呪われた森
中古ビデオで150円くらいだったけど、画質は悪くない。古いビデオは今と違って長々と予告が入ったりしない。すぐ始まるのがいい。買ったのはデヴィッド・マッカラムが出ているから。「ナポレオン・ソロ」以来彼のファン。でもあんまり(映画でもテレビでも)お目にかかれないのが残念。この映画はリン=ホリー・ジョンソン主演というのが最大のウリだが、私は女なので彼女はどうでもいいです。「ステキなアンヨが見られなかったのはザンネンだ」(某映画誌のレビュー)なんてこともない。健康的な美人で好感は持てるが、演技はあんまりうまくない。「素材で勝負!」というところか。もっともこういう映画では深遠な演技なんか見せる必要はない。怖がり、おびえ、謎を突きとめようと奔走していればいい。いちおうマイクというボーイフレンドができるが、そっち(恋愛)の描写はなし。マイク役の人も演技はうまくない。マッカラムはリン扮するジャンの父親役だが、思ったよりやせていて、ヘアスタイルのせいか若々しく見える。この頃はまだこういう鬱陶しいヘアスタイルが一般的だったのか。リンも髪が額縁のように顔のまわりをおおっていて暑苦しい。謎解きよりもそっちの方が気になる。残念なことにマッカラムはストーリーにちっとも絡んでこない。後半は出番すらない。母親役はキャロル・ベーカーで、こちらもさして見せ場なし。事件のカギを握る村人の一人ジョンがイアン・バネン、ジャンの一家が借りる邸宅の大家エルウッド夫人がベティ・デービス。何とも豪華な配役だがみんなリンの引き立て役。ディズニー映画だから「オトナの俳優はワキ役」(同じく某映画誌のレビュー)。アイドル主演のお子様向け恐怖映画じゃ演技力のふるいどころもないけどさ。血みどろもなし、愛欲のもつれ(何のこっちゃ)もなし。監督が「ヘルハウス」のジョン・ハフなので、あのネチョッとしたエロチシズム期待した人もいたはず。でもあくまで健康的な冒険少女路線。頼みのベビイドール・・じゃない、ベーカー母さんは物わかりの悪いとんちんかんだしさ。脱ぎっぷりのよさなんかこの映画には必要じゃないのよ。さてストーリー・・いわくありげな屋敷、迷い込んだら出てこれなくなりそうな深い森、人を飲み込んでしまいそうな湖。古びた教会ではその昔秘密の儀式(♪かーごめかごめ)が行なわれ、一人の少女が行方不明になった。
呪われた森2
屋敷ではジャンのまわりでいろいろ不思議なことが起きる。鏡にうつらない(吸血鬼らしい)、鏡に目隠しされた少女がうつる、窓ガラスがひび割れる(室内と外との温度差のせいか)。妹エリーの様子もおかしい。あれやこれやの出来事で恐怖感をあおる。それを助長するのがベティ・デービス。30年前に行方不明になったのは大家さんの娘カレン。ジャンはカレンと同じ年頃で、ここへ引っ越してきて以来霊感が強くなっている。何か起きそうな予感。森の中を人間の目線でカメラが動き回り、いかにも「何かいる」雰囲気。その上ベティ・デービスとくれば、誰だって思う。大家だって言ってるけど、実は森の奥深くに住む魔法使いのオババに違いない・・って。ある時ジャンは湖に落ち、湖底の枝に体が引っかかって溺れそうになる。そこへ大家さんが現われて、上から枝でジャンを突き殺そうとする・・のではなくて、ジャンを下に押す。姉ちゃんが殺される!・・とエリーが泣き叫ぶのもかまわずジャンを沈める。大家さんはもうちょっと若かったら、あるいは三本目の手(奥の手)があったらエリーも湖に突き落としていたでしょうな。「ええい、邪魔するなこのボケ!」とか言って。この映画で一番怖いのはこのシーンだけど、大家さんはジャンを助けるために沈めたんです。やみくもに浮き上がろうとあばれたって密集した湖底の枝が邪魔するだけ。こういう時は一度下に沈んでから抜け出せばいいのだが、パニクってるからそこまで気が回らない。そんなこんなで大家さんは命の恩人・・あら、いい人なんじゃないの。では誰が悪役?いえ誰も悪い人なんか出てきませんてば。パンフ(ちなみに100円でした)には「サスペンス巨篇」なんて書いてあるけどそこまで行きません。「一ペンス均一」ってとこでしょうか。カレンを助け出すためにジャンは奔走する。30年前と同じ状況を作ればきっとカレンは戻れる。日食(30年前は月食だったから、この時点でもう同じ状況とは言えないのだが・・)、同じ教会、同じ儀式のメンバー、カレンの役はジャンがやればいい。ジャンにだけカレンの姿が見えるのはそのためだ。日食が始まり、あたりが暗くなる。嵐、雷、エリーの声が変わり(変声期にはちと早いぞ)、変な光が現われ、ついでにジャンも光につつまれ、何が何だかわからなくなったところでおひらきとなります。
呪われた森3
つまり目隠しをした少女が現われ、ジャンは助かり(マイクが突き飛ばさなかったら今度は彼女が失踪していたことだろう)、都合よく大家さんが現われて涙のご対面・・になるところをロクにうつさず、終わりになってしまいます。要するにこれ、いつの間にかSFになっちゃっているんですよ。森の中にいた「何か」は異次元の生物で、カレンはたまたまその帰り道に立っていたらしい。カレンは異次元に送られてしまい、「何か」はこちらの世界に取り残されてしまった。存在を交換するには同じ状況を作り出す必要があるけど、「何か」には意思の伝達手段がない。霊感の強いジャンやエリーが父親の仕事の都合で「ここ」に現われ、日食が始まるという条件が揃うまでには30年もかかったというわけ。このチャンスを逃すのがいやで、「何か」はジャンの命を救ったり(オートバイレース事故の巻き添えをくうところだった)、母親が娘達を連れてここを去ろうとするのを邪魔したりするわけですな。映画には出てこないけどジョン達三人が「ここ」を離れるのも許さなかったと思う。三人の輪が作り出すかごめかごめパワーで日食の磁場と戦うとか、どういう論理なのかさっぱりわからんけど、お子様映画ですからほっときましょう!カレンのいた世界は時間が停止しているので、30年たった今もそのまんま。とは言え30年間目隠しも取らず、その二本の手はいったい何をしていたのでしょう。てなわけで、ベティ・デービス版「岸壁の母」でした。信じて待っていたかいがありましたな!ビデオは84分だが、オリジナルは100分だそうで、マッカラムの出番はもうちょっとあったのかしら。結局私にとってはマッカラムだけが問題で、他はどうでもいいんですの。さて彼の役は音楽家。この設定には思わずムフフ・・。だって彼の両親はロンドン・フィルハーモニーの団員。父親はコンサートマスター(・・てことはヴァイオリン奏者ね)、母親はチェロ奏者。デヴィッド少年は小さい頃からオーボエをやらされ、いやでいやでしょうがなかったのは有名な話。だってボクは役者になりたいんだもーん。両親の期待裏切って役者になって、時にはこういう音楽家の役をやる。ピアノ、作曲、オペラの指揮・・笑えますよ、この設定。マッカラムと言えば確かレコード出していたと思う。「月の裏側」なんていう変な題名。数十年前の記憶だからあいまいだけど。