レプリカント

レプリカント

私はジャン=クロード・ヴァン・ダムの出演作の中でもこれはかなり気に入った。ジャンルとしてはアクションだが、SF風味も入ってる。ヴァン・ダムはSFと相性いいように思える。セガールだと合わないけど・・セガールは存在自体がSF(SONNA FUZAKETA・・の略)。今回はクローンがどうのこうのだけど、科学的根拠はかなりいいかげんで、都合のいいところだけをいただいている。残りは無視する。・・町を騒がせている連続殺人鬼トーチ(ヴァン・ダム)。未婚の母を狙い、殺した後放火する。今日も一人の女性が電話で助けを求める。・・「96時間」のミルズなら「おまえはもう助からないから犯人の特徴をできるだけ詳しく言いなさい」・・と言うところだが、もちろんそうはならない。警察が急行するも時すでに遅く、女性は殺され、部屋は火の海。刑事ジェイク(マイケル・ルーカー)は炎の中から何とか子供を助け出し、窓から外へ。その時同じようにアパートの非常階段を下りる男がいるのに気づく。トーチだ!彼は女性を殺した後すぐ逃げ出すわけでもなく、何となくぐずぐずしている。今までもそうだったのだろう。それでつかまらずにいるのは映画だからだ。今回も惜しいところでジェイクはトーチを取り逃がす。同僚アンジー(キャサリン・デント)からは「あなたは1時間前に退職したのよ」といやみを言われる。登場したとたん退職かよ・・とびっくりである。映画を見ていてもこういう設定にする必要あったのかな・・と首を傾げてしまう。退職した理由も明らかにされない。停年というには若すぎるし、上司とそりが合わないのは確かだが、何か衝突したのか。責任取らされるようなヘマやったのか。彼はもう三年もトーチ追っている。犠牲者は11人にのぼる。退職迫られて承諾するようなタイプではない。トーチ逮捕に執念燃やしそう。でもあっさり退職し、ボートの修理屋か何か始めるようだ。でもその後何も仕事してない。友人が仕事回してくれただろうが、手をつけた様子もない。彼は退職する必要は全くない。上司と衝突しながらトーチ追いつめるはずだ。一方トーチからは電話かかってくる。ラブコールである。トーチとしては彼にやめてもらっては困るのだ。他の警官じゃ自分に肉薄できない。同じ戦うなら手ごわい相手の方がいい。

レプリカント2

自分をピンチに追い込むくらいの・・そうでなきゃ興奮できない。「ザ・ウォッチャー」のグリフィンや「ブラッド・ワーク」のノーワンと同じである。彼らは自分はうまく逃げられるとうぬぼれている。その一方でいとしい(←?)相手によってつかまえられたい。ジェイクにはFBIからも声がかかる。しかし実際は国家安全局の連中で、人里離れた研究所で何やらこそこそやっているのだった。ここらへんもよくある設定・・「フェイス/オフ」みたいな。トーチは本名や人相はわからないが、手がかりは残している。手がかりと言うか・・毛がかりか。そのDNAから一年ほどかけてクローン・・レプリカ・・レプリカントを作ったのだ。ウ~ン・・赤ん坊作ってどうする・・事件解決に役立つまで何年かかるんだよッ!!と、正常な思考の持ち主なら考えるところだが、そこは映画、もうちゃんと大人の形で生まれてくる。しかも・・ここまで荒唐無稽ならそれにいくつか上乗せしたって見逃してくれるだろう・・とでも思ったのか、このクローン、テレパシー能力も備えている。こういう研究と、ありふれた殺人鬼捜し出すためにそのクローン作り出すのと、どういう関係があるのかいな・・と思ってしまうが、そこらへんも追究するだけ無駄である。とりあえず警察の捜査に利用してみて(厳密にはジェイクはもう警察の人間ではないが)うまくいくかどうか(テレパシーで情報がすんなり入ってくるかどうか)調べ、うまくいかなかったらまた別の方法で・・。国家安全局にとってはトーチがつかまるかどうかなんてどうでもいい。ただ、テレパシー能力調べるのならジェイクにまかせっきりにせず、自分達の方から一人お目付け役つけるはずだが・・。クローンには発信器埋め込んであるから居場所すぐわかる・・とノーテンキにかまえている。ここらへんも穴がボロボロ、蜂の巣状態のストーリー。ま、いいんですけどね。ところでこのクローン・・名前あった?レプリカントじゃ長いからレプリーにしとこ。生まれたばかりの彼は白紙状態である。とりあえずはテレビやビデオ見て過ごす。そのうち精神が感応して、トーチからの情報が入ってくるだろう。もちろんジェイクは一刻も早く情報仕入れたいからレプリーに迫るのだが、これも考えてみりゃおかしい。何かをしゃべらせようとするならまず言葉を教えなきゃならないが、それをしない。

