連鎖犯罪/逃げられない女(フリーウェイ)

連鎖犯罪/逃げられない女(フリーウェイ)

どんな俳優にも、こういうのだけは見たくなかった・・とファンが思うような作品がある。キーファーファンにとっては本作がそれなのでは?私は・・まあ最初に彼を見たのが「ダークシティ」だったからねえ。あの作品でのキーファーは相当妙な顔をしていた。それにしても「連鎖犯罪」を見たキーファーファンは当惑する。いや、ファンでなくたって当惑する。サイコサスペンスを期待して見始めたのに怖くない。何だかコメディーみたいだぞ。でも笑えない。私は中古ビデオを買って見たんだけど、カバーにだまされたようなものだ。キーファーの写真は選んである。つまり後半の変形した顔はうまく隠してある。それと主演はキーファーではなくリース・ウィザースプーンである。16歳の役。さすがに演技はうまい。あんまりおもしろいとは言えない映画を、ぐいぐい一人で引っ張っていく。どぎつい化粧をした時より、少年刑務所に入っている時の素顔の方が断然かわいい。横顔だとまあすごいおでこである。天下無敵のおでこだと思う。冒頭若い女性と狼の絵が出てくる。要するに赤ずきんちゃん気をつけて。映画のなかみがほぼわかってしまう。それでいいの?推理する楽しみ奪ってる。十代の女性がフリーウェイ(これが原題)で連続して殺される。ヒロイン、ヴァネッサもそのフリーウェイで車が故障して困っていたのを助けられる。ヴァネッサは家庭に問題ありの少女。母親は売春、継父は麻薬、おまけに性的虐待。里子に出されればボケ老人の下の世話。もちろん本人にも問題あり。万引き、放火・・。字もろくに読めない頭からっぽ少女。授業中も恋人チョッパーといちゃいちゃ。でも逆境にも負けず、しぶとくしたたかに生きている。今日も母親と継父は刑務所送り。もう里子に出されるのはいや。おばあちゃんのところに行けば何とかなるかも。死んだ実父の母親で、まだ会ったことはないけれど。途中で出会ったボブは精神科医。親切だし何でも話せる。ヴァネッサが今まで会ったことのないタイプ。・・キーファーはこの頃30歳くらいか。オールバック、メガネ、ちょっと太めの体形、ゆっくりとおだやかなしゃべり方、深みのある声・・などのせいでもっと年上に見える(いちおうボブは32歳という設定)。ボブは困っているヴァネッサを助ける。食事や散歩をしながら話を聞いてやる。ヴァネッサがだんだん心を開いていく過程はなかなかいい。

連鎖犯罪/逃げられない女2

このままヴァネッサが彼の助けによって辛い過去を克服し、立ち直るというヒューマンドラマであってもいっこうにかまわないくらいだ。しかし(残念ながら)作り手が見せたいのはそんなことではない。冒頭部分によって、ヴァネッサが赤ずきん、ボブが狼だというのはわかってる。ヴァネッサはおばあちゃんの家を目指す。徒歩で森の中を行くのではなく、車でフリーウェイをだけど。腕に下げているのはバッグやトランクではなくカゴである。いつボブは本性をあらわすのか。ヴァネッサはどう危機を乗り越えるのか。童話と違うのは彼女が銃を持っていること。ボブがカミソリをちらつかせても、銃の方がやっぱり優位に立てる。見ていて残念なのはボブが意外と軟弱なこと。問題のある少年達のカウンセラーとして経験を積んでいるはずなのに。すでに二人殺していて、殺人なんてちょろいものだと油断していたのか。・・とにかく慎重さに欠ける。ヴァネッサと一緒に食事したり散歩したりして、まわりに顔を見られても気にしてない。両親は刑務所、姿を消したってすぐには騒ぎ立てる者もいない・・と思っているのか。それにしたって正体あらわすには時と場所を選ぶんじゃないの?片手で運転、片手でカミソリ・・なんてどういうつもりなのかな。案の定すぐに立場は逆転、銃を突きつけられると泣き出す始末。自分は逮捕されない、精神的な病気だから裁かれないなどと言う。ボブは社会的な地位のあるインテリ医師、結婚もしている。16歳の不良少女とではまわりの信用度が違う。ヴァネッサが何言ったって相手にされない。ボブは車がエンコして困っていたのを助け、食事をさせてやり、悩みを聞いてあげた。過去を克服する治療も(ただで)してあげた。逆にヴァネッサは前科だらけだし、無許可で銃持ってるし、福祉員を手錠でベッドにつないで逃げている最中だ。どう考えたって彼女の方が分が悪い。さて、ボブが最新の治療・・ショック療法だとか言って、話が卑猥な方へ進むのでヴァネッサは切れてしまう。でもそこで、あくまでもこれは治療だと押し通して、ヴァネッサがとうとう納得してしまうような、ボブがそれくらいのしたたか者だったらよかったのに・・と思ったのは私だけ?非常な不快感を伴う治療というのは、「リアル・ブロンド」でも出てくる。聞くに堪えないようなことを言われ、がまんするのをやめ、泣いたりわめいたり食ってかかったり。

