ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン版)

スリーピング・マーダー

時々NHKBSで「名探偵ポアロ」や「ミス・マープル」をやる。見逃すことも多いが、今回の四作品は何とか・・。私は前テレビ東京で「ミス・マープル」を何作か見、どうしても全作品をノーカットで見たくなり、思いきってDVDのBOXを買った。とにかくマープル役ジョーン・ヒクソンがすばらしい。取っつきにくい冷たそうな外見だが、なかみは親切で暖かい。何よりも老人くささがリアルだ。実際相当高齢なんだから当然だが、肉はたるみ、近くへ寄ると入れ歯のにおいでもしそうな感じ。NHKBSで「ミス・マープル」をやると知った時は、てっきり彼女のをやるんだと思って喜んだ。ところが出てきたのは別の人。どうやらジェラルディン・マクイーワンとかいう人の主演で、別のシリーズが始まったらしい。ヒクソンはどっしりしていて、四角いいかつい顔をしている。私は彼女を見る度「犬神家の一族」の高峰三枝子さんを思い出す。マクイーワンの方は丸顔で目も丸い。好奇心にあふれ、いたずらっぽく輝く。わざとらしさの一歩手前。最初に見た時は道化師のようだ・・と思った。歩く時も肩をいからせ、足速。ヒクソンはシリーズ後期になると足が弱ったのかゆっくり歩く。80を過ぎてからもマープルを演じ、90過ぎまで生きた。マクイーワンもすでに70過ぎてる。でも最初は若い人が老け役やってるのだと思ってた。違和感があり、表情もしぐさも何だか下品に見えた。でも今回は慣れてきたせいかそれほど気にならなかった。私がDVD買う気になったのは、マクイーワンのマープルが物足りないせいもある。岸田今日子さんが亡くなったので、今回は草笛光子さんが声をやってる。さて、「ポアロ」にしろ新しい方の「ミス・マープル」にしろ見ていて首を傾げてしまうのは、やたらホモやレズを盛り込んでいること。あれ?そういう設定だったっけ?こんなシーンあったっけ?・・と原作を調べてみると全然。何度も映像化され、内容もよく知られているので、何か目新しいものをくっつけようというのか。でもあの作品もこの作品もとなると、脚本家のあほんだら、何考えてるんだ・・と思ってしまう。それと今回は四作のうち二作が、マープルとは無関係の原作。だから登場のさせ方はかなり強引。マープル物はポアロと違って少ないから、苦肉の策なんだろうけど。

ヒクソン版「スリーピング・マーダー」には何とジョン・モルダー=ブラウンが出ていて超びっくりしたが、こちらはソフィア・マイルズが出ていてプチびっくり。しかもコロコロ太ってる。そりゃあ何本か出るはずだった「サンダーバード」はあんなことになっちゃった。続編が作られる可能性ほとんどゼロ。だから太ろうがやせようがかまったこっちゃないんだけどさ。トレーシーボーイズ達はさっぱり姿見かけないが、マイルズ嬢はジェイミー・ベル君とも共演しているみたいだし(見たい~!)、順調のようだ。

さて内容だが、だいぶ・・と言うか、変更しまくっている。グエンダ(マイルズ嬢)はインドからイギリスへ戻り、家捜し。手伝うのは婚約者の部下ホーンビーム(エイダン・マクアドール)。あれ?ここからして原作と違うぞ。グエンダはすでに結婚してるはず。ホーンビームなんて人物出てこない。しかも・・ラスト、グエンダとホーンビームは結ばれてるぞ。グエンダが気に入った家は、彼女は忘れていたけど子供時代を過ごした家。彼女はこの家でヘレンという女性が殺されているのを目撃したが、子供の頃のあやふやな記憶なので確信が持てない。ヘレンて誰?殺したのは誰?亡き父ケルヴィン役はジュリアン・ワダム。「エクソシスト・ビギニング」に出ていた。他にジェラルディン・チャップリンが出ていた。こういうのを見ていて楽しいのは、アメリカ製とはまた少し違ったゲストの顔ぶれ。特にこのポアロやマープルの新シリーズはいじくり回されてつまんなくなってることが多いので、そっちの楽しみでもなきゃとても見てられない。何であんな旅回りの一座が出てくるんだぁ~、何でヘレンとグエンダの母親が同一人物なんだぁ~、何で母親に盗癖があるんだぁ~、ヘレンと名を変えたって盗癖が直るわけじゃないだろぉ~。あんまり内容が違うので、きっと犯人も別の人になってるぜベイビー・・と思いながら見ていたくらい。まあさすがにそれはなかったけど。まあ・・とにかく・・つまらん。グエンダが気が強くてうるおいがないのがバツ。ホーンビームやマープルに対する態度もよくない。ヒロインはもうちょっとやさしい性格でなきゃ。しかしとことんいやな女にはなっておらず、そこらへんはマイルズ嬢のマイルドな美しさのおかげだろう。

親指のうずき

トミーとタペンス物は「運命の裏木戸」を読んで、そのあまりにもスローな展開にうんざりして、他のを読む気なくしたのよ。とにかくべちゃべちゃしゃべってばかりでちっとも進みやしない。そのトミタぺ(←?)にマープルが強引に割り込んでくる。三人で謎解きとはいかないので、トミーの出番は少ない。「親指のうずき」ってどういう意味かな。車を運転する時指を動かしていたけど・・。

