ABC殺人事件、アクロイド殺人事件、スタイルズ荘の怪事件、雲をつかむ死、ヒッコリー・ロードの殺人、もの言えぬ証人、エンド・ハウスの怪事件、白昼の悪魔、メソポタミア殺人事件、ポアロのクリスマス
ABC殺人事件
あらDVDとかでは表記はポワロなのね。でも私はなじみのあるポアロにしときます。「ポアロ」はNHKBSで時々やるけど、私は熊倉一雄氏の声は合っていないと思う。あんまり好きじゃない。それでDVDをレンタルしてみることにした。DVDには収録時間が182分とか書いてあって、そんなに長いのかとびっくりしたけど、完全版と日本語版の二つ合わせてその時間なのだった。なーんだ。完全版で100分くらいだから、日本語版は少しカットされていることになる。こりゃますます日本語版は私には用なしだな。ミス・マープル物と違ってポアロ物はたくさんある。デヴィッド・スーシェは全部やるつもりかな。やって欲しいな。私も一つずつ制覇していくぞ。人気があるのかレンタル中のも多い。まだ原作読んでないのもある。まあ気長に・・。
「ABC殺人事件」はほぼ原作通りの内容。アンドーヴァーでアリス・アッシャーという老女が、ベックスヒルでエリザベス・バーナードという若い女性が、チャーストンでカーマイケル・クラーク卿が殺される。地名と被害者の姓がABC順になっている。死体のそばにはABC鉄道案内が置かれ・・。ちなみに表紙は1936年8月となっている。ポアロのところには犯人からの挑戦状めいた手紙が届く。捜査の手順としては、被害者の間に何か共通点はないか・・というのがまず来る。それが犯人を捜し出す手がかりとなる。犯人はそれを見越して一人の男をスケープゴートとして用意する。カストというしょぼくれたセールスマンである。しかし犯人にもミスがあった。四件の殺人のうち一件にはカストに確実なアリバイがあった。しかし警察は重視せず、カストが犯人と決めつける。もっと大きな犯人のミスはポアロに手紙を出したこと。普通に事件を起こしていれば警察はからくりに気づかず、カストを逮捕して一件落着としていただろう。しかし犯人にはポアロより自分の方が頭がいいといううぬぼれがあった。結局はそれが命取りとなる。
ABC順ということで次々に場所が変わり、違う人が出てくる。何か理由をつけてはポアロは関係者を一堂に集める。そのため顔を覚えることができ、誰が誰ということがわかりやすい。また自分には全く関係ないはずなのに、なぜか行く先々で事件が起こり、苦悩するカストにも同情できる。変化があって退屈しない。よくできていると思う。ポアロの几帳面さを示す描写がいくつか出てくるのも原作ファンにはうれしい。ただしいくつか不満はある。最初の三件は地名と姓がABC順というのがそれなりに描写されるが、四番目ドンカスターでの事件が尻切れとんぼ。被害者の名前がちゃんと出てこなかったような・・。ドンカスターのDだけでもういいじゃないか・・みたいななまけた印象。原作だと被害者はアースフィールドという名前で、Eから始まるから、犯人は一つ飛ばしたのかな・・となる。ところが殺人現場(映画館)にいた男の名前がダウンズとわかり、犯人は殺す相手を間違えたのだ・・となる。別にそこまで原作に忠実にやれとは言わないが、映画の方もちゃんと被害者の名前がDから始まるってふうにして欲しかった。この作品のキモはABC順ってことなんだからいちおうはこだわって欲しい。
もっと残念だったのはヘイスティングスが南米から帰ってきて、その土産がワニの剥製。それが何度もわざとらしく出てくる。原作はよく知られているし、だから少し違った描写をして見る人を退屈させまいという作り手の配慮なのだろうが、ラストまであれでしめくくることはないだろッ!カストは原因不明の頭痛に悩まされていて、それで自分が犯人かも・・なんて思い込むんだけど、ポアロは頭痛の原因について現実的な助言をする。それで我々もああそうだったのか、病気じゃなかったんだ、よかったね・・となって安心して見終わることができるのに、またしてもワニがどうのこうの。こんな終わり方じゃ困るワニ。