連鎖犯罪/逃げられない女3

そうやって感情を爆発させ、逃げることをやめ、現状を受け入れる。そういう治療法も実際にあると思う。でも映画ではどうしても男性が女性をいたぶる方法として描写されてしまう。治療に名を借りたセクハラ。とにかく、ヴァネッサはしたたかだけど、ボブはそれ以上にしたたかだ・・と、見ているこっちが納得してしまうような演技合戦を見せて欲しかった。この二人にはそれができる。でも女は切れるし、男はおびえる。銃でバンバン。・・結果を出すのはいつも銃だ。ウーム残念・・と言うか、見ている者に溜飲を下げさせる路線の映画なんだろう。あんまり深く考えちゃいけない。あんまり程度の高いこと期待しちゃいけない。いいぞその調子、インテリぶった変態なんかやっつけちまえ!・・そういう映画。ヴァネッサがボブに何発も撃ち込むので、あら?キーファー殺されちゃったわ、まだ半分しか来てないのに・・とびっくり。この後どうなるの?カバーには「ハイウェイに棲むサイコ・キラーが少女を狙う!」と書いてあるけど違うじゃん。「少女がサイコ・キラーをいじめ、撃ち殺す!」じゃん。ちょっとがっかりしていたら・・あら?ボブ、生きてたの?うれしいけどありえな~い。だって首と胴体何発も撃たれてた。通りかかったドライバーに発見されて救急車で・・じゃなくて自分で病院まで歩いて。近くに病院があったのね、都合よく・・。もちろんヴァネッサはすぐつかまって少年院送り。ボブは助かったもののひどい状態。妻役はブルック・シールズ。彼女子供の頃は毎号のように「スクリーン」や「ロードショー」の表紙やグラビア飾ってたっけ。あッそう言えば今日の新聞に「ロードショー」休刊って書いてあったな。時代の流れを感じるな。ジョディがエールならブルックはプリンストン。しかも首席で卒業。頭もいいのだ。ところが本業となるとブルックはぱっとしない。背が高すぎる(183センチ)せいもあると思う。今回はヴァネッサ恨む高慢ちきな妻。そりゃ大事な夫不具にされたのだから恨んで当然。未成年だからって何よ、不幸な生まれだからって何よ。かたやヴァネッサは裁判でボブを見て目を丸くする。へぇ~銃一つでこうなっちゃうんだぁ~。彼女おもしろがってる。反省ゼロ。私の後に犠牲者が出ないよう私のところでサイコキラーを止めてやった・・と思ってる。その心がけはりっぱ。彼女には彼女なりの正義があり、それを貫き通す。

連鎖犯罪/逃げられない女4

ヴァネッサは女性のかがみ、正義の味方。ボブは犯罪者、異常者。ボブは不具になって当然、天罰だ、いい気味だ。我々は状況をよく知っている。でも二人を見てスカッとできるかと言うと・・そうはならないんだよな。少なくとも私はね。ボブにちょっぴり同情しちゃう。ボブの奥さんに大いに同情しちゃう。高慢ちきで意地悪な女性かもしれないけど、ある日突然生活をめちゃくちゃにされれば、怒り狂って当然。しかも相手は自分達のことおもしろがってる。正義が勝てばいいってもんじゃない。いやな女だから不幸になって当然ってもんじゃない。そりゃもちろんヴァネッサじゃなくて警察がボブの犯罪あばいたのなら、奥さんの反応も変わっていただろうけどさ。どうも後半は見ていても気持ちがあれこれゆれ動く。この映画居心地(・・見心地かな?)が悪い。少年院へ送られたヴァネッサは脱走の機会をうかがう。一方彼女を信用せず、ろくな捜査もしないでいた刑事達。フリーウェイの事件担当の彼らなら、もっと身を入れて捜査するはず。ボブはどう見てもサイコキラーには見えないが、逆に言うとヴァネッサのような問題児が安心して心を開くようなタイプでもある。若い女性が続けて犠牲になったのは、犯人がおだやかなインテリタイプだったからなのでは?いちおう念のためボブの身辺調べるのでは?車のルート、車そのもの、立ち寄り先(食堂とか散歩道とか)。そこらへんの描写全くなし。何か手抜き。ヴァネッサに比重かかりすぎ。少年院での暮らし・・他の女囚との争い、友情の芽生え。裁判が続き、ボブは少し回復する。その間どれくらいたってるのか不明だが、数ヶ月はたっているだろう。当然のことながらフリーウェイでの殺人はやむ。そのことを刑事達はボブの状況と結びつけて考えないのか。まあこのままだといつまでたっても事態が進展しないので、刑事の一人が突然ころっと考えを変える。ヴァネッサの友人に話を聞くと(彼女を信用していないのになぜ話を聞くのかよくわからん)、みんな彼女のことを悪く言わない。しかも彼女の恋人は黒人だった。刑事のブレアにはそれが意外だった。彼も黒人だから。人種差別をしない彼女は、もしかしたら事件のことも真実をしゃべっているのかも。事件現場へ行ってみると、何ヶ月もたっているのに、カミソリで切られたヴァネッサの髪が落ちている。ゴミもホコリもついてない切りたての髪!

