名探偵ポアロ7

葬儀を終えて、三幕の殺人、複数の時計、ハロウィーン・パーティー、オリエント急行の殺人、象は忘れない、ビッグ・フォー、死者のあやまち、カーテン、ヘラクレスの難業

名探偵ポアロ70 葬儀を終えて

富豪リチャード・アバネシーが急死して、葬儀を終えて、でも本当に悼んでいる人はあんまりいなくて、遺産の分配の方が気になる。そんな中、末の妹コーラが爆弾発言。「リチャードは殺されたんでしょう?」・・もし彼女が言わなかったら誰もリチャードの死因は疑わなかった。次の日今度はコーラが惨殺される。あの発言がなかったら、ただの強盗殺人・・それにしちゃ手斧で何度も・・残酷だが、どこかの狂った誰かの仕業・・となったろう。でもあの発言のせいで、両者の死には関連があるように思えてくる。そうなりゃ疑われるのは遺族で・・。それに加え偽造されたと思われる遺言状や、家の権利書の紛失。弁護士エントウィッスルはポアロに協力を求める。家族構成はかなり変更されている。リチャードの甥ジョージは実は息子とか、ジョージとスーザンの悲恋などは原作にはない。ジョージ役ミヒャエル・ファスベンダーは愁いに満ちたハンサムで、ガイドブック(デアゴスティーニの)によれば「確実に大スターになる運命」なのだそうな。何でたらめ書いてるのだと思うところだが、ちょうど今公開されている「X-MEN ファースト・ジェネレーション」で、若き日のマグニートーを演じているのだ。これをきっかけにガイドブックにある通り大スターとなるか!ジョージの母ヘレン役ジェラルディン・ジェームズはいかにも英国風の気品のある人で、「カレンダー・ガールズ」に出ていた。あの時はやや憎まれ役だったけど、主役の二人以上に印象に残っている。リチャードの弟ティモシーは病弱を装い、妻のモードをこき使う。文句ばっか垂れて自分は何もしないくそじじい。モード役はアンナ・カルダー=マーシャル。見たことはないが「嵐が丘」(1970年版)でキャサリン役やってる。ヒースクリフ役はティモシー・ダルトン!原作読んでなくても犯人はすぐわかる。一見関係なさそうで、でもよくしゃべって、捜査のヒントになりそうなこと言うけど、しゃべっているうちにボロを出してしまう。印象に残るのは、関係者が集められた夕食の席で、コーラのコンパニオン、ギルクリストがメイドみたいに用事言いつけられること。人を使う側特有の傲慢さ、無神経さ。ティモシーにこき使われているモードでさえ・・。たぶんギルクリストは屈辱で殺意さえいだいただろう。頭を殴られ、重傷のはずのヘレンが何事もなく(包帯もなく!)人々を送り出しているラストには引っくり返りそうになった。大変な石頭の持ち主らしい。

名探偵ポアロ71 三幕の殺人

待ちに待ったポアロの新作。何たって「オリエント急行」にはサミュエル・ウェストが出ているのだうくく。それにしてもデヴィッド・スーシェは老けた。肌のつやが悪く、目が小さくなり、ヒゲまで元気がない。くり返し顔がアップになるが、やめた方がいいよ。元舞台俳優のチャールズが開いたパーティで、牧師バビントンが急死。続いてチャールズの古い友人で神経科医のストレンジも、自宅でのパーティで死亡。バビントンの死には事件性なしと、みこしを上げなかったポアロも、自分が間違っていたと認め、調査に乗り出す。原作と違い、だいぶポアロの出番を増やしてある。チャールズのパトロン、サタスウェイトが省略され、そのぶんポアロが動く。いちおう展開は原作をなぞっているが、かなりめまぐるしい。表面的で薄っぺらいが、何とか見ていられるのは出演者の演技がしっかりしているから。それと風景とか建物、調度品その他に美しさと重みがあるから。さて、あまり大きな変更はないな・・と油断していたら、謎解き部分で原作からずんずん離れていくのにはびっくりした。若く美しいエッグは、父親ほども年上のチャールズに恋しているが、同じ年頃のオリヴァーもいるので、チャールズは腰が引け気味。しかし彼の煮え切らない態度には裏があった。ストレンジの件では失踪した執事エリスが疑われるが、チャールズが元俳優ということで、からくりは読めてしまう。原作だと彼が引退したのは神経衰弱のため。治療を受け退院したものの、ストレンジから見るとまだ治っていない。で、入院させられる・・自由を奪われる・・と思い込んだチャールズは、まず殺人の予行演習をし・・つまり死ぬのは誰でもよく、取ったグラスによってはポアロが死んでいたかも・・、次に本命に取りかかったと。もう彼は頭がおかしくなってると。ところが映画では、本気でエッグを愛したけど、彼には離婚できない妻がいて、それを知ってるストレンジが邪魔だったと。何かとんでもない方向・・お涙ちょうだい、センチメンタル、純愛・・見ていてアレレ~。チャールズ役マーティン・ショーは10歳ばかり年取りすぎ。目と目の間が広い。オリヴァー役トム・ウィズダムはハンサムだが、作り手は美しくうつそうなんて気はなし。残念。エッグの母役ジェーン・アッシャーは、昔ポール・マッカートニーの婚約者として雑誌によく載ってた。解消の理由は・・ええッポールってそんなやつだったんですか~?

