名探偵ポアロ8

五匹の子豚、杉の柩、ひらいたトランプ

名探偵ポアロ87 五匹の子豚

これはわりとよくできている方だと思う。カメラをユラユラさせるなど落ち着きのないうつし方は残念だが。遠い日の思い出とか、誰かの視線のつもりだろうが、揺らせばいいってもんでもない。ルーシー(原作ではカーラ)という女性が、ポアロに母キャロラインの無実を証明して欲しいと言ってくる。彼女は21歳になって、遺産を相続すると共に、母の手紙も渡され、それによって母親が画家の夫アミアス殺しの罪で絞首刑になったことを知る。手紙には自分は無実だと書いてあったらしい。彼女は外国で育ち、名前も変えられた。事件当時は7歳(原作では5歳)で、何も覚えていない。ポアロはもう14年(原作では16年)たっていることだし、難しいことだと思っているが、いちおう引き受ける。原作では死刑のところ、同情すべき点も多々あるということで終身刑に、でも一年ほどで亡くなったことになっている。テレビではもっとショッキングにしてやれとばかりに、いきなり無慈悲な処刑シーン。確かに他のシーンは忘れても、ここだけは記憶に残る。さてポアロはまずキャロラインの弁護を担当したディプリーチ卿に話を聞く。演じているのはパトリック・マラハイド。これは2003年製作だけど、もっと・・10年とか15年早く作られていれば・・。アミアス役を彼でやっていたら・・とつくづく思う。美男で女たらしでエゴイストの芸術家・・ぴったりじゃん!こちらでのアミアスはエイダン・ギレンとかいう知らん人。アミアスに必要な強烈さがない。全体的に登場人物は原作より若くしてある。アミアスとフィリップは40歳というより30歳だし、エルサは20歳から18歳に引き下げ・・って選挙かよッ!そのわりには目尻にシワが~!キャロラインは34歳だが、演じているレイチェル・スターリングは当時20代半ばだ。14年後もみんな変わらずそのまんま。普通なら体形が崩れ、太るとかたるむとか。髪が薄くなるとか白髪が見え始めるとか見た目変わるでしょ。主眼はそこにはないとばかりにみんな若いまま。ちょっと手抜き。ポアロは主な関係者五人に当時の話を聞いて回る。キャロラインが無実だとすれば、このうちの誰かがウソをついていることになる。

名探偵ポアロ88 五匹の子豚2

アミアスの親友フィリップはキャロラインが犯人だと信じてる。彼女を嫌うのは彼女への恋心の裏返しなのだが、テレビの方はアミアスへの愛情の裏返しにしてある。よりいっそう複雑にしてあるのだ。いつもなら余計な変更しやがって・・と思うところだが、今回はよかった。テレビでは彼に慰めを求めにきたキャロラインが相手にしてもらえず、失望と怒りから「かわいそうな人」と捨てゼリフ。原作だと逆で、キャロラインを手に入れるチャンスとくどくが、土壇場になって拒否され捨てられる。で、侮辱された怒りと、親友を殺された怒りとでキャロラインを激しく憎む。フィリップ役はトビー・スティーブンス。ピリピリした感じのヴァン・ダム風二枚目。彼は「ミス・マープル」の「青いゼラニウム」に出ているけど、彼に限らず他の人もみんなあっちに出ている。レイチェル・スターリングは「牧師館の殺人」のグリゼルダだし、これにはエルサ役ジュリー・コックスが若き日のマープルを、メレディス役マーク・ウォーレンが恋人のエインズワースをやっていた。若い時のアンジェラ役タルラ・ライリーは「動く指」に出ている。アミアス役ギレンは若い頃のアレック・ボールドウィンとかルー・ダイアモンド・フィリップスとかフランク・ランジェラとかそっち系。やさしそうな顔立ちで、彼よりトビー・スティーブンスの方がアミアス向き。それにしても厚化粧したコックスを見てびっくりしたな。イライジャ・ウッドにそっくりなんだもん。この二人は「オックスフォード連続殺人」で共演している。ウォーレンはNHKでやってる「マスケティアーズ/三銃士」に出ているようだ。話を戻して、こちらにはエルサの夫もカーラの婚約者ジョンも出てこない。原作のカーラは、自分は母の無実を信じているから問題ないものの、ジョンは気にしている。彼の不安を取り除くためにもとポアロに依頼することにしたのだ。アンジェラの家庭教師ウィリアムズ役は「主任警部モース」の「ジェリコ街の女」に出ていたジェマ・ジョーンズ。この作品にはヘイスティングスもミス・レモンもジャップ警部も出てこない。そのせいでわりと事件に集中できる。出来がいいように思えるのはあまり余計なものがくっつけられていないからだろう。