連鎖犯罪/逃げられない女5

ヴァネッサの証言を信じる信じない以前に、事件現場の捜査ろくにしてなかったってことの証し。それほど無能なのか、ぐうたらなのかブレアとウォーレス。ボブの家を調べてみると、裏に小屋があって、開けてみるとポルノがどっさりんこ。それを見た奥さんは・・。今まで築き上げたもの、信じていたものがポルノ雑誌の山同様がらがらと崩れ落ちる。りっぱな夫、被害者である夫、その夫に献身的に尽くす若くて美しくてけなげな妻(・・テレビにまで出て、そのりっぱさ喧伝しちゃった)。それが今度は・・あいつは殺人犯、あいつはビョーキ、変態、異常。そのことに何にも気がつかなかったバカな妻。奥さんは発作的に自殺をはかる。この時のブルックは、体が大きいせいでドタドタした感じ。絶望して階段をかけ上がるが、お尻は大きいし足は太いし。どうもこの映画でのブルックは、広がった感じのヘアスタイル、鍵束みたいな耳飾り、白い服に白いハイヒールなど、外見は上流階級の美人妻なのに、育ちすぎた小学生みたいな変な感じ受ける。完璧な美人なのにどこかちぐはぐ。太っているわけでもないのに見かけも動作も重い。しかもこの映画自殺した奥さんの死に顔まで見せる。さあ笑ってくださいと言われているみたい。笑えませんてば、気の毒で。さて、リハビリから戻ってきたボブ(もう車も運転できる)、家に警察が来ているのに気づき、方向転換。小屋の中かたづけておけばよかったのに、彼ったら。少したったらまた始めるつもりでいたらしい。ちょうどその頃ヴァネッサは脱走。刑事、ヴァネッサ、ボブの三者が揃って向かうのはおばあちゃんの家。何か都合のよすぎる展開だな。しかも時間がほどよくずれてそれぞれが到着する。刑事二人が童話での猟師にあたるのかな。最初に到着するのが狼ボブ。おばあちゃんを殺し、自分はベッドに。ナイトキャップをかぶり、口は隠して目だけ出す。ヴァネッサに撃たれたせいでボブは顔の半分がマヒしている。口がしまらず、常によだれが出てしまう。ああ童話と同じ、狼の裂けた口ってことなんだろう。ボブはヴァネッサが脱走したことは知らないはず。それでも待ってたということは、途中でニュースを見たか聞いたかしたってことだが、そういう描写はなし。とにかく狼と赤ずきん、あの誰でも知ってるシーンを映画でとりたい、作り手はそればっか考えてる。

連鎖犯罪/逃げられない女6

ヴァネッサが到着する。ボブが正体あらわす。おばあちゃんは首をしめられて裸で死んでいる。ヴァネッサが先にこっちのおばあちゃん見つけたらどうするつもりだったのかな。つまり・・死体隠すんじゃないの普通は・・。それから戦うわけだけど、この時のヴァネッサも銃持ってる。前の経験で銃が役に立つってこと痛感してるからね。かなり体力回復していたボブも、またまたやられちゃう(少しは学習しろよッ!)。刑事二人はもちろん役に立たない。赤ずきんは自力で狼倒すんです。お化粧のはげたひどい顔にもかかわらず、ボブを倒した(今度こそちゃんと死んでる)ヴァネッサは晴れやかに笑うのでありました、ハッピーエンド!・・っておいおい。脱走する時、所長殺されてる。手をくだしたのはヴァネッサではないけれど、きっかけ作ったのは彼女。売春婦のふりをして車を奪い、男性をトランクに閉じ込めた。無許可の銃を持ってた。こういった余罪(?)は、ボブを倒したことで帳消しになるのか。元はと言えば刑事二人がずさんな捜査やったせいでもあるし。もちろん映画はそんな細かいことうつさずさっさと終わる。だから余計なことと思いつつもこの後のヴァネッサに思いをはせることになるのだ。頼りにしていたおばあちゃんは殺されてしまった。ヴァネッサは結局また里子に?それじゃ今までと変わりないじゃん!・・まあこんな長い感想書くような映画じゃないんだけど、こういうくだらないのって不思議に書くこといっぱいあるんだよな。とにかく登場してから正体あらわすまでのキーファーはホントによかったのよ。若いけど落ち着きがあって包容力があって頼れそう。奥さんとの生活がどのようなものだったのか見たかったな。この通りの、抑制のきいた知的な生活だったのか。それともうわべだけとりつくろった冷えた関係だったのか。う~ん、いろいろ想像しちゃう。他の出演はヴァネッサのダメ母にアマンダ・プラマー、恋人チョッパーに「ビッグ・ヒット」などのボキーム・ウッドバイン、刑事ウォーレスがダン・ヘダヤ。いつもにこやかなのがかえって不気味な女所長がよかった。彼女を殺す女囚メスキータもよかった。ブリタニー・マーフィは何の役かな。少年院でヴァネッサにまとわりついてくるヤク中でレズっぽい少女の役かな。