名探偵ポアロ72 複数の時計

諜報員のコリンが恋人フィオナの死を悲しむ・・というのは原作にはなし。フィオナは同僚が機密を持ち出すのを見て、あとを追う。途中コリンに電話するが、彼はちょうどカードでツキが回ってきたところ。えッ、そんなことで恋人の懇願を無視するの~?フィオナと同僚はもみ合ってるうちに車にはねられ、共に死亡。コリンは悔むが後の祭。フィオナの残したメモを頼りにスパイのアジトを捜す。一方タイピストのシーラは雇い主の言いつけでぺブマーシュという女性の家へ。行ってみるとなぜか置時計が四つもあり、3時のはずなのに4時13分になっている。男の死体に気づいたシーラは外に飛び出し、ちょうど通りかかったコリンにしがみつく。ぺブマーシュも仕事から戻るが、彼女は盲目で、シーラを呼んだ覚えも、置時計にも心当たりはないと言う。もちろんコリンとシーラは恋に落ち・・。・・原作と一番違うのは二人の境遇だろう。コリンが沈んだ状態なのと同様、シーラにもカゲが・・。原作だと彼女は叔母と暮らしている。両親は死んだことになってるが、実は彼女は私生児で、母親は彼女を妹に預け、姿を消したのだ。教師で意志が強いということで、ぺブマーシュのことだと想像がつく。犯人が死体を彼女の家に置き、犯人と疑われるようシーラが行かされたのは偶然だが、まさか知らず知らずのうちに母子再会を果たしていたとは・・。それじゃああまりにも都合よすぎるとでも思ったのか、映画の方はそういうのなし。叔母は出てこず、ぺブマーシュもシーラの母じゃない。シーラは家族のいないさびしさから数人の男性と関係を持ち、流されやすい性格で、今もあるホテルの413号室で某教授と・・。あらま、何でこんな設定。つまり・・コリンと同じくシーラも暗い過去を引きずっており、そのせいで二人は強く引かれ合うのだと、そういうふうに持っていきたいようで。ケッ!何と都合のいい・・新しい恋人の出現かよッ!コリン役トム・バークはルーファス・シーウェルを大ざっぱにした感じ。目とか少し似ている。ぺブマーシュ役アンナ・マッセイは去年の7月に亡くなったようだ。あら・・ポアロのこと全然書いてない。

名探偵ポアロ73 ハロウィーン・パーティー

今回期待したのは造園師マイケル。原作にはまれに見る美青年とある。期待せずにはいられない。ポアロの友人で推理作家のオリヴァー夫人(ゾーイ・ワナメイカー)は、ギリシャのクルーズで親しくなったジュディスの家に泊まっている。ロウィーナの家で開かれたハロウィーンパーティで、参加した子供の一人ジョイスが殺される。彼女は殺人を見たことがあると言い出すが、いつもウソばかりついてる子なので、誰も相手にしない。しかし殺されたとなると・・。オリヴァー夫人はポアロに助けを求める。原作には引退したスペンス警視が出てくるが、こちらではカット。ロウィーナに息子と娘がいるのも原作とは違う。ポアロはジョイス殺しの犯人を見つけるには、彼女が見たという過去の殺人がカギとなる・・と思っている。他の者はジョイスの言ったことは出まかせで、犯人は通りがかりの異常者だと思っている。二年ほど前、大金持ちの老婦人ルウェリンが病死し、全財産が身内のロウィーナ達ではなく外国人の娘・・住み込み女秘書の・・オルガに渡りそうになったことがあった。しかし遺言書が偽造とわかり、オルガは行方をくらます。ルウェリンは財産目当てのオルガに毒殺されたのか。他に弁護士事務所のフェリアの刺殺事件、女教師ホワイトの溺死。この三件が当てはまりそうだ。さて、ジュディスの娘ミランダは風邪のせいでパーティには欠席。彼女はジョイスと仲良しで、殺人を見たと話したのもミランダ。ジョイスはミランダが欠席なのをいいことに、有名な作家オリヴァー夫人の注目を引こうと、自分の体験として話したのだ。ミランダはジョイスの死を自分のせいと考えており、自分は生け贄になるのだとも思っている。そう吹き込んだのはマイケル。彼はルウェリンに気に入られ、すばらしい庭園を作ったが、開放されているにもかかわらず訪れる人はまれ。昔の魔女狩りのせいとか理由がくっつけられているが、余計なことだ。美しくても不思議と人が寄りつかないという場所はあるものだ。彼は実はロウィーナと通じている。ルウェリンはそれを知って激怒。遺言状を書き換えたのだ。二人は前科のあるフェリアを金で釣り、一目で偽造とわかる遺言書を作らせる。

