名探偵ポアロ2

愛国殺人、ゴルフ場殺人事件、四階の部屋、砂にかかれた三角形、コックを捜せ、ミューズ街の殺人、ジョニー・ウェイバリー誘拐事件、二重の罪、24羽の黒つぐみ、安いマンションの事件

愛国殺人

これは原作は読んだが内容ほとんど忘れていて。DVDカバーにはポアロが通っている歯医者が殺されるとある。そうそうそんな内容だった。でも詳しいことは思い出せない。てなわけでポアロの感想書くにはDVD見た後原作を読み直すという手間が入る。別に見てすぐ感想書いたっていいんですけどね。

1925年、イギリスの皇太子がインドを訪問するニュース映画が流れる。その12年後だから1937年の設定か。このインドやら皇太子やらは原作とは無関係。当時インドにいたアリステアは、女優ガーダと恋に落ち結婚を決める。女優仲間メイベルは祝福しながらもちょっとうらやましそうだ。12年後アリステアは国の政策を左右するほどの大銀行家になっている。妻レベッカは数年前に病死し、妻の妹ジュリア、ジュリアの娘ジェーンが同居している。ジュリアは渡される生活費の額に不満を持っている。アリステアは大金持ちなのに。でも年25000ドルというのは当時としてはどうなの?少ないのかな。ジェーンは働いていないようだし、この二人がやることといったらショッピングやパーティ等だけだろうし、アリステアにたかっているような印象。でも映画だとはっきり伝わってこないけど、原作読むとレベッカは女ながらかなりのやり手。財産を増やし、40過ぎてから20も年下のアリステアと結婚する。このアリステアがまた堅実で・・。10年ほどでレベッカは亡くなるが、アリステアは再婚もせずハデな暮らしもせず。後でインド人(原作ではギリシャ人)がアリステアをゆすろうとするが、彼はアリステアの顔を知らなかった。そんな顔も知らない相手をゆするか?・・と映画を見ていて不自然に思ったが、原作によればアリステアは表に立つことが嫌いで、新聞や雑誌に顔が出るようなことはほとんどない。だから知らなくて当然というわけだ。映画を見ているとこんなささいなことも気になる。だから原作を読み返して疑問を解決するのさッ!

さて、誰もがいやな歯の治療。自信家のポアロとて例外ではない。歯科医の前ではこちこちに緊張し、無力だ。治療が終わるととたんにニコニコして足取りも軽く階段を下りるのがかわいい。これであと6ヶ月は来なくていい!その歯科医モーリーが死んだ。現場の状況から拳銃による自殺と思われたが、ポアロには納得できない。直前に治療を受けたが、それらしき徴候は何もなかった。そのうち患者の一人インド人のアンベリオティスが死ぬ。インドから来る船で彼と一緒だったメイベルも、友人ガーダを訪問した後姿を消す。メイベルがガーダの住まいだと思っていた部屋はチャップマン夫人が住んでいた。この部屋から顔をつぶされた死体が発見される。この死体はメイベルかチャップマン夫人か。顔はわからなくても歯型で調べることはできる。ポアロの他にアリステア、アンベリオティス、メイベル、チャップマン夫人・・みんなモーリーの患者だった。三人を殺したのは誰?動機は何?

最初のうちはいいのだが、そのうち何が何だかわからなくなってくる。話についていこうとするがそのうちあきらめる。どうせ最後にはみんなを集めてポアロが説明してくれるさッ!これでも原作より登場人物を減らしてある。原作を読んでいなくても勘のいい人はある人物に目をつけるはずだ。冒頭ガーダやメイベルが女優であることを出してきてしまうので、○○が誰かに化けているのだ・・と予想がついてしまう。冒頭部分は不要だと思うが・・。話が12年飛んで現在になると見ている我々はあれッ?と思う。アリステアの奥さんはガーダじゃないの?しがない女優なんか捨てて家柄のいいレベッカと結婚したのかしら。それって別に珍しいことじゃないけど。歯医者の前で偶然アリステアと再会したメイベルは、もちろん彼がガーダと結婚していると思ってる。そして懐かしい旧友を訪ねる。その時のメイベルと、後で出てくるメイベルは・・あれ?顔が違うぞ。今はありがたいことにDVDだからすぐ前に戻って確認できる。やっぱりそうだ、後で出てきたメイベルは別人だ。・・ってことはガーダがメイベルに化けているのね。だからぁ・・冒頭で女優を印象づけてしまうと後で何かあった時すぐ思い当たっちゃって・・謎解きのおもしろさが半減するんですけどぉ・・。モーリーの秘書ネヴィルの恋人フランク役でクリストファー・エクルストン。彼ってわりといろんなところで見かける。ジェーン役の人はなかなかの美人。でも原作と違ってジェーンにはこれといった見せ場がなく、残念。と言って原作でのジェーンはいやな女だしね。