名探偵ポアロ89 五匹の子豚3

とは言え残念に思えることが二つほどある。一つは削られてしまった、キャロラインとアミアスの奇妙な夫婦関係。アンジェラを除き、他の人達は皆、夫婦仲は悪かったと思っている。アミアスは次々と浮気し、しかも後悔することはない。絵のためなら何でもするし、許されると思っている。キャロラインはがまんすべきだと思っているし、結局は彼女の元に戻るのだから何の問題もない。エルサやフィリップはキャロラインを嫌っていたが、メレディスやウィリアムズは気の毒に思っていた。耐え忍ぶりっぱなやさしい女性と、根性悪の偽善者と評価がまっぷたつに割れたのだ。しかしアンジェラには違って見えていた。昔キャロラインは父親違いの妹アンジェラに嫉妬して、まだ赤ん坊の彼女に文鎮を投げつけ、片目を潰してしまった。それを後悔して、何としてでも償いたいと思っている。それと同時に、二度とこんなことをしないですむよう、行動に移す前に口に出して怒りや嫉妬を発散することにした。だからああやって派手なののしり合いをやっていたのだ。絶え間ないケンカは一方で単調な夫婦生活を刺激する手段でもあった。二人にとってはケンカは愛情表現でもあったのだ。この部分はテレビでは削られてしまっている。わりとフツーに、キャロラインはじっと耐え忍んでいたが時には爆発し・・みたいになってる。フィリップに慰めを求めたシーンもそうだが、キャロラインに同情させようというふうな作り。実は変態夫婦だった・・じゃあまずいってか?もう一つ残念だったのは、真相が暴かれ、ルーシーがエルサに銃を突きつけるところ。あの時死んだのは私だったのだというエルサのセリフで印象的なラストになるはずが・・とたんに安っぽくなってしまった。あの時のエルサには若さと美貌とお金があった。欲しいものは何でも手に入るはずだった。キャロラインに負けるはずはなかった。それなのに・・絵が完成すれば自分はお払い箱にされると知って・・。しかもキャロラインはそんな彼女の立場をかわいそうだと同情。エルサのプライドはズタズタ。アミアスを殺し、キャロラインを刑務所へ送り、復讐は成ったはずなのに・・。エルサにとってもアンジェラにとっても他のみんなにとっても、あの日で何かが終わってしまった。そういう郷愁のようなものを感じさせるところはよかった。

名探偵ポアロ90 杉の柩

これは前に一度見ているけど、印象に残っているのはメアリー役ケリー・ライリー似合わなさすぎということだけ。エリノアとロディは幼なじみで婚約したばかり。幸せいっぱいだが、匿名の手紙が来たせいで不安になる。ただのいやがらせだろうけど、そう言えば叔母のローラの見舞いもつい間があいてしまった。手紙の内容に影響されたわけではないが、いい機会だから二人で会いにいこう。庭番の娘メアリーはローラのお気に入りだ。美しいし彼女の面倒をよく見てくれるやさしい性格。小さいうちから彼女はメアリーに援助を惜しまず、ちょっと前までドイツに留学させていたほどだ。このかわいがりようでは遺産は全部メアリーに行くのではないか・・手紙にはそんなふうに書かれていた。メアリーを見たとたん、ロディは心を奪われてしまう。エリノアは平静を装いつつも不安になる。そのうち怒りや悲しみでいっぱいになる。ある晩ローラは二度目の発作を起こし、帰らぬ人となる。看護師のホプキンスは、カバンに入れておいた患者用のモルヒネがなくなっていることに気づく。弁護士によると、ローラは遺言書を作っておらず、したがって全財産は血の繋がっているエリノアに行く。ロディはローラの亡夫の甥なので、血の繋がりはなく、一銭ももらえない。それでも二人は結婚するつもりだったから何の問題もなかった。ところが今ではロディはメアリーに夢中だ。彼はエリノアの財産分与の申し出を断る。エリノアもロディも将来遺産が入るという当てがあるせいか、気楽に暮らしている。働いているようには見えないし、節約を心がけているわけでもない。ロディはまたいやなことは避けて通りたい方で、生活は贅沢だし借金もある。それでいてエリノアの申し出は断る。どうやって生活していくつもりなのか不明だが、プライドだけは高いようだ。メアリーへの愛情も受け入れてもらえない。そりゃそうだろう。身分違いだし、エリノアと結婚するはずだったんだし。テレビの方は、ロディはさほどいやなやつには描かれていない。ある日突然今の恋人とは正反対のタイプに心を奪われ、他のことが考えられなくなるというのは、ある意味共感できる。エリノアは叔母の希望だからとメアリーに7000ポンド(原作では2000ポンド)渡し、ロディには頭を冷やすため一時的にここを離れるよう勧める。それでも考えが変わらなかったらメアリーにアタックすればいい。