名探偵ポアロ74 ハロウィーン・パーティー2

オルガは失踪したのではなく、殺されたのだ。それを偶然見ていたのがミランダ。マイケルはロウィーナの金でギリシャに島を買い、思い通りの庭園を作る予定。たぶんしばらくしたらロウィーナは事故死するだろう。ナルシストのマイケルは自分にしか興味がない。美しい庭園を作るには莫大な費用がかかる。ロウィーナはただの金づる、愛してなんかいない。謎解きのシーンでポアロに犯人と名指しされたロウィーナはしらばくれるが、マイケルの本心を知り、子供の前で醜態をさらす。原作通り美人で女盛りで欲求不満気味(夫は小児マヒ)というのなら、美形によろめくのも無理はない・・となるところだが、こちらでは老けたブスなので、わびしい感じ。あんな美形が自分を愛するはずない、金目当て・・ってわかりそうなもの。ミランダは実はマイケルの娘。昔ジュディスはマイケルと恋に落ちたものの、彼の性格に何やら恐怖を感じ、身ごもっていることを隠したまま別れたのだ。偶然ここで再会したが、知らんぷりをしていた。でも彼女の知らないうちにミランダが彼と親しくなっていたとは・・。ジュディス役の人は知的な美人。こういう人がロウィーナやると説得力が出るんだけど。ミランダは色が白く、整った顔立ちで、背は高い方。どこか夢見るような、はかなげな印象。妖精のような美しさ。森の中で小鳥やリスを見て過ごす。(オルガの)死体を引きずるマイケルを目撃したのもそんな時。でも彼女にはその意味がよくわからなかった。ロウィーナはジョイスのホラをまともに受け、即殺したが、マイケルは手順を踏む。静かな夜・・月とか星とか・・儀式めいたやり方、殺人ではなく生け贄という体裁を取る。彼の美へのこだわり、ナルシストぶりは、見ている者にうまく伝わっただろうか。直前になってミランダは毒を飲むのを拒んだが、原作通りの方がよかったのでは?例え毒とわかっていても飲むようなところがミランダにはある。彼女は普通の子供と違っており、そういうところはマイケル似なのだが、異なるのは邪悪さが全くなく、穢れのないこと。正直言って、映画の核となるものがはっきりせず、ジョイスの殺人目撃発言とその直後の死というハデな出だしのわりには、クライマックスは薄ぼんやりした印象。「美へのこだわり」じゃ今いちパンチ不足だったようで。

名探偵ポアロ75 ハロウィーン・パーティー3

いくらかカットされた部分もあるのでは・・という気もする。魔女と呼ばれるグッドボディのいわくありげな言動も尻すぼみ。この人イアン・マッケランに似ているのでおかしくて。牧師に要求していた消毒液って何だろう。彼女の仕事は掃除らしいけど、私にはアルコール・・お酒を要求しているように思えた。二番目の犠牲者となるジョイスの兄(原作では弟)レオポルド役リチャード・ブレイスリンはちょっとジェイク・ギレンホール似。マイケル役ジュリアン・リンド=タットは確かに美形。原作では黒髪だが、美形はやっぱり金髪でないと。ただ、あの髪形、不精ヒゲは・・。何となく鼻の下を小指でポリポリかきたくなるような・・鬱陶しい感じ。調べてびっくり。「無実はさいなむ」のキャルガリーやってた人なのよ、全然気がつかなかった。まああっちは顔半分メガネだし、髪の色も違うし、クリストファー・リーヴ風。今回は髪形のせいでウィリアム・カット風。原作で類まれな美青年と書いてあっても、映像化されると「どこが~!」ってなるものだけど、今回はまあがんばった方。映画はロウィーナの夫をはねて殺したのはマイケル、ルウェリンを毒殺したのはロウィーナ・・と、殺人を増やしてある。謎解きもハデで、ポアロはみんなの前でロウィーナを弾劾。それはいいとして、ミランダの出生の秘密を本人の前で明らかにするのはやりすぎな気も。ミランダはジョイスの死の責任を感じている。その上自分を殺そうとしたのは実の父親だったなんて聞かされたのでは・・。前にも書いたが彼女はちょっと変わった性格。外に発散せず、内に沈澱するタイプ。将来を心配せずにはいられない。女教師ホワイトの溺死(原作では絞殺で迷宮入り)は事故だと思われているが、実は自殺。今回の事件には関係なく、彼女と教会でオルガンを弾くウィチカーとの同性愛が原因。セリフがあいまいなのでわかりにくいが。ポアロやマープルのシリーズでは、原作にはないホモやレズが出てきてうんざりさせられるが、今回はウィチカーの深い悲しみや後悔が感じられ、心を打たれる。でもまあ今回のヒットはミランダ役メアリー・ヒギンスの穢れのない美しさ、それと美しい庭園でしょう。こういう実物を出してこれるのが英国の強み。