タペンス役はグレタ・スカッキ。これまた風船みたいにふくらんでますな(特に胸が・・)。何やら欲求不満のようで、キッチンドリンカーでもある。放映を機会に読んでみた原作と違うぞよ。トミーの叔母エイダが殺され、ランカスターという老女も行方不明になる。手がかりは一枚の絵。エイダ役はクレア・ブルームだが、見ている時は全然わからなかった。司祭セプティマス役は「エイリアン3」などのチャールズ・ダンス。「ラヴェンダーの咲く庭で」の監督でもある。劇中に映画「ジェイン・エア」が出てきたが、原作にはこの設定なし。映画でヘレン・バーンズを演じたというので天狗になってる少女が出てくる。わがままで手がつけられない。マープル登場させるのならこの子ぎゃふんと言わせるとか、何か気のきいたことすればいいのに。ヘレンは白血病で死ぬというセリフもなあ・・肺結核で死ぬんじゃい!この原作ではフランスで「アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵」が作られている。機会があれば見くらべてみたいものだ。とにかく見ていてもさっぱりおもしろくない。絵に描かれた家をタペンスが見つけ出すというのは原作通りだが、映画では家の扱いが軽すぎる。この家の変てこさが重要なカギ、魅力なのに!

動く指

このように二日続けてはずれだったので、三日目は期待していなかった。録画するのやめとこうかな・・なんて。「動く指」・・何だかホラー映画みたいな題名だ。レ・ファニュの短編で「白い手の怪」というのがある。夜な夜な手だけの幽霊が現われるってやつ。怖いですぜ!映画の方は、悪意に満ちた匿名の手紙をタイプライターで打つために動く指、あるいは文字を切り貼りするために動く指・・ってことなんだろう。

何やら退廃的なムードで始まるので、また原作と違うぞ・・と早くもはずれムード。ところが!!ジェームズ・ダーシーじゃないのギャッ、ホワッ、ヒェッ!彼はポアロの「青列車の謎」に出ていたけどぱっとしなくて・・。でも!今回は堂々の主役、キャッホーうれしい!彼ってホント美しいの。まだ若いしすべすべだし背が高いし・・アンソニー・パーキンスみたいウキャキャ!男性だけど清純という形容がぴったり。あんまりうれしかったので次の日「エクソシスト・ビギニング」また見てしまいました。インタビューでも共演者が彼のこと純真だって、神父にぴったりだって言ってました。そうでしょそうでしょウヒ。「ブラッド」では吸血鬼役だったけど、ああいう汚いのはやっちゃだめ!似合わないもん!彼ちょっと目が小さくてはれぼったい感じ。寝起きの乙女風。横顔・・鼻から口への線なんて恥ずかしそうな乙女風。もう・・何て言うか・・清楚。前彼のこと体格がいいとかがっちりしていると書いたけど、今回見たらそうでもなかったな、思い違いでした。

さてジェリー(ダーシー様)は戦争では生き残ったものの、生きる希望も目的も見出せずにいる。酒や女に溺れ、バイクで無謀運転をし、事故を起こす。死ぬつもりだったけど死ねず、足にケガをする。静かな村で静養を・・のつもりが、事件に首を突っ込むこととなる。原作では別に酒も女もバイクもなし。ケガは飛行機事故のせい。映画では意図的に彼に暗い面をくっつけている。同じく世間や家族になじめず、浮いた存在の風変わりな少女ミーガンと知り合い、同病相あわれむ・・という感じにしている。ジェリーがミーガンに引かれるのも、あ~もっともだ~もっともだ~と思わせたいらしい。原作ではジェリーは最初ミーガンを見て、馬のようだと思う。それがだんだんきれいに思えてくる。同病相あわれむ・・ではなく、ミーガンの中に単純さ、強さを見出し尊ぶのだ。ミーガン役タルラ・ライリーは「プライドと偏見」でも風変わりな少女メアリーを演じていた。ミーガンはジェリーの妹ジョアナに手伝ってもらい変身する。原作だとジェリーがロンドンへ連れて行き、磨き上げる。映画はそこらへん省略・・と言うか、節約している。変身後もあんまり変わらないので盛り上がりに欠ける。タルラはスタイルはいいが、目の間が広すぎる。何しろダーシーが美しすぎるので、タルラに限らず女優さんみんなかすんでしまうのだ。ラストで二人の心は寄り添う。感動的にしてやれという作り手の意気込みはわかるが、私には今いち。ミーガンがジェリーを拒絶するシーンなど、描写にデリカシーがなさすぎる。前にも書いたけどヒロインはもう少しやさしく、やわらかみがないと。てなわけで、ダーシー様主演でなきゃ今回もつまんねーの・・で終わっていたことだろう。彼の美しさを堪能できたので、その点(だけ)はよかった。映画監督のケン・ラッセルが出ていたらしい。例によってパイ氏がホモという余計な設定くっつけている。あれ?マープルのこと全然書いてない・・。

シタフォードの謎

本では「シタフォードの秘密」。チャーチルに次の首相になってくれと直々に頼まれたトレヴェリアン(何とティモシー・ダルトン)。なぜか態度をはっきりさせずシタフォードの山荘へ。彼を三人の男女が追ってくる。遺産相続人からはずすという手紙を受け取ったジムは、自分の素行の悪さを反省するどころかトレヴェリアンに絡む。しかしトレヴェリアンにはそんな手紙出した覚えはない。ジムを追って婚約者のエミリー、特ダネを物にしようとする新聞記者チャールズも現われる。このエミリーがマープルの甥レイモンドの元恋人という設定。しかも甥の家は山荘の隣り。訪ねてきたものの甥はおらず、天候が悪化しているので年寄り一人は危険・・と山荘に泊めてもらうことに。

