ポケットにライ麦を
待ちに待った(いちおう)ミス・マープルの新シリーズ。マープル役はジェラルディン・マクイーワンからジュリア・マッケンジーに交代。小柄で丸顔で、目の間が離れている。イライジャ・ウッドがおばあさんになると、こんな感じ?声は藤田弓子さんで、小柄で丸顔なところはよく似ている。前の草笛光子さんが低い声だったので、最初聞いた時は高くて浮いた感じで、もう少し落ち着いた声の方が・・なんて思ったけど、終わり頃になると慣れた。明るく楽天的だからいいかも。実業家のフォーテスキューが、いちいの毒タキシンで殺される。いちい荘という名前の通り、屋敷にはいちいがたくさん植えられている。彼は30も年下のアデールと再婚したが、彼女はもちろんゴルフだかテニスだかのコーチ、デュボアといい仲だ。長男パーシヴァルは事業を手伝っているが、最近では衝突しがち。それというのも、フォーテスキューは無謀な投資をするなど行動が異常である。医者に見せたくても承知しない。次男ランスロット(ランス)は、昔小切手を偽造した件で勘当され、ケニアあたりをウロウロ。父から手紙をもらい、妻パトリシア(パット)を連れて、家に戻るつもり。娘エレインは共産主義を理由に、教師ジェラルドとの交際を禁じられている。パーシヴァルの妻ジェニファーは、仕事人間の夫に顧みられず、買い物や芝居で気をまぎらわしている。家政婦のメアリーは非常に有能だが、どことなくうさんくさい。他にぐうたらで無能な執事クランプ、腕のいいコックのクランプ夫人。メイドのグラディスは以前マープルの家で働いていた。新しい世界を見てみたいと、村を出ていく。山小屋・・ホリデー・キャンプのメイドをした後、フォーテスキュー家に。頭が悪く、器量もよくない。スターにあこがれ、恋にあこがれ・・。マープルから見れば悪い男にだまされるのがオチだ。フォーテスキューの次にアデールが殺され、グラディスも死体で見つかる。フォーテスキューの上着のポケットにはなぜかライ麦が入っており、アデールはお茶の時間に、グラディスは洗濯バサミで鼻をつままれていた。妙なことばかりだが、マープルにはそれがマザー・グースの歌の通りなのがわかる。
ポケットにライ麦を2
ライ麦、蜂蜜、鼻。キーワードは黒つぐみだ。マープルはグラディスの知り合いだと名乗って、フォーテスキュー家を訪ねる。彼女は非常に怒っている。復讐に燃えている。鼻を洗濯バサミでつまむなんて!何てひどいことを!キャストは・・顔が似ているな。特に女性は。パットとエレインとジェニファーが似ている。グラディスも同じ系統。アデールとフォーテスキューの秘書グローブナーが似ている。ランスとジェラルドも似ていて、メガネをかけているかどうかだけ。題名になってるライ麦その他はあまり印象に残らない。まあ我々(私)にはマザー・グースなんて何のことやら。よかったのは・・おいしそうなケーキ。お茶の時間にあんなの食べたら夕食につっかえると思うんだけど。いやホント毎日ケーキバイキング、スイーツ食べ放題やってるようなもので、うらやましい~、でも太りそ~!ジョーン・ヒクソン版では確かメアリーが実は・・の部分が抜けていて、そこが不満だったけど、今回はちゃんと描写されていた。このメアリーがなかなかいいのだ。原作では小柄だが、こちらはすらりとしていて姿勢がいい。演じているのはヘレン・バクセンデイル。美人ではないが、落ち着いていて優雅。家族は仲がいいとは言えず、執事もメイドも無能だが、何とかなってるのは彼女のおかげ・・と納得できる。彼女がここにいるのは給金のためで、家族への忠誠心なんかゼロ。事情聴取の時も一家はいやらしい人ばかりだと軽蔑を隠さない。吹き替えの人も声が低く、落ち着いた感じでとてもよかった。ニール警部役はマシュー・マクファディン。マープルに、エロール・フリンに似ているなんてお世辞言われてまんざらでもなさそうで・・。グラディスの遺品・・新聞の広告の切り抜きにはラナ・ターナーがうつっていて・・まあその頃・・1950年代なんだろう。マクファディンにはあまりお目にかかれないので、見ることができてうれしかった。ニールは大人しくて粘り強いタイプ。この作品は珍しく犯人逮捕までいかない。マープルが筋の通った推理を披露するが、決定的な証拠はない。頭のいいあなたならきっとできる・・と、ニールに後を任せる。ポアロの、これでもかと言わんばかりにまくしたてる謎解きの後では、こっちの方が快い。
ポケットにライ麦を3
ランス役はルパート・グレイヴス。たぶん一部に熱心なファン・・「モーリス」ファンと言うべきか・・がいるんだろうが、私はよく知らない。サミュエル・ウェスト目当てで「極悪非道」の中古ビデオ手に入れたけど、まだ見ていない。ランスとパットは心から愛し合ってる。パットは結婚三度目。最初は飛行士で、一ヶ月で戦死。二度目の夫とは愛し合っていたけど自殺。原作では表現がぼかされていてよくわからないが、こちらでは「好きなのは女性だけじゃない」とか言っていて。つまり「男も好き」ってことのように思えるけど。原作だと競馬の八百長に関係し、それを気に病んで自殺したらしい。それだと「馬も好き」ってことになるな(何のこっちゃ)。とにかくパットはランスと出会い、今度こそ幸せになれると思ってる。でも、いちい荘は好きになれないし、家族間のムードも変。早くここを出たい。彼女はおっとりしていて、感じのいい女性。マープルも好意持つが、彼女が男運の悪い女性なのがわかる。今度こそ・・と思ったランスも実は・・そこが悲しい。しかし彼女はそこから抜け出し、次の一歩を踏み出せる女性でもある。さて、フォーテスキューは一種の認知症で、会社は倒産寸前まで追い込まれていた。死んでくれたのは、まわりにとって好都合だった。アデールには遺産が入るからデュボアと。パーシヴァルはこれで事業が自分の思い通りになる。エレインはジェラルドと結婚できる。ジェラルドはエレインの財産が目当ての男で、フォーテスキューのせいで一時離れていたが、金が入りそうになるとまた接近。最初疑われたアデールが殺されると、次に疑われるのはパーシヴァル。と同時に、昔アフリカの鉱山のことでトラブったマッケンジー一家も浮かび上がる。黒つぐみがパイの中や机の引き出しに入っていたりの嫌がらせが、フォーテスキューを怒らせた。一方黒つぐみ鉱山というのもあるようで。マッケンジーの娘ルビーは行方不明だ。メアリーがルビーなのでは?ところが・・ジェニファーがルビーだった。ここはひとひねり。メアリーはジェニファーがルビーだと気づき、ゆすったが、後で小切手にサインさせられていたから返金したのか。
ポケットにライ麦を4
