西洋の星の盗難事件、マギンティ夫人は死んだ、鳩のなかの猫、第三の女、死との約束、青列車の秘密
西洋の星の盗難事件
ベルギーの人気女優マーベルと俳優のロルフの夫婦は、西洋の星という大きなダイヤのついたネックレスを持っている。しかし最近脅迫状が届き始めた。いつポアロが「本当に盗むつもりなら脅迫状なんか寄こすはずがない」と言い出すかと待っていたけど、結局言わなかったな。だってそうでしょ?何でわざわざ知らせて用心させるの?盗まれても仕方のないもの、盗まれて欲しいもの・・となる。ニセモノか保険金目当て。つまり所有者が怪しい。
ポアロは自分に預けるよう忠告するが、マーベルはヤードリー邸に持って行きたい。女の見栄である。一方ヤードリー夫人もポアロを訪ねてくるが、あいにく彼は不在。ヘイスティングスが応対する。ヤードリー家には東洋の星というダイヤがある。やはりこちらにも脅迫状が届いているらしい。しかし後でわかるが、夫人の相談は別のことだった。ヘイスティングスの知ったかぶりのせいで、言いそびれてしまったのだ。
要するに二つの同じようなダイヤがあり、両方とも盗まれてしまう。謎の中国人のせいにされて。しかしポアロにはすぐからくりが読める。元々ダイヤは一つしかない。片方はニセモノ。ヤードリー夫人は数年前、屋敷が映画撮影に使われた時、ロルフによろめいてしまう。間違いは犯さなかったが、ラブレターをネタにゆすられ、ダイヤを渡してしまう。ダイヤは家宝なので(つまり普段はしまってあるので)ニセモノとすり替えても何とかなったが、金に困った夫が売りに出すと言い始めた。さあ大変ニセモノだとばれてしまう。そこで中国人に盗まれたという芝居をする。一方ロルフの方はホテルに預けておいたダイヤをだまし取り、ホテルの手落ちだと騒ぎ立てる。そうやって(マーベルには)盗まれたということにして、ブラックスという悪党に売ろうとするが、ポアロに阻まれる。このブラックスや、仲介人ホフバーグをウロウロさせたせいで、話がわかりにくくなっている。事件が終わってもヘイスティングスがからくりを飲み込めず、しつこく話を蒸し返すのが笑えた。
一つ残念だったのは、どう見てもロルフがヤードリー夫人がよろめくような男に見えないこと。すごい悪党ヅラ。原作には「目を見張るほどの二枚目」とあるぞ。もっとイケメン出してこい!・・さて、これでポアロの短編の方は征服したかな?あとはわりと最近の長編がいくつか残ってるだけだな。
マギンティ夫人は死んだ
待ちに待ったポアロ新作。原作読んでない人には何が何だかわからないと思う。読んだ人でも混乱すると思う。いろんな人がごちゃごちゃ出てくるし、みんな似たような顔してるし。名前と顔が一致しない。登場人物はこれでも減らしてある。それでも情報多すぎる。
雑役婦マギンティ夫人が殺され、下宿人ベントリーが逮捕され、死刑判決。暗くてずるそうな彼は、いかにも犯人のように思われる。仕事をクビになってお金に困っていたし、供述もあやふや。しかし捜査を担当したスペンス警視はどうも引っかかる。彼は無実のような気がする。でも捜査の段階で無実とはっきり証明できるものは何も出てこなかった。困った彼はポアロに調査を依頼する。彼なら人と違った見方ができる。・・原作でのベントリーは生気や魅力に乏しく、ポアロでさえこいつが犯人なら面倒がなくていいのに・・と思ってしまうようなタイプ。しかし彼にもベントリーが犯人だとは思えないのだ。
映画でのベントリーは、もう少し魅力的である。要領が悪く、人づき合いが苦手だが、見方を変えると大人しくて素朴な青年。演じている人は目が印象的で、なかなかのイケメン。つまり映画を見てる人(主に女性)が気の毒がって、何とか助かって欲しい・・と思うようなタイプ。以前同じ職場にいたモードという女性が彼に好意を持ち、何とかならないものかと気をもんでいる。原作だともう一人ディアドリーという女性が出てくる。モードは積極的・行動的な女性だが、ディアドリーはベントリーと似たタイプで、ラストではポアロはこの二人を結婚させようと考えている。二人とも不器用で、自分からは一歩を踏み出せない。(幸せになる)チャンスにも気づかない、やや鈍感なところがあるのだ。誰かが背中を押してやらないと・・。ベントリーはまわりからは魅力に乏しいと思われているし、本人もその気はない。それなのにこうやって二人も引きつけられてる女性がいる。そこが男女の仲の不思議なところだ。
さてポアロはマギンティ夫人が仕事に通っていた家々を調べて回る。こういう職業についている人の多くは、机やタンスの中を探ったり、人の話を立ち聞きしたり。そんなことをすればクビになってどこも雇ってくれないのでは・・と思うが、そうでもないらしい。床磨きのような重労働はなかなかやってくれる人がおらず、雇う方もたいていのことは見て見ぬふりをするようだ。事件が起きる少し前、日曜新聞に「あの人は今」的記事が載った。過去世間を注目させた女性犯罪者あるいは容疑者二人の写真入り記事(原作では四人)。たぶんマギンティ夫人は、このどちらかの写真を仕事先の家で見たことがあるのだ。そして金になると踏んだのだ。しかし逆に殺されてしまった。彼女がゆすろうとしたのはどちらの女性?あるいは関係者?
