われた時には怒りに身をふるわせたが(鼻の穴がおっぴろがったが)、信じられないようなことを聞かされ・・目には見えないけど息子さんは今私達のそばにいるんですッ!!・・結局は彼女が病室に入り込むのを許す。許したおかげでニックは生き返る(母親の愛じゃ生き返らないのかよッ!)。てなわけでいろいろ書いてきたけど、人生のスタート地点でつまずかなければニックとアニーは出会って恋に落ち、じいさんばあさんになるまで静かに暮らせたんだろう。でもつまずいたとしてもやり直すことはできる。アニーの場合間に合わなかったけど、暴走したまま死ぬよりはマシ。監督デヴィッド・S・ゴイヤーはどちらかと言うと脚本を手がけることが多い。「ザ・クロウ」「ダークシティ」など私好みの作品が多い。どこか暗くて物悲しい雰囲気が漂うが、どこかに希望もほの見える。全くの絶望ではない。「臨死」は映像がとてもきれい。あまり残酷でもいやらしくもなく、女性向きの作品。チャットウィンの美しさはちょっとバランスの崩れた美しさで、中には気持ち悪いと書いてる人もいるが、だからこそ魅力的・・と私は信じている。これからも彼には注目だ。