出演者は知らない人ばかりだが、エリザベスの婚約者フレイザー役の人は何となく見覚えがある。引っ張ったらゴムのようにのびそうな顔立ち。ケネス・ブラナーの「ハムレット」に出ていたようで、それで見覚えがあるのだろう。クラーク卿の秘書グレイ役の女性は体操のボギンスカヤに似ている。
アクロイド殺人事件
私はどうもこの「アクロイド」と「スタイルズ荘の怪事件」がごっちゃになっていて・・。今回も見始めてからあら・・間違えた・・って。私が見たかったのは「スタイルズ」の方だったのね。「アクロイド」は、犯人は○○という反則をやっているのであんまり見る気しなくて。「ABC」と違ってこちらは場所があまり動かない。一つの屋敷に住む者・・ということで、登場人物がぞろぞろ出てくるわけでもない。だからこちらの方が人物関係とか把握しやすいはずなのだが・・そうでもないのだ。冒頭ポアロが貸し金庫から日記を取り出して読む。自分の書いたものを読み返し、回想にひたっているのか・・と思うが、そうではないことがそのうちわかる。紙が少しシワになっている理由も・・。一度水にぬれたのだ。
キングス・アボット村に住み始めたポアロ。引退して野菜でも作って静かに暮らそうと・・。でも、ここでも事件は起き、結局は鼻を突っ込み、ロンドンにいるのと変わらなくなる。それに几帳面すぎるポアロには野菜作りは向いていない。珍しくかんしゃくを起こすポアロ。ドロシーという未亡人が死ぬ。医師シェパードのみたてでは睡眠薬自殺だ。彼女には夫を殺したのでは・・といううわさがあった。村一番の実業家ロジャー・アクロイドは彼女と再婚するつもりでいたので、彼女の死を悲しむ。今度はそのロジャーが殺される。犯人はロジャーが跡継ぎにと考えていたラルフ(亡くなった妻の連れ子)のように思われた。金に困っていたし、姿をくらましているのが怪しい。屋敷にはロジャーの義理の妹セシルと、その娘フローラがいる。ロジャーはラルフとフローラを結婚させるつもりだった。そのうちラルフにはすでに妻がいることがわかる。義理の何とかとかいろいろ入り組んでいるので、人物関係がわかりにくい、ロジャーとシェパードが似ていて見分けがつきにくい・・などのせいで、あんまりおもしろくない。出てくる連中に人間的な魅力がないのもバツ。原作と違い、シェパードの妹キャロラインの行動が結末を左右する。クライマックスでは何と銃撃戦だ。だいぶハデになってる。
いつもポアロと行動をともにするジャップ警部。まぶたが重たそうに垂れ、ボーッとしているように見えて、相手(犯人)の撃った弾の数をちゃんと勘定しているなど意外と冷静。だてに警部やってない。今回のもう一つの見どころは当時(「ABC」と違いいつなのかは不明)珍しかったであろう超モダンなロジャーの屋敷。暮らしにくそうだが見ているぶんには楽しい。そういういい部分もあったが、全体としては盛り上がらず、やや退屈な作品だった。
スタイルズ荘の怪事件
出来はよくない。旧友ジョンに再会したヘイスティングスは、スタイルズ荘に招かれる。まだ戦争中(1917年)で、彼は足を負傷。時々戦争の悪夢におそわれるが、事件が起きるとどこかへ行ってしまう。悪夢は余計な描写。時間稼ぎ。ジョンの母エミリー(原作では義理の母だが映画では?)は20も年下のアルフレッドと再婚。ジョンや弟ロレンスはおもしろくない。どう見たって財産狙い。ジョンは妻メアリとうまくいっていない。メイド頭のミス・ハワードはアルフレッドを目の敵にし、エミリーと衝突して家を出る。そのうちエミリーが死亡。毒殺らしいというのでアルフレッドが疑われる。彼の嫌疑が晴れると今度はジョンが逮捕される。
