ミッシング・タワー
何百人も住む高層アパートが舞台。”妻を亡くした元警官フィルが管理人を務めるマンションで、住人が部屋に血痕を残して失踪する事件が相次ぐ”と、WOWOWのガイドブックには書いてある。出演者はヴァル・キルマー・・こりゃ彼が管理人に違いない・・とまず思う。次に、こういうのは管理人が謎を追うのだと見せて、実は管理人が犯人なのだ(キルマーだし)と思う。実際見たら・・当たっているようでもあり、はずれているようでもあり・・。冒頭わりと長い前置きシーンと言うか、事件がある。夜・・デイグルという女性が帰宅する。オーナーか何かのジョンソンと、鍵のことでやり取りする。部屋を移るよう言われているが、彼女にはその気なし。彼女は教員で、兄ブラッドと同居している。ブラッドは寝たきりだが、理由は不明。デイグルは生徒の成績をつけ始める。ある生徒の評価・・Bマイナスを少し考えてBプラスにしてやる。生徒の名前はヴァイオレット・ロッジ。なぜわざわざ名前をうつすのか、理由は後でわかる。そばには兄の様子がわかるようモニターを置いてある。画面に一瞬男の姿がうつる。あれこれあって、デイグルもブラッドも惨殺される。導入部としてはちょっと長い。しかしいろいろ伏線はある。さて、ここの管理人に応募してきたのがフィル・・あら、キルマーじゃないわ。パトリック・ジョン・ブリューガーとかいう知らない人。14歳のヴァイオレットと、7歳のローズ、二人の娘を連れている。でも私は成績表の名前のことはすでに忘れていて・・。フィルがジョンソンと話している間、ヴァイオレットは本を読む。ローズがふらふら歩き回っても知らんぷりだ。犬を連れた老女が、その年で古典を読むとは偉い・・読んでいるのはバーナード・ショー・・と感心するが、やはりヴァイオレットは知らんぷり。あんまり愛想のいい子じゃないようで。ローズを捜しもせず、一人でボールを投げて遊んでいた同じ年頃の少年ヴォンデルに、タバコをもらったりする。さて、ジョンソンの話ではここは元金融会社のビルなのだそうな。地下は迷宮のようとか何とか。
ミッシング・タワー2
ローズはその地下へ迷い込んでいる。あの子(ヴォンデル)のボールが欲しいと言ったりするが、ヴァイオレットの態度も含め、これらには皆意味がある。地下には古参の管理人ウォルターがいる。彼も妻を亡くしていて、今はウクライナの黒魔術にはまっている。で、これがキルマー。最初は彼だとは信じられなくて。キルマーはもっと太っているはずだから。でも・・やせたのかしら。やせるのは健康にいいから、喜ばしいことだけど、額にシワがいっぱいあって、やせたのがいい方向へ向かっていないみたい。でも役のせいかも。焼却炉があるが、少女の写真(たぶん・・よく見えない)が貼ってあって、何だか薄気味悪い。そのうち例の犬を飼ってる老女が殺される。フィルはフリオという男性と親しくなる。彼も管理人の一人。彼によると、住人がいらなくなった家具などそのまま置いていくことがあって、例えばベッドとか。フィルは早速ローズ用に運び込む。今は三人とも床に寝ている状態。ヴァイオレットは「ローズばかり」とか「ムカつく」とか怒るが、これも裏の意味が・・。老女・・グレイ夫人の部屋には犬が取り残されていた。このままにしておくわけにもいかず、飼うことに。ローズは大喜びだ。他にフィルは住人のベバリーという女性に好意を抱く。彼女の方も彼に気があるようで。雑多な仕事をこなすフィルだが、ローズがいなくなったり、悪夢を見たり、心配事が絶えない。ウォルターが娘達に手を出すのではという不安も。あいつは見るからに怪しい。ヴォンデルは行方不明だ。新聞にはニューヨークで行方不明者多数の記事。フィルにはジョンソンも怪しく思える。彼が出入りする機械室に何かあるのでは・・と調べると、覗き穴が・・。ジョンソンはただの覗き魔。となるとウォルターだ。証拠を捏造し、彼が怪しいと警察に匿名で通報だ。この頃からフィルの行動がおかしくなってくる。アンタそれでも元警官かよ・・。しかしウォルターはすぐ釈放される。彼の居室を調べればグレイ夫人の杖はともかく、怪しげな黒魔術関連物品がぞろぞろ出てきて、警官を刺激するはずだが・・。
ミッシング・タワー3
