ロスト・エモーション

ロスト・エモーション

これを録画したのは一年以上前だ。あっという間に月日がたつ。録画したのはニコラス・ホルトが出ているらしいから。「アバウト・ア・ボーイ」の少年が成長して、どうなったのか見てみたい。背景は詳しくは説明されない。大戦争によって陸地の99.6パーセントが破壊された。そんなことが起きるのも、人間に感情があるからだ。だから遺伝子操作で感情を排除した人間の共同体「イコールズ」が作られた。映画の原題も「イコールズ」だ。そう言えばイコールズというグループがあったな。「ベイビー、カムバック♪」今が何年なのかは不明。でも遺伝子操作されてもう老人になっている者もいるから、相当未来の話か。管理された規則ずくめの生活、白ずくめの服装・・何だか「アイランド」みたいだ。でも話は広がらない。「アイランド」みたいな外の世界は見せない。カーチェイスもアクションもなし。この世界を管理している者も出てこない。保健安全局がそれにあたるのだろうが、病院のようなものとしかわからない。住民の生活は厳しく管理されていると言っても、監視カメラ一つついているわけでもなく、ゆるゆる。SOS・・感情抑制不能症に感染した者は、自ら届け出る。あるいは気づいた者によって通報される。ステージ1だと薬を出される。いずれはDEN・・欠陥障害者施設へ送られ、安楽死となる。当然症状を隠そうとする者が出てくる。彼らは闇感染者と自称する。感情を押し殺して生きていくのは大変で、そのせいで自殺する者が多い。サイラス(ホルト)も飛び降り死体を見て動揺する。受診した彼はステージ1と言われる。彼は同じところで働くニア(クリステン・スチュワート)が、動揺を隠そうとしているのに気づく。彼女もSOSなのではないか。彼は彼女から目が離せなくなる。最初の方はたんたんとした感じで描写される。男女交際は異常行動とみなされる世界だから、会話も事務的。部屋の中にも何もない。家族という概念がないから、みんな個室。順番が来ると女性は受胎させられる。赤ん坊を産んだら育てるのだろうか。余計な感情・・母性愛とかが生じないように、別の人が育てるのか。そういうちょっとしたことも描写しないですませる。製作費が少なくて、話を広げるわけにはいかないのだろう。破壊を免れたのは、ここと半島と呼ばれる地域の二ヶ所だけ。半島では感情もそのまま・・昔ながらの人間が住んでいる。と言うか、住んでいるはずだ。誰もそこがどうなってるのか知らない。

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ここのような清潔で便利な生活でないのは確かだ。他の映画なら「ブレードランナー」に代表される、ゴチャゴチャした・・戦後の闇市的世界を出してくる。あるいは近未来映画でよくある、荒廃した、ルールのない危険な世界。でもこの映画ではすべてが不明。サイラスとニアはもちろん恋に落ちる。感情を隠していたニアは、一度たががはずれると、サイラス以上にもろい。彼女は一年三ヶ月も前から隠していた。二人の行動は、出版部管理者レナードに気づかれてしまう。彼は通報はしないけど、忠告する。サイラスは出版部からの異動を願い出る。植物園か何かの仕事に回る。彼の後に来たドミニクは神経にさわるやつで、ニアはイライラする。ただでさえサイラスが恋しくてイライラしてるのに、こんなのと仕事しなきゃならないなんて。でもすぐまたサイラスとイチャイチャする。昼間は離れていても夜は一緒。だからこの映画、SF映画と言うより恋愛映画なのだ。どんなに危険があろうと二人の気持ちは止められない。障害があっても目に入らない。恋をすると何でもうまくいくように思えちゃう。忠告も耳に入らない。こんなに隠していなくてすぐばれるような態度取ってるのに・・と、見ている者は不思議に思う。他の映画なら監視カメラにうつる。パトロールしている保安員はいないのか。さてサイラスはジョナス(ガイ・ピアース)という男と知り合う。彼はステージ2だ。彼は闇感染者数人とグループを作り、互いにサポートし合っている。悩みや恐怖を話し合う。中にはべスのような老女もいる。彼女は何十年もSOSであることを隠し続けている。強い意志がなければこうはいかない。しかしサイラスやニアのような若い者は、ここで耐えていくことより外の世界へ逃げ出すことを考える。生きていけるかどうかもわからないと言われても、外の世界の方がいい。何だかよくわからんが、この世界には列車が走っている。それに乗って半島を目指す。そんなに近くまで行けるのか。外への脱出は厳しく禁止されているのではないのか。通勤している人、通学している人、旅行者はいるのか。さあ~わけがわからなくなってきたぞ。こういう時に限って新薬が完成する。今までSOSには根本的な治療薬はなかった。でも今度の薬は首に打つだけで、数時間で感情がなくなる。しかもニアは受胎させられることに。