ゴルフ場殺人事件

冒頭ニュース映画を見せるせいで展開が読めてしまう。親切すぎるね。ただ・・当時の人はこういうのを見て、ヤジ馬根性を満足させていたんだろうな・・という気はした。新聞より映像の方がインパクトあるだろうし。ポアロとヘイスティングスはフランスのドーヴィルへ来る。ヘイスティングスのお目当てはゴルフ。と言ってもへたなのでボールを捜してウロウロ。そのうち死体を発見する。ホテルの隣りジェヌヴィエーヴ荘の主人ルノーである。彼は何かトラブルをかかえていたらしく、前の晩ポアロに相談を持ちかけていた。夫人エロイーズの話では、二人組の男に連れて行かれたとのこと。ポアロは夫人を疑うが、夫の死を悲しむエロイーズの姿にウソはない。最も怪しいのは夫人の連れ子ジャック。隣りに越してきたドブレイユ夫人の娘マルトとの結婚をルノーに反対され、何度も衝突していたらしい。ジャックにはイザベルという恋人がいたが、マルトに出会って心変わり。ホテルのディナーショーで歌うイザベルを見たヘイスティングスは一目ぼれ。傷心のイザベルも彼に好意を持ったようで。

今回の目玉はヘイスティングスの恋と、ルノー事件解決のためパリ警視庁から来たジローとの腕くらべ。ポアロが誰かとあからさまに競争するのは珍しいのでは?たいていのエピソードでは警察はポアロに協力的だ。今回のドーヴィルの警察署長ベックスも品がよく大人しい。原作でのジローは背が高く、30くらいのきびきびした軍隊式の男。映画ではでっぷり太ってメガネをかけたポアロと同年輩の男。全然イメージが違う。ラスト二人は和解し握手するが、原作ではそんなことしない。ジローは面目を失い、パリへ逃げ帰る。ヘイスティングスが恋するのも原作ではまだ20にもなっていないようなアクロバットの芸人。映画でのイザベルは30くらいの、いちおう美人。20かそこらじゃヘイスティングスと親子になっちゃうからね。ジャックも原作ではルノーの実子だが、こちらは義理の息子。冒頭のニュース映画で9歳のマルト見せ、その10年後の話・・という設定にするためだろう。つまりマルトは母親が事件を起こした時にはある程度の年齢になっている必要があるのだ。事件のことをある程度理解できる年齢、美しさとともによくない素質も母親から受けついでいることを映像で見せたいのだ。その場合マルトが赤ん坊じゃまずい。また、ジャックを誘惑するにしても若く美しい10年後19歳の方が望ましい。つまり前の事件から今度の事件までは10年しか間が取れない。そうなると前の事件当時ルノーには子供などいなかったのだから、マルトと釣り合うジャックを出してくるにはエロイーズの連れ子にするしかなかったのだ。・・すみません、原作を読んでない人には何のことやらわかりませんね。

前の事件というのはベロルディ夫人(今のドブレイユ夫人)が愛人コナー(今のルノー)をそそのかして夫を殺させたというもの。夫の財産を狙っての犯行だが、コナーは逃亡。夫人は最初は二人組の男の犯行、次はコナーの犯行、自分は無実と主張し、とうとう刑を免れる。その後姿を消すが今はルノーの隣りに。ルノーがコナーであることを知っている夫人は彼をゆすっていた。ルノーは彼女から逃れるため前と同じ方法・・二人組の男をでっちあげ、自分は殺されたことにする計画を立てた。自分の身代わり(敷地内で病死した浮浪者)も見つけてあった。エロイーズは彼の過去を知っており、協力していた。何も知らないジャックは疑いがかからぬよう(何しろジャックとはマルトのことで大ゲンカしたのだから)口実を設けて遠くへ。計画はうまくいくはずだった。ところが何か手違いが起きてルノー自身が殺されてしまったのだ。ジャックはマルト恋しさにのこのこ帰ってきて容疑者になっちゃうし、イザベルも何か隠しているようだ。このようにストーリーが展開していくわけだが、前にも書いた通りニュース映画のせいで我々にはドブレイユ母子の正体はわかっている。しかもマルトの言動、表情が怪しいので・・。これってまずいんじゃないの?