ともあれこの頃にはウォルターは犯人ではなく、助ける側の人間なのだと、見ている我々にもわかってくる。犯人が誰なのかまではわからないけど。だから、フィルがフリオをいきなり殺した時にはびっくりする。続いてジョンソンも殺す。オヨヨ・・。フリオはフィルの部屋にヴォンデルのボールがあることに気づいたため。ジョンソンは、ウォルターの忠告でフィルを調べ直したら、警察に記録がないことがわかったため。それにフリオの死体を焼却炉へ入れてるとこ見ちゃったし。その頃ヴァイオレットはベバリーに秘密を打ち明けていた。フィルがベバリーに話したのは、火事があってローズは助けたけど妻は助けられなかったということ。しかし実際は・・ヴァイオレットとローズは双子で、火事が起きたのは七年前の7歳の時。ローズは邪悪な子で、火事を起こしたのも母親に叱られたため。ヴァイオレットから聞いたフィルはローズを窓から放り出し、そのためローズは首の骨が折れて死んでしまう。しかし死んでからもフィルに取りつき、ヴァイオレットにやさしい先生・・デイグルを、ボールが欲しいとヴォンデルを、犬が欲しいとグレイ夫人を・・と、フィルに殺させる。もちろんベバリーはヴァイオレットの言ってることがなかなか理解できない。・・実を言うと、一回見て感想書き始めたものの、こりゃ二回見なきゃならんぞよ・・と思い始めた。多くの人がDVDカバーの宣伝文句・・「シックス・センス・スリラー」でわかっちゃったと書いているけど、私は大きくうつっているキルマーの顔を見て、ジェフ・ブリッジスそっくりだな・・なんて思っていて、シックスなんちゃらには全然気がつきませんでしたの。だからクライマックスでは普通にびっくりいたしまして。で、こうなんだとわかってみると、じゃあ別の視点で二回目見なくちゃということになるんですわ。で、見てみるとここもあそこもそこも伏線だらけ。セリフやうつし方・・いや実によく考えられている。そういうのがわかってみると、うれしくていちいちここで書かずにはいられませんの。冒頭ジョンソンがデイグルにマスターキーを紛失したので鍵を取り替えるというセリフ。
ミッシング・タワー4
その後面接に来たフィルが、娘の好きな先生がいるので前にもここへ来たことがあるとか話す。つまりフィルはその時にマスターキーを盗んだのだ。だからどの部屋も自由に出入りできるのだ。面接している間にローズがいなくなり、捜し回るフィル。見つけてホッとする彼にベバリーが声をかけるシーン。階段の上と下、ベバリーにはフィルの姿しか見えない。結局ベバリーはヴァイオレットに秘密を打ち明けられた時まで、ローズの姿は見ていないのだが、見ている私は彼女もローズを見かけているはずと思わされている。作り手にだまされている。でもそのだまされ方が気持ちいい。ヴォンデルが行方不明になったとフィルに聞かされた時の、ヴァイオレットの反応。すぐスマホからヴォンデルの写真を削除。あらずいぶん早いのね、あっさりしたものだな・・と思ったけど、二回目は彼女の表情に目が行く。浮かんでいるのは悲しみとあきらめ。デイグルもそうだが、ヴァイオレットが好意を持った相手は消される運命にある。彼女が普段無関心、無愛想を装うのは、誰かとつながりができることを避けるためかもしれない。ベバリーがドアの覗き穴から外を見るシーンがある。男のカゲと少女のカゲ。少女のカゲが男のカゲの中に・・何でベバリーがそこで驚くのかわからんけど、ネタバレシーンなのは確か。でも私は一回目見ている時はこのシーンすぐ忘れちゃって。一回目は普通に、ベバリーとフィルはいつくっつくんだろうってそっちの方が気になって。チャンスっぽいのが二、三度あるけど・・フィルは自分の方から話を切り上げて離れてしまう。あれまあ淡泊な・・。ちょっと残念なのは、ウォルターが何かしているそばでうつっている監視カメラの映像。二つのモニターのうち、片方にはフリオが女としけ込むところがうつっている。もう片方は開いたドアの向こうにヴァイオレットとローズがうつっている。たいていの人はフリオの方に気を取られ、右の画像は見てないけど、できればここでなぜかいるはずのローズがうつっていないってふうにして欲しかった。そうすりゃ作り手の皆さん、どうでもいいシーンなのにさりげなくネタバレありがとうございました!となるのに。
ミッシング・タワー5
