ルックアウト/見張り

ルックアウト/見張り

一番最初にジョゼフ・ゴードン=レヴィットを見たのは「ホーリー・ウェディング」だと思う。子役だからその時は名前も覚えず、さして印象にも残らず。次は「BRICK ブリック」で、これは「ハリウッド・エクスプレス」で紹介していたと思う。その時も通り過ぎて。DVDが出て、何やら殺人事件が起きて、恋人が探るとか何とか。そのうち「フレイルティー/妄執」のマット・オリアリーが出ていると知って俄然興味がわいて。それとあのかわいいルーカス・ハース坊やも出ているようではないか!それでいつもならDVDレンタルしてなかみ確かめてからとなるのを省略して、即買ったんだと思う。まあ小規模な作品で、出来がいいわけでもなく、オリアリー君の出番も少なかったんだけど、主演のジョゼフのしおたれた感じは妙に心に残る。後で彼が「ホーリー」のかわいい坊やの成長した姿だと知った時には驚いたの何の。この「ルックアウト」は日本では未公開で、「ハリウッド」でも見かけた覚えなし。たまたまあるサイトで感想読み・・それだってほめているわけでもなく・・。「ブリック」と同じで小規模で、大したことは起こらなくて、一人の青年が助けもなくもがいているけど、最後にはピンチ脱する・・みたいな。そんな感じなのだろう。でもジョゼフなら・・そういう彼を見るだけでも元は取れそう・・みたいな。それでやっぱりレンタルして確かめるでもなく即DVDゲット。見ると・・やっぱり私の目に狂いはなかった・・ジョゼフ印は安心できる。信頼できる。もっとも彼が出ているなら全部OKなどと言うつもりはない。この三作以外では「G.I.ジョー」を見たが、ここでの彼は魅力的とは言いがたい。キャラに厚みが全然なく、それは全員がそうなんだけど。「セントアンナの奇跡」も見てないし、「(500)日のサマー」は評判いいようだが興味なし。女の子とくっついたり離れたりの映画はなあ・・。公開中の「インセプション」にも出ているようで、楽しみではあるけれど、CGバリバリの予告には見る前から気持ちが萎える。・・やたら前置きが長くなったが、一言で言えば私はこういうちまっとした映画でのジョゼフに目がない・・と、そういうことです。メイキングとか見るとアイデアから実現まで10年くらいかかったようで。お金集めるの大変だったのだろう。でもその10年の間にジョゼフがこれを演じるのにちょうどいい年齢になったわけで。

ルックアウト/見張り2

たぶん高校の卒業式の夜・・パーティ会場へでも向かうのか、真っ暗な田舎道をぶっ飛ばすクリス(レヴィット)。横には恋人のケリー、後ろには友人二人。クリスはみんなにいいとこ見せたくてここを走っている。ライトを消すと無数のホタルが乱舞していて夢の世界のよう。手をのばせば指に触れそうだ。みんなは喜ぶが、無灯火だし猛スピードだし気が気じゃない。ライトをつけろとせっつくのを、いい気になって無視して、そのあげく大事故起こす。コンバインに激突し、後ろの二人は即死、クリスは重傷、ケリーのことはよくわからない。それから四年たってクリスは自立支援センターに通っている。見ただけじゃわからないが頭や首に傷あとがある。軽度の外傷性脳損傷ということで、いろんな後遺症がある。この映画の批評で、記憶が失われるはずなのに覚えていることもあって、描写が一定しない・・というのがある。実は私も最初見た時そう思った。見たことはないけど「博士の愛した数式」や「50回目のファースト・キス」と同じで、主人公は記憶が長続きしないのだろう。だからあれこれメモを取るのだ・・ってね。でも・・違うのだ。彼の障害は物事を順序よく構築できないこと。支援センターで一日の行動リストを作成するよう言われ、取り組むが、朝起きてシャワー浴びて服を選んで朝食・・その後は?いつもつまずいてそこから先へ進めない。いつも車のキーを差し込んだままドアを閉めてしまい、どうしてもそのクセが直らない。だからスペアキーを靴底に入れている。自分の名前も住所も覚えているし、あれほどの事故起こしたってのに車の運転もしている。しかしキーを抜くのを毎回忘れる。缶詰の開け方がわからなくなるし、手がふるえるし、トマトをレモンと言ってしまうし、お金の支払いで出す札を間違える。まわりの者はおおむね親切だ。でも彼は何となくすっきりしなくて、ケア・マネージャーのジャネット(カーラ・グギーノ)に絡んでみたり。支援センターで知り合ったルイス(ジェフ・ダニエルズ)と同居しているが、彼は盲人である。後でわかるが若い頃ドラッグで一儲けしてやろうと作っていて目をやられてしまったのだ。ちゃんと換気しないと失明することもある・・なんて知ってました?後悔してももう遅い。だから彼は若いクリスのことを心配している。