マルト役の人はかわいいが、できれば原作通り金髪で女神のように美しい・・ってふうにして欲しかったな。映画ではルノーの秘書ストーナーの描き方がまずかったり(いかにもエロイーズと共謀しているように見える)、熱のさめた相手(ジャック)救うためイザベルがあんな行動取るか?と思えたり。また、義父が殺され自分が容疑者にされそうなのに自転車レースに執着するジャックもおかしい。ちなみにレースは原作にはないが、ポスターに1936年とあるので、いつの話かわかる。ポアロが恋に不器用なヘイスティングスをイザベルと結びつけ、ハッピーエンドになるのはよかった。うれしそうだがちょっぴりさびしそうでもあるポアロの表情が印象的。

四階の部屋

ポアロは短編もちゃんと映画化されている。正確にはテレビシリーズだけど、いちいち面倒なので映画と表記する。原題は「ザ・サード・フロア・フラット」で、三階じゃないかと思うが、イギリスでは四階のことなのだ。そう言えば学生時代英語の時間に習ったような・・。イギリスでは二階がファーストフロア、三階がセカンドフロア・・我々が思い浮かべるのとは一階ずつずれる。ちなみに一階はグラウンドフロア。フラットもイギリス的な言い方で、アパートのこと。今回の事件は珍しくポアロが住んでいるアパートで起きる。短い話なので、ポアロが風邪を引いたり、ヘイスティングスと賭けをするとか(芝居を最後まで見ないうちに真犯人を当ててみせるというもの)、高価な車を壊されてヘイスティングスが意気消沈するとか、いろいろ水増ししてある。

36B(56Bのポアロにとっては二階下・・四階?)に引越してきたばかりのグラント夫人が殺される。46B(ポアロの一階下・・五階?)に住んでいるパトリシアには、ジミーもドノヴァンも好意を持ってる。なぜかポアロも。しかしパトリシアは美人でもないし、騒音まき散らす非常識なバカ女にしか見えないのがバツ。グラント夫人は上の階から聞こえる騒音にいらついていたが(そう見えるよう描写している)、パトリシアの上のポアロにだって迷惑だったはず。神経質な彼が気にしないはずはないと思うが。パトリシアの友人ミルドレッド役アマンダ・エルウィズはポリー・ウォーカーに似た美人で、パトリシアよりよっぽど魅力的。エルウィズという名前が気になって調べてみたら・・やっぱりね、ケイリー・エルウィズのいとこだった。ジミー役の人はジェームズ・スペイダーに似ている。「雲をつかむ死」のゲイル役の人かな・・と思ったが、違った。見終わって感じるのは・・外国で結婚して、その後片方が誰かを好きになって離婚を切り出す。ここはイギリスだからあの結婚は無効だと主張するが、相手は承知しない。どんなことをしても自分につなぎとめておきたいから、実は結婚しているのだとばらすぞ・・と脅す。・・こういう設定ってよく出てくるけど、気持ちのさめた相手を脅してまで一緒にいたいと思うのかしらね。自分を嫌っている、憎んでさえいる相手と連れ添って幸せになれるわけないじゃん。そりゃ相手が新しい幸せつかむのを邪魔してやりたいという気持ちはわかるけど。

砂にかかれた三角形

見てすぐ「白昼の悪魔」と同じネタだな・・とわかる。したがって犯人の目星も簡単につく。ポアロがある人に向かって「手遅れにならないうちにここを離れなさい」と忠告するのも同じ。「ナイルに死す」もそうだ。しかし相手は自分の計画は絶対うまくいくとうぬぼれているので、実行する。