フリオがボールを見つけたのはおもちゃの家の中。屋根をはずしてみると、犬がいて、レコードプレイヤーも。そこで思い出す。デイグルが兄のためにレコードをかけていたことを・・。ヴァイオレットが作るはずないし、ローズが死んでいるとなれば、作ったのはフィル。兄妹が殺されたのはフィルがここの管理人になる前なのにこんなもの作っていたということは・・あの時部屋に潜んでいたのはフィル!ついでに言うと私はローズは火事で死んだのだと思い込んでいた。そしたらフィルが殺したんだと・・。ちゃんと見ているつもりでもいろいろ見逃したり勘違いしたりしているものなんだな・・と、痛感した。と言ってすべての映画複数回見るのは無理だしな。てなわけでフィルには娘を殺してしまったという負い目があるわけ。だからローズの言うことは何でも聞く。実際はローズが言うんじゃなくて、ローズならこんなもの欲しがるだろう(ボールや犬)、ローズならこういうことはいやだろう(ヴァイオレットが誰かと仲良くなって楽しい思いをするとか)と、フィルが想像してるんだけど。だけどそういうのにしちゃうと、悪霊じゃなくて精神的なものになっちゃって、ウォルターの出番がなくなっちゃう。映画としてはかわいい少女が実は邪悪で、父親を操って人を殺しまくる・・の方が、そりゃあいいわな。ただ、ヴァイオレットがフィルの殺人に気づかないはずはなく、そこんとこどう思っているのかという気はする。彼女にはローズの姿は見えない。他の人にも見えないが、犠牲者には見える。つまり見えた時は殺される時。だからベバリーも殺されるはずだった。クライマックス・・ウォルターはローズ退治に取りかかるが、何しろ幼いかわいい少女が殺されそうになってるとしか思えないから、ベバリーが邪魔をしてしまう。ウォルターも普段からちゃんとした態度でまわりの信用勝ち取っておけばよかったんだけど、どう見たって怪しい、うさんくさい、ヘンタイジジイにしか見えない。これじゃあ信じてもらえませんわな。で、フィルがウォルターの胸にナイフをズブズブ・・。いちおう私これはウォルターが刺されているように見えて実はフィルが刺されているのではないか・・なんて思ったんですが・・だめでしたな。
ミッシング・タワー6
その結果どうなるか。ローズは力を取り戻し、フィルやヴァイオレットだけでなくベバリーまでローズの奴隷に。ベバリーの役割は母親。今のローズが欲しいのは母親。ジョンソンもフリオもいなくなって、でもフィルはここでの仕事を続けていくのか、それとも・・?この何ともしらける終わり方にはやっぱりと言うか。特にホラーははっきり決着つけないことが多い。フィルが自分で自分を刺したって、あるいはウォルター刺してるつもりで自分を刺してたでもちっともかまわないのに。彼の殺人がここへ来て始まったとは思えない。この七年間、何もなかったはずはない。フィルは心のどこかではこんなこと終わりにしたいと思ってるはずで。自分が死に、ウォルターがローズを成仏させてくれることは、むしろ彼には望ましいことで。自分が殺人犯として逮捕されたのじゃヴァイオレットが気の毒だし。でも・・この映画はそうしなかった。持ち越しにした。ウォルターはフィルを助けようとしたのに殺され・・しかしエンドクレジットの途中で手が・・あれはウォルターの?まだ生きてた?あの後フィルはウォルターの死体を焼却炉で始末したはずだ。他の犠牲者同様。ウォルターのだけ焼かなかったなんてありえない。ここで一気に???が噴出するが、まあ今更ねえ。かろうじて考えられるのは・・ウォルターがこれまで熱心にやってきた黒魔術の効果がここで出たのではということ。一度死んだけど、焼かれたけど甦ったのだと。だからローズはこれから始まるとか意味深な言葉吐いたのだ。もちろん続きは「ミッシング・タワー2」で!!ベバリー役ルイーザ・クラウゼはシアーシャ・ローナン似。ローズ役マッテア・コンフォルティがまた・・一見無邪気でかわいらしいけど、実は邪悪という難しい役を見事にこなしていて。ブスッとしたヴァイオレット役テイラー・リチャードソンもいい。デイグル役アレックス・エッソーは冒頭だけの出演なのがもったいないくらいだし、仕事の合間に浮気しているフリオ役ユル・ヴァスケスもいい。住人の部屋も興味深いし、広大な迷宮である地下部分も魅力的。IMDbのユーザー評価は6.0(2020年6月現在)。この手の映画としてはわりと高い方だと私は思う。フニャ結末を別とすれば、非常によくできていたと私は思う。