大筋は原作通りだが細かいところは違い、それらがそのままこの作品の欠点になっている。一番違うのはヘイスティングスの年齢。「スタイルズ」はポアロが初登場する作品。したがってヘイスティングスもまだ30くらい。メアリーにポーッとなったりシンシア(エミリーの旧友の娘でスタイルズ荘に同居中)に求婚して冗談だと思われて恥をかいたりレイクス夫人に目が行ったり忙しい。若いから無理もない・・となる。しかし映画でのヘイスティングス役ヒュー・フレイザーはくたびれた中年男。何かイメージ違うんですけど・・。「ABC」だと約20年たってるからちょうどよくなるけど。まあとにかくヘイスティングスだけなら犯人の企みは成功しただろうが、ここには戦禍を逃れベルギーから移り住んだポアロがいた!彼はまずアルフレッドの疑いを晴らす。薬局でストリキニーネを買っていたとされる時刻に、彼は別の場所にいた。彼に化けた誰かが毒を買ったのだ。アルフレッドのアリバイを証明したのはポアロだが、彼がなぜそこにいたのかという理由は言わない。アルフレッドが証言を拒むのはそれなりの理由があるからのはず。例えばこっそり浮気していたとか。映画ではそういうのがなく、彼はどこどこにいた、証人はこれこれの人達だ・・で終わってしまうので、なぜ自分のいた場所を隠していたのかはわからずじまい。見ていて拍子抜けしてしまう。レイクス夫人とジョンの関係もそうだ。未亡人であるレイクス夫人とジョンがいかにも心を通わせているふうに描写するが、実は何でもなかったことが後でわかる。じゃああの思わせぶりな描写は何だったのよ。クライマックスの犯人あばきもぱっとしない。一番の見せ場のはずだが、通り過ぎたという感じ。またこの作品の一番の魅力は美しく謎めいたメアリの存在だと思うが、映画の方はそれが出ていない。原作では長身で優雅だが、こちらは小柄。それとシンシアと区別つきにくい。その上レイクス夫人まで出てきて・・。
こうやって何作か見てくるとだいたいの傾向がつかめてくる。冒頭やラストに原作にはないものを持ってくる(ワニとか)。出てくる人が皆似たような顔をしている(イギリス人俳優になじみがないせいもある)。ここははっきりさせた方がいいというところをすっと通り過ぎてしまう(「秘密機関」みたいに)。そんなこんなで全体的に地味で退屈なことが多い。まあ中には例外もあるだろうが(かすかな期待)。
雲をつかむ死
飛行機の中で殺人が起きるが、それまでのパリでのあれこれが長い。ヒロインのジェーンは原作では美容師。宝くじに当たり、旅行してきた帰り。こちらではスチュワーデス。演じている人は蛙みたいな顔をしているが、シーンによっては美しく見える。顔立ちではなく品のよさや知性、体つきが美しさを形成している。殺されたのは社交界の連中専門の金貸しマダム・ジゼル。彼女に金を借りているホーベリ伯爵夫人が一番怪しいが、こういうのの常で、彼女は賭博好きで金に困っている愚かな女にすぎない。マダムには莫大な遺産があり、娘だという女性が名乗り出てくる。出生証明書などから本人に間違いないと思われたが、彼女も殺され・・。
まあジェーンの扱いに少々違和感を感じるが(この頃のスチュワーデスってこんなにヒマなの?)、いらない人物はカットされわかりやすくなってる。マダム役の人はほとんどセリフもなくただそこにひっそりといるだけだが、なぜか印象に残る。かすかに微笑みを浮かべて・・。マープル役ジョーン・ヒクソンにちょっと似た感じの人。マダムの忠実なメイド、エリーズもよかった。残念だったのはジェーンと仲良くなるゲイル役の人。ジェームズ・スペイダーとピーター・オトゥールをミックスして塩もみしてしんなりさせたような・・。いちおうハンサムだけど老け顔で若さがない。イギリスの作品ってたいていそうだな。若くてつるんとした人より見かけは地味でも演技力のある人を出す。だからたまに若くてフレッシュなイケメン出てくると目が覚めて・・思わず正座して・・って何のこっちゃ。
ヒッコリー・ロードの殺人
最近せっせとポアロのDVDをレンタル。いつも冷静でミスなど犯さないミス・レモンだが、最近様子がおかしい。ポアロがわけを聞いてみると、レモンの姉ハバード夫人が寮母をやっている学生寮で奇妙な盗難事件が起きているとのこと。靴の片方だの聴診器だのホウ酸だの電球だの・・盗むにしては変だ。リュックが引き裂かれていたりもする。ポアロは興味を持つ。そのうち寮生の一人が死ぬ。
