レッド・ライト

レッド・ライト

ロバート・デ・ニーロとシガニー・ウィーバー共演の超能力物。いや・・主演はキリアン・マーフィなんだけど、この二人に挟まれると、ちょっと分が悪いな。デ・ニーロは「エンゼル・ハート」ではサタンをやって、そのイメージがあるから、たとえ年を取って髪が白くなり、油っけも抜けたとは言え、やっぱりいかがわしさぷんぷん。サタンでなければ「アダム-神の使い 悪魔の子-」のいかがわしい医者でもいいや。今回は超能力者サイモン・シルバー役。対するウィーバーは正義の味方だ。エイリアンと戦う。エイリアンを倒す。エイリアンを産む。半分エイリアンになる。死んでも生き返る。エイリアンはしぶといが、それと同じくらい彼女もしぶとい。半分悪魔のデ・ニーロと、半分エイリアンのウィーバー、それに「イベント・ホライゾン」の地獄を生き延びたジョエリー・リチャードソン・・こりゃキリアンに勝ち目ないですってば!!・・って何のこっちゃ。話を戻してウィーバー扮するマシスン博士は、どちらかと言えば「コピーキャット」のヒロインに似ている。キリアン扮するトムは物理学者だが、マシスンの大学での講義を手伝ったり、調査に同行したり。助手と言うか雑用係と言うか・・運転手、荷物持ち。マシスンは時々不思議に思う。なぜ彼は自分を手伝ってくれるのか。彼はもう一人立ちできるし、輝かしいキャリアだって手に入れられるのに。自分がやってる調査と言えば、実りのある結果が出たためしがない。今回行ったのはシジウィック夫妻の家。古い家で、安かったので買ったが、妙な現象に悩まされ、引越しの荷物もまだ片づかないほど。霊媒らしいトレイシーという若い女性もいて、早速降霊会。ここらへんは画面が赤っぽくて「ヘルハウス」風味。二人が去ろうとするので、シジウィックはまだ解決していないと不満げだが、今回もやはり空振りだった。ドスンという大きな音は下の娘の仕業だし、トレイシーは夫妻の不安につけ込むインチキ霊媒師だ。怪現象、超常現象と呼ばれるもののほとんどすべては、まやかし、思い違い、科学的な説明のつくもの。マシスンの講義は説得力がある。きちんと事実を述べる。説明のつかない超自然現象は、30年の調査でも一度もなかった。彼女は信念の人だが、弱点もある。息子のデヴィッドである。4歳の時突然倒れ、植物人間状態のまま30年。回復の見込みもないのに生かし続けているのは彼女のエゴで、それが彼女をずっと苦しめている。

レッド・ライト2

死後の世界が信じられるなら、すぐにでも送り出せるのに・・。でも彼女の中では死後の世界は存在しない。30年前シルバーとやり合った時にはこの点を突かれ、敗北。今もそれを引きずっている。意志の強さ、プライドの高さ、そのすぐ内側にはもろさ、弱さ、傷つきやすさがある。ウィーバーの演技は非常にすばらしい。さて、シルバーが30年ぶりにカムバックすると言うので世間の注目が集まっているが、マシスンはそれに関わりたくない。それなのにテレビの討論会に出てしまう。私はこのシーンを見ていて、パトリシア・コーンウェルのスカーペッタシリーズを思い浮かべた。スカーペッタはいつも誠実であろう、事実を伝え、決して自己宣伝はするまいと心がけているが、いつも同席者の売名行為に利用され、悪意にさらされ、ひどい目に会う。出るんじゃなかった・・と後悔するが、でも人の善性を信じることはやめない。マシスンもやはり事実を述べよう、偏るまいと努めるが、他の出席者にはシルバー側の者もおり、劣勢に立たされる。彼らはぐるになって自分達に都合のいい方向へ話を持っていく。いつでも・・デヴィッドのことをほのめかしさえすれば彼女が動揺するとわかっているので、余裕たっぷり。テレビを見ている人達はどう思うのだろう。やり込めた方が正しく、やり込められた方が間違っているとは限らない。それくらいの常識は持っているはずだが、新聞にはマシスン白旗と書かれるのだ。とにかく彼女はシルバーを避け、トムにも近づかないよう強要する。30年前のシルバーとのいきさつすら打ち明ける。それでもトムはシルバーのインチキを暴こうと突っ走る。ところがある日突然マシスンは倒れ、ほどなく帰らぬ人となる。見ている我々はびっくりだ。マシスンがトムの協力でシルバーと対決し、打ち負かすのだとばかり思っていたから。じゃあ後半はトムが一人で奮闘?大丈夫かいな。・・この映画はいろいろ考えさせられるところが多い。ネットで調べると長文の感想書いてる人も多い。一つ一つ分析したくなるような内容なのである。けなしている人も多いが、好意的に書いている人も多い。いろいろ欠点があるのは確かだが、さっさと通り過ぎるのはためらわれる・・立ち止まってよく考えてみたい、書くことによって頭の中を整理したい・・そんな映画。