ジェニファーは父親の死の復讐を強要する母親に嫌気がさし、看護婦になったが、ある時重い肺炎で入院したパーシヴァルの看護をするはめになる。絶好のチャンスだが(彼が死んでも誰も疑わない)、看護婦は人の命を助けるのが使命・・と、手厚く看護し、とうとう治してしまう。彼女に恋したパーシヴァルはプロポーズ。結婚し、彼の金を使ってやればそれもいい復讐・・と思った彼女だが、今ではお互い心も離れ、毎日が空しい。あの後二人がどうなったのかは不明だが、ジェニファーは正体を明かし、離婚して看護婦に戻ったのかな。私はパーシヴァルのよき妻、協力者になって欲しいと思うけど。原作ではパーシヴァルのことはあまりいいようには書いてないけど、会社を立て直そうと一人でがんばってるわけで。気の毒に思うわけよ。せめて奥さんは彼の味方であって欲しいわけよ。さてランスは父の勘当は解けたと言い、亡くなった今は自分も協同経営者として仕事をすると宣言するが、これはパーシヴァルへの嫌がらせ。さっさと自分の取り分・・全く価値のない黒つぐみ鉱山の株でももらって、おさらばしたい。でもこれが彼の本当の目的で。てなわけで全体的にはとてもよくできていると思う。クランプの行動とか、説明不足なところもあるけど。ラスト・・後をニールに任せ、自宅に戻ったマープル。別の村に誤配され、回送されてきた郵便はグラディスからのもの。これがちゃんと配達されていたら・・あるいはグラディスは死なずにすんだかも。あまりにも運が悪く、あまりにも愚かで、でも気の毒なグラディスを思って、読みながら涙ぐむマープル。ここはしんみりといいシーンだ。グラディスはホリデー・キャンプでアルバートという恋人ができた。彼女は美男の彼に夢中になり、何も知らず、彼の言うことを鵜呑みにし、殺人の片棒担がされてしまう。そのあげく無残に殺された。頭のいい彼は用心深く、写真もとらせなかったが、彼女は彼に内緒でうつしてもらい、手紙に同封してきた。動かぬ証拠だ。できればこの写真・・原作通りグラディスが少し口を開け、男をうっとりと見上げてるってふうにして欲しかった。
殺人は容易だ
原作にはマープルは出てこない。植民地から帰ったばかりのルークは、汽車で一緒になった老婦人から妙な話を聞かされる。彼女の村で連続殺人事件が起きているが、誰も気づいていない。それと言うのも、犯人は誰にも疑われないような人物だからで。疑われないのなら「殺人は容易だ」。村の警官の手に負えることではないから、ロンドン警視庁へ行って話を聞いてもらうつもりだ。もちろんルークは本気にしないが、その後新聞でその女性・・ラヴィニアが車にひかれて死んだと知り、びっくり。さらに一週間後、医師のハンブルビーが急死したと知って、またびっくり。ラヴィニアは次の犠牲者がハンブルビーではないかと心配していた。元警官のルークは、真相を探ろうとウィッチウッドへ。一方映画の方は、ラヴィニアから話を聞くのはマープルである。フローリーという老婆、ミンチン牧師が死に、ハンブルビーは具合が悪い。そう話していたラヴィニアは、駅でエスカレーターから突き落とされて死ぬ。列車で短時間一緒になっただけで、わざわざ荷物持って村まで出かけるかな・・という気もするが、マープルが出かけなきゃ映画にならないか。原作だとルークは、友人のジミーのはからいで、ホイットフィールド卿の秘書で、婚約者でもあるブリジットを頼り、村に入り込む。もちろん一緒に行動しているうちに恋が芽生え、ブリジットはホイットフィールドを捨て・・元々愛してたわけじゃないしぃ・・。映画だとジミーもホイットフィールドも出てこない。ブリジットは少し前から拓本を取りに村を訪れているアメリカ人ということになってる。ルークはマラヤあたりで刑事をしていたが、故郷に戻ったという設定。変更だらけだが、1時間くらいまでは普通に見ていられる。ところがその後は何が何やら。そういうのはいちいち書いても仕方ないので・・面倒くさいので・・省略。ブリジット関係のことだけ書く。彼女は養子だったので、自分の出生を知りたいとこの村を訪れ、当時のこと・・自分が生まれた22年前あたりのこと・・知っていそうな牧師やフローリーに話を聞こうとしたと。彼女は手がかりとして一枚の古い写真を持っている。それにはホートン少佐の妻リディアがうつっている。だから最初は、リディアが彼女の母親ではないかと思わせる。
殺人は容易だ2
リディアは庭男と関係を持っていたらしいし。しかし後でわかるが、ブリジットはオノリアの娘。そうなると彼女はなぜリディアの写真持ってたの?オノリアは知的障害者だった弟レナードにレイプされ、思い余って殺してしまう。事故死でかたづけられたが、その後妊娠に気づく。牧師に告解し、友人のことと見せかけて医師のハンブルビーやフローリーに(中絶を)相談する。結局一人で子供を産むが、それがブリジット。自分の過去がばれるのを恐れ、関係者を次々に殺したと。まあこれでもかとばかりにオノリアを悲劇のヒロインに仕立て上げ、演じる方も役者冥利に尽きるとばかりに涙流して大熱演。はいはい、もうわかったってば。お願い、お願い、誰か私のことわかって、誰か手を差しのべて、同情して・・。それを願うにはアンタあまりにも人を殺しすぎましたぜ。原作には弟のレナードは出てこないし、ブリジットの出生の秘密もなし。映画だとそもそもの事件が20年以上も前のこととなり、見ていてもしっくりこない。だって自分の秘密がばれるのが困るのなら、20年以上ものほほんとここに住み続けます?弟の死を口実にいくらでも引越しできるじゃん。原作だと昔ホイットフィールドに婚約を破棄されたのを恨んで、何人も殺し、犯人はホイットフィールドだ・・となるよう細工する。つまり復讐。しかもオノリアは、人一倍正常に見えて実は頭がおかしかった・・となる。何でそういうわかりやすいのにしなかったのかな。あんなに複雑にこねくり回す必要ないのに。つじつまが合わなくなるばかり。今回は女優さんは美人揃い。みんなやたらタバコを吸うのが気になった。1955年じゃ肺ガンのことなど誰も気にしないか。ラヴィニア役シルヴィア・シムズは、今のあの顔からは想像もつかないが、美人だった。大昔テレビで「ローマの女戦士」というのをやって。透き通った瞳の清楚な美女で、でも戦士だから太腿丸出しで。ルーク役ベネディクト・カンバーバッチは「戦火の馬」に出ているらしいが、私がびっくりしたのは母親がワンダ・ベンサムということ。「謎の円盤UFO」のレイク大佐だ!あんまり似てないな。・・てなわけで「ポケット」の出来がよくて大いに期待したけど、二作目で早くも撃沈ということでよろしいでしょうか。
「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