寮生の数は原作より減らされている。アメリカ人やイギリス人は残すが、ジャマイカ、西アフリカ、フランスからの留学生はカットだ。アメリカからの留学生サリーには、ダイヤ密輸の捜査官というとんでもない設定がつく。潜入してから半年・・その間何をしていたのかというくらい無能な捜査ぶり。ポアロがかかわるとすぐ目鼻がつく。同じく原作と違うのは、やたらめったらネズミが登場すること。原作に「ねずみが時計を駆けのぼる」という文があるから、そのせいか。でもあんなに走り回ると、何て不潔な寮だ!・・としか思わない。レン役の人は見覚えがある。「ドリームキャッチャー」のダミアン・ルイスだ。この頃はまだ若くういういしい。もう一人気になったのはナイジェル役ジョナサン・ファース。なかなかの美形。えッ、コリン・ファースの弟?・・というわけでストーリーは二の次、ナイジェルばかり見ていましたとさ。
今回もう一つくっつけてあるのは、奥さんが留守というジャップ警部。着るものや食べるものに不自由している。アイロンをかければ焼け焦げを作り、流しの中は皿や鍋の山。食べ残しの何と多いこと。前、何かの回でフライドポテトか何かを半分かそこらで捨てちゃって、何ともったいないことをするものかなと呆れたけど、こちらのシーンでも肉やらポテトやらパンやらいっぱい・・。作りすぎたのか味つけに失敗して食べられないのかとにかくいっぱい。ストーリーよりこっちの方が気になった。ジャップが困っているのを察したポアロは、自分のところへ泊るよう勧める。喜んだジャップだが・・習慣の違いに困惑することとなる。冷えを極端に嫌うポアロは暖房を目いっぱい入れる。ジャップは暑くて眠れない。食事も合わない。ほんのちょっぴりの軽い朝食。でもジャップは卵やベーコンをしっかり食べたい。ビールを飲みたいのにバナナシロップなんていう得体の知れないものが出てくる。待ちかねた夕食・・ポアロが作ってくれたのは・・豚足料理?中でも腑に落ちないのが浴室に据えられた「あれ」。ビデとかいうらしいが、いったい何に使うのか。今日も暑くて眠れないジャップは、ビデから出る水を顔に受け、なるほどこう使うのか・・と納得。まあこういうのは笑えるけど、ラストのジャップが作った典型的な英国料理(マッシュポテト、つぶした青豆、レバー団子)をめぐるポアロとのかみ合わない会話はやりすぎ。さっとスマートにしめくくって欲しかった。
ヒッコリー・ロードの殺人(付け足し 名探偵ポアロ96)
「ワンス・アポン~」で気になったダミアン・ルイスを見たくて、久しぶりに見返した。前に見た時より画面がくっきりしてるように思えたが、ハイビジョンリマスター版のせいかな。一回目は普通に見て感想書いて、二回目は「シックス・パック」のジョナサン・ファースが出ているというので見た。今回で三回目。そうなると今度は原作読み返したくなる。ああんもう時間ばっかりかかるぅ!以前書いた感想では事件のことはほとんど書いてないな。奥さんがいないとすぐ行き詰まっちゃうジャップのことばかり。原作ではシャープ警部。今回見て、なるほど多くのことが変更されているけど、わりとうまく考えられているじゃないかと感心した。ネズミは別だけど。そりゃネズミはかわいいけど、あまりにも出すぎ。シーリア殺しに使われるモルヒネを盗むのは原作ではナイジェルだけど、テレビではコリン。ヴァレリーとニコレティス夫人が親子という設定もテレビではなし。もしもっと遅くなってから作られていれば、きっとこの設定入れてただろうな。初期の「ポアロ」はわりとまともだった気がする。後期になると何じゃこりゃ作品が多い。とは言えテレビでは密輸関係の部分が今いち。サリーを捜査員にするなどして際立たせようとしているけど、終わってみるとはっきりしない。ニコレティスが殺されたというのに、相棒の男が何も対策取らず警察に踏み込まれてるのは危機感なさすぎ。