名探偵ポアロ91 杉の柩2

エリノアの中にはロディが考え直して自分の元へ戻ってくれるのではという淡い期待があるのだと思う。そういう思いにも共感できる。メアリーが悪女なら心置きなく憎むことができるが、彼女には悪気は全くない。ローラの厚遇には思い上がるどころかとまどっていたし、ロディのことは何とも思っていない。ドイツで勉強したとは言え、身を立てる資格があるわけでもなく、これからどうやって生活していこうか。エリノアは葬式をすませ、屋敷は売却することにし、怒りや悲しみをこらえ、後始末に取りかかる。メアリーの方も父親が亡くなり、家の後始末がある。エリノアは彼女とホプキンスを昼食に呼ぶが、メアリーが死に、毒殺されたとなって、逮捕される。彼女には遺産を取られるのではないか、ロディを取られたという動機があったし、現にポアロの目の前でメアリーに対する憎しみをあらわにしていた。「メアリーが死ねばいい」と言ったのだ。彼女は昼食の後片づけをしている時、憑きものが落ちた気がしたが、皮肉なことに戻ってみるとメアリーは死にかけていた。だから逮捕されても無実を言い立てる気にはならない。直接手は下していないけど、自分が殺したようなものだ。そういうのは自分はいいかもしれないが、弁護士とかまわりの者は困る。このままでは有罪になってしまうと、ローラの主治医だったロードがポアロに助けを求めるわけだが、それだとポアロの登場がずっと後になってしまうので、テレビでは最初の方から関わらせている。ロード役はポール・マッガン。吹き替えだが、声がやさしくやわらかい感じでとてもよい。あてているのは田中秀幸氏だ。前にもいいと思ったんだっけ。原作のロードは善人だが、頭が悪いと言うか鈍いと言うか。将来エリノアと結ばれるのだから、もう少しマシなキャラにすればいいのにと思うほど。テレビの方は少しはマシである。マッガンはポアロと並ぶと身長がそんなに変わらない。意外と小柄?調べてみたらマッガンは174センチ、スーシェは170センチだった。ロディ役ルパート・ペンリー=ジョーンズは顔が小さく、スラッと長身。地味だけど整った顔立ち。ホプキンス役フィリス・ローガンは「主任警部モース」の「カインの娘たち」のジュリアだ。顔が長いがエマ・トンプソンによく似ている。ローラ役は「大いなる眠り」に出ていたダイアナ・クイック。