レプリカント3

習ってもいないのに「話せ!」と強要されても困るわな。何かしゃべったとしてそれが正確かどうかも不明なわけだし。二人してあぶら汗流してるのを見て笑いをこらえていたのは私だけ?胎児状態の一年の間に学習テープ流し続けて、言語能力は一通りついてるとかさ、そういうもっともらしい描写くっつけろっての。SFだから、お客はヴァン・ダム目当てだからそういう細かいことはいい・・じゃなくてさ。それにしても生まれたまんまのからっぽキャラはヴァン・ダムによく合っている。まあこういうキャラだとこういう演技ってのがあって、彼もそれ以上でもそれ以下でもない。別に目新しいものはない。知的さや演技力が売り物の俳優がこれをやったらいやみだけど、ヴァン・ダムなら大丈夫。ポケッとした顔つきで、猿みたいにヒョコヒョコ歩く。最初のうちジェイクはレプリーのことなんか人間だと思っていない。殺人鬼と同じ血が流れていると思えば嫌悪するのも当然。この男はただの手がかり、作られた品物にすぎない。国家安全局の連中に至っては役目が終われば処分・・と考えている。でもそれってひどいと思わない?そういうふうに考える理由の一つは、人体を通さず生まれるからだろう。将来こういうふうに人間が誕生するようになったら、人命の意味も変わってくるかも。軽くなるかも。それにしてもジェイクの扱いはひどい。と言うか、彼にもどう扱っていいのかよくわからないのだろう。アンジーの家で、彼女の息子ダニーを殴ったと勘違いしたジェイクはレプリーをさんざん痛めつける。本当は飼い犬の頭突きをくらっただけなのに・・。レプリーには何の弁解もできない。説明するほどの言語能力がないのだ(・・ってそんな状態で実地に出すなよッ!複雑な犯罪者心理どうやって伝えられるかっての!)。彼に発信器が埋め込まれていると知ると、何とか取り出そうとトイレでズボンを脱がし、捜し始める。そこを母親に見つかってしまい、あわてる。ここは笑いどころだが意味もわからずパンツ一丁にされてるレプリーを見ると誰しもせつなくなるだろう。母親の言葉はよかった「まわりの扱いで人間は変わるのよ」・・これってトーチにも実は当てはまるのだ(後で書くけど)。さてジェイクはアンジーといい仲のようで、警察のパソコン使わせてくれるよう頼み込む。彼女にだけはレプリーのこと説明するかと思ったがしなかったな。

レプリカント4

レプリーがトーチのクローンなら人相の照合ができる。そうやって浮かび上がったのがギャレットという男。・・と言うか、これなら別にジェイクにやらせなくたって・・あッ!あいつらはテレパシー能力の方が本命なんだっけ(わけわからん)。ギャレットの部屋を急襲すると彼は留守。ジェイクがパソコンいじくってるうちに起爆装置が働いて部屋は爆発・・と言うかああやって安直にいじります?よくてデータの消去、悪くて部屋の爆破に決まってるじゃん。その騒ぎで初めてギャレットとレプリーは顔を合わせる。二人の対決はワクワクというわけにはいかない。区別がつくようにギャレットの方はチリチリパーマ、顔が見えにくいぶん代役ってこと。彼はさほど混乱もせずレプリーの存在受け入れる。手を組もうと持ちかけるが本心とは思えない。血のつながった分身求めるとすれば身代わりにちょうどいいからだ。彼がこんな殺人鬼になったのは母親のせいである。子供時代の悲惨な経験のせいで精神がゆがんでしまった。「悪い子ね」といった類の言葉を聞くと自動的にスイッチが入ってしまう。普通に子供をしかっているだけなのに、その母親は殺す対象になってしまう。彼の屈折したところは、自分の行為を寝たきりの母親に報告すること。母親は息子の話すおぞましい話を聞かなければならない。しかもそれらはすべて自分が原因なのだ。自分を取るかジェイクを取るかギャレットに迫られたレプリーはジェイクを取る。あんなに殴られ、小突き回されたのにそれでもついていく・・。迷子の子犬か雨の中必死にすり寄ってくる捨て猫みたいじゃないか~ウルウル。とは言え頭からっぽに見えてレプリーは意外と賢いのだ。ちゃんと危険から逃れる方法知っていて・・あんなのありえないけど、でもハッピーエンドの方がいい。ジェイクとレプリーが仲良くボート修理屋を・・ってのもいいけど、雨の中の郵便受けのロマンチックなシーンも捨てがたい。そうか彼は一人で生きていくのね・・と感慨にふけっていたら・・ギョギョッ、そうきましたか。でもどうやって暮らしていくの?ヒモ?用心棒?何かいっぺんにノーテンキな感じになって(やれやれ)。ルーカーは知らない人だが武骨で・・シオカラ声がまたたまらなくいいんだな。ギャレットの方のヴァン・ダムもよかった。虚無的でどこかアラン・ドロンに似ていなくもない(私の目がおかしいんだろうけど)。