ナイジェルとヴァレリーも、儲けをどこかに隠していたとかそういうの見せれば、こっちもああそうか、こんなことしてたのかと納得するのに。今回は結末・・犯人もわかって見ているわけだが、そういう目で見ると、ナイジェルの言動はいかにもって感じ。尻尾をつかまれないという自信、ポアロや警察への挑戦心。最後に失策やらかすけど、もうここらへんは見え見えで。それにしてもファースもルイスも若いな。1995年と言うと二人とも20代。ファースはずっと眼鏡をかけていて、かけていないのは一瞬だけ。それと写真の中だけ。せっかくの美貌が・・もったいない。今お風呂から上がった・・みたいな、すべすべしっとりお肌。ルイスの方は最初に見たのが「ドリームキャッチャー」。いかにもイギリス人がやりそうな変てこなキャラで。あっちではヒゲづらだったけど、こちらではピンクのお肌に赤毛。若さが内側からにじみ出して、今にもぱちんと弾けそうなくらい顔が張ってる。若いっていいねえ・・。
もの言えぬ証人
ものが言えぬのは犬だからである。ボブはボール遊びが大好き。階段の上から落とし、ボールがぽんぽんはねている間に大急ぎで階下へ駆け降り、パクッとくわえる。ボールはいつも自分のねぐらへ持ち込む。彼の主人ミス・エミリーが夜中に階段から落ちた時は、誰もがボブのボールのせいだと思った。階段の上に置きっぱなしにしたせいで、それを踏んで滑ったのだ・・と。でもボブはボールを置きっぱなしにはしてない(ねぐらに持ち込むのだから)。今回はボブに着せられた濡れ衣を晴らす話でもある。ボブは原作ではワイヤヘアード・テリア。映画ではフォックス・テリア。同じものなんだろうが、犬のことはよくわからん。みっともない犬だとは思う(ごめんね)が、演技(←?)はうまい。さて、その時は大事に至らなかったエミリーだが、ある晩つき添いのミニーやトリップ姉妹の目の前で口から緑色の気体を吐き、死んでしまう。霊媒師のトリップ姉妹は、気体は体から抜け出した魂だと思い込むが・・。
原作ではポアロが訪ねて行くのはエミリーが亡くなった後である。いろいろ構成を変えてある。独身のエミリーにはチャールズ、テリーザ、ベラといった甥や姪がいる。それぞれ金に困っていてエミリーの遺産を当てにしている。ところがエミリーはミニーに残していた。チャールズ達は怒る。ミニーも思いがけない事態に当惑するが、と言って辞退する気もない。ラスト、ポアロ達はミニーにボブを押しつけられて困っていたが、金持ちになったんだから自分で飼えよ。原作でのボブはヘイスティングスを新しい主人と決めていて、けなげでいい。食事のシーンでポアロが医師のグレンジャーやタニオスに「指の間に痛みが・・」などと話しているのが興味深かった。晩年の彼はひどいリウマチに苦しむようだが、この頃から症状が出ていたのね。
エンド・ハウスの怪事件
NHKのアニメでもやったので、ストーリーはよくわかる。海辺に立つエンド・ハウス。ポアロやヘイスティングスは、ひょんなことからこの屋敷の持ち主ニックと親しくなる。彼女は最近何度か危ない目に会っていたが、ただの偶然と気にしていない。しかしポアロには明らかに命を狙われているのだとわかる。ニックのまわりにはラザラス、フレデリカといった友人がいたが、ポアロは誰かそばにいてくれる人を呼びなさい・・と忠告する。それでニックはいとこのマギーを呼び寄せる。そのマギーが殺されてしまう。身につけていたショールのせいで、ニックと間違われて殺されたらしい。自分がついていながら・・とポアロは悔やむ。