これにもマープルは出ていない。無理に押し込む。ロバートは散歩中、崖から落ちたらしい男性を見つける。彼は「彼らはなぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」という意味不明の言葉を残して息絶える。この件はいとこの証言で身元がわかり、それで終わりのはずだった。ところがロバートはニセの召喚状でロンドンへ呼び出され、そのせいで本当の検死審問に出られなかった。どうも何か裏があるようだ。ロバートの家には母の友人のマープルが滞在中。幼なじみで伯爵令嬢のフランキーは、話を聞くとロバート以上に興味しんしん。勝手に暴走する。彼女は金持ちだし、貴族だから何かあっても粗末に扱われることはない。わざと車をぶつけ、サヴェッジ城に入り込む。当主ジャックは半年ほど前に亡くなり、妻シルヴィアは気分が乱調気味。娘ドロシー、息子トムの様子もおかしい。トムはジャックの遺言書を隠しているらしい。シルヴィアは後でわかるが麻薬中毒である。何だかあれこれ変更され、話がマラヤだの中国だのと広がるので、何が何やら。ロバートの家のメイドがわざとらしくウロチョロするが、これは彼女が問題のエヴァンズだからである。彼女は何も知らないが。見ている者の気をそらそうと、ジャックの部下だったエヴァンズまで登場する。フランキーが引かれるロジャーはトムとドロシーのピアノ教師だが、原作ではシルヴィアの夫ヘンリーの弟。麻薬中毒もヘンリーの方。ロバートが引かれるモイラは医師ニコルソンの妻だが、映画ではロジャーと姉弟ということになっている。シルヴィアに中国に置き去りにされ(と言うことはシルヴィアと前夫ジョージ・・ジャックの兄・・の間にできた子供?)、その復讐を・・ということらしいが、こっちは呆れて口あんぐり。何でもかんでも悲劇にすりゃいいってもんでもないのに。今回の救いはロバート役ショーン・ビガースタッフがかわいいこと。「ハリポタ」や「フローズン・タイム」に出ているらしい。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットに似ていて・・小ぶりでとにかくかわいい。彼は金持ちでもないし、爵位もない一般人。フランキーには振り回されっぱなしで、一緒になっても苦労すると思うけど。つまり映画のフランキーにはあんまり魅力が感じられないってことですけど。ロジャー役レイフ・スポールはハンサム。モイラ役の人も猫のような瞳が印象的な美女。あらま、マープルのこと全然書いてない・・。
青いゼラニウム
これは短編なのでだいぶ水増ししてある。ジョージは大金持ちだが、妻のメアリーには悩まされっぱなし。元々彼はフィリッパと結婚するつもりだったが、彼女の姉メアリーが奪い取ったのだ。フィリッパはジョージの兄ルイスと結婚するが、こちらは売れない作家で生活は苦しい。しかも競馬ですってばかり。メアリーは半病人で、まわりに当たり散らす。牧師でさえ彼女を憎んでいる。マープルがこの村へ来たのは牧師に招かれたから。牧師は教会の普請のことで悩み、寄付をつのりたいが、メアリーからは口汚くののしられる。ここへ来る途中バスで一緒だったスワードという男が死体で見つかり、村は大騒ぎ。彼は妻に暴力をふるって逃げられ、この村に捜しに来たようだ。妻はヘイゼルと名乗ってこの村に住んでおり、夫とよりを戻すつもりはない。だからマープルの考えでは、スワードは他殺ではなく自殺なのだが・・。メアリーの主治医ジョナサンは、薬と称して水を与えている。屋敷は元々ジョナサンの父のもので、彼はジョージがだまし取ったと恨み、そこらにある小物を盗むので、彼に好意を持っているヘザーは心配する。原作にはルイスもフィリッパもスワードもヘイゼルもジョナサンもヘザーも牧師も出てこない。今回の水増しはわりとうまくいってる方だが、それでも前の看護婦スーザンのことははっきりしない。ジョージはヘイゼルと仲良くなり、メアリーから心が離れ、そのせいで彼女は暴食。夫の注意を引き付けたいという心の病だからと、ジョナサンは薬と偽り、水を飲ませる。一方フィリッパは姉に恋人を奪われたのを恨み、長年にわたって少量の毒を盛り・・。ここらへんはメアリーも気の毒だが、そんな同情も吹っ飛ぶほどの根性悪。ジョージはヘイゼルと一緒になりたいが、彼女がごちゃごちゃ言うので、そこでまたスーザンに手を出し、妊娠させてしまう。で、ヘイゼルがスワード、メアリー、スーザンの三人を殺した犯人にされそうだと知ると、ここで愛情を示さなければ・・と、自分が犯人だと言い出す。普通ならジョージは単なる早とちりのオバカにすぎないが、演じているのがトビー・スティーブンスなので救われた。「スペース カウボーイ」でクリント・イーストウッドの若い頃やってた。マギー・スミスの息子だそうな。ルイス役ポール・リスは「マギンティ夫人は死んだ」でロジャーやってたし、ジョナサン役パトリック・バラディは「満潮に乗って」のローリー。
鏡は横にひび割れて
これは「クリスタル殺人事件」があったから、ストーリーはよく覚えている。マープルの友人バントリー夫人(ジョアンナ・ラムゼイ)はマクイーワン版「書斎の死体」にも出てきた。彼女はゴシントン・ホールという広大な邸宅に住んでいたが、夫が亡くなったのを機に門番小屋に住み、邸宅の方は手放す。持ち主は何回か変わり、今度はハリウッドスターのマリーナと夫ジェイソンが住むことに。五回も結婚し、一時仕事から離れていたマリーナだが、「マリー・アントワネット」という映画でカムバック(共演はスチュワート・グレンジャーになってるぞ、ホントかよ)。それが縁で監督のジェイソンとも結ばれた。次の作品も撮影中だし、体調もいいし、邸宅も気に入ってる。何もかも順調だ。バントリー夫人とお茶に招かれたマープルは、帰り道で足をくじいてしまう。そのため、数日後に開かれた慈善パーティには出られずじまい。殺人事件が起きたけど、バントリー夫人から聞くしかない。殺されたバドコックは、足を痛めた時助けてくれた女性。陽気で親切な善人だが、他人の気持ちが全くわからないタイプ。昔からマリーナの大ファンで、パーティで本物に会うことができて有頂天。昔マリーナが慰問に来た時、病気をおして会いに行ったと得意げに話す。妙なことに、マリーナはうわのそらで、凍りついたようで、様子がとてもおかしかった。その後バドコックは酒をこぼしてしまい、マリーナから渡された酒を飲んで急死する。酒には大量の鎮静剤が入っていたが、それはマリーナや秘書のプレストンも飲んでいるありふれた薬。バドコックは自殺するようなタイプではなく、命を狙われる理由もなさそうだ。そのうちマリーナは、自分が狙われていたのだと言い出すが・・。原作ではバドコックは結婚しており、夫は実はマリーナの一番最初の夫・・となってるが、こちらではハイミス。バントリー夫人がハバード夫人と一緒に、邸宅がどう改造されたか見て回るシーンがいい。ここは前○○だったのよ・・。ハバード夫人の夫は議員だが、彼女自身は田舎者丸出しなのもおかしい。バントリー夫人はだから事件が起きた時はその場にはいなかった。騒がしいけど何かあったのかしらと戻ってみると、もうバドコックは死んでいて。