レッド・ライト3

私自身こういう映画にはヨワい。心に引っかかり、何度でも見たくなる。シネパトス(もうなくなっちゃったけど)あたりで、数人の客と一緒に見たい。間違ってもこじゃれた館で、ぎっしり埋まった・・補助席まで出ているような状態で見るような映画ではない。見る側の周辺にはわびしさが漂って・・スースーと風通しがよい状態でなければならないのだ。画面は暗く、緑色がかった色調。掃除をさぼった水槽みたいな・・うすら寒い感じ。出てくる人達は皆何かしら重荷を背負っている。シルバーだったら、いつインチキがばれるかという恐怖、偽り続けることの疲労、マヒしてしまった自分の良心。マシスンは絶望し、自分を責め、信念を保つのに疲れ果て・・。素朴さや明るさ、単純さを失っていないのは学生のサリー(エリザベス・オルセン)くらいか。彼女の場合人生はこれからだから。で、私の場合キリアンがこういうキャラで出てきてくれたのがとてもうれしくて。前半ではあまり目立たないけど、主役は彼なのである。大物二人の前では分が悪いと書いてる人もいるが、それでいいのである。彼はいつもマシスンのそばにいて、母子のようなスタンス。デヴィッドの状態を考えれば、彼を息子の代わりとして見ていて当然。年齢も同じくらいだし、たぶん突然倒れて植物人間になるおそれもない。デヴィッドの父・・つまりマシスンの夫については何も説明されないが、彼女の強さ故にうまくいかなくなったのではないか。息子を生かし続けるかどうかで対立したのではないか。たいていの夫ならデヴィッドを送っても、次の子に慰められるはず、悲しみも癒えるはずと思うだろう。さて、トムはいちおう物理学者だが、実績を上げた様子も、マシスンの助手という立場から抜け出そうという様子もない。「サンシャイン2057」での前半の、何の用事もなさそうなキャパとかぶって見えるのは私だけ?キャパと違うのは、トムには重大な秘密があること。ある日突然マシスンを失うと、もう一人ぼっちだ。そばにサリーがいるとは言え、心のうちを明かすほどの仲ではない。誰かに相談するということがないため、暴走しているようにしか見えない。前半はおもしろいけど、(ウィーバーが退場した)後半はだめという声ももっともだ。私自身どう始末つけるのだ?と心配しながら見ていた。