名探偵ポアロ76 オリエント急行の殺人

多くのポアロファンはこの作品が放映されるのを待っていたと思う。私はサミュエル・ウェストが出ているというので、この日を待っていた。そして見て・・ありゃりゃ~何じゃこりゃ。こういうポアロってアリ?「オリエント」はもっとハデでにぎやかでスカッとするものであるはずだ。ポアロは真実を何よりも重んじるけど、警官ではない。だから犯人が逮捕されて終わりとならないこともある。つまり・・故意に見逃すこともある。今回のポアロは冒頭からおかしい。だいぶ前ネットで予告を見た。少しでもウェストが見られないかと淡い期待を抱いて・・。そしたらポアロが何やらまくしたてていて、その矛先と思われる青年が目の前で自殺して・・。ありゃ~原作にはこんなのないぞ。彼が傷心旅行なのがわかる。沈んだ状態で列車に乗り、そこで事件に出会うのだ。本編を見たら不貞を働いた身重の女性がリンチに会うエピソードも入れられ、これまたありゃりゃ。何だか深刻路線。こういう答の出ない問題突きつけて、それがどよ~んとのしかかったまま、また別の事件が起きて。ポアロは犯人達を許さない。冒頭と同じく、激しくまくしたて、弾劾する。炎に赤く照らされ、目のあたりは黒ずみ、太い眉とヒゲのせいもあって、まるで悪魔のような形相。こういうポアロってアリ?ラストも凄まじい。自らの信念を曲げたポアロ。まわりは極寒、あたしゃ心臓マヒ起こしてポアロがここで死んじゃうのでは・・と本気で思ってた。何で作り手はこんな苦い「オリエント」にしたのかな。ポアロの老い、孤独、頑迷さをここまで強調しなくたって。そういうの誰も期待していないのに。そりゃ他と違う「オリエント」見せたいという気持ちはわかる。シドニー・ルメットの映画はもうテキストになっちゃってるし(「死の片道切符」は問題外)。作り手は映画を超える出来目指したはずだ。でもってオールスターの華やかさはないし、時間も短い。となれば内容で勝負、いつもと違うポアロで勝負。見た人の感想は二つに分かれている。その厳しさをほめる人と、期待はずれでがっかりした人。私は後者の方です。これに求めるのは古きよき時代。「片道」みたいな現代はありえない。痛ましい幼児誘拐殺人事件。正義が行なわれないことへの失望と、憎々しい犯人。殺人は許されることではないが、悪は滅びて欲しい。

名探偵ポアロ77 オリエント急行の殺人2

居合わせたのが警官ではなく、ポアロだったというのは天の配剤である。甘いと言われようが、列車の雪の中からの脱出が、人々の再出発と重なり、すがすがしい気分になれる。それがこの作品では・・。ラチェットを殺すシーンにしても、狭い室内に大勢集まり、明るい灯の下で。薬で体は動かないけど、自分が何をされているかはわかるという状態。何で暗い中で一人ずつ静かに・・とならないのか。ああペチャクチャしゃべって、ひしめいていたのでは、隣室のポアロに聞こえるはずで。出演者では公爵夫人がよかった。アイリーン・アトキンス・・「ミス・マープル」の「ゼロ時間」のカミーラらしい。他に映画のショーン・コネリーにあたるアーバスノット役が「リーピング」などのデヴィッド・モリッシー。映画のローレン・バコールにあたるハバード夫人役がバーバラ・ハーシー。ヴァネッサ・レッドグレーブにあたるデべナム役の人はミア・ファロー風。ひ弱そうな外見だが芯は強い。ポアロが信念曲げたのは彼女の影響か。ジャン=ピエール・カッセルにあたる車掌は、どことなく放心したような表情が印象的。ね、このように映画のキャストに当てはめると、誰が誰だかわかりやすくなるのよ。でないとみんな同じに見える。特にアーバスノットと車掌はほぼ同じ顔。で、お目当てのウェストだけど医師のコンスタンティン役。出てきたとたん「まる~い!」。額が少しばかりハゲ上がって、ほっぺがぷっくり。40過ぎて太ってきたようだが、ポアロの隣りにいれば背は高いし、太ってない(やせていると書けないのが辛いところ)。チリチリ頭にヒゲ。何か言うとことごとくポアロに否定される。物事の表面しか見ない単細胞・・いやいや二回目見ると彼のセリフ、表情の意味がわかる。こういう二重の意味持たせるため(演技の確かな)ウェスト起用したのね!呆れたことに彼も犯人の一人なのよ。これって原作と違う!こうまで変更されたのでは、見ていても心は弾まない。せっかくのウェストの登場だけど。ラチェットもあんな見るからに異常というタイプじゃダメ。マックイーンがラチェットのフリして叫ぶのも大声すぎるし、長すぎる。推理の決め手となるアルバムの出現にもがっくり。それと音楽がすごく嫌だったな。いらつくような・・。ああもうどうしてこんな「オリエント」に?調子づき、浮かれまくりのアルバート・フィニーのポアロも嫌だけど、ここまで暗くどよ~んとさせる必要はなかったと思うよ。