鏡は横にひび割れて2
彼女の話、ジェイソンの話、パーティの手伝いをしていたプリムローズの話・・そこには少しずつ食い違いがあるのだが、最初のうちはわからない。マリーナ役リンゼイ・ダンカンは「青列車の秘密」に出ていた。「クリスタル」ではエリザベス・テイラーだったから、ストーリーよりもいつ服が破けるか、そっちの方が気になったが、こちらはやせた高峰三枝子さんという感じ。老けてるし、貧相。原作でのマリーナはもうちょっと若いと思う。逆にジェイソンは原作より若くしてあると思う。演じているナイジェル・ハーマンは、ダンカンより20歳以上年下。ジェイソンは常にマリーナを立て、かばう。わがままで扱いにくいマリーナだが、彼は彼女の欠点も含め、心から愛しているのだ。ジェイソンの秘書エラ役ヴィクトリア・スマーフィットは、メガネのせいでよくわからなかったが、「バレット モンク」でユンファをいたぶっていたニーナだ!エラはジェイソンに片思いしている。かたっぱしから脅しの電話・・グラスに毒を入れるところを見たぞ・・をかけるのは、金が目的ではなく、電話の向こうでうろたえる相手を想像して優越感に浸りたいかららしい。その彼女も殺される。原作では執事ジュゼッぺも殺されるが、こちらではカット。あんまり殺すと犯人に同情してもらえない。パーティで写真をとっていたマーゴはマリーナの養女。マリーナは子供ができず、養子を二人(原作では三人)迎える。最初のうちはよかったが、自分が妊娠すると彼らのことなぞどうでもよくなってしまった。結局彼女は母親を演じてみたかっただけなのだ。パーティで顔を合わせても、マリーナはマーゴに気づきもしなかった。もう一人の養子アンガスは行方知れずだが、プレストンを怪しく描くくらいなら、彼をアンガスにすればよかったのに。こちらではマリーナの実子をわざわざ出してくる。同情票集めようという魂胆見え見え。待ち望んでいた実子は障害持ち。そのせいでマリーナは長いスランプに。さて、パーティにはジャーナリストのホッグと女優のローラが連れ立って現われ、まわりを驚かす。ホッグはマリーナの何番目かの夫、ローラは昔ジェイソンの恋人だった。ローラは映画ではキム・ノヴァクがやってたけど、こちらのハンナ・ワディンガムはすごいんです。
鏡は横にひび割れて3
赤毛で馬面でさして美人ではないけれど、目はキラキラ、体ときたらダイナマイトボディ(←古!)。巨乳でヒップもすごい。ホッグのようなじいさんじゃ持て余すはずなんだけど(何を?)。ジェイソンに未練あるはずだし、マリーナ憎んでるはずだし・・でも何たって自分の方が若いし魅力的だし・・と自信満々。原作にはクラドック警部が出てくるが、こちらはヒューイット警部。片手が不自由だが、何でそんな設定にしたんだろ。演じているヒュー・ボネヴィルは「オリエント急行の殺人」の執事役で見たばかり。ティドラー巡査部長役サミュエル・バーネットはういういしくてかわいい。ちょっと若すぎる気も。年増好みらしく、どう見ても賞味期限切れのしなびたマリーナ見てうっとり。「いい女ですね」ってアンタ目の検査しろッ!ヒューイットはまともなので(←?)ローラのド迫力にたじたじ。ローラとホッグの部分は明るくコメディー調。二人にとってはマリーナやジェイソンの災難は他人事。トラブルが起きれば起きるほど痛快。暗くなりがちなストーリーの中では浮いた存在だが、今回はそれがよかった。原作で強調されるのはマープルの肉体面での老い。好きな庭仕事すら止められている。もう一つはマリーナの、常に演技せざるをえない性(さが)。女優、妻、母、女、人間・・いつでもどこでも演技してしまう。彼女は薬の飲み過ぎで死ぬが、自殺かもしれないし、事故かもしれないし、他殺かもしれない。原作だとジェイソンがこれ以上罪を重ねないよう、これ以上苦しまずにすむよう、安らぎを得られるよう・・彼女への愛から・・と匂わせる。今回はそうでもなく、自殺のように見える。直前に息子に会いに行ったのは別れを告げるためのようにも見えるが、こういう障害児残して自殺するかなという気もする。原作にはこの子は出てこない。とにかく面倒なことはジェイソンにみんなお任せってことですな。子供のことも撮影中の映画のことも殺人事件の後始末もみ~んな。自分はあくまでも美しく、気高く、悲劇的に旅立ったと・・。けッ!いい気なもんだぜ。てなわけでマリーナもバドコックもちっともかわいそうではなく、気の毒なのはジェイソン。印象に残るのは吹けば飛ぶようなマリーナではなく生命力にあふれたローラ。いやホントすごいんですってば。
チムニーズ館の秘密
予習しようと原作読んでおいたけど無駄だった。変更の嵐に加え、たまげたことに犯人まで違う。1932年のチムニーズ館でのパーティで何やら起きる。ダイヤがなくなり、小間使いアグネスが姿を消し・・そのせいで彼女が盗んだことに。23年後・・議員のローマックスがチムニーズでルートヴィヒ伯爵をもてなしてくれとケイタラム(エドワード・フォックス)に言ってくる。なぜか伯爵はチムニーズを御指名だ。鉄鉱石に関する取引がどーたらこーたら・・イギリスとしては伯爵の機嫌損ねたくない。今回マープルはケイタラムの亡き妻マデリンのいとこという設定。館に集まったのはケイタラムと二人の娘バンドルとヴァージニア、マープル、伯爵、ローマックスとその秘書ビル、ブレンキンソップという女性、家政婦か何かのトレドウェル。夜中に騒ぎが起き、地下の隠し通路で伯爵が撃たれて死亡。そばにいたのがアントニーという青年。暴漢から救ったのが縁でヴァージニアと親しくなったが、素性は不明。そのうちトレドウェルも殺される。話は妙な方向へ転がっていき、犯人はケイタラムだったというとんでもない結末。1932年頃マデリンは伯爵と不倫してただの、ヴァージニアは実は伯爵の娘だの。たぶん原作読んでる人は、いつフィンチ警部の正体が暴かれるかと、そっちの方気にしてたと思うが(私もです)、彼は本物でしたとさ。まあ原作もアントニーは実は某国の王子様でしたというとんでもない結末だから別にいいんですけどさ。それにしてもマープルはダイヤを見つけても誰にも言わずしまっていたし、どうするつもりだったのかな。アントニーが護送中逃げ出し、館に戻ってきて地下道で叫ぶ、その声の大きさからマープルは真相に気づくけど、彼が戻ったのは予想外のことで。銃声と花火のトリックにしても、時間的につじつまは合う?アントニーがヴァージニアに近づくためビルを暴漢に仕立て上げるくだりも意味不明。ビル役マシュー・ホーンはルーファス似。「複数の時計」のコリンかと思ったら違ってた。「七つの時計」にはバンドルとビルが出ていて、最後は結ばれる。今回のキャストで映画化して欲しいけど、ケイタラムが犯人なんて変なことになっちゃったから無理かしら。