元々ムリな設定の上、マープルの言動はいちいちあつかましい。ぺちゃぺちゃうるさいので見ていてうんざりする。しかしどんなにつまらなくてもイケメンさえ出ていれば私はオッケー!今回はチャールズ役のとびきりの美男ジェームズ・マレー!どんな美男かと言うとロバート・ダウニー・Jrにジャレッド・レトの甘さをプラスしてください。目がきれい、長いまつ毛、鼻も口も肌もきれい。何と言うか・・全部きれい。それしか言いようがない!ジム役は「デス・フロント」で見たばかりのローレンス・フォックス。ジェームズ・フォックスの息子。ついでに言うと「動く指」のジョアナ役エミリア・フォックスはエドワード・フォックスの娘。だからローレンスとエミリアはいとこってことになる。内容は原作とは全然違う。エジプトの宝も首相も亡霊もトレヴェリアンとヴァイオレットの恋も・・。犯人すら違う。これにはびっくりした。映画では時々ある人物の表情うつす。それで手口はわからないものの犯人はこの人だな・・ってわかってしまう。動機もすぐわかる。余計なことするな!まあラストシーンはホラーっぽくてしゃれてたけど。他に「蜜の味」のリタ・トゥシンハムが出ていた。

バートラム・ホテルにて

ジェラルディン・マクイーワンの「ミス・マープル」は今回で終わりらしい。何でかな、体力的にきついのかな。初めはイメージ違う・・となじめなかったマクイーワンマープルだけど、だんだん慣れてきて楽しみ始めたところなのに・・残念だ。

さて「バートラム・ホテルにて」・・いつものことだけど内容全然違う~。ミス・マープルが子供の頃(1891年)泊まったバートラム・ホテル。50年以上たってまた泊まったけど、全然変わってない。変わって当然なのに・・。その「変わってない」がこの話のキモなのに、全然そうじゃなく思えてしまうのがイタイ。広間ではジャズバンドがかってに演奏の練習。何とルイ・アームストロングまで出てくる。原作だと会話の中でビートルズが出てきて、60年代の感じだが、映画ではそれより前の設定のようだ。40年代終わりから50年代初めってところか。黒人女性歌手のコンサートまであって、バートラム・ホテルは「変わってない」じゃないじゃん!ホテルのロビーは人であふれ、やたらがやがやしている。ボーッといつまでも突っ立っているマープル。ロンドンへは何しに来たのか。彼女が出会う古い友人セリーナ役はタペンス役でおなじみのフランチェスカ・アニス。老けたが美しく、品がある。

さて、バートラムが変わらないのにはわけがある。原作では盗賊団のアジトと言うか・・。旅行者の荷物に見せかけて盗品を運び出す。ホテル全体が一つの見せかけ、目くらまし。昔風の完璧なメイドが実は女優だったりする。強盗団のボスはべス・セジウィック。美人で度胸があり、男まさりの悪女。エルヴァイラという娘がいるが、べスの性格もあって疎遠である。エルヴァイラは亡くなった父から莫大な遺産を受けつぐことになっている。ところがバートラムのドアマン、ミッキーが若い頃のべスの駆け落ち相手で、すぐに別れたものの法的な手続きはしていない。つまり法律的には今でもべスはミッキーの妻なのだ。そうなるとその後の彼女の結婚は重婚ということになる。べスはそんなこと気にしないが、エルヴァイラは気にする。自分の父とべスの結婚が無効なら遺産をもらえないのでは?てなわけで彼女は非情にもミッキーを消すのである。原作だと彼女はレーサーのマリノスキーにほれ込み、自分につなぎとめておくために金を必要としたのだが、映画では違っている。自分のせいで小児マヒにかかってしまった親友ブリジットを助けるためお金が欲しいというわざとらしい動機。べスが盗賊団のボスで、マリノスキーはその手下という原作の設定もなし。マリノスキーはナチの残党を追うハンターで、べスは協力者ということになっている。ホテルの支配人は戦犯の逃亡を助ける代わりに、彼らが戦時中ユダヤ人から没収したレンブラントやフェルメールの絵画を受け取り、それをアメリカ人に売って儲けているとか何とか、そういうことになっている。他にもホテル荒らしの双子とか(セリーナも被害に会う)。マープルに協力するメイドのジェーンと、警部補バードのロマンスも原作にはなし。メイドのティリー殺しもなし。ブリジットの小児マヒもなし。とにかくこちらはいろいろくっつけ、わあわあ騒いで活気のあるところ見せ、時間を埋めたかったのだろう。

でも前にも書いたように、過去に戻ったかのような不思議な雰囲気が・・変わらないという印象持たせるのがバートラムなのに・・そういうのが全く無視されているな。原作だとべスは娘の罪ひっかぶって自殺する。マープルも警察もミッキー殺しはエルヴァイラの仕業とわかっていて手が出せない。エルヴァイラ自身母の死を知っても何とも思わない。おそらく彼女はこれからも罪を犯し続けるだろう。若くて美しい自分は何をやっても許され、誰かが助けてくれて自分は無傷・・と思い上がっているだろう。しかしそんなことが続くわけがない。いずれは逮捕されるだろうが、今は・・。と言うわけで原作は珍しく後味の悪いすっきりしない結末なのだ。しかし映画の作り手はそれではまずいと思ったのかマープルにちゃんと言わせている。「悪気はなかったのよ」と泣くエルヴァイラに「何言ってるの、悪気がなかったじゃすまないでしょ」とぴしりと言うのだキャッホー!べスが身代わりになろうとするのも止める。そうよそうよ娘を助けるためなら私が・・なんて思っちゃダメ。罪を犯したのならちゃんと償わせなきゃ。今ここで見逃すとまた次の犠牲者が出る。ブリジットのためブリジットのためって、本当に親友のこと思ってるなら殺人の片棒かつがせたりしないってば。