名探偵ポアロ78 象は忘れない

ポアロもいよいよファイナル・シーズンだ。例によって原作を読んで予習しておく。最初の5分くらいはいい。でも・・早くも別の事件が起きてアレレ?まあ確かに・・原作読み直して気がついたのよ。結局殺人事件は何も起こっていないってね。そりゃあ過去・・12、3年くらい前とか、それより前には殺人があった。でも、現在の部分では誰も死なない。過去を掘り起こし、事実を明るみに出そうという流れは「スリーピング・マーダー」と同じ。でもあっちのような・・それによって起こされる殺人はなし。たぶん作り手はそれじゃあまずいと思ったのだろう。別の殺人事件起こす。ウィロビーとかいう老人が殺される。元精神医学か何かやっていて、今は引退して道楽程度に研究続けてる。息子の方は父親とは違う方法で患者と接する。原作だともう1970年代だけど、こちらは1938年くらいか。レイベンズクロフトという仲のいい夫婦が散歩に出て、銃で無理心中をしたのが1925年。ウィロビー老人が水風呂だの電気椅子だので患者を拷問・・じゃない、治療していたのはそれより前。ということで皆さん何か思い出しません?「アガサ 愛の失踪事件」ですよ。あれに出てきたじゃないですか、水風呂に浸かったり電気流したり。息子やってるのはイアン・グレン。どうも事務のマリーと浮気しているらしく、奥さんとの仲は冷え冷え。事件当夜は帰宅せず、研究所の上に借りた部屋に泊まったというから、疑いがかかるのも仕方ない。でもマリーがアリバイを保証してくれる。私も一緒にいた・・でもこれってウィロビーのアリバイ証明してるように見えて実は自分のアリバイも・・。老人は殴られた後浴槽に沈められていて、昔の患者が恨みを晴らしたというセンも。で、こんなのは原作には全くなくて。若い方のウィロビーは出てくるけど、父親は昔こういう研究をしていてこういう治療法をしていてってポアロに話すだけ。ことの発端は愛すべきオリヴァー夫人が作家大賞を受賞してパーティに出たこと。こういうことは苦手なのでできるだけ出ないようにしていて、今回も出なきゃよかったと後悔するはめに。こういうのはクリスティー自身のことなんだろうけど。

名探偵ポアロ79 象は忘れない2

一人おっそろしくずうずうしいのがいて、バートン・コックスとかいう女。彼女の息子デズモンドが、オリヴァー夫人の名付け子シリアと結婚するらしい。でもシリアは例のレイベンズクロフト夫妻の娘だから、バートン・コックスは反対している。で、シリアが心中事件について何か知ってるのではないか・・オリヴァー夫人に探って欲しいわけ。夫が妻を撃ち殺した後自殺したのか、その逆か。私原作でこれ読んだ時は、バートン・コックスは順番を知りたいのかな?と思ったわけ。よくあるでしょ?死んだ順番によって遺産の行き先が決まる・・みたいな。それにデズモンドはバートン・コックスの実子ではなく養子。デズモンドの実母(故人)には財産があって、彼が25歳になるか結婚するかすると渡される。それまでは信託財産になってる。つまりバートン・コックスにとって、結婚によって財産がシリアの方へ行ってしまうのは困るのだ。彼女の家系にはこういう悪い血が流れているのだとはっきりさせ、デズモンドに結婚を思いとどまらせたい。彼が独身の間に財産を自分に渡すよう遺言状を作成させたい。何たって自分は彼を引き取って育ててあげた恩人なのだから、そういうふうに持っていくのは難しいことではないはずだ。原作だとバートン・コックスは暮らしに不自由しているわけではないが、投資に失敗するなど不安要素も・・となっている。お金に困っているのに裕福そうに見せかけ、いろんな活動に名を連ねる。ハデ好き、見栄っ張り、欲張り、厚かましい。こんな彼女ならデズモンドの財産だけでなく他のも狙いそう。どこかでシリアの父親か母親と繋がっていて、死んだ順番によっては財産が入るのではないか。原作を読みながら私が考えていたのはそのこと。もちろんバートン・コックスには緻密な計画を練る頭はないけれど、お金のためなら何でもしそう。でも・・結局何もなくて終わってしまうのである。原作では新しい事件は起こらず、過去が掘り返され、事実が明るみに出ておしまいなのである。だから物足りない。テレビ化に当たって作り手があれこれくっつけたくなる気持ちはよ~くわかるのである。

名探偵ポアロ80 象は忘れない3

バートン・コックスはデズモンドの財産を使い込み、それがばれてしまうのを恐れて結婚を阻止しようとしたらしい。信託になってるものを勝手に使えるのかな?という疑問も起こるが、取りあえずは発覚しないようにという気持ちはわかる。問題は、発覚を先延ばしにしてもいずれはわかってしまうということ。25になればデズモンドのものになるのだから。バートン・コックスには今までに使い込んだ分を穴埋めする手段はない。それでいてハデな生活はやめられない。そこが何とも・・自分のものではない金を使い、これからもそれを続けるという愚かさがやり切れない。でも・・こういう人ってまわりにもいるよな。バートン・コックス役はグレタ・スカッキ。ウエストがなくなっているな。題名になってる「象は忘れない」は、象がとても記憶力がいいという・・子供がよく聞かされる話から来ている。オリヴァー夫人がバートン・コックスなんかどうでもいいと思いつつも関わってしまうのは、象のことが頭にこびりついて離れないからだ。パーティでの食事・・入れ歯の人は用心しなきゃならないメレンゲ・・歯・・象牙質・・象牙・・象!!テレビの方にもこれが出て来るけど、あまり記憶力のこととは関連づけていなかったような。人間にも記憶力のいいのがいて、デズモンドがそうだ・・とか、変な方向へ行っていたし。さてポアロはウィロビー老人殺しのことで頭がいっぱいなので、オリヴァー夫人が持ち込んできた過去の心中事件のことなんかどうでもいい。ところが途中でシリアの母親マーガレットの双子の姉ドロシアが老ウィロビーの治療を受けていたと知り、驚く。二つの事件には繋がりがあったのだ。ごちゃごちゃしていてわかりにくいが、ドロシアには自分の赤ん坊を殺すという前科があった。その時は自分の娘の仕業だと主張。老ウィロビーの治療を受けて治ったとされ退院するが、夫の赴任先か何かでまた別の子供を殺す。元々レイベンズクロフトは美人のドロシアと愛し合い結婚するはずだったが、途中でマーガレットに心を移す。たぶんドロシアの頭がおかしいのに気づいたからだろうが、そのことによって彼女は妹を憎むようになる。

