モンキーボーン
見たのは去年。「陰陽師」を見る前に前売り券を買っておいてよかった。見た後ではブレンさえしばらくはどうでもいいや・・と思っていたもの。東京国際ファンタスティック映画祭の当日、渋谷へ行く。パンテオンは1000席もあるぞ・・しかし2階席は立ち入り禁止。やっぱりね。でもけっこう観客がいたのでうれしかった。映画祭は初めてなので、舞台に関係者が上がって、長々と話をするのにびっくりした。早く終わらないかな~と思っていたら、子供にモンキーボーンのぬいぐるみをプレゼントすると言って舞台に上げる。司会者は子供なんていないと思っていたらしく、5人くらい上がったのでびっくりしていた。「千と千尋見た?」「見た」「悪魔のいけにえ見た?」「・・・」これには笑ってしまった。「あんまり子供向きじゃないのに」とか「悪い夢見てうなされないでね、トラウマにならないでね」とかいろいろ言うので、そんなこと言っていいの?と思いつつ、さすが司会者頭の回転は早いし、うまく話をまとめるなあと感心した。ある女の子は、「将来何になりたいですか?」と聞かれて「カナダの騎馬警官隊」と大真面目に答える。もうサイコー!ただし司会者は「えっ何?」と聞き返していた。お客がなぜ爆笑しているのか彼にはわかるまい。私の受けた印象は、せっかくお客が楽しみにしているのに、関係者が盛り下げるようなことを言うのが不思議だった。「子供向きじゃない。ちょっとエッチなところもあるし」なんて言ったら子供を連れてきた親の立場がない。そんなにひどい映画なのかと少し心配になったが、始まってみるとちっともそんなことはなかった。確かにこういうのを受けつけない人はいるだろう。グロテスクな怪物がいっぱい出てくるし。ものすごい大金のかかった映画だということはわかるけど、お金をかけたぶん傑作になっているかというと、そうも思えない。アメリカでは大コケしたし、日本での公開は絶対無理だろう。せめてビデオで見ることができれば・・と私などは思っていた。しかしやっぱり映画は大きなスクリーンで見なきゃだめ。グロテスクだろうがナンセンスだろうが、私はこの映画が好き。この映画でのブレンは美しい。やや太りぎみとはいえ「悪いことしましョ!」とは全然違う。白い肌、赤い唇、澄んだ瞳。モンキーボーンに乗り移られてはちゃめちゃになっていても美しさ、清らかさは変わらない。
モンキーボーン2
ブレンは、体が大きいのに動きは細かい。足の指でテレビのスイッチを押しちゃったりする。恋人役のブリジット・フォンダも清純派で、ブレンとは相性もぴったり。精神に問題をかかえたマンガ家と女医のカップルは、泥の中から顔を出した蓮の花のように清らかだ。とことんグロテスクな映画になっていないのは、この二人の品のよさのおかげだ。ところが・・映画の最後の方でクリス・カタンが出たとたん、この映画は彼の独壇場になってしまう。とにかくとんでもない演技なので、館内は大爆笑。私も涙が出るほど笑いころげてしまった。あの強烈な演技の前ではさすがのブレンもかすんでしまう。空中での追いかけっこは、ブレンもよくやっているなあと感心するくらい激しいアクションの連続。前半は今いち乗れなかった観客も、ここは文句なしに笑えたことだろう。まあカタンが内臓をまきちらしながらブレンを追うという設定についていけない人は別だが。「ゴッドアンドモンスター」の試写会でも感じたことだが、客の中にはどうにかして笑うところを見つけてやろうと手ぐすねひいて見ている人がいるようだ。たいていは若い男性で、こちらがびっくりするほど反応する。例えば「ゴッド」でいうと、ホエールの死体をもう一度プールに投げ込むところなんかそうだった。「モンキーボーン」を楽しく見ることができたのもそういったノリノリの客がいたおかげだが、そんなに笑いたがっているのかという奇妙な感じがしたのも事実だ。まあいつもお客がパラパラで、コメディなのにシーンとしている状況ばっかり経験しているからそんなことを思うのかもしれないが。見終わって感じたのは、本当にお金をかけて、隅々までがっちりと作ってあるなあということ。「陰陽師」を見た後だから余計そう感じた。日本人は器用だけど、どうしてもスケールが小さい。そこらじゅうアラだらけでため息が出てしまう。この映画は一つ一つの特殊撮影は文句なし。ここは貧弱で適当に作ってあるとか、ここの動きはおかしいとかそういう穴がない。「ハムナプトラ2」のような、けたはずれのスケールはないが、とにかくよく作ってある。ヒットしなかったのは、内容が誰にでも受けるというものではないからだ。グロテスク・ナンセンス風味はてんこもりだし、ちょっとひねくれたところもある。
モンキーボーン3
ローズ・マッゴーワンがネコ娘役で出てくる。何とかステュを元の世界に戻そうと協力する姿がいじらしい。ダークタウンはステュの深層心理らしいが、映画の中ではそういった説明はなく、右手でマンガを描いていた時は・・とか左手で描くようにしたら・・といったセリフはあるが、深くは追究されない。モンキーボーンの性格はステュの性格でもあるのだが、ラストで二つの性格が死神の仕業で一つになってしまう。今までは内気で真面目で、名声にも金銭欲にも無縁だった彼が、モンキーボーンの欲望まる出しの性格を合わせ持つようになって、どう変わるのか。そこらへんはあいまいなままで終わってしまうのが私には不満。深層心理がどうとか、二重人格がどうのという映画ではないのかもしれない。でもそういう部分がきちんと追究されていれば、あるいはちょっとした傑作になりえていたかも・・って考えすぎかしら。何かただの失敗作でかたづけてしまうのはもったいない気がするのよね。さてこの映画はその後レイトショーで公開されたが、見に行くことはできなかった。DVDを買って今ではいつでも見ることができるが、カタンの大奮闘ぶりもテレビの小さな画面ではあまりインパクトがないような・・やっぱりスクリーンで見ないとだめなのかしら。つい最近レンタルビデオで「TATARI」を見たら彼が出演していてびっくりしたのだけれど、彼の声、そしてしゃべり方がブレンそっくりなのにさらにびっくり。「モンキーボーン」では全然気がつかなかったけど、ちゃんとそういう人をキャスティングしていたのね。「TATARI」は鳴り物入りの大宣伝だった「ホーンティング」と内容も公開時期もほぼ同じ。あまり話題にはならなかったけど、おもしろさではこちらの方が上だと思う。出演者も怖がらせ方もいかにもB級ってとこが私好み。ぽんぽんとついていたボールがパッと生首に変わるところなんか思わず「世にも怪奇な物語」の第三話(テレンス・スタンプさんのやつね)を思い出して、うれしくてニヤニヤしちゃいましたよ。さて今回の映画祭だが、前置きが長すぎて自分が今ここにいるのは何のためなのか途中で忘れていたほど。やっぱり私はお客がパラパラの映画館でのんびり見ている方が性に合っているようで・・。