ニック役はポリー・ウォーカー。珍しく知ってる人が出たぞ。小顔できれいに整っていて・・ヒロインにはこういう華やかさが必要だよな、うん。でも私が興味を持ったのはマギーの方。映画ではほとんど何ということもなく殺されてしまい、さして印象も残さない。美人で明るく華やかなニックとは対照的な、地味で控えめな女性。よく働き他人のために尽くす。おもしろみはないが、他人から恨みを買うようなことは絶対にないりっぱな女性。でもそんな彼女のつつましい人生も、何者かの手で乱暴に断たれてしまうのだ。マギーの死を悲しむニック。しかし彼女が悲しむもう一つの理由があった。冒険飛行家シートンの死である。ニックは彼と密かに婚約していた。シートンには伯父から受けついだ莫大な財産があり、彼は自分に何かあった場合はマグダラ(ニックの本名)に残すという遺言をしていた。ニックが命を狙われるのはこの遺言のせいと思われた。間違ってマギーが殺されたからって犯人からの攻撃がやむわけではない。そのうち毒入りチョコレートのせいでニックは重体に・・さあ、犯人は誰でしょう。ヒント・・花火大会の楽しい晩・・マギーは地味な黒いドレスを着ていました。なぜでしょう。
ニックの許可を得て手がかりを捜す時、部屋の中のあまりの乱雑ぶりにポアロが呆れるところがおもしろかった。下着までかき回すのでヘイスティングスは止めるが、ポアロはいっこうに気にしない。ポアロだって若くて美しい女性は好きだが、それよりも何よりも謎を解くことが優先されるのだ。
白昼の悪魔
自転車で旅行していた女性が森の中で死体を発見、届け出る。この死体・・アリスを殺した犯人は結局見つからなかった。婚約者エドワードは犯行時刻当時列車に乗っており、犯人ではない。さて・・ポアロは最近服が窮屈になったと感じるが、太ったとは決して認めない。洗濯屋のせいにする。ヘイスティングスが投資したアルゼンチン料理の店に行くが、食事の途中倒れてしまう。美食のせいで心臓に負担が・・。もちろんポアロはそんなはずはないと言い張るが、とうとう南海岸に療養に行くはめに。ホテルにはいろんな人が泊っている。中でもひときわ目立つのが元女優の美しいアレーナ。夫ケネスはこの結婚が失敗だったと自覚しているが、妻をほうり出す気はない。ケネスの息子ライオネルは継母アレーナが嫌いである。パトリックとクリスティーンの夫婦は、パトリックがアレーナと浮気しているせいでもめている。そのうちアレーナが殺されるが、パトリックとクリスティーンにはアリバイがある。落ちていたメガネのせいでライオネルが、次はケネスが疑われる。アレーナの死体のうつし方で、たいていの人はからくりがわかってしまうと思う。ここはもうちょっと、犯人がばれないようなうつし方工夫して欲しかった。それにしても今回はてっきり明るい太陽の下、海辺からスタートすると思っていたのに・・。森の中の殺人?あの牧師は何?ポアロの病気なんて原作にはない。ヘイスティングスも出ていない。食餌療法はともかく、サウナで汗を流すなどかえって体によくないのでは?軽い散歩から始めた方がいいと思うが・・。
登場人物は原作より少ないが、それでも次から次へと現われるので把握するのが大変だ。ミス・ダーンリーはケネスを愛している。二人は幼なじみである。ケネスには困ったクセがあった。世間から不当な評価をされている女性を見ると、恋に落ち、結婚してしまうのである。原作では夫殺しの疑いをかけられたルースという女性と結婚し、リンダという娘をもうけるが、ルースは死んでしまう。その後しばらくは独身を続けるが、今度はアレーナである。ルースは世間のうわさとは違い、夫など殺しておらず、りっぱな女性だった。アレーナもきっと・・。しかしアレーナは美しいが浮気っぽいつまらない女性だった。ケネスの思惑ははずれるが、彼は相手がどういう女性だろうと結婚したからには一生添い遂げるという考えの持ち主。ミス・ダーンリーはヤキモキしながらもあきらめるしかない。でもそのアレーナが死んでしまった!ケネスが困った騎士道精神発揮しないうちに今度こそモノにしなきゃ!でもまさか彼が犯人じゃないわよねえ・・。
