ナイトウォッチ/モルグ
1998年の秋、「シティ・オブ・エンジェル」を何度も見に行って、その度にこの予告を見た。「夜警(ナイトウォッチ)さん、誰かが屍体を動かしている・・」の名コピー(と不気味なイラスト)が印象に残る。でもその時は見に行かなかった。上映は短期間で、半年かそこらでビデオも出た。そうなると別にわざわざ映画館へ行かなくても・・となるところだが、「シティ」のニコラス・ケイジの奥さん(当時)パトリシア・アークエットが出ている。じゃあ見てみようとはるばる浅草へ。1999年4月のことだ。浅草中映で「ギャングシティ」との二本立て。ところで今でも浅草中映ってあるのかな。「ナイトウォッチ」は、デンマーク映画「モルグ」のリメイク。監督はどちらもオーレ・ボールネダル。「モルグ」はその後運良く中古ビデオを見つけた。「ナイト」は何と言ってもユアン・マクレガーがかわいい!マーティン(マクレガー)は法律を学ぶ大学院生で、もうすぐ卒業。お金が必要なのかモルグでのアルバイトを始める。最初の頃は怖くて怖くてタイマーのベルの音にも飛び上がる。何しろ夜は自分と死体だけ。あたりは暗く、静まりかえっている。それでいて何日かたつと慣れてくる。目いっぱいボリュームを上げてヘッドホンで音楽を聴き、標本室を探検し、だだっぴろいホールに椅子を滑らせる。この映画の分析はパンフ(後日通信販売で手に入れた)に詳しい。・・大人は子供に言う「早く寝なさい」・・夜は大人の世界。マーティンとジェームズ(ジョシュ・ブローリン)は親から独立して生活しているし、大学院生だし、彼女もいるし、いちおうは大人。でもなかみはまだ子供。仕事につけば、家庭を持てば・・一人前の大人としてやっていくことが要求される。でもまだそうなりたくない。子供という立場にしがみついていたい。だからバカをやる。特にジェームズは、この頃ではたいていの刺激じゃ興奮しなくなってきている。もっと刺激的なことはないのか・・。マーティンはジェームズより(臆病なだけ)少しはまとも。仕事につくことで大人への一歩を踏み出す。しかしジェームズは子供じみたいたずらでマーティンの成長を邪魔しにかかる。さて世間では連続殺人事件が起きている。娼婦が殺され、目がくり抜かれる(「モルグ」では皮膚をはぐ)。死体はモルグへ運ばれてくる。最初犯人はジェームズのように見える。マーティンも彼を疑う。
ナイトウォッチ/モルグ2
しかしマーティン自身が犯人にされそうになる。恋人キャサリン(アークエット)まで巻き込まれる。何とか危機を脱した時、マーティンとジェームズは「もうバカはやめよう」と言い合う。彼らはやっと大人の世界(ナイト)をかいま見た(ウォッチ)のだ。初めて大人への階段を一つクリアーしたのだ。・・なるほどねえ、うまい分析ですな。真犯人がクレイ警部(ニック・ノルティ)というのは途中であっさり明かされる。警官が犯人というのは、ばらした後が難しい。ぎりぎりまで伏せときゃいいのに。クレイの相棒ビルはとんでもないぼんくらで、あっけなく殺されてしまう。出てきた時はこいつが何とかしてくれるだろう、あるいはこいつが犯人かも・・と一瞬期待させるが、何もなくて終わってしまう。「ナイト」は陰惨な内容なのにどことなく新鮮なイメージがある。とにかく皆若い。ユアンはこの後「スター・ウォーズ」などの大作に出るようになるが、ここではホントかわいい。元気でのん気で臆病でだまされやすくてさびしがりやでけなげでお調子者。「シークレット・ウインドウ」がデップのプロモビデオなら(例えが古!)、「ナイト」はユアンのプロモ。「ユアンウォッチ」!!クレイにつかまって、もう絶体絶命で、泣きながらそれでもキャサリンをかばおうとするの。弱いけど強い、でもやっぱり弱い。ユアンには弱さ、情けなさが似合う。でもそれらは私達がとてもよく共感できるもので・・。私が彼を見たのはこの作品が初めてだと思う。アークエットもそうだ。