名探偵ポアロ92 杉の柩3

メアリーは21歳で花のように美しく、生命力にあふれている。彼女は本当はローラの娘なのだが、そのことは知らない。原作だとローラは早くに夫をなくし、その後ルイスという既婚男性と恋に落ちる。ルイスには精神病の妻がいて、当時のイギリスでは離婚できず、しかも彼は戦死してしまう。身ごもっていたローラは、赤ん坊をなくしたばかりの庭番夫婦に自分の子供・・メアリーを育ててもらうことにする。ルイスのためにも自分のためにもスキャンダルは避けなければならない。そうは言っても自分の娘だからかわいい。本来ならメアリーは早々に働きに出て、身分的に釣り合いの取れた庭師のテッドと結婚して、平凡に暮らしたはず。ローラの愛情はメアリーの運命を狂わせ、死に追いやったとも言える。テレビの方は精神病はなし。メアリーにつらくあたる養父も出てこない。何度も書いているが、ライリーはミスキャスト。21には見えないし、美人とは言えないし、無邪気にも見えない。腹に一物あるように見えてしまう。さてエリノアは有罪になり、五日以内に処刑ということに。向こうはずいぶん早いな。判決を言い渡すのはティモシー・カールトン。ベネディクト・カンバーバッチのお父さんだ。で、あれこれあるけど当日になってもう時間がないってのにポアロはロードとロディを呼んで、彼らのウソを暴く。暴いたからって時間が過ぎるだけで何の意味もないのだが、ポアロははっきりさせずにはいられないのか。見ているこっちは時間がぁ~。オブライエンに対してもウソを暴く。大事な時間がぁ~。ホプキンスに対しても芝居をする。毒を飲まされたふりをする。もう時間がぁ~。ポアロはエリノアを助ける気がないんじゃないかしらと思えてくる。まあ何ですな、処刑まであとわずかというハラハラと、犯人を暴く過程をじっくり見せるというのは両立しないんですよ。欲張るからかえってちぐはぐ感がつのる。ラストはロードとエリノアが・・お幸せにねとは思うけど、冒頭では彼女とロディは夫婦同然で、ああいうのは見せなくても・・と思ってしまう。それでなくてもどうせ結婚するのだからとか、どうせ遺産が入るのだからとのん気に暮らしている二人にはあまりいい印象は持てない。ま、私の頭が古いんでしょうけど。ちなみにテレビは1937年の設定。

名探偵ポアロ93 ひらいたトランプ

これは前半はまあいいのだが、後半は作り手達が新しいことやって視聴者の裏をかいてやろうとでも思ったのか、どんどん変な方向へ行ってしまう。シャイタナという金持ちだが性格の悪い男がいる。人の秘密を暴き出しては喜んでいる迷惑なやつ。今回八人の男女を招き、食事の後ブリッジをする。ポアロ、オリヴァー夫人、ヒューズ大佐、ウェラー警視の四人、ロリマー夫人、ドクター・ロバーツ、ミス・アン、デスパード少佐の四人、この二組が別々の部屋でカードをする。シャイタナは加わらず、ロリマー夫人達の方の部屋にいる。暖炉の前で、客達には背中を向けた状態で椅子に座っている。夜も更けたのでおひらきにしようとウェラーがシャイタナに声をかける。眠っていると思われたシャイタナは、ナイフで一突きされて死んでいる。別室にいたポアロ達や、出入りしていなかった召使い達は容疑からはずれる。疑われるのはこの部屋にいた四人。シャイタナは食事の時殺人についてほのめかしたり、カードの後で重大発表があるなどと思わせぶりなことを言っていた。四人にはそれぞれ思いあたることがあるのでは?ポアロ達の方は探偵、推理作家、情報部員、警視で、いわば犯人を追いかける側。未亡人のロリマー夫人には夫殺しの疑い、医師のロバーツには患者で愛人関係にあった人妻を殺した疑い、アンには雇い主の老婆を毒殺した疑い、探検家のデスパードにはアマゾンで学者を殺した疑い。・・まあここまではほぼ原作通りだ。この後は・・変更しまくる。デスパードはラクスモアという夫婦の旅行の世話をしていた。ラクスモアは向精神薬を研究していて、自分を実験台にしたところ錯乱し、夫人に襲いかかる。やむなくデスパードは教授を撃ち殺すが、自分や夫人のことを考え、熱病で死んだことに。ところが夫人はシャイタナにこのことをしゃべってしまった。原作では三人とも熱病にかかり、中でも症状の重かったラクスモアが熱に浮かされてふらふら歩き回り、川に落ちそうになる。追いかけても間に合わないので、デスパードはライフルで足を狙い撃ち、止めようとする。川に落ちたら助からないし、自分は腕には自信がある。ところが勘違いした夫人が彼の腕をつかみ、そのせいで狙いが狂って撃ち殺してしまった。元々夫人はデスパードに色目をつかうようなタイプで、自分のために夫を始末したのだと思い込んでるバカ女。