ルックアウト/見張り3

彼だって失明した当時は荒れただろうが、今はたいていのことはジョークで流す。ダニエルズは好演だが、中にはルイスのキャラが気に入らない人もいるだろう。クリスは夜になると町の小さな銀行へ行く。そうじをしたりするが、一晩中というわけでもないようだ。どういうシフトなのかよくわからん。彼は窓口係になりたいと思っているが、雇い主タトル(デヴィッド・ヒューバンド)は無理だと思っている。クリスはアイスホッケーの花形選手だった。未来はバラ色のはずだった。・・そりゃ彼は気の毒だ。でも彼の不注意のせいで二人の若者が死んだのだ。ケリーが歩いているのを見つめるシーンが何回か出てくるが、現実なのか幻か。後で彼女はスカートをめくって片足が義足になっているのをクリスに見せる。そのシーンは夢だったが・・。実際に片足を失い、あのように寛大に許してくれるのはクリスの願望であって、本当は彼を憎み恨んで暮らしているのかも。まあここまでケリーのその後をあいまいにぼかす必要はないと思うが。毎晩決まって見回りに来て、ドーナツの差し入れをしてくれるのが警官のテッド。みんな彼のことを気にかけてくれている。クリスにも彼らの親切はわかっている。わかっているけど素直になれない。何かしっくりこない。素直なふりをするのもいいかげんいやになってきた。彼はあせり、いらだつ。いつになったら本当の自分に、前の自分に戻れるのか。実家へ帰っても自分の居場所がないような気がする。父親役ブルース・マクギルはどこかで見たような・・「タイムコップ」や「乱気流/グランド・コントロール」に出ていた。姉アリソンの抱いている赤ん坊がびっくりするほどかわいい。コメンタリーでもかわいくてカットできないと言っていたが、その通り。もう本当にかわいいッ!!さて、仕事が終わるとバーでノンアルコールビールを飲むのがクリスの習慣。女性に声をかけようとしてもうまくいかない。ある晩ゲイリー(マシュー・グード)という男が近づいてくる。昔アリソンとつき合ってたことがあるとか、いやになれなれしい。女を口説くのもスマートで、クリスは殺し文句をメモしておいて後で使ってみたりするが、やはり相手にされない。ゲイリーが連れている女の一人ラヴリー(アイラ・フィッシャー)は、昔からクリスのファンで追っかけをしていたと言う。

ルックアウト/見張り4

その頃の彼はケリーとつき合っていただろうから、ラヴリーなぞ眼中になかっただろう。しかし今こうやってあこがれていたなどと告白されれば悪い気はしない。ラヴリーはどこかで見たような・・と思ったら「お買いもの中毒な私!」のヒロインだった。かわいいがちょっとどんくさくて、田舎の町でダンサーやってるけどろくに才能もない。気はいいけど頭はよくない・・みたいな、要するにパッとしないコ。やがてクリスとラヴリーは結ばれ、幸せなひとときを過ごす。ゲイリーは年に一、二度銀行の金庫が農民への支払いのため札束でいっぱいになるのを狙っている。そのためには手引きする者が必要・・とクリスに目をつけたのだ。ラヴリーは彼を仲間に引き入れるための餌である。ラヴリーは悪女ではないが、ルーズで流されやすい性格。ゲイリーに命令されればクリスに近づく。元々彼のこと好きだし。その一方でゲイリーの女でもある。ところでゲイリーの本職は何?最初はバーのオーナーかな・・と思ってみたり。ルイスはクリスに恋人ができたのを喜ぶが、その一方で心配にもなる。目は見えないけどラヴリーには何かあるような気がする。そのうちクリスは強盗の片棒かつがされそうになってることに気づくが、ゲイリーに言いくるめられ、加担する気になってしまう。ゲイリーの言いぶんは自分かってで筋が通らないものだが、クリスは何となく丸め込まれてしまう。まあ筋道立てて考えるの苦手だし・・と言うか、普段からたまっていた不満やあせりが彼を間違った方向へ追いやったとも言える。彼はルックアウト・・見張りの役を与えられる。以前から計画していたにしては、一味の行動は首を傾げたくなる部分が多い。銀行はガラス張りで外から内部がまる見えである。電気はつけっぱなし、カーテンもブラインドもなし。ろくな警報装置もない。金庫が満杯だからって警備が厳重になるわけでもない。クリス一人である。年に一回か二回臨時に人員増やすという知恵もないのか、お金をケチってるのか。金庫の側面から穴をあけるという作戦だが、大した警戒もしていない。いつも通りテッドが来る。実は前の晩彼に冷たいこと言って追い返してしまった。彼の妻は今にも子供が生まれるという時期なので、強盗の場に居合わせたりしないようわざと追い返したのだ。