べス役はポリー・ウォーカー。ちょっと・・いや、だいぶ太ってきた。ミッキー役は「ブラック・ナイト」のヴィンセント・リーガン。「ブラック」では若く見えたけど彼意外と年かも。ミッキーはべスへの思いを胸に秘め、地下で絵を描く。原作よりはいい描かれ方をされているのがうれしい。ティリー役は「プライミーバル」のハンナ・スピアリット。前にも書いたがティリーは原作には出てこない。何のために殺されるのかよくわからん。二回目見ていたら彼女はマリノスキーの情報源で、それとは別に酔ったミッキーからべスとの件を聞き、エルヴァイラをゆすっていて、そのせいで殺されたらしい。でもゆするったってエルヴァイラには遺産はまだ入っておらず、お金なんか持ってないんだけどね。帽子デザイナー、ムッティ役は「沈黙の激突」に出ていたダニー・ウェッブ。片岡鶴太郎氏にそっくりの人。ぺニファザー牧師役の人もよく見かけるな。私はこの牧師が、原作通りいつ行方不明になるかと待っていたんだけど・・いつまでたってもなりませんでしたな。それどころかナチの残党ですってよ、もう呆れるより他ありませんね。ジェーン役の人は藤田弓子さんに似ている。美人ではないが明るく健康的で前向き。戦争での暗い体験を引きずっているバードも、彼女に会ったせいで生きることに前向きになる。二人のほのぼのとしたロマンスは見ていて気持ちがいい。どうしたらあなたのようになれるかと聞くジェーンに、マープルは「年を取ればいいのよ」と答える。そう、若いだけがすばらしいのではない。年を取ることにより豊かになるものもあるのだ。

無実はさいなむ

これはまだ原作読んでいない。マープル物ではない。きっとキャルガリーあたりが主人公なのだろう。リオ、レイチェル夫妻は貧しい家の子を引き取って育てた。レイチェルに子供ができないせいだが、養子にしたものの、愛情を注ぐわけでもない。どうも彼女は誰かを支配するのが好きなようだ。子供達は思い通りには育ってくれず、家の中はいさかいが絶えない。特にジャッコはギャンブル好きで、金に困ってはレイチェルにせびりに来る。彼女には莫大な財産があった。ここ、サニー・ポイントに屋敷を建てたのも彼女だ。学者タイプの夫とはうまくいっていない。リオは研究を口実にわずらわしいことからは逃げている。助手のグエンダはリオに同情し、密かに慕っている。ジャッコの借金をめぐって口論したその晩、レイチェルが殺され、ジャッコは逮捕される。普段の行状から誰もが彼が犯人と思い込む。ジャッコは自信ありげにアリバイを主張したが証明できず、とうとう死刑になってしまう。レイチェルのお金を持っていたのが決めてだった。双子の兄弟ボビーには、彼が誰かをかばっているように見えたが・・。

二年たってグエンダはリオと結婚することになる。子供達・・ミッキー、ボビー、ヘスター、ティナ、メアリーともうまくいっている。グエンダは一時マープルのところでメイドをしていた。身寄りのない私が家族を持てる・・と喜んだ彼女は、恩人のマープルを結婚式に招待。マープルも喜んで応じる。夜・・外は嵐だが楽しい団欒・・そこへ突然キャルガリーという青年が現われる。何と事件当夜のジャッコのアリバイを証明できると言う。ケンブリッジ大学に勤めている彼は、事件当夜たまたま近くにいて、ヒッチハイクをしていたジャッコを乗せたと言う。その後北極へ行ったため事件のことは知らずにいたのだが・・。彼の話を聞いても誰も喜ばない。かえって重苦しい雰囲気につつまれる。ジャッコでないとすればここにいるうちの誰かが犯人ということになる。せっかく平和が戻りかけたのに・・(実際は問題だらけなのだが)。

登場人物が多く、言い合いが多く、ざわざわした感じ。誰が誰だか区別がつきにくく、不倫だの何だの入り組んでいて内容がつかみにくい。犯人は出しゃばりすぎ、しゃべりすぎ、騒ぎすぎなのですぐわかる。誰もその人を変に思わないのがおかしいと思えるほど目立つ。ジャッコがなぜ犯人をかばうのか今いちわからん。また、アリバイ作りにキャルガリーを利用するなら名前くらい聞いとくはずだが。結婚式が中止になり、犯人と疑われ、リオにも見放されたグエンダは逆上し、みんなの前で私は犯人を知っているなどと言い立て、案の定その晩殺されてしまう。黙って様子を見るということがないので、やはりここでもざわざわした印象受ける。

レイチェル役はジェーン・シーモア。知ってる人は彼女だけ。しかもすぐ殺されちゃうし。さてこの小説・・「ドーバー海峡殺人事件」という題でビデオが出ている。レンタル店に行くといつも貸し出し中でカバーしかなく、不思議に思っていたが、そのうちカバーもなくなってしまった。誰かが借りて返却しなかったのか。その時は「無実はさいなむ」の映画化作品とは知らなかったが、見ることができなかったのはちょっと残念。主演はドナルド・サザーランド。キャルガリー役だろう。ドーバー海峡ってのはなぜかな。