で、容疑者にあてはまる女性がぞろぞろいて、その息子だの夫だのもいるから、ますますごちゃごちゃする。ラストでポアロが謎解きしてもまだよくわからん。犯人が決まって(←?)も背景とかよくわからん。ぞろぞろ出てきてがやがややって、時間が来たから犯人指名しておひらきになったという感じ。見ていてもちっともおもしろくない。ラスト・・ベントリーが釈放され、モードがかけ寄り・・まあそこはよかったけど、でもやっぱり私は原作通りディアドリー出してきて彼女と結ばれて欲しかったな。
犯人を見つけようとして、逆に殺されてしまうアップワード夫人役はシーアン・フィリップス。ピーター・オトゥールの元奥さん。レンデル医師役サイモン・シェパードは「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」のところで、ヴァンサン・ペレーズ似と書いた人。「サマー・シュプール」にも出ていた。やっぱちょっと年を取ったかな。このレンデル夫妻の件は、原作でも映画でもあいまいでわかりにくい。途中でポアロが駅のホームから突き落とされそうになるが、原作ではレンデルの仕業なのが、映画では夫人の仕業に変更されている。スペンス役リチャード・ホープはどこかで見たような・・と思ったら「満潮に乗って」でも同じ役で出ていたらしい。ジャップもいいけど、こういう丸っこい人もいいなあ。おだやかそうで・・。ベントリー役ジョー・アブソロムは「EX エックス」に出ていたらしい。でも・・全然思い出せないんですけど。ルーファスでしょ、デヴォンでしょ、ドイツ人ぽい人でしょ・・それしか思い出せな~い!
イギリスの家庭・・というとこぢんまりしていて暖炉があって・・というイメージだけど、その維持はなかなか大変なようだ。ジュリア・ロバーツ主演の「ジキル&ハイド」の原作「メアリー・ライリー」とか、ギャスケル夫人の短編「家庭の苦労」を読むとわかる。マギンティ夫人のような存在はすごく重宝で・・。だから少しくらいかき回されてもがまんがまん。
鳩のなかの猫
待っていた日がついに来た!「沈黙の激突」を見て以来アダム・クローズデルに再会する日を!ほよよ~何て甘いマスク・・たくましい上半身・・とろ~(あッ、溶けた)。「激突」の頃はもう少しほっそりしていたよね。こんな庭師が女の園にいたらまずいですってば。カリフォルニアにいてもまずいな、ホエールに目をつけられる・・って何のこっちゃ!「マギンティ夫人」が今いちだったので心配していたが、今回のはよかった。わかりにくいのはシャイスタ王女の部分。彼女の誘拐が絡むせいで、事件はややこしく見えるが、ポアロはこっちは関係なし・・とすばやく判断。彼は膝を見ただけで女性の年齢がわかるらしい・・って、彼のやってることスカート覗きだぞッ!