ルックアウト/見張り5

でもやっぱり今夜もテッドは来て・・。もうこれからは見回りには来ない、子供が生まれたから他のやつに代わってもらう・・。仲直りしてテッドは帰り、それですむはずだったけど、人のいいテッドはドーナツの差し入れしようと・・この親切心が命取りになってしまう。ウ~ン、何とも気の毒で仕方がない。彼を死なせることないじゃんよ・・と残念だった。子供が生まれたその日に死んじゃうなんてむごすぎる。責任の一端はクリスにある。これじゃ事故死した二人、片足失ったケリー、殉職したテッド・・クリスのまわりにいる者はみんな不幸になるみたいじゃないか。テッドのおかげで強盗一味のうち二人やられ、ゲイリーは重傷、一人ボーンだけは無傷である。彼がテッドを殺したのだが、ずっとサングラスをかけているので顔はわからない。ほとんどしゃべらず不気味である。長髪とサングラスのせいで、私は最初ルイスかと思った。よく似ている。さて、騒ぎに乗じてクリスは金を持って逃走。ルイスに相談したいところだが、ゲイリー達が先回り。金とルイスを交換・・ということになる。ラヴリーは一足先に町を出ている。怖くなって逃げ出すことにしたのだ。そういうところは利口だが、クリスには黙って去るわけで、彼のことが好きなわりには現金なタイプだなあ・・と。ゲイリーがクリスを始末するつもりなこと気づいていないはずないが、それでも「自分だけ」逃げちゃうのだ。さてクリスは実家に忍び込み、自分の部屋で知恵をしぼって考える。メモを見返す。前、物事を順序立てて考えることができず、いらついていた時、ルイスに言われたことを思い出す。始めから考えるとつまずくのなら、結末からさかのぼって考えていけばいい。その言葉をヒントにする。もちろん結末はルイスの命を助けることだ。じゃそのためには何をすればいい?そうやって次々にメモをする。この映画の重要な小道具はメモ帳だ。字がわりときれいなのもいい。今まで書き留めた言葉(口説き文句も含めて)の中には、今の彼にぴったりな言葉もあった。今は金を持っている自分が一番強いのだ。こっちの言いぶんをゲイリー達は聞くしかないのだ。クリスは金をある場所に隠し、ゲイリー達を呼びつける。重傷のゲイリーの状態は最悪だが、金を手に入れるまではここを離れることもできない。

ルックアウト/見張り6

クリスは銃も手に入れる。感謝祭で実家に来た時目をつけておいた。狩りをしたこともあるから扱いは慣れている。ゲイリーはともかく、ボーンは危険なやつだ。果たして彼の計画はうまくいくのか。ルイスを助け出せるのか。メイキングでも言っていたが、ジョゼフには静かな雰囲気がある。それが彼の一番の特徴・魅力である。激昂し、わめいていてもその雰囲気は変わらない。・・不思議な俳優だと思う。DVDにはコメンタリーもついているが、うつし方がどうの、照明がどうの、天気がどうの・・そんなことばっかり。キャラの掘り下げとかそういうのほとんどなし。俳優の紹介もなく、期待はずれだった。ケリーのことも不明なままだし。さてクリスは事件のことを何もかも正直に話す。金庫内の防犯カメラには彼がうつっている・・と言うか、他の連中もうつっているのには呆れたが。元々顔を隠そうともしていないし。テッドが戻ってきた時だって外に見張りがいるのに何もできず・・おまえら何やっとるんじゃいという感じなのが残念。作り手は映画のメインテーマは強盗じゃないからこれでいいのだと言うだろうが・・。クリスは正直に話したのがよかったのだと思う。罪に問われずにすむのはおかしいという指摘もあるが、頭に障害があることは周知のことなので、強盗の計画を立てるなんてことはありえない。まわりの者はやはり最初から順番にと考えるだろうが、クリスに順番にができないのはわかってる。結末からなんていう発想ができるのはルイスくらいなもので。一番ありそうなのはルイスを人質に取られ、やむなく手を貸した・・ということだろう。お金には手をつけず出頭したし、彼はむしろ被害者なのだ。クリスは本意ではなかったろうが、まわりは彼の障害を都合よく誤解してくれたのだ。ラスト・・クリスはいつものようにケリーの歩く姿を見る。これは幻だろう。今まで見ていた彼女もたぶん幻だろう。彼女は彼が一生背負う障害の象徴かもしれない。彼女に近づけず、遠くから見ているしかないように、彼の体が元に戻ることはありえず、一生このまま生きていくより他にないのだ。体が変わらないのなら生き方を変えるしかないが、ありがたいことにまわりの人達は以前と変わらず親切だ。・・とは言え、私はラストはケリーではなくテッドのことを思って欲しかった。残された妻子が気になったのは私だけではあるまい。