話を戻して私が一番印象に残ったのは、家の者のキャルガリーへの態度。そりゃあ突然現われて余計なこと言う迷惑な人物には違いない。何で来たんだ帰ってくれとなって当然。しかし夜だし嵐だし舟を出すのは危険(屋敷があるのは小さな島の上)。家族のうちの一人くらいは(自分の気持ち抑えて)泊まるところとか暖かい食事の心配してあげてもいいのでは?最終的には家の中に入れてもらえたけど、それまではボート小屋みたいなところで明かりもなく寒さにふるえ、たぶん腹ペコで・・見ていて気の毒だった。二度目に見た時はリオの意気地のなさが目についた。何かと言うと研究に逃げ込み、わずらわしいことから目をそらす。一番守ってあげなきゃいけないグエンダさえ突き放す。そして失ってから悔やむのだ。遅いっての!!レイチェルの財産はボビーが管理をまかされ、メアリーの夫フィリップなどは早く分けろとせっついていたが、何かにつぎ込んで失敗し、いつの間にかなくなっていた。そのせいでボビーは自殺する。もう財産はないし、ここにいたってダメになるばかりだ。子供達はここを離れ、何とかやっていくだろう。リオが一人取り残されたとしてもちっとも気の毒じゃない。

ヒュイッシ警部補役リース・シェアスミスはラッセル・クロウを小ぶりにしたような感じ。よく似ている。どことなくウィリアム・ゴーントにも似ていてムヒヒである。ミッキー役ブライアン・ディックは「ブラッドウルフ」に出ているようだ。

ゼロ時間へ

これもマープルは関係ないが、無理に割り込ませている。ネヴィル(グレッグ・ワイズ)はテニス選手だが、ゴルフや水泳も堪能。若くてハンサムで健康でお金持ち。試合で負けても紳士的にふるまう。潔いし、自制心もある。二度目の妻ケイもとびきりの美女だ。彼は未亡人カミーラのところで夏を過ごすつもりだ。亡くなったマシューは彼を気に入ってくれていた。カミーラは彼の母親も同然だ。彼の前妻オードリー(サフロン・バローズ)も来るはずだ。彼はケイとオードリーが仲良くしてくれたら・・と思っている。でもケイはオードリーもカミーラも嫌いだ。行きたくないが、かと言ってネヴィル一人をやってオードリーとよりを戻されても困る。オードリーは何を考えているのかよくわからない謎めいた女性。表向きはネヴィルが彼女を捨て、ケイに走ったことになっている。しかしネヴィルはオードリーに未練があるようだ。マープルはカミーラの古い友人という設定。カミーラは体こそ弱っているが、頭はしっかりしていて毒舌家。さすがのマープルも何かしゃべろうとしてもさえぎられ、彼女のお説を拝聴することとなる。そこがおもしろかった。マープルはさえぎられても気を悪くしたりしない。相手にしゃべらせる。彼女は注意深く、忍耐強い聞き手でもあるのだ。

原作にはアンガスという青年が出てくる。人生に絶望し自殺をはかるが、運悪く(?)助かってしまう。何ヶ月かたつと気持ちも変わり、自殺をはかった場所を再訪してみようという気持ちになる。そこで今回の事件とかかわるようになり、最後はオードリーと結ばれる。しかし映画の方はマープルがいるのでアンガスは必要なくなる。彼は登場せず、オードリーはトマス(ジュリアン・サンズ)と結ばれる。原作だとトマスはカミーラの世話係でオールドミスのメアリーとうまくいきそうで、読んでて応援しちゃうんだけど(若くもなく美しくもなく地味だが、堅実で好感の持てるキャラ)、映画はオールドミスのまんま。これじゃ気の毒だ。

それにしても・・原作読んでて不思議だった。オードリーは普段何をしてるのだろう。働いていないようだけど財産はあるの?あったとしても大したことなくて、それは安物の衣類しか持ってないとか高価であっても古びているとかで想像つくけど。ケイは服を買いまくり、あちこち旅行し、パーティだダンスだとネヴィルの金使いまくりで忙しいけど、オードリーはそんな余裕なし。出歩く性格でもない。じゃ、何してるんですか毎日。あちこちの家訪問して数週間滞在する・・今はカミーラのところで・・ホテルと違ってお金払わなくていいし節約になる。でも・・もう一度言うけど自分の家(あるんでしょ?)にいる時は何してるの?ネヴィルからの経済的援助は断ってるし・・。

さて、私は原作読んだ時、ネヴィル役は絶対ポール・ベタニー!・・と思った。「ウィンブルドン」でテニス選手やってた彼の姿がパッと頭に浮かんで・・。う~ん彼しか考えられないわそうでしょ?でも・・何・・こっちのネヴィルは・・。老けすぎよ、もう10歳は若いの出してこなくちゃ。このワイズとかいう人エマ・トンプソンの夫なのね。1966年生まれだからまだ若いんだけど・・老けて見えるのよね。うつる度にトホホ。あの輝くようなベタニーのテニス選手ぶりとはえらい違いだわ。それに何よ出てきた時から怪しいじゃん。見てる人にそんなの感じさせちゃダメ。えッ、ベタニーがやってたらもっと怪しいって?ウフンそれはいいのよ怪しくたって。彼の場合うつる度にトホホなんてことありえませんもの!