名探偵ポアロ81 象は忘れない4

そういう流れは書かれるけど、原作ではドロシアの娘のその後は触れられていない。父親は亡くなったし、母親は頭がおかしい。となればマーガレットは姪のことを心配するはずだが。たぶん作り手もそう思ったのだろう。成長した娘はマリーとして現われる。で、若い方のウィロビーを誘惑し、夫人には浮気のことをばらして家庭を壊す。老ウィロビーを殺し、アリバイ作りに若い方を利用する。殺した理由は、母親が老ウィロビーのひどい治療のことを手紙に書いてきたからである。だから同じ方法で殺してやったのだ。でもここは少しおかしい。ドロシアは異常なほど子供嫌いだったのである。二人も殺すほど。その彼女が娘に何通も手紙書く?しかも母親は赤ん坊の死を彼女のせいだとウソをついたのだ。そんな母親のために殺人なんかするか?あるいは彼女も母親の血を引いて子供の頃から異常だったことにしたいのか。彼女は無理心中のからくりも知っている。老ウィロビーの他にはデズモンドも殺そうとしたが、邪魔が入って失敗。これはシリアを悲しませるため?まあここらへんは無理があるけど、何度も言うようだがそういうふうにしたくなる気持ちはわかるよ。ディール役でヴィンセント・レーガンが出ていたけど、彼は原作のスペンスの役回りか。レーガンは目に特徴があって、冷酷な悪役が似合いそうだが、それでいてコミカルなキャラも似合うのでは?と思わせる、不思議な雰囲気がある人。ギャロウェイ役はダニー・ウェッブ。この頃よく見かけるな。いつの間にか私の好きな俳優さんの仲間入り。過去レイベンズクロフトの事件を担当し、もう引退してるんだろうけど記憶は確かで、ポアロに手際よく説明する。次に出てきた時は犬の散歩。あんまり利口な犬じゃないと言っていたけど、かわいかったな。原作通り1970年代だとすると、ポアロはいくつになるのかな。90歳くらい?早い段階で書かれていた「カーテン」は別とすると、ポアロの最後の事件ということになるらしい。クリスティーもすでに80過ぎてるから、あれこれ忘れ物だらけの物足りない内容なのは仕方ないのかも。

名探偵ポアロ82 ビッグ・フォー

「象」はあまり出来がよくないのだそうな。でも私から見ると「ビッグ・フォー」もよくないと思う。前に読んだ時は物足りなかった。今回また読んだけど、風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなってる感じ。ちゃんと後始末してなくて、書いた後で読み直してこれじゃまずいとは思わなかったのかしら。テレビの方もだからあんまり期待していなかった。冒頭マーク・ゲイティスの名前が出たので、何の役かな・・と思ったけど出てこなくて。どうやら脚本を担当したようだ。内容はしぼみにしぼんでビッグ・フォーからアイ・アム・ナンバー4へ。実は一人で全部やってました状態。冒頭はポアロの葬式。南米からヘイスティングスが参列。原作だと出ずっぱりだがこちらは・・。他にミス・レモンとジャップ、従僕のジョージ(だよね?何とか大臣に見えるけど)で・・これこそビッグ・フォー?で、話は四週間前に。まずチェスの試合でロシアのチェス王が突然死。対戦相手はライランド・・あらら、ここでもう原作と違うぞ。マダム・オリヴィエだのペインターだのフロッシーだのいちおう原作と同じ人物が出てくるが、内容はかなり違う。フランスにもイタリアにも広がらず国内で間に合わせる。人類の危機!なんてぶち上げたわりには、もてない男の二流女優への片思いで終わり。別に世界を股にかけなくってもいい。ポアロの恋人(←?)ロサコフ伯爵夫人が出てこなくてもいい。人類の危機でなくてもがまんする。何たってこの作品の目玉はポアロの双子の弟アシルが出てくることなんだもの。クライマックス(にしてはしょぼいが)の劇場の舞台に、爆死したはずのポアロのカゲがうつった時、見てる人(で、原作読んでる人)全員いよいよアシル登場!と思ったはず。でも・・出てこない。そりゃあアシルもポアロなんだけどさ。双子ってのはウソなんだけどさ。でもそういう目玉シーンもなくて終わってしまうってどうよ。ナンバー4ことダレルがさえない小男なのにもがっかりだ。見てくれより演技重視ってことなんだろうが、見てくれだって大事なんだぜい。まあ原作が原作だからどんなにいじくってもよくはならないんだけどさ。それにしても・・ポアロが爆死したという偽装は、せめてジャップぐらいは協力していないと無理でしょ。今回はマダム・オリヴィエに見覚えがあるくらいで、他は知らん人ばっか。新聞記者役の人は「シャーロック」に出ていたらしい。