事件の発端はラマットという国の若き王アリーが殺されたこと。原作だと逃亡中飛行機が墜落して死ぬが、映画では反乱軍とのはでな銃撃戦の末死ぬ。親友のボブも運命をともにするが、彼はその少し前王に頼まれ財宝(ルビー)を持ち出していた。ラマットに滞在していた姉のサットクリフ夫人がホテルにいなかったので、ボブは宝石をジェニファー(夫人の娘、ボブの姪)のテニスラケットのグリップの部分に隠す。その際何のメモも残さないので、ラケットが捨てられたらどうするの・・と思うが、ボブは自分も死ぬとは思っていなかったのかも。サットクリフ母娘は国外退去させられイギリスへ。ジェニファーはメドウバンクの女子校へ。宝石が国外へ持ち出されたと知った反乱軍は、皇位継承順位二番目のシャイスタ王女(アリーのいとこ)に、王の味方から宝石が送られてくると推測し、スイスにいた王女を誘拐し、メドウバンクにはニセモノを送り込む。ところがいつまでたっても何も届かず、連絡してくる者もいない。そのうち叔父のイブラヒム大公から夕食に招待されるが、顔を合わせればニセモノとばれてしまう。それで誘拐されたことにして姿を消す。
学校で起きた殺人も、原因は宝石だが、ラマット国内の争いとは無関係である。ポアロはまず余計なものを取り払ってからメインの事件に取り組むのだ。シャイスタをニセモノと見抜いたのは膝が15歳の少女のではなく、成熟した女性の膝だったから。そのためにはスカート覗きも必要だったと・・ポアロは決して変態ではないと(言い訳かよッ!)。
さて、映画では女教師の数を減らし、殺人も一つ減らしてある。「マギンティ夫人」ほどのごちゃごちゃ感はない。・・新学期が始まり、生徒が教師が集まってくる。新入りもいれば、前の学期を病欠し、復帰した者もいる。パーティの席上ちょっと困ったことが起きる。お酒が入ると人が変わっちゃうタイプ。校長バルストロードはその女性に気を取られたせいで、横で話しているアップジョン夫人にあまり注意を向けていなかった。この酔った女性は何か関係があるのかと思うが、その後の展開には無関係。アップジョン夫人は元諜報部員。その頃知っていた誰かをパーティで見かけ、びっくりしたらしい。でもその誰かは15年も前に死んでるはず、他人の空似に違いない。
校長の秘書アンも新顔だ。後で彼女には精神病院に母親がいるとわかり、校長が確かめに行ったりする。この母親が本当に血のつながった母親なのかどうかは不明。何ではっきりさせないのだろう。教師のうち病み上がりのリッチは、本当は学校を休んで出産していたのだとわかる。子供は死産、相手の男のことは不明。同じく教師のブレイクは、前の学校で男子生徒とうわさが立ち、何もなかったものの責任を感じて辞職。この学校へ移ってきた。女子校の教師が独身でなければならない決まりがあるじゃなし、女教師があっちでもこっちでも恋愛事件起こして傷ついているってのは・・。ちなみにブレイクの件は原作にはなし。リッチが砂袋で殴られ、その後犯人をゆすっていたらしいフランス人教師ブランシェも殺される。原作では校長の後継者候補ヴァンシッタートが砂袋で殺されるが、映画では彼女は出てこない。一人目の犠牲者、体育教師のスプリンガーは槍で突き殺されるが、原作では普通に銃。槍にしたのは視覚的効果を狙ってだろう。
女の園なので、美男のアダムをめぐって何か起こりそうなものだが何もなし。言っときますが若くて美男でたくましくて、仕事をしてればはだけた胸に汗がツツーッ・・ですぜ。なぜみんな騒がないの?覗かないの?ため息つかないの?そりゃまあ原作でも何もありませんけどさ。騒ぐのはシャイスタ王女。スプリンガーではなく、本当は私を狙ったのよ!・・と騒ぐ。事情聴取にはアダムも呼び出されるが、どっこい彼は英国の諜報部員でしたとさ。ウーン、ハンサムすぎて目立つだろッ!彼が学校に潜入したのはやはりラマットの不穏な国内情勢のせい。イギリスにも影響及ぼしそうだから。とは言え彼にもはっきりしたことは何もつかめていない。その状態でアンに興味持つのはどうかと思うが。殺人が起こっているというのにのん気すぎる。情報を集めるためならまだしも、アンに引かれている。これじゃあ諜報員失格だぞ!原作だとそこまで行っていない。
さてスプリンガーだが、こういう性格の人っているんだろうなあ。まわりに目を光らせ、ちょっとしたことも見逃さない。誰かの弱みや秘密をつかみ、ねちねちいじめ、あばき立てるのが何よりも好き。もちろん生徒もいじめる。原作だとちょっと違っていて、あばき立てるにしてもそれが正義だと思い込んでるような感じ。迷惑な勘違い女。