カリブ海の秘密
マッケンジー版ではこれだけ見逃していた。再放映してくれたのでやっと。まだ「魔術の殺人」と「蒼ざめた馬」の感想書いてないけど、あんまりな内容なもんで。それに比べりゃ本作はマシな方です。いつものように登場人物多いけど、それでも原作よりは三人ほど削ってある。医師のグレアム、ベネズエラから来たセニョリータ、プレスコットの妹ジョーン。その代わり女呪術師が出てくるけど、原作ではヴードゥー教はなし。なぜかイアン・フレミングを登場させていたけど、何もしてなかったな。文庫の解説によると、本作と「復讐の女神」ともう一作とで三部構成になるはずだったらしい。クリスティーの死でそれもかなわなかったけど。「復讐」の方はマクイーワンですでに作られたから、順番が逆に。マクイーワンと言えば今年(2015年)1月末に亡くなったようだ。さて、カリブ海へ静養に来たマープル。ホテルのオーナーはティムとモリーの若夫婦。同じ話を何度もするので迷惑がられているのがパルグレイブ少佐(「ジョニー・イングリッシュ」などのオリヴァー・フォード・デイヴィス)。女好きのグレッグと妻のラッキー。ラッキーは最初の夫の死に関係しているようだ。安楽死させたようだが、そのおかげで遺産が転がり込んできたのだから、うわさになるのも無理はない。原作だとグレッグの先妻の死に関係したことになっている。先妻が資産家だったので、グレッグは大金持ちに。エドはラッキーによろめいているが、妻のイーヴリンは子供達のことを思い、別れる気はない。エドは知らないうちにラッキーの先妻殺しの片棒かつがされ、そのせいでラッキーから逃れられずにいる。でも映画の方はそういうのはないから、彼はただの優柔不断な男にしか見えない。他に大金持ちだが、病身のラフィールがいる。ヒクソン版だとドナルド・プレザンスがやっていて、そのせいでラフィールのイメージができ上がっちゃってる。だからこちらのメガネでヒゲモジャのオッサンはぴんとこない。まあそのうち慣れてくるけど。彼は口が悪くて無礼だが、まわりからは大目に見られている。大金持ちだし体が不自由なんだから仕方がない。彼はばあさん達にウロウロされるのが大嫌いだが、マープルは気にしない。機会があれば話しかけるし、時には彼の地位や信用を利用する。そこらの老女が何か言ったって聞いてもらえないが、ラフィールなら・・。
カリブ海の秘密2
マープルは経験を積んでいるから、パルグレイブを無視したりしない。くだらないおしゃべりも聞いてやる。と言うか、聞くフリをして他のこと考えてる。彼の葬式に立ち会ったのはプレスコット神父と彼女だけ。他の者は悼んだりしない。老人が死ぬのはあたりまえで。でもマープルにとっては、彼は同じ世界を共有していた仲間で・・。つまり今の若者の考え方ややり方にはマープルはなじめないってことだけど。クリスティー自身が老境に入ったせいか、マープルが感じる老いには実感がこもっているようで。動き回ると疲れるし、裏の裏まで考えてかえって自分の考えに自信が持てなくなったり。その点ラフィールは「最初の判断は十中八九正しい」と、明快だ。そんなマープルも、女どうしのおしゃべりとなると、俄然元気になる。原作だとジョーン。彼女の方がマープルより若いが同じオールドミスだし、人生に変に期待したりしない。映画に彼女を出してこないのは、イーヴリンやエスターとキャラがかぶるせいか。セニョリータを出してこないのも、ラッキーとかぶるからだろう。マープルもそうだったろうが、ジョーンも、自分以外の誰かに奉仕するのが当然と思われて生きてきたのではないか。彼女の場合は兄。原作ではプレスコットは聖堂参事会員とある。何のこっちゃ。映画では神父とか司祭と呼ばれている。とにかくジョーンはいつも兄のそばにいなければならない。マープルとおしゃべりしたくても、うわさ話はすべきじゃないとか、何度も止められる。プレスコットは妹やマープルに邪魔だと思われてるなんて夢にも思わない。おしゃべりが女性の命の糧だなんて理解できない。女達はだからちょっとした目配せや言葉の端に意味を持たせ、意志を通じ合わせる。「そのうちおりを見て」・・この鈍感なアホがいない時に思いっきり話しましょう!そうしましょう!映画にはジョーンは出てこないから、こういうのはみんななしだ。プレスコットは太った赤ら顔の老人ではなく、モリーに恋する青年となる。思い余って呪術師を訪れるような・・神父がヴードゥー教頼み?ティムがいなくなった後は彼が求婚するのかな。神父さんは結婚できるの?マープルがティムに撃たれるなんてのもあったな。もちろん空砲ってわかってるけど。やっぱり老いとか独身女性の置かれた境遇とかじゃなく、こういうハデな展開の方に行っちゃうんだな。
グリーンショウ氏の阿房宮
原作は短編なので、うんとふくらませてある。登場人物も増やしてあり、うじゃうじゃ出てくる。原作ではマープルの甥エドモンドが出てくる。マープルは彼やルイザ(エドモンドの妻ジョーンの姪)から話を聞くだけで犯人を当てる。テレビではエドモンドもジョーンも出てこない。ルイザは二人の子持ちの未亡人から、サディストの夫フィリップから息子アーチーと共に逃げているという設定に。マープルは彼女を植物の研究をしているキャサリン・グリーンショウの秘書として送り込む。彼女が仕事の間は自分がアーチーの面倒を見ると言っていたが、それほど親身になって世話する間柄なら、フィリップが近づけないようきちんと手を打つのでは?逃げ回る生活なんてさせないのでは?原作では文芸評論家のビンドラーは、こちらでは新聞記者。何やらコソコソ嗅ぎ回り、そのうちいなくなる。キャサリンの甥で役者のナットも最初から出てくる。執事のクラッケンが死ぬとか、酒とギャンブルで借金まみれの神父とか、ポリオ研究とか、マープルの友人シスリーの件とか、よくもまあというくらいくっつけてある。一番違うのは庭師アルフレッドの出生の秘密か。まあその前に・・阿房宮って何だろう。巨大でごてごてしていて何の役にも立たず住みにくい・・それがグリーンショウが金にあかせて作った建物だ。どんなふうに映像化されたのかと期待していたのだが・・。確か最初の方でりっぱな階段が出てきたっけ。でもその後は?外観は?他の邸宅と変わりないような・・。キャサリン役フィオナ・ショウは「ブラック・ダリア」に出ていたらしい。原作だとエドモンドとビンドラーは阿房宮を見物していてキャサリンに呼ばれる。遺言書の立会人としてサインして欲しいと頼まれる。彼女は独身で、身寄りは妹ネッティの遺児ナットだけ。でも彼女はネッティの結婚相手・・ハンサムだが腹黒い・・ハリーが気に入らず、甥に財産は渡したくない。だから家政婦のクレスウェル夫人に残すつもりだ。そのことは言ってあるので、給料は払っていない。つまり彼女は遺言を餌に、クレスウェルをただ働きさせているのだ。キャサリンが殺された後、実は財産はクレスウェルではなくアルフレッドに行くことが明らかになるのだが、これではいくら何でも悪ふざけが過ぎる。そういう・・人をだまして喜んでいるような老女ではまずいので、テレビの方は遺言なしにしてある。