ロードス島に滞在中のポアロ。バーンズ少佐につきまとわれているパメラを助けたことから親しくなる。同じホテルにいる美しいヴァレンタインと、その何番目かの夫トニー、ヴァレンタインにポーッとなるダグラスと、苦悩する妻マージョリー・・この二組の夫婦とも親しくなる。パメラは「白昼」でのミス・エミリー、「メソポタミア殺人事件」でのミス・レザランと同じ役回りである。他人を観察する立場。観察するのはポアロも同じだが、視点は違う。パメラは典型的な三角関係ね、奥さんかわいそうに・・と同情しつつも、こういうの大好き・・と喜ぶ。パメラ自身はオールドミスで、美貌とも恋の遍歴とも無縁。その代わり夫婦間のごたごたとも無縁だ。バーンズに目をつけられていることでもわかるが、なかなか魅力的な女性。ポアロを盾にしているうちに好意を持ったようで・・。同じ観察者の立場だし、ポアロはいつだって紳士的だし、事件解明のための捜査は刺激的だ。彼女がポアロにほのかな恋心さえいだくようになったのは明らか。もっともそういうエピソードのほとんどは時間稼ぎのためにくっつけられたもので、原作にはない。出発しようとしたポアロが足留めくって怒り狂うのも(それによって当時の不穏な政治情勢を表現しようとしたのか)、バーンズの正体が実は・・というのも映画だけ。原作でのバーンズは老将軍。彼以外の登場人物は、映画では皆原作より年齢が高め。マージョリーなどシワだらけで魅力に乏しい。そのうちヴァレンタインが毒殺されるのだが、その毒の入手先を突きとめるくだりなどもかなりご都合主義。前に書いたように(原作読んでいなくても)犯人すぐわかるし、そっちの方では楽しめないが、パメラが魅力的なので救われる。また、ただのスケベおやじだと思われたバーンズの意外な正体と有能さも、ストーリーに活気を与えていた。

コックを捜せ

ポアロの一作目か。そのせいか残酷さや堅苦しさはなく、適度に笑わせ、軽く楽しめるように作ってある。ただし冒頭シーンのせいで犯人はバレバレである。途中のコックをだますところの変装もバレバレだ。風景は都会も田舎も美しく、家の中もステキだ。血なまぐさはなく万事ゆったりとしている。人々はおおむね礼儀正しい。そりゃ中には品の悪いのもいるけど。原作は短いが、映画の方はいろいろ味つけしてある。例えば依頼人トッド夫人の夫のいやなやつぶり。コックが理由もなく行方不明になったというので調査に乗り出したポアロとヘイスティングス。トッド氏に話を聞こうと出向くが、彼は自分のに酒をつぐとすぐにふたをしてしまう。ポアロとヘイスティングスは思わず顔を見合わせる。別に飲みたいわけではないが、いちおう客にも勧めるのが礼儀ってものではないか。何としみったれた自己チューなやつなんだろう。・・このほんの短いシーンがいい。若い駅員とのやり取りも原作にはないがなかなかいい。ちょっといい男で、目ざとくてうぬぼれや。育ちのいいヘイスティングスなどいちいちカッカさせられるが、この生意気な若者のおかげでポアロは重要な手がかりをつかむのである。ただ、若者が金も要求せず情報教えてくれるのはちょっとありえないことのように思えたのだが・・。ポアロが如才なく金をちらつかせ、そのせいでヘイスティングスがますますカッカする・・となった方がリアルである。

トッド家の下宿人シンプソンにポアロが話を聞くシーンはちょっと妙である。なぜか顔のアップが続き、そのうちポアロがシンプソンにぐっと顔を近づける。その理由は後で説明される。それでそのシーンを見直してみたが・・ポアロの言うようなものはうつっていない。もちろんこの部分も原作にはない。こういう元々はないものをいろいろくっつけるから、それが成功した場合はサービス満点と感じるのだろうな。くっつけたものが失敗の場合は・・まあそういう場合の方が多いんだけど。

ミューズ街の殺人

花火やら爆竹やらでにぎやかな夜・・ガイ・フォークス・デー。ガイ・フォークスと言えば「Vフォー・ヴェンデッタ」の冒頭出てきたおっさんだな。こんなににぎやかじゃ銃声がしたって誰も気づくまい。殺人にはもってこいの晩だ。ミューズ街を歩きながらそんなことを話していたポアロとジャップ。翌朝そのミューズ街で女性の死体が・・。発見したのはその女性バーバラと同居していたジェーン。一見自殺に見えるが、不審な点がある。ジェーンの挙動にも引っかかるものがある。そのうちバーバラをゆすっていたらしいユースタスという男が浮かび上がる。ミューズ(MUSE)と言えば石鹸。あるいは「ハリウッド・ミューズ」なんていう映画(見たことはないが)。でもここでのミューズ(MEWS)は厩舎・・馬屋のこと。家の間取りにその名残があるらしいが、映画を見ていてもよくわからん。ジェーン役の人には不思議な魅力があり、わりと引き込まれる出来だが、ラストが弱い。事態を招いたバーバラの弱さ、誤って逮捕されたユースタスが釈放されても、いずれは今まで犯した罪を償うはめになること、これらをポアロがはっきり断言した方がよかった。あのままではちょっと消化不足。