さて、校長がポアロに滞在を願い出たのは、自分の後継者選びに助言して欲しかったから。苦労の末イギリス一の女学校にまで押し上げたが、達成と同時に喪失感にもおそわれる。今が潮時だ。常に自分を助けてくれたチャドウィックに後をまかせるのが自然だが、彼女は年だし器も小さい。リッチの方が適任だが、彼女は何か問題をかかえているようだ。原作だとヴァンシッタートが第一候補だが、前にも書いたように映画では省略されている。この後継者選びも実は事件をややこしくしている。チャドウィックやスプリンガー見てると「あるスキャンダルの覚え書」でジュディ・デンチが演じたキャラ思い出す。リッチやブレイクはケイト・ブランシェットが演じたキャラ。女教師にはどうしても固定観念があるな。
ところどころ説明不足なところがあり、ラストも原作と違う。原作だと宝石は、アリーの息子を産んだアリスという女性に渡される。彼女はアリーと結婚したが、結婚のことも息子のことも秘密にされている。反乱軍にわかったら殺されるからね。息子が成長したあかつきには・・正当な跡継ぎとして名乗りを上げるのだろう。宝石はその証明となる。しかし映画は妻も子もなし。犯人が宝石を見つけ出せなかったのは、ジェニファーがジュリア(アップジョン夫人の娘)とラケットを交換したから。おかげで犯人は体育館のラケット置き場をごそごそやってるところを、スプリンガーに見つかってしまったというわけ。事件が解決に向かって動き出したのは、ジュリアが頭を働かせ、グリップの中を調べたおかげ。原作では彼女は学校を抜け出し、ロンドンへ行く。ポアロを訪ね、助言を求める。つまり彼の登場は原作ではずっと後なのである。ジュリアがポアロを訪ねたのは、「マギンティ夫人」に出てくるサマーヘイズ夫人からポアロのことを聞いていたからだ。こういう楽しい原作の設定も、映画では省かれてしまっている。映画のラストではジュリアはごほうびにルビーを一粒もらう。最初アメ玉と思わせておいて、中に一つとても硬いのがあるから注意するようにとか何とかポアロが言う。この終わり方はとてもよかった。
ただ、アダムのその後をちらりとでも見せて欲しかったにゃ~。せっかく潜入したのに成果何もなくて、あのままじゃバカみたいじゃん!それにしても・・これからもあまり見る機会はなさそうだけど・・注目していきますわクローズデル様。
第三の女
クローディアがフラットを借りて、経済的な理由(家賃の足し)と現実的な理由(部屋が余ってる)で、セカンド・ガールを募集。フランシスという女性が来る。それでもまだ部屋があるのでサード・ガールを募集。ちょうどクローディアが秘書をしているボスのアンドリュー・レスタリック卿に、娘のノーマを置いて欲しいと言われる。ウーム、向こうのアパートってそんなに広いのか・・と言うか、荷物が少ないんだろう。
ある日ノーマがポアロのところへやってくる。人を殺したらしいというので興味を持つが、何も話さず帰ってしまう。ふとしたことからオリヴァ夫人にポアロのことを聞き、相談しようと訪れたものの、思っていたよりポアロが老けていたので、こりゃだめだと気が変わったのだ。かちんとくるポアロ。原作だとかなり頭にきている。だがやはり気になるので、独自に調べ始める。
問題のアパートではルイーズという老女が自殺。彼女は昔ノーマの乳母をしており、アンドリューの好意で家賃の心配はなし。ノーマは自分が彼女を殺したと思っているらしい。はっきりしないのは記憶があやふやだからだ。原作だとアンドリューは、ノーマが5歳の頃ルイーズという女性と恋に落ち、妻子を捨ててアフリカへ旅立ったことになっている。ルイーズとの仲は長続きせず、イギリスへ帰った時にはメアリという女性と再婚していた。ノーマは彼女を嫌い、アパート暮らし。メアリは時々具合が悪くなる。原因は不明だが毒でも盛られているのか。ノーマの仕業か。ノーマにはデヴィッドという恋人がいるが、アンドリューやメアリからは嫌われている。 今はやりの・・オリヴァ夫人は孔雀と呼んでいる・・男か女かわからないような、ハデな格好をした青年だ。そう言えば昔ピーコック族なんていうのが話題になったな。他にモッズ族、ビート族とか・・どうやって区別するのか知らんが。原作だと1960年代が舞台だからこういうのも出てくる。・・精神的に不安定な(後で知らないうちにいろんなクスリを飲まされていたことがわかる)ノーマを、ポアロは精神科医のジョンに預ける。もちろん二人は引かれ合い、ラストではジョンがプロポーズだ。ポアロがノーマをジョンの元へ送り込んだのも、半分はこの二人をくっつけようという気があったから。マープル同様ポアロも縁結びが好きらしい。「マギンティ夫人」でもベントリーとディアドリくっつけるのに意欲燃やしていたし。