名探偵ポアロ83 死者のあやまち

ポアロはオリヴァー夫人に電報で呼び出される。彼女はナス屋敷で開かれる祭りの余興として犯人捜しゲームを考えたのだが、自分が誰かに利用されているようで不安だと言う。本当に殺人が起きるのではないか。自分が考えた筋書きは変更続きだが、誰かが故意に変えているのではないか。面と向かって言われたのなら、こっちはいちおう名の知れた推理作家だし、プライドもあるから反対できるが、いつの間にかそっちの方へ流されているという妙な気分。屋敷を一年ほど前に買ったのは大金持ちのジョージ卿。美しい妻ハティは少し頭が足りない。にぎやかな祭りの最中、危惧していた通り事件が起きる。殺されたのはゲームの被害者役の少女マーリン。でもなぜ?屋敷は元はフォリアット家のものだったが、当主が死に、息子二人は戦死。相続税が払えず手放すことに。フォリアット夫人は財産も身寄りもないハティの後見人だったが、ジョージ卿がハティと結婚し、屋敷を買ってくれた。おかげでハティの生活の心配はなくなり、自分は今は番小屋に住んでいる(ちゃんと家賃を払って!)。ハティも祭りの途中でいなくなる。その日に到着したまたいとこのド・スーザと何かあったのか。船番でマーリンの祖父でもあるマーデル老人の溺死は事故と思われたが・・。まああれこれあるが、冒頭の外国人ハイカーのうち、イタリア女性の(吹き替えの)声がハティと同じなので、からくりはすぐわかるかも。ジョージ役ショーン・パートウィーは「クラブのキング」にも出ていた。年のせいかジェフリー・ラッシュに似てきた。フォリアット夫人役シニード・キューザックはジェレミー・アイアンズの奥さん。妹のニーアム・キューザックは「クラブのキング」でショーンと共演していたな。ハティ役ステファニー・レオニダスは「ミス・マープル」の「無実はさいなむ」のへスター。結局祭りはどうなったのかな。ゲームに参加した人の描写ゼロ。ハンサムなブランド警部の登場で期待が高まったけど・・原作ではもうちょっと有能なのに・・と残念。ド・スーザは原作では逮捕されないが、こちらでは危うく死刑になるところだった。犯人を知ってるフォリアット夫人が黙っているのはおかしい。ハティ(本物の方)を殺されたのに黙っているのもおかしい。ラストは銃声二発。こうなるとわかっていて警察を引き止める権限はポアロにはないのに。まあいろいろ不満はあるが、出来は普通。

名探偵ポアロ84 カーテン

25年続いたというこのシリーズも今作が最後。原作は読んでもぴんとこなくて、内容はすぐ忘れてしまった。で、放映前に読み返したけど、放映する頃にはまた忘れてしまって・・何とまあ頼りない記憶力よ。よく、読み終わった本は処分しましょう・・なんて整理収納本に書いてあるけど、私が本を捨てないのはこのせいである。何度も読み返すからである。で、またまた飛ばし読みしてこれを書いている。たぶん今回の感想書きのおかげでもう内容は忘れないだろう(しばらくの間は)。いつも原作とは違いすぎて呆れる「ポアロ」だが、今回ばかりは非常に忠実。そりゃ少しは省略してあるけど、トンデモ部分はなし。画面は全体的に暗く、何をしているのかわかりにくい。これは誰だっけ?と思うこともある。でもそれでも忠実。ヘイスティングスがやって来たのは思い出の場所スタイルズ荘だが、だいぶ後までここがそうだとは説明されない。もうわかってるでしょって感じ?今はホテルみたいになっている。経営者のラトレル夫妻の件・・夫が妻をウサギと思い込んで撃ってしまう事件は、もう少し掘り下げてもよかったのではと思う。妻の尻にひかれ、屈辱的な日々を送る夫が、ある日とうとう爆発。あの瞬間は確かに殺意があったけど、今は憑きものが落ちたよう。元々は愛し合っていた二人・・それがあったからこそあの瞬間ラトレルは無意識に的をはずしたのだ。ここにはヘイスティングスの娘ジュディスもいる。妻をなくして失意の彼は、危なっかしい娘の行動にヒヤヒヤさせられる。なぜアタートンのような女たらしのろくでなしと付き合うのか。なぜ父親の言うことを聞かず反抗的な態度ばかり取るのか・・ああ、妻が生きていてくれたら。ある晩ヘイスティングスは思い余ってアタートンを殺そうとする。大量の睡眠薬・・自殺か事故に見せかけて。でも、自分が眠り込んでしまい、気がつくと朝。憑きものは落ち、自分がしようとしていたことにゾッとする。ジュディスはフランクリンの助手をしている。彼は研究一筋の変わり者で、名声とも富とも縁がない。妻のバーバラは美しいが身勝手で、病弱を理由にまわりを振り回す。