レッド・ライト4

30年前、シルバーに対し攻撃的、懐疑的だった記者が、公演の最中心臓発作で急死。そして今またマシスンが死亡。両方シルバーの仕業なのか。両方偶然か。マシスンの方はトムの超能力のせいという声もあって、これにはびっくりした。彼女の意向にそむいてまで公演に出かけたトム。インチキを暴いてやれ・・その一念で機械を操作。その後起こった現象は、シルバーとその部下の細工によるもの・・と私は思ったけど、トムが無意識に起こしたと書いてる人が多い。トムのせいだとすると、マシスンが倒れたのはその直後なので、これも自分のせいと思い込み、取り乱してもおかしくない。まあいろいろな見方ができて、はっきりしたことはわからない。二回見たけどはっきりしないのは同じ。順番に書いていくと、まず30年前の記者の件は偶然だと私は思う。シルバーのような立場にいる者は、たとえやってることがインチキでも、偶然まで味方につけるような強い運を持っていると思う。都合のいいことが起きればみんな自分の能力と思わせ、都合の悪いことは無視するか、他のことにすり替える。それができるのは、観客の方に信じたいという気持ちがあるから。彼がなぜ突然引退し、今また突然カムバックしたのか不明だが、結局世間は彼を覚えていた。マシスンの死因は血管の奇病のせいということにされる。私も病死だと思う。薬を飲むシーンが二度ほどあるし、健康に気をつかっている様子もない。彼女は長生きしようなんて思っていないだろう。自分が死ねば自動的にデヴィッドの生命維持装置もはずされることになっているのだろう。その時期は先に延ばす必要はない。トムがあんなに混乱したのは、(彼が殺したからではなく)単純に秘密を打ち明ける前に死なれてしまったからだろう。なぜ打ち明けてしまわなかったのだろう。彼女なら秘密を守ってくれるし、力になってくれたはずなのに。彼女の苦悩の一部を和らげることができたかもしれないのに。彼は病気のことは知らなかったのではないか。まだ時間はあると思っていたのではないか。クライマックス・・シルバーの最後の公演でトムが引き起こす現象は前と同じである。と言うことは前回のもトムの仕業ってことになる。彼の能力がどの分野なのかは、あまりはっきりしない。

レッド・ライト5

マシスンが討論会に出ているのをサリーと一緒に見ているシーン。ここでの彼は予知能力を示したことになっているが、私は単にマシスンの性格やものの考え方をよく知っているから、次の発言を予測できたのだと思っている。もちろん彼はなぜわかったのかとサリーに言われ、「僕は超能力者だ」と言ってるけど、それでもね。もし彼に予知能力があるのなら、それを発揮できたのはこの時だけということになる。彼には他のもっと重要な・・マシスンの死とか、シルバーの部下に死ぬような目に会わされることも予知できたはずだが・・。シルバーに超能力があるかどうかわからないってことは、テレパシーと言うか、相手の思考を読む能力もないってことだ。いやもちろん彼はシルバーの思考を読んでインチキだ、詐欺師だと言ってるのかもしれない。でもそれは目に見えないし、他の人に説明もできない。それを証明できる(目に見える形での)証拠はまだ見つけ出せていない。まわりを信じさせるには自分(超能力者)以外の一般人によって証拠が発見されなければならない。だからシルバーの実験の検証を学生のベン(クレイグ・ロバーツ)にやらせたのか?大いにあるのは物体を動かす力・・念動力か。でもコントロールはできない。小鳥が飛んできて激突死とか、そういうことができるのなら心臓も止められるのでは・・となって、マシスン殺し説が出てくることに。でもトムにそんな凄まじい力があるのなら、トイレで襲われた時に出現するはずで。たぶん多くの人はあのシーンでトムは死んじゃうのだ・・と思ったはず。サリーとベンがシルバーのいかさまの一部を発見するけど、時すでに遅し。精密な実験を行なったシャクルトン博士(トビー・ジョーンズ)はたぶんシルバーの能力は本物と発表しただろうし(この部分あいまいなままにしといたのはなぜかな?)。最後の公演も大成功し、シルバーはがっぽり儲けて引退・・正義は滅び、悪は栄えるのでありましたとさ・・そういうラストになるのだと。このトイレでのシーンは、これでもかって感じで、見ているのが不快。ここまでうつすのならトムは死んじゃうはず。離れた場所にいるベンが、心配するサリーに「彼は大丈夫だ」って言うけど、彼こそ千里眼・・超能力者じゃん!サリーだって戻ってきたのはトムに何か起きるのではと胸騒ぎがしたからだろうし予知能力!