話を映画に戻すとジョンもメアリも出てこない。メアリはある女性が変装した仮の姿なので、映像化した場合すぐばれてしまうのでは・・と原作を読んだ時思ったものだ。「ダベンハイム卿」のところでも書いたが、文章と違い映像はどんなに巧みにメイクしても同一人物だとわかってしまう。だから作り手が変更したのも当然だ。さてアンドリューの妻は離婚を拒み、夫やルイーズを恨みながら病死(映画だと自殺。時期も変更されている)。ノーマは心の傷をかかえながら育つ(特に映画では自殺を止められなかったのは自分のせい・・と悩む)。ある日父が突然帰ってくる。兄サイモンが亡くなったため、事業を引き継ぐのだ。しかし実はこのアンドリュー、ニセモノでオーウェルという男。アンドリュー本人はアフリカで死亡。彼は財産家だし、サイモンの死でまたまた遺産が入る。これを逃す手はないとアンドリューになりすまし、帰国。妻は死んでるし、ノーマは5歳の時以来会ってないし、伯父ロドリック卿も目が悪い上にアンドリューのことはよく知らない。会社でもアンドリューのことを知っている者はおらず、ばれる心配はない。それでも念のため画家のデヴィッドに肖像画を描かせる。今の自分を元に若い頃の自分を・・妻の若い頃の肖像画と対になるよう同じタッチで・・デヴィッドには贋作の才能があった。彼はニセのアンドリューが莫大な財産手に入れるのがおもしろくない。ノーマに近づき、結婚をちらつかせ、一方ではアンドリューをゆする(彼が大金を手にしても手切れ金だと思われ、疑われる心配はない)。で、逆に殺されてしまう。
映画だとデヴィッドは死なず、途中で改心し、ノーマを助ける。彼は原作でのジョンの役割も担っているようだ。また映画の方はノーマ自身が母から莫大な遺産受けつぐことになっている。アンドリューの会社は不振ということになってる(不振にしたのはアンドリュー・・オーウェルのせいか)。ノーマが死ねば伯父ロドリックと父アンドリューに遺産が半分ずつ入る。ロドリックには孫ほども若い秘書ソニアがくっついているし、アンドリューはクローディアといい仲だ(原作ではメアリがいるのでこの設定はなし)。どちらも怪しく描かれるが、これらは目くらまし。若いアンドリューをたぶらかしたルイーズは、映画では乳母に変更。彼女が殺されたのは今のアンドリューがニセモノと知っているから。映画はさらにひとひねりしてフランシスをノーマの異母妹にしてある。ここまでひねくることはないと思うが。
ノーマ役ジェミマ・ルーパーは「サウンド・オブ・サンダー」でエドワード・バーンズの妹やってた人。半開きの口が印象的。つぶれてアンコがはみ出た大福みたいな顔をしている。ソニア役ルーシー・リーマンは「ボーン・アルティメィタム」に出ていたらしい。デヴィッド役トム・マイソンはハンサムで目の保養になる。「ヴィーナス」に出ていたらしい。まあ・・見事すぎる金髪のメアリも見てみたかったな。オリヴァ夫人役はゾーイ・ワナメイカーで、声は山本陽子さん。夫人となってるからには結婚したことあるのかな。原作だと夫人は忘れ物をしたとウソをつき、そうじ婦にクローディア達の部屋に入れてもらう。ポアロも管理人をだまし、ルイーズの部屋に入れてもらう。次の人がもう入居しているのにである。借主の承諾も得ず、こんなに簡単に他人を部屋に入れちゃうなんて・・。
映画でよかったのはノーマが父の本心を知るところ。自分達を捨てた父だが、クリスマスにプレゼントを送ってきたこともあるし、自分のことを少しは気にかけていたのでは・・。再会した父は自分の記憶と違っていて、とまどったけど、ニセモノだったとすれば納得がいく。本当の父は・・そんないじらしい希望もオーウェルは打ち砕く。アンドリューは死ぬまで娘のことなんか気にかけていなかった・・ガーン!でも・・そうだよね。こっちの方がリアルだよね。ウソを言わないオーウェルは偉い!(←?)これでノーマも甘っちょろい感傷卒業し、デヴィッドとの新生活スタートだ!
