ミスティック・リバー

ミスティック・リバー

この映画は銀座シネパトスで見た。最終日だからすいてるだろうと思ったら、ずいぶんたくさんお客がいたのでびっくりした。平日でこれだから土日はもっと入ってるんだろうな。そのせいか今日で終わりとなっていたのに、また少し延びることになったようだ。まだ原作は読んでいない。読めばまた思いも変わるのかもしれないが、まあそれは置いといて。ちょうど前の日にWOWOWで「OUT」を見た。両方とも「人間の心に潜む闇」を描いていると思う。まあ「ミスティック・リバー」は「イノセンスの喪失」がテーマのようだが。さほど重苦しいとかやり切れないとかいう感じはしなかったかな。重苦しいことは重苦しいんだけど、予想したほどでもなかったなという感じ。私は女のせいか、男三人のあれこれよりも、彼らの奥さん達の方に目が行った。映画が終わった時、ほとんどのお客さんは中途半端な気持ちにさせられたと思う。あの後一本映画が作れるくらい、何もかもやり残しているよなあ。それまであまり表面に出てこなかったジミー(ショーン・ペン)の妻アナべス(ローラ・リニー)が急に前に出てくる。ディヴ(ティム・ロビンス)を殺したジミーは、さすがに後悔の念にかられたらしく、ボーッとしている。アナべスは「あなたのやることはすべて正しい」だの「あなたはこの町の支配者よ」だの「あの人達は弱いけど私達は強い」だの、いろいろジミーに吹き込み、その気にさせてしまう。見ていて「あららこんなのアリ?」と思ってしまう。パンフによればアナべスにはマクベス夫人の役割をさせているのだそうな。ジミーは先妻の娘ケイティ(エミー・ロッサム)を溺愛していた。ボーイフレンドができると、当人だけでなく一家全部を嫌う。それには別の理由もあるのだが。夜、外に出て娘の帰りを待つ。外泊なんてしたらどうなることか。娘も父親を愛している。しかし正常な19歳だったら、父親の異常なまでの干渉をうとましく思うはずだ。彼女は恋人ブレンダンとラスベガスへ駆け落ちするつもりだった。ジミーと後妻のアナべスの間には二人の幼い娘がいる。何者かにケイティを殺されたジミーは錯乱するが、アナべスは悲しみながらも心のどこかではホッとしたはずだ。彼女にとっては、継娘のケイティよりも自分の娘が大事。ジミーがケイティを溺愛することに不満を感じていたはず。

ミスティック・リバー2

事件のあった日から様子がおかしくなったディヴ。妻のセレステ(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は彼が犯人なのでは・・とおびえ、ジミーに不安を打ちあける。ジミーは仲間とディヴを殺し、川に投げ込んでしまう。ジミーはセレステが心配してアナべスに電話していたことを知り、驚く。アナべスはなぜ、自分がディヴを殺すことを知っていて止めなかったのか。セレステとアナべスはいとこどうしである。ケイティの死でごたごたした時は、親身になって手伝ってくれた。しかしアナべスはディヴが殺されても何とも思わないのである。自分の夫のことをあなた(ジミー)に打ちあけるなんて・・と、まるでディヴが殺されたのはセレステのせいだと言わんばかり。今はやりの言葉で言えばジミーとアナべスは勝ち組、ディヴとセレステは負け組ということなんだろう。パレードを見るアナべス。子供がパレードに出るので声をかけようと出てきたセレステ。アナべスはセレステの方を見ていたのだろうか、ついと視線をそらし、パレードの方に目を向ける。それを見るセレステの不審そうな顔。セレステがジミーに不安を打ちあけたその晩から夫は行方不明だ。真犯人が見つかったのに、夫はなぜ姿を消したのか。ディヴの捜索が始まったら、セレステはそのことを話すだろう。刑事のショーン(ケヴィン・ベーコン)だってジミーを疑っている。しかし彼は家出していた妻が赤ん坊と共に戻ってきて幸せいっぱいだ。家出の理由は、おそらくショーンが仕事にのめり込みすぎていたからだ。妻が戻ってきて、彼はこれからは家庭を大事にしようと思っていることだろう。パレードを見る人ごみの中で、ショーンとセレステの目が合う。ショーンはセレステの置かれた状態を知っているはずだ。ジミーがディヴを殺したこともわかっているはずだ。家族と一緒のところを見られ、照れくさそうなショーン。幸せいっぱいの彼はちゃんとディヴの件を調査してくれるだろうか。それともこっちは州だから、市警察のことには首を突っ込まないよって知らんぷりするのだろうか。・・私にはこれらのことの方がよっぽど気になった。子供の頃に誘拐され、ひどい目に会ったディヴは、ひどい目に会ってるのは自分じゃない、他の子供だ・・と自分に思い込ませた。現実から逃避することによって、自分を守ろうとしたのだ。

ミスティック・リバー3

こういう経験をした子供には治療が必要だが、彼の場合は十分じゃなかったようだ。町を離れれば少しはよかったのだろうが、消極的な性格で、自分から行動を起こすこともなく、今日まで来てしまった。あの時誘拐されたのが自分じゃなくて他の子だったら・・誰か止めてくれていたら・・といくら思っても過去は覆らない。他の二人にしてみれば、あの時誘拐されたのが自分だったら・・と思うことはある。でもその次には「でも自分ではなかった」という事実に必ず行き着く。そこで運命は分かれたのだ。自分の力ではない、あるものの力によって。ジミーは誘拐されなかったけど、盗みや殺しで刑務所にも入った。そして今娘殺しの犯人と思い込んでディヴも殺した。子供の時は運命にただ流されただけだが、今回のことは自分の判断でやったことだ。その判断が間違っていたことは明らかだが、アナべスが「あなたのやることはすべて正しい」と言ってくれた。こんな妻と一緒じゃあ、そして倫理観の全くないサべージ兄弟と一緒じゃあ、そのうちジミーはまた犯罪に手を染めるでしょうな。間違った時に、それは間違いだと言ってくれる者がそばにいないということは不幸なことだ。ショーン、あんただけはちゃんと真実を追究してくれなきゃだめよ。幼なじみだからって手かげんしちゃだめ。正義が行なわれなかったらこの世は闇だわさ。・・以上は公開時シネパトスで二回見て書いた文章そのまんま。それからもう何年もたってしまった。普通なら原作読んで、あるいはWOWOWでやった時もう一度見て、文章補足して感想仕上げるところだが、何もしなかった。もう一度見ようという気にならない。原作もまだ読んでない。無実の人が殺され、うやむやになりそう・・というのが気に入らないからだろうな。てなわけでこれからも映画を見直すことはなさそうなので、このままアップすることにした。ちょっと意味のわからない部分もあるけど大目に見てたもれ。真犯人役の少年は「隣人は静かに笑う」や「アンブレイカブル」に出ていたスペンサー・トリート・クラーク。何かこの頃は女の子みたいだったな。他にショーンの相棒役でローレンス・フィッシュバーンが出ていたようだ(記憶がおぼろ昆布)。