バローズは・・ウームやっぱり映画に出ている人は違うよなあ・・と今更ながら思った。美しさ、あでやかさが一段上。まあオードリーは日陰の花のような暗いキャラで、そういうイメージは彼女にはあんまりないんだけど。ネヴィルがあんなオジンなので、せめてバローズで華やかさ出さないとねえ、映画全体がうすぼんやりしてしまう。とは言えオードリー役にはサラ・ポーリーだな、私の考えで行くと。オードリーはか弱くて男性が手助けしたくなるようなタイプ。いつも完璧で欠点がない。事情聴取の時もマラード警視達は他の人の時とは違う接し方をしてしまう。なぜかオードリーにはていねいに接するのだ。自然にそうさせるものが彼女にはあるのだ。そういう描写の仕方はよかったと思う。・・てなわけでイギリスで映画化する時にはベタニーとポーリーのコンビでお願いします。ベタニーはそろそろ40だけど、今のうちなら間に合います(ネヴィルは33歳という設定)!

復讐の女神

マープルは新聞でラフィールの死を知る。本来ならここで彼女がラフィールと知り合った「カリブ海の秘密」のワンシーンが挿入されるところだが、まだ作ってないのよね「カリブ」。やらないままでマープル交代。しばらくして彼女はラフィールの最後の頼みを引き受けることとなる。「カリブ」ではラフィールに助けてもらったからマープルには借りがあるけど、そういう前からの因縁は出しにくいね。ガイドつきのバス旅行・・それも行き先がわからないミステリーツァーへ参加するよう言われ、マープルは甥のレイモンドも連れて行く。原作にはレイモンドは登場しないし、ツァーのメンバーも全く違う。原作だと途中で三人の中年女性の家に招かれ、あれこれある。ツァーのメンバーとは別行動を取ることになる。それが頭にあるものだから、いつになったら魔女みたいな三人が出てくるのかと待っていたのだが・・結局出てきませんでしたとさ。

戦時中・・見習い修道女ヴェリティは、墜落したドイツ人パイロット、マイケルを看病しているうちに恋に落ちる・・と言うか、倒れているのを見つけ、見つけられた時からお互いフォーリン・ラブ!でもかたや敵国人、かたや見習いとは言え神に仕える身、障害は多い。二人は駆け落ちすることにするが、約束の場所にヴェリティは現われず、そのまま行方不明に。マイケルは誰かの密告で収容所送りに。このマイケル、実はラフィールの息子。生前息子に手を差しのべてやれなかったラフィールは、せめてもの罪滅ぼしにヴェリティ失踪の謎をマープルに解明させようと今回のツァーを企画(?)したのだ。したがってマイケルも参加しているが、心は閉ざしたままである。

原作だと戦争は関係なくて、彼はヴェリティ殺しの犯人として刑務所にいる。外を歩き回れるだけこちらのマイケルの方がましだ。とにかくツァーのメンバーは何かしらヴェリティに関係しているのだが、それら全部は映画用の新しい設定だから、あまりしっくりいってない。メンバーの中に戦時中負傷して記憶を失っているマーティという男がいる。妻ロウィーナが献身的に世話をしているのだが、その彼女が殺されてしまう。しかしなぜかマーティは悲しくない。妻が死んだのだから悲しいはずだが・・。そのうちあれこれあって、彼は実はコリンズというのが本名で、マイケルと同時期にヴェリティに看護されていたことがわかる。当時の彼は重傷だったので、死んで葬られたとしても誰も怪しまない。つまり犯人はヴェリティを殺し、死体を隠すのにコリンズの墓を利用したのだ。コリンズが埋められていると誰もが思っているが、埋められているのはヴェリティ。命をとりとめたコリンズの方は、(犯人によって)夫マーティが戦死したのを受け入れられず精神を病んでいるロウィーナのところへ連れていかれる。ロウィーナは奇跡だと喜び、コリンズはマーティとして人生を歩み始める。しかしいくら記憶を失っているとは言え、違和感をぬぐえない。今回ロウィーナが殺されたのは、あの時夫を連れてきた人物と、今ツァーの中にいるペンギン(←?)とが結びついては困る犯人の仕業。補足しておくと、あの時マイケルの居場所を密告したのも犯人である。

何でこんなこと長々と書くかというと、ここだけはとってもよくできてると思ったからである。ラスト・・事件が解決し、マイケルの父への恨みつらみも消え、(ヴェリティは死んでいたものの)めでたしめでたしとなってツァーのメンバーは立ち去り、でもコリンズだけは自分の墓の前にたたずんでいる。この後警察がヴェリティを掘り出すんだろうけど、今はまだ・・。墓には花が手向けられていて、定期的に誰かが訪れているようだ。今も一人の女性が・・もちろんそれはコリンズの奥さんで・・。死んだとされてもう10年もたって、足が遠のいても再婚しても不思議じゃないのに通い続けて・・よっぽど夫を愛していたんでしょうなあ。それが・・まさかの再会ですよ、いや見てるこっちだっていがったいがったこれからは今までのぶんまで幸せにねえ・・とにんまりしちゃいますがな。もうちょっと感情を顔に出して感動的にやって欲しかったけど、とにかくこのシーンのせいでラフィールもマイケルもヴェリティもどうでもよくなっちゃったんですのオホホ。

あ、犯人もこのお墓には来ていただろうなあ、愛するが故に殺したんだから。レイモンドとガイド兼運転手のジョージーナとの仲も発展せず終わっちゃったな。そもそもジョージーナの役どころがあいまいで。どの程度までこのツァーの目的知っていたのか。