死との約束
こりゃまた変更しまくってますな。ユスティノフの「死海殺人事件」の方がまだ原作に近い。こちら最後の方はこれでもかとばかりに悲劇強調するが、そのわりに悲しくない。過ぎたるは・・イギリスにはこのことわざないの?
ボイントン卿は発掘が道楽。今まではどこを掘ってもはずれだったが、今回は脈がありそう。彼には亡妻との間にレナードという息子がいる。再婚した妻との間には子供はなく、ジニー、キャロル、レイモンドという三人の養子がいる。夫人は大金持ちなので、卿は好きな発掘ができる。キャロル達は虐待されて育ち、今も支配下に置かれている。夫人は自分では手を下さず、乳母に折檻させていた。キャロル達の記憶の中には一人の子供がいる。その子もひどい虐待を受けていたが、今頃どうしているだろう。
さて発掘現場を訪れた中にはボイントン一家の他、ポアロ、シスター・アニエシュカ、ジェラール医師、同じく医師のサラ、アメリカ人投資家のコープ、そして旅行作家ウェストホルム卿夫人がいた。また、カーバリ大佐も現われたので、ポアロは何か犯罪でも起きているのかといぶかしむが、大佐は何も言わない。レイモンドとサラは引かれ合うが、彼は母親の支配から抜け出せず、サラはもどかしく思う。レイモンドとキャロルは、母親を殺す相談をしているのをポアロに聞かれてしまったりする。ポアロにも夫人の横暴ぶりからして何か起こりそうな予感が・・。何かの見物にポアロ達が出かけた間に、夫人は殺されてしまう。
原作だとボイントン夫人は未亡人なので、卿は出てこない。発掘もなし。養子も虐待もなし。後でキャロルにくっつけられる複雑な生い立ちもなし。シスターによる人身売買・・キャロルが狙われる・・もなし。カーバリ大佐は人身売買組織を調べていたのか。夫人を殺した犯人の動機も違う。登場人物もその人の背景も違う。末娘ジネヴラ、レノックス(映画ではレナード)の妻ナディーンはカットされ、代わりにジニーが出てくるが、カゲはうすい。いじくられすぎたストーリーにはおもしろ味など何もないから、キャストを見て楽しむことにする。
ポアロ役デヴィッド・スーシェは今回のシリーズでは何となく元気がなく、ちょっと老けたかな。熊倉氏の声は変化ないのに。ボイントン卿役はティム・カリーだけど、何のために出てるのかわからん。妻が子供達に何をしているのか気づかないような、うかつな性格。レイモンド役トム・ライリーはヨアン・グリフィズとウェントワース・ミラーをミックスしたようなハンサムだが、あまり顔のアップはなかったような。「無実はさいなむ」でボビー役やってたから、見たばかりのはずだが忘れてた。ウェストホルム卿夫人役はエリザベス・マクガヴァン。「普通の人々」や「月を追いかけて」に出ていて、透き通った目が印象的な美女だが、今は昔の面影なし。相変わらず目は印象的だけど。ジェラール役ジョン・ハナーはいつも通りちゃらんぽらんな感じで、殺人になんか絡んでくるはずないのだが今回は・・。普通に見ていたので、意外な展開にはびっくり。途中でキャロルがジェラールに接近するんだけど、いつの間に恋したのかな。何か唐突に身を投げ出していて。ジェラールはやんわり拒否するんだけど、その理由は後でわかる。実は彼はキャロルの父なのだ。だから娘にいきなり迫られた時にはびっくりしただろうな。キャロルの母親はウェストホルム卿夫人で、この両親がよくも私達の娘を虐待したな・・と、ボイントン夫人及び乳母に復讐したってことなんだけど、ここらへんは原作とは全然違う。