グリーンショウ氏の阿房宮2
と言うか、やっぱりアルフレッドに行くようにしてあったんだけど、マープルが遺言書のありかに気づかなきゃどうなっていたか。クレスウェルがキャサリンと二役演じていたことにルイザが気づかなかったというのも映像では無理なので変更してある。今回はわりとうまくできている方だと思うが、養護施設の件はわけがわからない。アルフレッドが入れられていたのは?彼がキャサリンの息子だというのも原作にはなし。父親のことが全く説明されないのも変。原作だと彼はグリーンショウのひ孫。好色なグリーンショウは、阿房宮を作った建築家の妻に手を出したらしい。まあ何にせよアルフレッドにはグリーンショウの血が流れているのだ。逆にナットはキャサリンの甥と称しているが、実はウソ。ネッティが死に、生まれた赤ん坊も死に、ハリーは他の女と再婚。それがクレスウェルで、できた子供がナット。だから彼にはグリーンショウの血は流れていないのだ。でもハリーの再婚のことはキャサリン達は知らないから、甥になりすまし、財産相続を狙う。クラッケンやビンドラーを殺したのは、二人が母子とばれたから。どうせならアルフレッドの父親もハリーということにすればよかったのに。ハンサムな彼を姉妹で争い、勝って結婚したのがネッティ。でもキャサリンも妊娠していたとかさ。でもこれ以上ややこしくする必要ないか。ナット役の人はハンサムだが薄っぺらな感じをよく出している。アーチーが食べようとしたお菓子を取っちゃうとか大人げないタイプ。フィリップは結局どうなったのかな。ちゃんと始末つけてくれないと。アルフレッド役マーティン・コムストンは「ドゥームズデイ」に出ていたらしい。サミュエル・ウェストにちょっと似ていて気になる。原作だとアルフレッドは悪人ではないが怠け者。こちらでは前科はあるけど心はやさしく、アーチーともすぐ仲良くなる。好感の持てるキャラで、彼のおかげでこの作品の印象はだいぶよくなった。ラスト・・どうやらアルフレッドとルイザは結ばれそうで・・でもこれは原作にはなし。ルイザは締まりのない体つきで、性格も(フィリップのことでもわかるが)しっかりしてるとは言えないのが残念。巡査部長役マット・ウィリスはルーファス・シーウェルそっくり。黒髪で色白、目はぱっちり。絶対何かあると思ったんだけど、何もなかったな。グーグルで画像見ると不思議にあんまり似てないけど。
終わりなき夜に生まれつく
これにはマープルは出ていない。無理に出してくるのが鬱陶しい。何とローマにまで現われる。一度くらい彼女が脇役でもいいんじゃないの?原作がしっかりしているので見る者を飽きさせない。でもドラマチックにしてやれという過剰さが感じられるし、イチャイチャも多すぎる。アメリカ人のエリーは大金持ち。紹介されるのは釣り合いの取れた・・良家の出で教養のある青年ばかり。ある日ハンサムなマイクに出会って一目ぼれ、夢中になってしまう。素直で明るく、守ってあげたくなる女性。一方マイクは職を転々としている。彼を突き動かすのは「もっと、もっと」という衝動である。エリーと結婚したおかげで大金持ちになり、気に入った土地に友人の建築家にすばらしい家を建ててもらった。呪いがかかっているだの、すぐに出て行けなど、変な婆さんにさんざん脅かされたけど。建築家については変更されている。病気で死期が迫っているのはそのままだが、昔湖の氷が割れて溺れ死んだピートの兄ということにしてある。実際はピートはマイクに殺されたのだが、兄ロビー(アナイリン・バーナーダ)は助けられなかったことをいまだにマイクは後悔していると思い込んでいる。冒頭の湖のシーンのせいで、早い段階で見る者はマイクに疑いを抱いてしまう。グレタは原作通り堂々としたタイプなので、映画版のブリット・エクランドよりはマシだが、したたかさのようなものが表に出過ぎ、そのせいでやっぱり怪しく見えてしまう。最後の最後まで犯人が誰だかわからないようにするのはなかなか難しい。マイク役トム・ヒューズは、私から見るとハンサムの基準からはちょっとはずれているような気もするが、イギリスではそうでもないのか。マイクは女が次々に寄ってくるタイプ。ヒューズは顔立ちは若い頃のエリック・ロバーツ風。体つきとかムードはベネディクト・カンバーバッチにそっくりだ。エリーの幽霊を見たせいで、マイクはおかしくなる。一方マープルは幽霊など全く信じないタイプ。この作品が持つべき怪奇ムードにはほど遠い存在で、せっかくのクライマックスも盛り上がらない。マイクの狂気も母親のせいにされてるし。
魔術の殺人
これはヒクソン版もまだ感想書いてないので、この機会に何とか書いてしまいたいものだ。マッケンジー版マープルは、いつの間にか終わってしまったという感じ。これの製作は2009年・・もう12年もたつのか、あっという間だな。私がこれの感想書かなかったのは、何かアホらしい感じがしたからだ。何度も映像化されているから、新しい趣向を・・となるのはわかる。でも、見ている者にアホらしいと感じさせちゃいけませんて。もっとも今回見たら、一番アホらしいと思っていた場面がなぜかなかったんだよな。つまり間違って記憶していたらしいのだ。私の記憶も当てにはならないな。もう何度読んだかわからないけど、原作をまた読んだ。マープルはルースに会う。このルース役がジョーン・コリンズ。実は彼女の代表作「ピラミッド」を見て、調べているうちに「魔術の殺人」に出ていたことがわかって、それでよしこの機会についでに・・となったのよ。マープルとルース、ルースの妹キャリーの三人は若い頃イタリアの寄宿学校で一緒だった。マープルとルースは同い年だが、そうは見えないのがルースの自慢。アメリカに住み、お金はたっぷりある。彼女は妹に何かよくないことが起きるのではと心配している。彼女が妹のところに滞在していた時、火事が起きた。老朽化のせいにされたけど、彼女は怪しい人影を見たのだ。キャリーの最初の夫ガルブランセンはかなり年上で、すでに故人。なかなか子供ができなかったので養女ジーナを迎えるが、その後実子ミルドレッドが生まれた。原作だと養女がピパで、ジーナがその子供。しかしこちらではピパは省略。キャリーの二度目の結婚相手はジョニー。ジョニーの連れ子がスティーブンとアレックスだが、こちらではアレックスは省略。原作では故人のジョニーがまだ生きていて、アレックスの役回り。キャリーの三番目の、現在の夫がルイス。非行少年を更生させるための施設を作り、崇高な目標に向かって心身を削っている。ルイス役はブライアン・コックス。全力で走るシーンが二度ほどあって、大丈夫かよ‥と思いながら見ていた。声は内海賢二氏。もう亡くなったんだよな。私が一番好きなのは「特攻ギャリソン・ゴリラ」のイタチだけど。