レイモンドは作家。ファンで作家志望の警官コリンが出てくるんだけど、これがエドワード・ノートンみたいでかわいいの。作家って困るのよね「あなたのファンですみんな読んでます」とか言われるのはうれしいけど、その後必ず「実は自分も書いてるんです」と来る。こっちはスランプであせってるってのに「読んでもらえます?」と原稿を差し出され、仕方なく受け取ると今度は「どうでしたか?」と期待を込めた目つきで聞かれる。あんまり冷たくすると読者が減っちゃうし。

おや?「無実」、「ゼロ時間」に続いてこれもまたマープルのこと全然書いてないぞ。原作だとラフィールから2万ポンドという大金を受け取る。マープルはびっくりするが貯金する気はない。もう年だから置いといたって仕方ない。好きなことに使うつもりだ。それにくらべると映画の方はあんまり大したお礼してもらっていなかったようで。まあ原作ではマイケルは刑務所に10年も入れられていて、それを釈放させる・・無実と証明する・・んだからかなりの難問。それくらいのお礼して当然だけどね。

牧師館の殺人

これはマクイーワン版の第一弾?顔ぶれを揃え、なかなか力の入った作り。そりゃヒクソン版に対抗するのは容易なことじゃないもんねえ。冒頭ある軍人が写真とってもらっている。そばにいるのは妻のリジー。でも、でき上がった写真・・ジェーン・マープルも持ってる。リジーとジェーンじゃ違うし・・何やら意味深。まあヒクソン版ならこういうのくっつけません。こっちのマープルは少々生ぐさいと・・そういうことですかね。セント・メアリ・ミード村のオールド・ホールに住むプロズロウ大佐は、気が短く、どこへ行っても騒ぎを起こす、嫌われ者。娘のレティスは、画家のロレンスに魅力をふりまくが、相手にしてもらえない。プロズロウの後妻アンは、心の通わない夫との不幸な結婚生活に思い悩むが、耐えるしかないとマープルに打ち明ける。副牧師のホーズはノイローゼ気味。最近村に住みついたミセス・エスターは、謎めいていて、酒を手放さず、プロズロウとも知り合いのようで。オールド・ホールについての記事を書くため滞在しているフランス人、デュフォスとエレーヌは、そぶりがおかしい。牧師のレナードは、年下の若く美しい妻グリゼルダにぞっこん。幸せな日々を送っているが、ある日を境に次々事件が・・。まず教会の献金の横領疑惑。会計監査をすると騒ぎ立てたプロズロウが、牧師館の書斎で殺される。ロレンスに牧師館の離れを貸しているが、そこで彼とアンの不倫も見てしまった。そのうち、グリゼルダを中傷する手紙まで舞い込み、大ショック。と言って妻に問いただすこともできず、悶々。もちろんラストは誤解とわかって、再び幸せに。レナード役の人は「ノッティングヒルの恋人」に出ていた。ホーズ役の人とよく似ていて、見分けがつかない。グリゼルダ役レイチェル・スターリングは、ダイアナ・リグの娘。「サイコ2001」のクレアだ。「予告殺人」のフィリッパ役キーリー・ホーズが「サイコ2001」に出ていたことは前にも書いたけど、彼女マシュー・マクファディンの奥さんなのね、うらやましい!そう言えばマッケンジー版「魔術の殺人」のブライアン・コックスも「サイコ2001」に出ていたわ!あとはサミュエル・ウェストだけね!マッケンジー版「ミス・マープル」に出て!話を戻して・・途中までロレンスはとっても好青年で・・。ストーリーを変更して、犯人は別の人にしてくれないかな・・と思ったくらい。

牧師館の殺人2

原作のロレンスは非常に魅力的な青年ということになってる。ジェイソン・フレミングは、ものすごいハンサムというわけではないけど、犯人であって欲しくないなあと思わせるものを持ってる。だから適役だと思う。アン役ジャネット・マクティアは、数年前アカデミー賞助演女優賞にノミネートされていたので、見覚えがあった(とれなかったけど)。背が高く、胸もお尻も口も大きく、堂々としている。エスター役はジェーン・アッシャー。原作だとレストレインジという名で、レティスの母親。不治の病なので、死ぬ前に一目・・と、プロズロウに頼むが、会わせてくれない。こちらは不治の病はなし。ややアル中気味。たぶんロレンスとアンの悲劇に焦点しぼりたいのだろう。プロズロウ役はデレク・ジャコビ。だいぶ年だし、マクティアの方が体大きいし、押し潰して圧死させられるんじゃないの?その前に心臓マヒとか。血圧高そうだし・・。レティス役クリスティーナ・コールは、「ポアロ」の「死との約束」のサラらしい。デュフォス役はハーバート・ロム。原作だとストーンという考古学者なんだけど、実は泥棒で。こちらは戦時中にどうとか、エレーヌは特殊部隊だのとか、変なことになっている。どうも戦時中プロズロウは、レジスタンスへ渡す資金をネコババしたということらしい。その金でオールド・ホール手に入れたようで。でもそれならあんなふうにこそこそせず、ストレートに・・。特殊部隊なら拷問の専門家もいるだろうし・・。別にこの二人、出してくることなかった気が・・。たぶんプロズロウはこんなにも悪いやつで、殺されても当然とか、強調したかった?医師ヘイドック役はロバート・パウエル。鼻の形に特徴があって、ロバート・ミッチャム風。見たことないけど「マーラー」という映画に出ている。捜査するのがスラック警部で、マープルとは初対面のようだ。演じているスティーブン・トンプキンソンはテレビの「主任警部アラン・バンクス」でバンクスやってる。WOWOWでやったが、私は見ていない。これに限らず、見ていないものが多い。マクイーワン版マープルだってNHKBSで見て、その後LaLaTVでやったのを録画して、それをやっと今見直して感想書いているわけで。放映から感想まで何年かかったことやら。・・話を戻して、原作だとスラックはものすごく嫌なヤツとして書かれていて。