それにしてもこの作品は初期のだから、ジェーンのバーバラへの感情がこの程度の表現(友情よりやや強い程度の愛情)ですんだ。今だったら絶対あからさまなレズ表現になるだろう。初期の作品には何となく節度があるけど、近年のいくつかのには興味を引くためには何でもやるみたいなさもしさがある。ポアロだけでなくミス・マープルのにもあるんだからいやになってしまう。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件

ウェイバリー夫妻のところへ脅迫状が届く。金を払え、さもないと息子のジョニーを誘拐するぞ。警察はこんなの日常茶飯事だと相手にしてくれない。夫は怒り狂い、妻は心配でどうにかなりそうである。ポアロが行ってみると、修復中のところもあるが、なかなかりっぱな邸宅である。家柄は夫の方がいいが、妻の方が金持ちらしい。原作だとポアロが乗り出すのはジョニーが誘拐された後。でもそれだと映画にならないので、ポアロは事件の前から絡む。原作を読んでいなくても筋書きは読めるし、展開はなまぬるい。秘密の抜け道など普段使われず何の手入れもされていないはずなのにクモの巣もなくきれいなので、うそくさい。あまりいい出来ではないと思う。お金持ちだがしまり屋の夫人の描写(もちろん息子の命を助けたいが、みすみす大金を取られるのはいやだ・・みたいな)を入れるとか、何かぴりっとした部分が欲しかった。美しい邸宅が見られるのはいいけどね。

二重の罪

ポアロはつまらない事件ばかり持ち込まれるのに嫌気がさしたのか、引退すると言い出す。北部のウィトコームというところへヘイスティングスと一緒に出かけるが、そこではジャップの講演会開催というポスターが。これは原作にはなし。観光バスに乗ったポアロ達は、メアリーという若い女性と親しくなる。彼女は古美術商を営む叔母ミス・ペンから預かった細密画を、ウッドという金持ちのコレクターへ届けるところだった。もちろん細密画は途中で盗まれ、ウッドは「口ヒゲのある」女性・・つまり女装しているらしい男性・・から細密画を買う。困っているメアリーを何とか助けようとヘイスティングスは奮闘するが、いずれも空振り。ポアロはもう引退したからと助けてくれない。細密画は盗まれたものだから、いずれはミス・ペンの元に返されるだろうが(ウッドは泣き寝入りかよ!)、それにしても犯人は誰だろう。もちろんそんなのはすぐわかる。「あッ、怪しい人が!」などと誰かが騒いだ場合、たいていそう言ってる本人が犯人なのだ。原作と違いミス・ペンは車椅子に乗っているが、こんなの全然必要じゃない。また、こういう犯罪を企む場合、一定の場所に店をかまえているのは不利だと思うが・・。同じ事件をくり返せば、あの店は怪しい・・と目をつけられてしまうではないか。

中心となる細密画盗難事件は大したものじゃないので、ジャップのことで増量してある。こちらはなかなかうまく作ってある。講演会なんて・・とバカにしていたポアロだが、実は気になって仕方がない。こんな北部へやってきたのも、新聞で記事を見つけたから。こっそり講演会へ忍び込んだポアロ。思った通りジャップは探偵達の悪口を言っている。やっぱり・・と帰りかけた彼の耳に聞こえてきたのは・・。そのジャップの言葉を聞いているうちに、ポアロの中で何かが変化する。甦ってくる。やる気、自信・・スーシェの表情の変化が見ものだ。ポアロも人間・・誰かおだててくれる人が必要なのだ。ポアロが聞いているなんてジャップは全然知らないでしゃべってる。だからこれは彼の本心。彼っていい人だわ・・とますます好きになる。てなわけで本気になったポアロの前ではちゃちなからくりなどあっという間にあばかれ、事件は即解決しましたとさ。原作では南部へ行くが、映画では北部。湖水地方だろうか・・風景が非常に美しい。