原作を読んで心に残るのはケネスの一徹さ。アレーナがパトリックといちゃついたり娘リンダが不満を持ってるとわかっていても行動起こさない。結婚したからには死ぬまで・・という考え方は、それが正しいかどうかはともかく、心引かれるものがある。今は「いやだったら別れればいいじゃん」とか、「他に好きな人がいるなら自分に素直に」とかそういう時代だからね。もちろんその方が好結果もたらす場合もあるけど・・。映画ではリンダがライオネルに変更されている。前妻ルースには何も触れていなかったような。その代わり牧師レーンにはアリスの夫だったという過去をくっつける。ただの話好きなバリー少佐には麻薬捜査中の役人という肩書が・・。こんな変更不要でしょ。活発なミス・エミリーは原作のイメージそのまま。色が白く素朴な顔立ちのクリスティーンもいい。演じている人はヘイリー・ミルズにちょっと似ている。色黒で野性的なアレーナ役の人もよかった。アレーナは男を引きつけ、女性には嫌われ警戒されるタイプ。ちやほやされるが、そのうちあきられ、捨てられるタイプ。毒婦に見えるが実際は男にだまされ、たかられ、しぼり取られる。彼女にあきる前に財産残して死んだ富豪がいて、彼女は金持ちだった。しかし調べてみるとほとんど引き出されていた。そのため誰かにゆすられていたのでは・・というセンも出てくる。他に洞窟を利用した麻薬取引のとばっちりを受けて・・というセンも。
ラスト、今度こそミス・ダーンリーの思いはかなえられそうだ。彼女ならケネスをしっかりサポートしてくれるだろう。しかしアルゼンチン料理のレストランうんぬんは、いつものことだが余計なつけ足し。ポアロが倒れたのは食中毒のせい。実は店は何度も営業停止をくらっていた。投資したヘイスティングスはお金をドブに捨てたも同然。でもそれだと心臓疾患という医師のみたては?お酒の代わりに出てくるいかにもまずそうなイラクサジュース(今だったら青汁だな)、ちょっぴりの料理。それにくらべ、ヘイスティングス達の前には肉のかたまりがどーんと置かれる。恨めしそうなポアロ。この映画は出てくる料理がホントおいしそうで・・。
メソポタミア殺人事件
まだ原作を読んでいない。本屋に行けば売ってるから買って読めばいいのだが、古本屋で見つけるまでがまんしようと思っている。でもクリスティー作品ってあんまり古本で出ないんだよな。出てもすぐ売れちゃうのかな。見ていて何となくどこかで見たような・・という気のしてくる内容だ。つまりクリスティーの作品ってすごく独創的なのもあるけど、よく似たものもいっぱいあるってこと。
ポアロはロザコフ伯爵夫人に呼ばれてバグダッドへ来るが、当の夫人は行方がわからない。ちょうどヘイスティングスが、遺跡の発掘をしている甥のビルのところへ来ていたので、ポアロも合流する。行ってみると、一人のアラブ人が殺されたとのことで警察署長メイトランドらが捜査中だった。発掘調査隊のリーダーはライドナー博士。他に妻のルイーズと、彼女付きの看護婦レザラン、ライドナーの助手ミス・ジョンソン、ケアリー、マーカードとその妻、出土品に書かれた文字を解読するために呼ばれたラヴィニー神父などがいた。マーカードはちょっと様子がおかしい。人夫に兄の仇・・と襲われたりする。マーカードの妻は何か心配事がありそうだ。ケアリーはルイーズを嫌っているが、本当は心を引かれている。メイトランドの娘シーラはケアリーに引かれているが、振り向いてもらえない。ビルはシーラが好きなようだ。ミス・ジョンソンはルイーズを嫌っている。ルイーズが来るまでは調査隊はとてもうまくいっていた。美しく魅力的なルイーズは、男は全員自分の方を向いてくれなきゃいやというタイプ。同性には最も嫌われるタイプ。しかしその彼女にも大きな悩みがあった。死んだはずの前夫から届く脅迫状である。おびえるルイーズだが、彼女の性格もあってまわりには信じてもらえない。脅迫状の筆跡はルイーズ自身のと酷似しているし。前夫にはウィリアムという弟がいる。そのウィリアムが調査隊にまじっているのではないか。そこで考えられるのがビルである。ビルはウィリアムの愛称だからね。しかも養子なのでヘイスティングスとの血のつながりはない。・・ここらへん原作ではどうなっているのかな。年齢的にはマーカードやケアリーも候補だ。そのうちルイーズが殺される。マーカードが自殺する。何かに気づいたミス・ジョンソンが殺される。アラブ人も入れれば、短期間に四人も死んだことになる。さて犯人は?