名探偵ポアロ85 カーテン2

かつての婚約者キャリントン卿はちやほやしてくれるが、女性達の視線は冷たい。自分で病気を作ってるだけ。自分のせいで夫はアフリカへ研究へ行けない、自分なんかいない方がいい、いっそのことこの世とおさらばして・・などと口癖のように言うが、フン、どうせ口先だけ。フランクリンのようなタイプはクリスティーの作品に時々出てくる。自分の興味に没頭し、他のことには無頓着。そのせいで時々ピンチに陥るのだが、当人は気づいていないことが多く、気づいたとしても何もしない。しなくてもまわりの誰か(ポアロとか)が助けてくれる。基本的に善人で、たとえ結婚相手がはずれでも一生添い遂げる。浮気や離婚なんて考えもしない。石頭なので他の者・・この場合ノートン・・がバーバラ殺しをそそのかしても全く無駄。この、実際に手をくだすのではなく、あおり立てる、そそのかすというやり方は珍しい。ポアロは他にも数件ノートンの殺人教唆の事実をつかんでいるが、つかまえることはできない。殺人を犯したのは彼ではないし、実行者も彼の存在に気づいていない。ポアロがヘイスティングスを呼び寄せたのは病気で体が不自由なため、代わりに耳目となって欲しいからである。しかしそのヘイスティングスまでが危うく殺人を犯すところだった。こうなるとぐずぐずしてはいられない。ポアロは悲壮な決意を固める。バーバラの死は、さすが絶頂期のクリスティーだけのことはあるなと感心する設定。彼女の本当の最後の作品は「運命の裏木戸」らしいが、あれなんかあっちへふらふらこっちへよろよろ徘徊老人みたいな内容だった。「カーテン」も80過ぎて書いていたらこんな鮮やかなオチにはならなかっただろう。バーバラを死なせた(殺したではない)のがヘイスティングスだったなんて!!話を戻してポアロはノートンを撃ち殺す。自殺に見えるけど、ポアロはちゃんとヒントを残している。でも、どんなにヒントが目の前にぶら下がっていても気づかないヘイスティングスなのでありました!!見ていてちょっと残念だったのは最初からノートンがいかにも怪しく見えること。どもりなのは原作通りだが、映像化すると見る者の印象に残ってしまうのだ。見てくれも、もっとどこにでもいる風采の方がよかった。アタートンやキャリントンの顔は思い出せないけど、ノートンの顔はすぐ思い出せるでしょ。

名探偵ポアロ86 ヘラクレスの難業

文庫の題は「ヘラクレスの冒険」。エルキュールがヘラクレスのことだと知ったのはこれのせいか。ちなみにアシルはアキレスらしい。12の短編から成るが、こんなふうに寄せ集めではなく、一編ずつ映像化して欲しかった。四つのエピソードが使用されているようだ。運転手テッドのためにニータという女性を捜してあげること。大悪党のマラスコーが来るというスイスのホテルでのあれこれ。ハロルドという青年を二人組の女詐欺師から救うこと。ロサコフ伯爵夫人との思いがけない再会と別れ。冒頭の宝石盗難も元があるようだが、よくわからない。ニータを追ってスイスへというのは、マラスコーの件とすんなり繋がるから、この二つで十分だと思うが、作り手はかなり欲張っている。山の上のホテル、悪党集団、雪崩・・どことなく「ハードジャッカー」風味。もちろんポアロだからアクション映画になることはないが、それにしたっていくらでもおもしろくできたはず。欲張ったせいでみんな未消化。毎年夫の慰霊のために山に登ってくる婦人をニータにするとかすればよかったのに。あれじゃあ彼女がなぜテッドの元を去ったのかわからないし、医師のルッツの役割も不明。マラスコーに至ってはロサコフ夫人の娘アリスが本人でした・・となる。しかも夫人は娘が逮捕されると、見逃してくれるようポアロに要求するのである。殺人に強盗その他もろもろの大悪党、しかもすでに警察の手にある者を逃がせるはずないじゃん!ポアロが拒否すると夫人の態度は硬化。あらやだポアロったら、夫人の機嫌を損ねたからって悩まないでよね。いくら好みのタイプだからって今回は断って正解なのよ。夫人自身泥棒で、ばれても見逃してもらえると思っている鉄面皮。今回だってブローチ盗んでるし、手癖の悪さは昔のまま。あんな女ほっとけ!アリスのふてぶてしい態度も腹が立ったけど、ラストのテッドとニータの再会で口直し。たぶん彼女はテッドよりだいぶ年上。明るいところで見ればシワも目立つだろう。でもテッドは全然気にしてなくて本当に好きだったのねえよかったわねえとこっちまでウルウル。ポアロの苦労も報われましたとさ。テッド役トム・オースティンはジャン・レノの「刑事ジョー」に出ているらしい。他にどういう役回りなのかよくわからないシュヴァルツ役で出ていたトム・ヴラシアにちょっと目が行った。