何とも言えない魅力があり、この映画の後「シークレット・エージェント」も見に行った。納豆みたいなねばり気のある声が独特。やわらかいおモチのような弾力のある体つきもいい。それに演技がうまい。だらしなくのびている(でもかわいい!!)マーティンに必死に呼びかけるところ、凄まじい悲鳴・・とにかく迫真の演技だ。今は「ミディアム」ですっかりテレビ女優になっちゃったけど、この頃はけっこういろいろ出ていた。ブローリンも初めて。名前からジェームズ・ブローリンの息子だろうな・・と。惨殺される娼婦ジョイス役はアリックス・コロムゼイ。涙を流し、ハナを垂らしの大熱演。最近見かけないな。ジェームズの恋人マリー役は「キャプテン・ウルフ」や「エバン・オールマイティ」のローレン・グラハム。くっきりした美しさが目立つが、あまり印象に残らない。
ナイトウォッチ/モルグ3
ビル役はジョン・C・ライリー。まあ顔だけはインパクトあるけど、何もしないで殺されちゃうし、ノルティの隣りにいたんじゃ存在かすむわな。ノルティはすごい顔してる。メイクなしでフランケンシュタインの怪物できちゃう。一番怖いのは本性あらわしたクレイがジェームズに「死んだ経験は?」と聞くところ。ジェームズきっとチビッたと思う。もう一つ怖いのは、前任の老夜警が、死体置き場入口のドアには「中からの引き手はついてない」って言うところ。つまり中からは開けられないってことだけど、これって本当?考えてみりゃ死体以外(職員や夜警、警官)も出入りするわけで、中からも開けられないと不便だと思うが。とにかくこの二つのセリフは怖いですよ。他にも警備員室にいつの頃からか貼ってある写真、時計、中に蛾が入り込んで出られなくなっている電灯、建物入口の両脇の木にかけられた黒いビニールシートが風にはためくところ、死体の足につけられたタグ、上に置かれた花束、廊下の角を曲がると待っている死体!・・何かもう御膳立てがきっちり揃っていて、ゾクゾクしちゃう。見るからに恐ろしげなノルティと、彼に追いつめられるカワイコちゃん(ユアンのことよ!)。残酷なところもあるけど、笑わせるところもちゃんとある。死体に化けたジェームズがマーティンを死ぬほど驚かせるところ、標本室での「エイリアン」のまね。夜中に呼び出され、不機嫌な当直医役はブラッド・ダーリフ。この頃の彼は顔がとがった感じで、ジョディ・フォスターに似ている。マーティンとクレイの後ろでウロウロ歩き回っているシーンは笑える。他にレストランのウエーター役で「ヒドゥン」のラリー・シーダー。「ヒドゥン」で彼を見た時、どこかで見たような・・と思ったのはこのせいだろう。私はオリジナルの「モルグ」を見て、それなりに気に入ったけど、こっちのハリウッドリメイク版も好きだ。こっちの方がメリハリがきいていると思う。ちょっと首を傾げたくなったのはラスト。悪ふざけばかりしてまわりに迷惑かけ続けのジェームズだが、絶体絶命のマーティンとキャサリンを救ってくれた。手錠から手を引き抜くため、自ら親指を切り落とす(こんな痛そうなシーンいやだぁ・・)。そんな犠牲はらってくれた彼に対し、マーティンは「ありがとう」と言わない。「もうバカはやめよう」・・それが彼らの前進表わしているんだけど、見ている側からすると・・。
ナイトウォッチ/モルグ4
お礼言って当然だ、何で言わないの?となる。てなわけでこの映画でユアンのかわいらしさにノックアウトされた私は、以後「普通じゃない」「悪魔のくちづけ」「氷の接吻」と言ったDVD集めにいそしむことになりましたとさ。さて「モルグ」の方は何とニコライ・コスター=ワルドーの主演。何も知らないで見ていたので、気づいた時はびっくりした。そしてとてもうれしかった。何しろ主演だからいっぱいうつる。あの顔この顔、とてつもなく美しかったり今いちだったり、とにかくあらゆる表情。意味もなくヌードになる。ボカシが入っているのがかえって間抜けで笑える。