24羽の黒つぐみ

毎週決まって火曜日と木曜日に来て、同じメニューを食べる老人がいた。10年もそうやってレストランに通っていたので、月曜日に現われた時にはウエートレスのモリーの方が今日は火曜日だったかしら・・と思ったくらい。しかも別のもの注文したし。でも次からまた同じ曜日、同じメニューに戻ったけど。こういうのいかにもありそうな話。もう顔なじみだから「いつもの」ですんじゃう食堂、毎日行くので注文なんかしなくてもさっと出してくれそうなホカ弁屋。さて、一般の人にとってはただの世間話だが、ポアロにとっては違った。なぜ別の日に来たのだろう、なぜいつもと違うものを食べたのだろう。そのうちその老人ヘンリーが死ぬ。階段から落ちたのだ。足に絡まるようなボロい衣服のせいだ。ただの事故死だろう。ヘンリーにはアンソニーという双子の兄がいた。仲が悪かったらしく20年も疎遠である。アンソニーも病気のためヘンリーと同じ日に亡くなっていた。不思議だがいかにも双子らしい運命だとも言える。金持ちだったアンソニーの遺産は、ヘンリーを通り越し、甥のジョージへ行く。彼は劇場支配人で、ヘンリーが死亡した時のアリバイもある。もうこの件は解決ずみ・・とジャップは考えている。しかしポアロは習慣を崩したヘンリーのことが気になる。

ヘンリーは原作だと何をやっているのかよくわからないが、映画では画家という設定。モデルをしていた女性を出してきてヌードにさせるなど余計なことをしている。大きな絵をそれらしく並べているが、何も伝わってくるものがない。ただの貧乏な変人でいいじゃん。わずかな貯金か年金で暮らしていて、週に二度の外食が楽しみ・・それでいいじゃん。ジョージが劇場関係ということで、犯人はバレバレ。推理の楽しみはない。ヘンリーの死で絵の価格が高騰・・なんてそんなことで気をそらせようったってムリ。そんなわざとらしい設定に誰が引っかかるかっての。ずっとアンソニーの世話をしていた家政婦のヒルは、容体が悪化したのでジョージに連絡するが、気のない返事。アンソニーが亡くなると(莫大な遺産が入るのに)何のお礼もなし。何て薄情な・・とポアロにこぼす。そうそう、こういう人っているよな。病人の世話とか押しつけておいて自分では何もしないくせに、遺産は一人じめする人。ヒルはとても気の毒だけど、その代わり遺産に絡むドロドロした企みとは無縁。清い立場でいられる。まあ清いだけじゃおなかはふくれないけど。

結局遺産はどうなるのかな、ジョージが犯人となると。いや、別にネタばらししなくたって彼が犯人ってバレバレ。劇場→変装→ジョージの仕業。せめて原作通り医者ということにしておけば・・。第一彼はヘンリーに変装して誰にも気づかれなかったくらい用意周到なんだから、メニューだって調べとくはずでしょ?何が好みでどういう食べ方するか。それを何で自分の好みの食事注文してウエートレスの気にとまるようなことするのよ。席に座ったら一言こう言えばよかったのよ「いつもの」。

安いマンションの事件

見ていて読んだことがあるような気がしたが、手持ちの本にはなかった。ってことはまだ読んでないんだ。安いマンションが売り出されるが、売り主が選り好みするのか、なかなか売れない。ロビンソンという若夫婦がだめもとで行ってみると、なぜか一発でOK。早速引越す。それを聞いたポアロは興味を示す。なぜ他の人は断られ、彼らはOKだったのか。おりしもアメリカからFBI捜査官が来ていて、ジャップは渋い顔。何でも潜水艦の設計図が盗まれ、ムッソリーニに売られたらまずいとか何とかそういうことらしい。安いマンションと若夫婦、新型潜水艦の設計図と女スパイの暗躍。一見何の関係もなさそうだが・・。

見ながらもっと他にやり方がありそうなものだが・・と思ってしまうストーリー。身代わり(ロビンソン夫婦)の見つけ方とか、姿現わしすぎの暗殺者とか。原作は読んでないので比較はできないが、あまり出来がいいとは思わない。ポアロが空き巣みたいなマネをするのもらしくない。ただ、マンションの間取りとか、内装を見る楽しみはある。とてもきれいだ。電気式の暖炉とか、ゴミ出し用の戸口とかおもしろい。

冒頭ポアロ、ヘイスティングス、ジャップの三人でギャング映画を見ていて、ハラハラドキドキしているのがおかしい。クライマックスはハデな銃撃戦で、ポアロはがまんできず目をつぶってしまう。犯人が倒れるとヘイスティングスとジャップの顔に満足そうな表情が浮かぶのも笑える。「二度とごめんです」と渋い顔のポアロ。暴力の嫌いな彼らしく、事件の解決も無血で。そこはまあよかったと思う。