見ながら私は何だかこれって発掘調査に似ているな・・と。遺跡は注意深く砂や土を取り除き、掘り出さなければならない。むやみに掘ると傷つけてしまう。出土したものはきちんと分類し、記録し、保管しなければならない。うかうかしていると盗まれたり、いつの間にかニセモノとすり替わっていたりする。ポアロも事実を一つ一つ吟味し、余計なものを取り払っていく。わけがわからないように見えるのは、無関係なものがまじっているからだ。マーカード夫妻の様子から、ポアロはマーカードが麻薬中毒なのでは・・と推理する。何気ないふうを装って調べると、彼の腕は注射のあとだらけだった。そして自殺。殺されたアラブ人は麻薬の売人でもあった。麻薬をめぐってトラブルが起き、マーカードがアラブ人を殺したのだ。だから兄の仇・・と襲われたのだ。したがってマーカードはルイーズ殺しとは無関係である。最近不審な男があたりをうろついている。ラヴィニー神父と知り合いのようにも見える。ポアロは神父の身元を調べる。すると彼はニセモノで、男とぐるになって出土品を盗んでいたことがわかる。泥棒なら手配してつかまえればいい。そうやって少しずつ余計なものを除いていくと真犯人に近づく。いつもならいくつか殺人事件が起き、一見無関係なように見えるが、実はつながっていた・・となるが、今回は逆。そこがちょっと新鮮だったかな。ただ、ルイーズの死体発見のシーンで犯人の目星はつくし(殺し方まではわからないけど)、マーカードの自殺もあんなふうにわざわざバグダッドへ行ってホテルに部屋を取って、それからやるか?という気もする。
ラスト、やっとロザコフ夫人から連絡が入る。全然別のところにいて、ポアロに無駄足を踏ませたうえ、ホテル代は立て替えておいてくれとあつかましい申し出。後で清算するなんて言ってるけどそんな気ないのありあり。伯爵夫人に呼ばれてきたのだ・・と得意になっていたポアロも自腹切らされ憮然。贅沢に慣れきったポアロにはいい薬かも。今回はケアリー、マーカード、ビル・・いずれもいちおうハンサムなので楽しめた。看護婦レザランの無責任ぶり(自分は調査隊内のもめ事とは無関係なので、同情しながらもある意味楽しんでいる)もおかしい。
ポアロのクリスマス
えーっとこれってプディングの中に何か入っていたってやつ?違うな、あれは「クリスマス・プディングの冒険」。何だか混乱してきた。1896年南アフリカ、ダイヤを一人じめしようと相棒を殺したシメオン・リーは、生き倒れになっているところを牧場主のステラに助けられる。このステラは器量も悪くオールドミスだが、見ず知らずのリーを看護し、ダイヤを見つけても詮索しない。なかなかりっぱな女性のようだ。そのうち二人は恋仲になるが、結ばれた翌朝リーは姿を消す。後でわかるが彼はステラの金を盗んでいた。恩を仇で返すとはこのことだ。40年後、老人になったリーは、金持ちだが根性悪。家族を争わせては喜んでいる。クリスマス・・息子のアルフレッドと妻リディア、ジョージと妻マグダレーナ、長く家を離れていたハリー、娘ジェニファー(故人)の娘ピラールが集まる。リーは遺言状の書き換えをにおわせる。地元警察のサグデンに紹介されたポアロも呼び寄せる。原作ではポアロは偶然近くに滞在していたことになっている。息子の数も違う。ピラールと仲良くなるスティーヴンという青年も登場する。映画ではハリーがスティーヴンの役割も兼ねる。リーが殺され、ダイヤがなくなる。みんなそれなりに動機はあるが、リーの部屋にはカギがかかっていた。さて犯人は?
ポアロはジャップ警部を呼ぶが、原作には彼は登場しない。ジャップはクリスマスなので妻の実家ウェールズにいるが、ウェールズ人は朝から晩まで歌い通しなのでうんざりしている。ポアロの呼び出しは渡りに船だ。歌いまくって楽しそうな人達は心にやましいこともなく、お金がなくても幸福なんだと思う。こちらのゴーストン館はお金はあるけどみんな幸福じゃない。その対照が心に残る。謎解きの方は老いたステラが登場するせいで犯人の目星がついてしまう。ステラの部分は原作にはない。全体的にはハリーが怪しいように描写されるが、うつし方のせいで○○が怪しいぞ・・とすぐわかる。リーとステラの一夜・・子供、裏切りへの復讐・・ってね。そんなにわかりやすくする必要なかったと思うが。感心したのは若いリーとステラ、老いてからのリーとステラ、どちらもとてもよく似た人を配していること。老人のリー役の人は見たことがある。ん?「ファイナル・レジェンド 呪われたソロモン」でヴァン・ダムの父親やってた人?リディアは美しい。サグデン役の人は寺尾に似ているな。クリスマスということでジャップはポアロに手袋を贈るがポアロは気に入らない。ジャップの妻の手編みだが、ポアロがはめることはないだろう!