名探偵ポアロ94 ひらいたトランプ2

どうせシャイタナにも自分に都合のいいように話したに違いない。テレビでは夫人は少しマシな女に描かれている。デスパードもほのかに思いを寄せていたようだ。原作にある、ポアロが夫人を訪ねて話を聞くシーンは出てこない。ロリマー夫人は原作では不治の病で、犯人は自分だとポアロに告白する。アンをかばおうと嘘をついているのは見え見えなので、ポアロは納得しない。彼女はアンが犯人だと確信しており、気の毒に思って身代わりになろうとしたのだ。テレビではアンとロリマー夫人は親子にしてある。疎遠だったが、シャイタナのところで偶然再会して双方驚く。アンは母親が夫・・アンの父親・・を突き落とすところを見てしまったらしい。そのせいで彼女は家を出て自活し始める。原作のロリマー夫人が初対面のアンをかばうのは不自然だが、不治の病でもう長くないとなれば話は別だ。テレビでは不治の病はなし。代わりに母親だからかばうということになってる。彼女にはアンの将来をメチャクチャにしたという負い目がある。ただし、彼女と夫の間に何があったのか、殺意があったのか事故だったのかははっきりしない。原作でのアンは自分の過去・・雇い主を毒殺したのがばれるのではと恐れている。同居している友人のローダが、悪気はないもののまわりにしゃべりそうなので、ボートから川に突き落とす。ところが自分も落ちてしまい、溺れ死んでしまう。デスパードが助けたのはローダの方。アンに引かれているように見えた彼だが、本命はローダの方だったようでカップル誕生。テレビではローダがアンを突き落とし、デスパードがアンを助けている間にローダが溺れ死んでしまう。雇い主はテレビではローダのおばになっていて、毒殺したのはローダ。アンは手癖が悪く、お金か何かを抜き取っているところを見つかってしまう。ローダはアンに執着し、いつでも支配していたいと思っているので、クビにされては困る。それでおばを殺したのだ。ことあるごとにおばの死をちらつかせ、アンをおびえさせ、心理的に奴隷状態にしておく。どことなく同性愛的なところもにおわせてある。このようにテレビではアンは死なない。ポアロの罠に引っかかって高級なストッキングを盗むが、そのことは問題にされない。彼女がこんなことをするのは父親の死を目撃したせい。

名探偵ポアロ95 ひらいたトランプ3

しかもそれに母親が関わっていたというショックのせい、トラウマによるもので彼女が悪いのではないと。まるで「マーニー」みたいだな。ロバーツの方も変なことになってる。女たらしで通っているが、実は同性愛者で、患者のクラドック夫人を殺したのは、夫との関係がばれたため。原作では同性愛はなし。ロリマー夫人の告白や、アンがローダを殺そうとして死んでしまうなど、ロバーツにとっては有利な状態。そのまま動かずにいれば尻尾をつかまれずにすんだかもしれないが、つい余計なことをしてしまう。医者の彼はロリマー夫人の病気に気づく。これを利用してやれと自殺に見せかけて殺す。つまり原作ではロリマー夫人は死んでしまうのだ。これでも足りないと作り手は考えたのか、ウェラーまで変なことになってる。原作ではバトル警視で、鈍重だが着実な、要するにポアロとは正反対のタイプ。最初の方のウェラーはバトルと同じタイプに見えるし、こちら側の四人には疑いはかかっていない。だから実はこちらにも・・と、意外性を狙ったのだろうが、そこまでやる必要あるのかね。彼は何やらまずい写真をシャイタナに握られていたらしく、取り返すためにシャイタナ宅に泥棒に入ったりする。だんだん落ち着きのない態度を示すようになる。しかもロバーツはクラドックともう一人と男三人で閉じこもっていたらしいから、その三人目はウェラーではないのかなんて。でもたぶん彼の弱味はコスプレ・・女装とか・・みたいな写真かも。途中でゲイっぽい写真師出てくるし、二人の男性がポーズ取ってたし、いわゆる”芸術写真”かも。真打ちはシャイタナだ。彼は四人のうちの誰かに自分を殺させようと睡眠薬を飲んでいたんだと。あのねえ・・彼は人をおびえさせるのが楽しくてしょうがないのよ。金には興味ないし、たいていの刺激には不感症になってるから、今夜はとびきりのスリル味わいたい。それなら完璧にお膳立てして眠ったふりして今か今かと待ち構えているはずでしょ。苦しみたくないから睡眠薬ってそんなのあるわけないじゃん。ロリマー夫人役レスリー・マンヴィルは「ジェームズ・ボンドを夢見た男」でフレミングの母親役やっていた。ヒューズ役ロバート・パフは「ミス・マープル」の「予告殺人」、ロバーツ役アレックス・ジェニングスは「魔術の殺人」、ウェラー役の人は「新米刑事モース」の「消えた手帳」に出ている。