魔術の殺人2
キャリー役はペネロープ・ウィルトン。名前は知らなくても、顔を見ればああこの人・・となる。「カレンダー・ガールズ」とか「プライドと偏見」とか。スティーブン役リアム・ギャリガンはサイレント映画が似合いそう。真っ黒な髪と狂気をはらんだような瞳。ジーナの夫ウォルターがエリック・コーワン。ずいぶん額が広いけど大丈夫かな。これの時代設定は1953年だろう。火事で焼けた収支報告書にそうあった。原作だとウォルターとジーナが出会ったのは戦時中だから、結婚してもう八年以上たってることになるが、こちらはそうは見えないな。駅にマープルを迎えにくるのはジーナで、エドガーは省略されている。エドガー役はトム・ペイン。ぴったりとなでつけた髪、悲しそうな瞳。「プロディガル・サン」ではちょっと顔が丸みをおびているけど、こちらでは顔は細い。出来にはがっかりさせられるけど、三人の違ったタイプの美形が出ている・・これがこの作品の取りえ。ガルブランセンの息子・・キャリーにとっては義理の息子・・クリスチャンが急に訪ねてくる。夕食の後ルイスやジーナが芝居の稽古をしていると、エドガーがルイスに銃を突きつけ、二発発砲するという騒動が起きる。しかもその間に手紙を書くため席をはずしていたクリスチャンが、背中にナイフを突き刺されるというハデな方法で殺される。ずいぶん大きなナイフだな。銃じゃ地味だと作り手は考えたらしい。原作と違い、ルイスとエドガーは書斎に閉じこもったりしない。みんなの目に見えないところにいたんじゃ一人二役で、犯人はバレバレ。そこで新趣向を考え出したのだろう。でも誰かがちょっとでも動けば、そこにルイスがいないことがわかってしまうし、それよりも何よりもルイスがインディアンの格好してる・・それだけでもうゲンナリ。通報でやってきたのがカリー警部とレイク巡査部長。カリー役はアレックス・ジェニングス。騒動の最中に姿を現わしたのがジョニー。まだキャリーに未練があり、ルイスには嫌われている。彼は霧の中で足音を聞いており、犯人にとってはまずい存在だが、本人は何の危険も感じていない。この後クリスチャンがここへ来たのはキャリーが毒を盛られていると心配して・・となる。でも冒頭で収支報告書なんか出して、思いっきりネタばらししてるからなあ。
魔術の殺人3
秘密の通路もアーネストのカキ中毒(実際はヒ素中毒)も原作にはなし。キャリーの世話をしているジョリーが、ジョニーに利用されるのもなし。ウォルターが荷物まとめて出ていこうとしてケガをするのもなし。この行動はお間抜け。目新しいことをやろうとして、かえってどんどん焦点がぼけていってる感じ。ミルドレッドはジーナの母親キャサリンがヒ素を使った殺人で死刑になった記事の載った新聞を、彼女の部屋に差し入れるなどいやがらせをする。ミルドレッドは、美人でキャリーにかわいがられているジーナが憎くてたまらない。例のインディアンの芝居の最中、ジョニーが殺される。こっちはエドガーの犯行か。ルイスは舞台に立っていたから。施設にお金がかかり過ぎ、ルイスが財団の金に手を出していたというのがそもそもの原因。それがクリスチャンにばれた。ただ、火事で書類を焼いても、クリスチャンを殺しても、一時しのぎでしかない。金がなくなっていることに変わりはない。そこで彼がこんなことをしたのはキャリーへの愛のためということにされる。順調なように見せたかった。心配させたくなかった。何たってキャリーはひ弱で病弱で・・でも、ここでのキャリーは頑丈でガサツなオバサン。説得力ゼロ。さて、「魔術の殺人」で一番印象的なキャラはエドガー。マープルは彼を見た時からちぐはぐなものを感じるが、それがなぜなのかわからない。まわりの者は彼をバカにし、異常者だと思っているから、それ以上のことは考えない。彼は取り上げるに値しないバカで、何かしても異常だから当然・・ですまされる。彼には虚言癖があって、自分はチャーチルの息子だなどとマープルに言ったのは確かだ。でもそれがどうしてルイスが父親・・になったのか。彼にそう吹き込んだ者がいるのではないか。今回原作を読んで気づいたのだが、そういう病歴を持つエドガーという男は実在していた。しかしこちらのエドガーはその病歴を利用したニセモノ。つまり彼は正常なのに異常者のフリをしていて、そのせいでマープルは違和感を感じたのだ。なるほど・・と納得したが、テレビでは本物のエドガーには触れていなかったようで。こちらでは彼がここへ来て二年となっている。原作のように数週間なら異常者のフリもできるが、二年も芝居するのは無理。たぶんこちらのエドガーは実際に精神を病んでいたのだろう。
蒼ざめた馬
今まで感想書かなかったのは、最初見た時呆れたからである。よくもまあここまで改悪したものだ・・って。今回ルーファス版を見て、いいかげんこっちも片づけなきゃと再見したが、やっぱり思うのは「何じゃこりゃ」。で、今回三度目。こういう、なかなか感想の書けない作品ってあるのよ。書いては書き直し・・。ところが三度目は違った。不思議なことに。冒頭、ゴーマン神父が子供の案内で夜の道を急ぐ。そうそう、子供が呼びに来るのよ、原作通りだわ。遠く離れた村ではマープルがラジオを聴いてる。流れているのは「マクベス」だ。いかにも平和でくつろいだ感じ。ここもいい。ゴーマン神父はデーヴィス夫人から聞いた名前をメモし、帰りにポストへ入れる。切手を貼った封筒を用意していたのかと突っ込みたくなるが、それがマープルに届き、彼女を事件へと巻き込む。新聞に神父が殺されたとの記事。早速メモを届けるためロンドンへ。ルジューン警部と話しているのは検視をした医師ケリガン。ここも原作通りだ。ケリガンとコリガンの違いはあるが、フム、なるべく原作に沿うよう努力はしているのだ。マープルが神父と知り合ったのは戦時中・・と言っても第一次の方。彼女は兵士の看護、神父は従軍司祭。たぶんその時ちょっとした事件が起きたのだ。それをマープルがあっさり解決したのだ。それが神父の印象に残っていて、メモを送る気になったのだ。リストや聖書の一部の謎も彼女なら解けるかも・・。マープルはそのまま帰るつもりだったけど、ふと気が変わる。デーヴィス夫人のアパートを訪ね、大家に話を聞いたり部屋の中を探ったり。で、靴の中から同じリストを見つける。デーヴィス夫人は何で、リストは靴の中にありますと言わなかったのかなどと突っ込んではいけない。リストが書かれていたのは蒼ざめた馬というホテルの便箋。マープルはまた、階下に住むオズボーンに話を聞く。彼は救急車を呼ぶため外に出ていたから、リストや手紙のことは知らない(たぶん)。彼の目撃証言はマープルをびっくりさせるが、警察は取り合ってくれなかったようで。と言うか、ここで黙っていられたらねえ・・。