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それを逃れるためには、SOSに感染していることを明らかにすればいい。ステージ1だからと、薬を出してもらったりして、二人で列車に乗るまでの時間を稼ぐのだ。ところが・・SOS感染どころか、ニアは妊娠していて、即DEN送りに。二人して盛んにいちゃついていたから妊娠も当然だけど、この世界では性の知識も持たずに生きているのだろうか。お産の知識はあるのか。その前の段階の男女交際が厳禁なのだから、何も知らないと思うが。何も知らないから妊娠しちゃったのだと思うが。中絶手術を受けさせられるところを救ったのは、DENで働くべス。つい最近自殺したエバという女性と、ニアをすり替える。つまりニアは死んだことにする。ニアはエバとしてDENから外へ出る。ここから古典的なすれ違いシーンが続く。この世界にはケータイなんてないから、相手の居場所はわからない。連絡することもできない。ニアはサイラスの部屋へ行くが留守。実はサイラスはDENへ行って、ニアは死んだと聞かされ大ショック。屋上から飛び降り自殺を図ろうとする。たいていの映画ならここで・・屋上から植物園をウロウロしているニアを見つけて、やれうれしやとなるところだ。待ちくたびれたニアは植物園へ捜しに行ったのだ。見えるはず・・ああ、でもダメだ。サイラスは目をつぶってる。飛び降りて死んじゃうのかしら。これじゃ「ロミオとジュリエット」だ・・と思っていると・・思い直す。再びサイラスの部屋で待っていたニアの前にやっと現われ・・ところが!サイラスは例の手術受けてしまい、あと数時間で感情がなくなると。ありゃ~早まったことしたね。ここで妙なのは、サイラスは決めたことだからとニアと二人で列車に乗るんですな。注射打ったら禁じられてることはしないと思うけど。この二人に協力したせいで、ジョナスやベス達はやはり注射打たれてしまう。普通の映画なら処刑されてしまうところだけど、命は助かったのね。と言うか、これからは処刑する必要もなくなるんだろう。ラストはどうとでも取れる描写。たぶん多くの人は、今はニアへの愛情を忘れてしまったサイラスだけど、そのうちきっと思い出す・・と、楽観的に考えるんじゃないかな。私はむしろこの先待っている世界の方が気になった。愛し合う二人は、ジョナスやベスに迷惑かけるおそれがあるからって、考えを変えることはなかった。恋人達はある意味エゴイストだ。自分達のことしか考えない。

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外の世界で生き延びているのはそういう人達だ。愛さえあれば何も怖くないかもしれないが、愛だけでは生きていかれない世界でもある。第一誰が支配しているのやら。そもそも人類は生き延びているのだろうか。物質的に充足している世界がすぐ隣りにあるのに、何十年も接触・・襲撃してこないなんてありうるだろうか。襲撃してくるほどの人数がいない、そんな体力もない、滅亡寸前の世界なのではないか。というわけで、後世には残りそうもないじみ~な映画だけど、私にはいろいろ想像・妄想する余地があって楽しめた。だって朝起きるとベッドがしまわれちゃうんですぜ。ベッドメイクの必要もない。きっとしまわれている間に除湿乾燥消毒してくれるに違いない。クローゼットも同じ服が並び、選ぶ必要なし。たぶん仕事によって服装が決まっているのだ。そして、しまっている間にクリーニングされるのだ。靴はぺったんこでヒモなし。男性はみんな短髪でヒゲなし。女性は化粧なし。ピアスなどの装飾もなし。いいぞ、他にないものあるかな。ケータイ、スマホ、たぶんお金もないだろう。ボタンを押せば食べるものが出てくる。メニューはいくつかあるようだ。見て選んでいたから。タバコ、アルコール、ドラッグ、ジャンクフード、テレビゲームもなし。サイラスはパズルやってたけど。ペットも存在しないだろう。自動車、自転車、バイクもなし?あるのは列車だけ。紙でできた本はないだろう。恋愛小説も推理小説も。流れる音楽はヒーリング系のみで、愛や悲しみを歌うなんてのはなし。許可されているのは歴史の一部、科学関係。科学には感情は入らないだろうから。体を動かすのに太極拳のクラスがあるようだが、実際にやってる描写はなし。基本的に体に悪いものは存在しないから、たぶん病気は少ないんだろう。その代わり精神的な疾患・・自殺が死亡原因のトップだったりして。こういう生活がいいのか悪いのか、他と比べることができないから、みんな当然のものとして受け入れているのだろう。さて妄想はこれくらいにして・・ロケ地として日本の建物数ヶ所が使われているとか。ほのかな感じの音楽もいい。サイラスが、「僕は(子供の頃)ずんぐりしていた」と話すのが「アバウト」思い出されて笑える。今は190センチあるらしい。いや~成長しましたな。それにしても列車に乗った二人・・手ぶらですぜ!!