レッド・ライト6

マシスンがコーヒーを飲もうとしてスプーンが曲がっているのに気づくシーン・・。あれは(その場にはいない)トムの仕業って思われているけど、単純にマシスンがやったと思えなくもない。もしトムがやったのならあの時の電話(無言電話)越しってことになるけど。彼の回想に出てくるってことは彼の仕業だろうけど。トムが助手の話を持ち出した時、マシスンが「若すぎない?」と、まだサリーの名前を出していないのに言ったのも・・。つまり何が言いたいかと言うと、一般の人にも・・全員ではないけれど・・ほのかな能力が存在すると。で、話を戻すと、こういう死にそうな目に会ってる時に出現しないで、いつ出現するのかいな・・と言いたいわけ。死んでからじゃ遅いのだぜい。別にCG駆使した超能力シーン展開せよなんて言わない。公演の邪魔をしないよう・・つまり公演の間だけ遠ざけておくだけでいいはず。あんなふうに叩きのめす必要はないし、もし本当に殺すつもりなら最後まで・・死体の始末までつけるはずだが。ここがどうにもこうにも中途半端で、そのせいで映画の出来まで下がって見えるのがもったいない。まあ・・私は、トムはトイレで一度死んで、その後生まれ変わったのだと思うことにしている。あの痛みや恐怖の後では、もう怖いものなんかない。シルバーが本物なら部下を使う必要があるだろうか?手も触れずに自分を始末できるはず。生身の部下が送り込まれたってことは(もちろんシルバーではなく、助手のハンセンの指示だが)、超能力は関係ないってことで。彼は会場に現われ、今度こそ自分で超常現象を起こしてみせるけど、たぶんこれもシルバーの能力ってことにされるのだろう。混乱した観客には正常な判断はできないし、前回同じような現象が起きた時、トムがここにいたことを知る客はいない。で、キャパの場合は命を落としたけど人類を救うことはできたから、その死も無駄じゃなかったけど、トムの場合は生き延びて・・でもこの先どうなると言うのか。今までは自分の能力を隠し、超能力なんて存在しないと否定し続けてきたけど、一生偽って生きることはできない。それはわかったけど・・でもこれからは具体的にどうすればよいのか。シャクルトンの実験台に志願するとは思えん。シルバーと同じ道・・ただし良心的に・・をたどるとも思えん。

レッド・ライト7

他のインチキ超能力者の時は、裏で無線で客の情報流していて、手口は歴然としていたけど、シルバーの場合はそういうのは描写されない。彼の能力がどの程度のものだったのかは最後まで不明なまま。全く何も能力がないというのは考えにくい。ある程度のものは持っているはずだ。小さなものをうまくごまかして大きく見せる・・それでやってきたのだと思う。そのためには盲人のふりもしていた。まあ30年間ずっとじゃないだろうけど。マシスンにしろシルバーにしろ強さは感じるけど、トムにはそれがない。と言うか、キリアンにはないってことだけど。彼はいつだって細くて弱くて傷つきやすい。その弱っちい彼ががんばってるからこそ共感できる。今まで目立たぬよう生きてきて、自分が何のために生きてるのかわからなくて、これからもこのまま生きていくしかなくて。スポットライトを浴びることがなく、いつも他の人のところへ運が回ってしまって、何でこうなんだろうって多くの人は思っていて。超能力を別にすればトムも我々も同じ。失望し、迷いながらの日々。ハンセン役リチャードソンは今まで見てきたのとは全然違うイメージ。見終わるまで彼女だと気づかなかったほど。ジョーンズはどこかで見たような・・と思ったら、「ポアロ」の「オリエント急行の殺人」でラチェット役をやってた。マシスンもトムもシャクルトンにはやや軽蔑したような態度取っていたが、彼の「マシスン博士には敬意を払っている」という言葉には真実味を感じた。あと、この映画で一番びっくりしたのはトムの夢のシーン。自分が寝ていて、でもそれを上から見ている自分がいて。私は思いつかなかったけど、片方は喪服を着ているのだそうな。自分のすぐ上に全く同じ形で誰かいて、覗き込んでいるという・・顔の上に顔を感じる、その距離の近さ。「シャイニング」のところでも書いたけど、そういう夢を見たことがある。私の場合、覗き込んでいたのは自分ではなくグレーマンだったけど。正確に言うと夢じゃなくてちゃんと目覚めていたけど・・って何のこっちゃ。まあ・・とにかくいろんなことを考えさせてくれて、内容の濃い作品でした。改めてキリアンのファンになってしまった。実は今この感想も「サンシャイン2057」のサウンドトラック聞きながら書いてる。CDはゲットできなかったけど、YOU TUBEで聞くことができるのだハレルヤ!