同じく虐待されていた子の成長したのがコープで、これも原作と違う。今では大金持ちのコープは、株を操作してボイントン夫人を大損させる。自分も大損するのを覚悟の上で夫人に復讐する。そのせいで卿やレイモンド達は経済的に困窮することになるだろうが、コープはそこまで考えていないようで。特に卿は夫人の援助で発掘にうつつを抜かしていたのが、これからはできなくなる。でも今回の発見はレナードのやらせだとわかったし、熱もさめるだろう。レイモンドはサラと一緒になるだろう。目の前で両親に名乗られ、その直後に自殺され、しかも実の父に恋していたとわかってショック三連発(いやボイントン夫人殺しのショックを入れると四連発、人身売買未遂を入れると五連発、これからは貧乏ってのも入れると・・いいかげんにしろッ!)のキャロルだが、意外とあっけらかん。これからは自分の道歩んでいくだろう。
原作だとレイモンドとサラ、キャロルとコープ、ジネヴラとジェラールが結ばれる。映画のキャロルはジネヴラの要素も入っているようだ。まあこの映画ジェラールのキャラ変更だけは意外でドラマチックでよかった。さて次のシリーズでは「オリエント急行殺人事件」でサミュエル・ウェストが見られる。待ち遠しい!
青列車の秘密
前NHKBSでやった時見たけどおもしろくなかった「青列車の秘密」を、久しぶりに見た。デアゴスティーニとかいうところからDVDコレクションが発売されて、私も買おうかと思ったけど、声優が違ってて。それでやめにしたけど、妹が買って貸してくれて。石油王ルーファス(エリオット・グールド)の悩みは、愛する娘ルースのこと。自分の秘書ナイトン(ニコラス・ファレル)のような真面目な男と結婚してくれると安心なのだが。夫ケタリング(ジェームズ・ダーシー)はカード好きのろくでなし。別れさせたいが金をちらつかせてもうんと言わない。一方ルースはラ・ロッシュといううさんくさい男に夢中だ。どうも彼女は男を見る目がないようで。さてポアロはキャサリン(ジョージナ・ライランス)という女性と知り合う。老婦人の世話をし、その奉公ぶりを認められ、遺産を相続し、今では金持ちに。とたんに今まで疎遠だったタンプリンのような金目当ての親戚が近づいてきたり。ニース行きの列車ブルートレインには、ポアロの他これらわけありの男女が乗り合わせており、まるでオリエント急行のようである。途中でルースが殺されるが、彼女の旅の目的が実の母に会うことだったり、いかにも意味ありげでうさんくさくてわざとらしいミレーユが実はルーファスの愛人だったり、ケタリングが実はルースを心から愛してるとか、メイドのアダの忍者みたいな装束とか、そういうのは原作になし。くっつけられたほとんどすべてのことが成功しておらず、そのせいでちっともおもしろくない。ダーシーを見て癒されたいけど、ここでの彼は演技とは言えタバコ吸いっぱなしで・・心配。ファレルは「ABC殺人事件」に出ていた。ライランスはいかにもイギリス風の知的で健康そうで親切そうな、感じのいい容貌。「7セカンズ」に出ていたようだが・・。原作だとキャサリンは事件後セント・メアリ・ミード村へ戻り(←すごい設定だ!ミス・マープルが住んでいる村じゃないか!)、ケタリングはあとを追う。映画でも二人はお似合いなので当然結ばれると思ったら・・。キャサリンはもっと旅を続けるんだそうです。ま、お金いっぱいあるからお好きにどうぞとは思うけど・・ケタリングとは何もないんですか?何の心残りもなく彼を置いて出発ですか?何か味気ないですな。あッ!ポアロのこと何も書いてない!