私はワルドーがジョン・トレーシーに見えて仕方がない。もしジョンが人間だったらこんな感じだろう。顔が四角くて髪が短くて鼻の形がよくて(人形のジョンはちょっとワシ鼻だが、ワルドーのはきれいな三角形)、知的でやさしそうな目をしている。端正という表現がぴったりだ。私が彼に注目したのは「ファイヤーウォール」を見て。ポール・ベタニー扮する悪党の一味だが、さほど悪人に見えない。ハリソン・フォード扮する主人公にポットか何かで殴られて死んでしまう。その時私がどう思ったかは皆さんよくおわかりですね?こんな(貴重な)イケメン殺すなんて、何てひどいことをするのだ!こんなやつベタニーにやられちまえ!悪党バンザイ!イケメンばんざい!そうなんですの主人公は正義の味方、家族のためなら何をしても許されるんですの。でも・・殺すことないだろッ!イケメン殺すことは許されないのだ(貴重だから)・・って何か変な方向行ってますけど。「ファイヤー」以外では「エニグマ」「ウィンブルドン」にも出ている。脇で出ている、ハンサムだけど目立たない人・・それがワルドー。でも「モルグ」では主役・・ウヒヒ。マーティンは善人だけど、気が弱くオバカ。そう、役名は同じマーティン。ジェームズはイェンス、キャサリンはカリンカ、マリーはロッテ、クレイはウォーマー、ジョイスはそのまま、ビルはロルフ。展開やセリフはほぼ同じ。ちなみに「ナイト」の脚本にはスティーヴン・ソダーバーグがかかわっている。前にも書いたが「ナイト」の方がメリハリがきいている。中古ビデオのせいか、画面はDVDで見る「ナイト」ほどくっきりしていない。出演者の演技もこなれていない。へたと言うわけではないが何となく。
ナイトウォッチ/モルグ5
まあ知らない人ばかりのせいもあるけど。ワルドーも演技が硬い。素朴な感じ。マーティンはふにゃふにゃしていてイェンスの言いなり。クライマックスのあたりでは恐怖ですくみ、頭は働かず体は動かない。固まっている。ウォーマーにやられそうになった時も下を向いて目を閉じて何もできない意気地なし。ユアンのマーティンとはまた少し違う。カリンカ役の人は目が大きく意志が強そう。エリザ・ドゥシュクに似ている。ロッテ役の人はライザ・ミネリに似ている。残念だったのはイェンスがあぶらっこいオッサンなこと。まあワルドーの引き立て役だからいいけど。こちらの「モルグ」の方が、結婚して家長となることへの不安を強調している。ラストは二組同時の結婚式である。イェンスの「これじゃ親と同じだ」というセリフが印象的。親のようにはなるまいと思いつつ、気がついてみれば親と同じことをしている。親と違った人生を・・とバカをやって、とんでもない事件に巻き込まれたが、命が助かってしばらくたつと、またこれでいいのかな・・と迷い始める。尻の落ち着かない男どもに対し、女性二人は晴れやかな表情。男達にとっては結婚はユーウツなゴールだが、彼女達にとっては輝かしいスタートなのだ。その対比がうまい。ちょっと笑えるシーンも用意され、気分よく見終わることができる。ロッテのおなかが大きいように見えるのが?だった。子供ができたという描写はなかったが・・。「ナイト」にはこのシーンはなく、やや重苦しい雰囲気で終わる。そのせいでけなしている人もいるが、私はこれでいいと思う。ひどい経験をし、それをまだ引きずっている方が感情移入できる。さて「ナイト」と「モルグ」両方に一枚の写真が出てくる。死刑囚だという若い青年・・どこか遠くを見ているような目つきで、放心状態。彼は誰だろう。調べてみたらルイス・ペイン、あるいはルイス・パウエルという名で、リンカーンの暗殺に加わった一人だという。「ナイト」では、助かった直後の放心状態のマーティンがしばしうつる。それが私には写真のルイスの表情と重なる。かたや助かり、かたや助からず処刑されてしまったけれど。どちらも地獄を見た目。まあどっちも好きな映画ですけど、見る回数は断然「ナイト」の方が多いです(ユア~ン!!)。