蒼ざめた馬2
ここが運命の分かれ道。彼の職業は不明。売上高をタイプしてたと言ってたけど薬剤師かどうかは・・。マープルはまずリストにあったデュボワのところに電話してみる。他の名前と違い、珍しい名前だから電話帳にも一人しか載っていない。電話に出たのがマーク。彼はここでマーク・イースターブルックと名乗っているから、後でマッチ・ディーピングで二人して初めましてなんてやってるのはおかしいのよ。あらあの電話の時の・・とならなくちゃ。デュボワはマークの名付け親で、すでに亡くなっている。その墓参りに行って見かけたのがトマシーナ・タッカートンの葬儀。義母に詰め寄るジンジャーを見たのもその時。マークは原作では歴史学者、こちらでは民俗学者。最初の妻を亡くした苦い思い出があるというのは原作通り。あとこちらではルジューンとは知り合い。マープルは今度は蒼ざめた馬へ。この作品では蒼ざめた馬はホテルで、サーザが経営している。バイパスができたため客足が遠のいたが、魔女裁判のお祭りがある時だけは村もにぎわうらしい。そのわりにはマープルの他に滞在しているのは火事で家が焼けたというコッタム大尉と妻カンガ、家政婦のリディアだけ。そのうちマークとジンジャーも来るけど。彼女はトマシーナと同じ画廊で働いていた仲。トマシーナはジョンと婚約していたが、病死。葬式の時見つけたのがブラッドリーの名刺。裏に蒼ざめた馬の所番地が書かれていた。彼女は義母を疑っている。トマシーナが発病した時彼女は旅行中だったが、莫大な財産は彼女へ行くからだ。マープルはバーにいた口うるさい客ヴェナブルズを見て驚く。オズボーンが描写した通りの男だったからだ。ただし彼はポリオのため車椅子生活。これはいったいどういうことだろう。早速オズボーンを呼び寄せ、彼に見てもらう。ここで人違いでしたとあっさり引き下がっていればねえ・・。さて、サーザはマープルのことを”お客”だと思っている。マープルの方も、ミセス・タッカートンの紹介だとにおわせる。それを聞きつけるジンジャー。さて、コッタム大尉はリディアと浮気している。理由は不明だがカンガも黙認しているような。
蒼ざめた馬3
そのコッタムが突然死。最初は心臓発作、そのうち毒殺とわかる。この三人は原作には出て来ず、ムリに押し込んであるせいか、唐突でおさまりが悪い。今まで何でコッタムが殺されるのかわからなかったけど、今回やっとわかった。ヴェナブルズはコッタムの家を手に入れたく思っていて、そのせいで二人は仲が悪い。だからコッタムを殺し、ヴェナブルズに疑いをかけようというのが犯人の狙い。要するに何が何でもヴェナブルズを犯人に仕立て上げようということだが、彼がつかまった後でも殺人が続いていたら、あら人違いではとなるのでは?それはともかく今まではカンガかリディアが毒殺したのかなと思っていたのよ。でも違うみたいだし。さてジンジャーは自分ではブラッドリーに会う勇気はなく、マープルに頼む。ブラッドリーが請け負うのは賭けの部分だけで、どうやって(殺して)いるのかは知らない。サーザ達は儀式をやるが、呪いの相手が誰なのかは知らない。と言うか、知らないようにしている。彼らを罠にかけるため、ジンジャーとマークはハデにケンカをし、ジンジャーは村を去る。マークは儀式を頼む。こういう場合は標的が誰なのかはサーザ達もわかってるけど。一方マープルはオズボーンと共にヴェナブルズを見張り、彼が実は歩けることを目撃する。まあここらへんまでは私も、この作品では犯人変更しているのかしらと思っていたのよ。オズボーン役はJJ・フィールド。彼を一番最初に見たのは「ビーンストーク ジャックと豆の木」で、その時は世の中にこんなに美しい男性がいるのか・・とびっくりしたのよ。美しいだけでなく天使のように清らか。私はこれをマシュー・モディン目当てで見たんだけど、彼を見たとたんマシューなんかどっかへ行ってしまいました(ごめんね)。それなのに彼これといった作品がないの。ポアロの「ナイルに死す」くらい。そのうちトム・ヒドルトンというそっくりな美形が現われてまたまたびっくり。でもJJの方が好きよん。いやだから「蒼ざめた馬」には期待していたんです。そしたらオズボーン役。マーク役じゃないの?でもって謎解きシーン。
蒼ざめた馬4
本来ならルジューンがすべきことだけど、マープルが割り込んできちゃった。出番なくなっちゃった。何しろ彼女ゴーマン神父の復讐に燃えてますから。いくらルジューンが自分達が捜査するから(引っ込んでいてくれ)と頼んでも聞こえないふり。老走・・いや、暴走しまくる。とうとう犯人はマープルを始末しようと、コールドクリームを毒入りのものとすり替える。マープルが命を狙われるのって初めてなのでは?こちらでのヴェナブルズは犯罪とは無関係。犯人を罠にかけるため芝居に協力。だから犯人・・オズボーンは、マープルに引っ張り回され、罠にかけられ、おまけに身に覚えのない過去までくっつけられちゃった。だって12歳で義父を毒殺なんて原作にはなし。いつの間にそんなことわかったの?原作でのオズボーンはでしゃばりでおしゃべりで、それが身を滅ぼす原因になったけど、こちらでは・・何しろJJだから親切で温かい好青年。それにしてもマープル、ペラペラペラペラよくしゃべったな。声をあててる藤田弓子さんも大変だったろうな。一番よかったのは「ゴーマン神父を殺したでしょ!」。よっぽど許せなかったんでしょうなあ。他によかった点は三人の魔女の扱い。他のに比べ、役割がはっきりしているのがよかった。ブラッドリーと共に犯人から多額の謝礼を受け取っていたのはサーザ。シビルはマープルの謎解きにはとまどいを隠せない。お金もらってるのも殺人の片棒かついでいるのも信じられない。誰を呪ってるのかは知らないし、楽しいからやってるだけ。ベラだって薬草を調合し、鶏の首をちょん切り、儀式での自分の役割を果たすことしか考えていなかったと思う。そんな二人はサーザから見ればノーテンキもいいとこ。こんなことでもやってなきゃ客の来ないホテルを続けて行けるわけがない、そんなことにも気づかないのか!ここが説得力があってよかった。さて、事件は解決しマークとジンジャーは仲良くなる。あ、そう言えばこれにはハーミアもポピーも出てこないな。ジンジャーはちゃんと赤毛。ラスト・・歩き出したマープルがホッとため息・・それも二回つくのがいい。やっと自分の務めを果たした・・そんな感じ。てなわけで三回目見てやっとこの作品のよさがわかりましたとさ。