牧師館の殺人3

これはレナードが書き手だから、彼がそう感じたということだが。映画の方はそうひどくもない。最初のうちはマープルを年寄り扱いする。世間一般の老女に対する時の態度を取る。耳が遠いんじゃないかと大声で聞いたり。でもそのうち彼女がとても記憶力がよく、観察力にすぐれ、考え方がしっかりしているのに気づく。最初の・・マープルに気づくシーンが笑える。現場・・レナードの書斎を調べていて、ふと外を見ると、こっちをじっと見ている老女が・・。たぶんこういうことって今までにもあったはずで。好奇心丸出しで、情報を提供したがっている、たいていの場合はおしゃべりの相手が欲しいだけの老女。他のスラック(←?)なら無視したと思う。あるいはできるだけ後回しに。でもこちらのスラックはちゃんと話を聞くし、そのうち足を痛めたマープルに代わってお皿洗ってあげたりして、いい人っぽいの。何でも奥さんが実家に戻ったきり二ヶ月以上戻ってこないのだとか。あっちで誰かといい仲になっているのでは・・と悩んでいて。レナードの悩みと比較させたいのかな。トンプキンソンのスラックは今回だけのようで、ちょっと残念。マープルの恋人・・冒頭の軍人・・エインズワースと言うらしいが、「書斎の死体」でも写真で登場。どこかで見たような・・と思ったら、WOWOWでやった「メサイア 血塗られた救世主」に出ていた人。でもこれも見ていないんだよなあ。それで何で見覚えがあるかと言うと、ガイドブックの写真見て・・髪の色は違うけどマッシモ・ラニエリに似ているなあ・・と。名前はマーク・ウォーレン。ハンサムと言うよりカチッとした顔立ちで、若く見えるけどけっこう年で。今度放映されたら「バンクス」も「メサイア」も絶対見ます!・・でも放映予定はなし・・って、私っていつもそう!乗り遅れてばっか!で、このエインズワース・・駅まで行くと言うリジーに、別れがたくなるから・・とか言ってて。でもそれは駅にはマープルの方が来るからで。つまりマープルは・・。この若き日のマープルやってるのが「オックスフォード連続殺人」で見たばかりのジュリー・コックス。でも全然感じが違うので、言われなければ気がつかない。で、要するにマープルは不倫してたってことになるんだけど、そんなふうにしちゃっていいの?今までとは違うマープルを!って意気込んで、そういうことになっちゃったんですかね。

牧師館の殺人4

この映画で描かれる、妻と愛人が共謀して邪魔な夫を殺すというのは、よくあるケース。二人して自首するけど、実は相手をかばってのことだとわかり、一度は疑われたものの、その後圏外へ・・というのも、よくあるケース。とは言えそのままで進展しないと、また自分達が疑われるおそれがあるので、他の者を犯人に仕立て上げる。今回ちょうどいいのがホーズ。前々から夜眠れないとか、誰かが自分のことしゃべってるとかノイローゼ気味だし、ヘイドックから薬もらってる。プロズロウを殺した時見つけたのが、書きかけの手紙。これが実はホーズが献金を盗んだという告発書。ホーズに別の薬飲ませ、そばにこの手紙置いとけば、原因(横領)、行動(殺人)、結果(自殺)・・全部揃って筋が通り、事件は解決だ。ロレンスの計画はよく練られていた。彼はマープルの観察眼や記憶力を逆に利用し、自分達のアリバイに利用していた。でももちろん最後にはマープルに見破られてしまうけど。これがメインの流れだと思うけど、私には作り手の狙いが別のところにあるように思えて仕方がない。マープルに不倫という過去をくっつけ、回想シーンを何回か挟み込むのは、彼女とアンを対比させるためではないのか。アンには二つの選択肢があった。すべてを捨ててロレンスと逃げるか、彼をあきらめて結婚生活を続けるか。マープルには後者を選ぶと話すが、その決断には大きな苦痛を伴うはずだ。プロズロウが殺されたと思われる時刻には、ロレンスとアンはアトリエで別れ話をしていた。これはマープルに見させるのが目的。アリバイ作りだ。でも10分ほどして出てきた二人は、取り乱したふうもなく、そこがマープルには不審で。つまりは二人のミスで。ロレンス達が駆け落ちではなく、殺人へ行ってしまったのは、たぶんお金のせいだ。原作ではプロズロウは金持ちで(もちろん戦時中のネコババによるものではない)、遺産はアンとレティスに平等に分けられることになってる。「ロレンスが一文無しの女と駆け落ちなんかするものですか」というマープルの言葉もある。愛情だけではだめなのだ。先立つものがないと。でもマクイーワン版でもヒクソン版でも、財産のことは何も出てこない。アンとロレンスの熱愛強調したいのか。不自然だとは思わないのか。

牧師館の殺人5

その上こちらのマクイーワン版では、アンとロレンスは元々恋人どうしだったことになってる。ロレンスは戦死したことになっていて、それが間違いだとわかった時には、アンはもうプロズロウと結婚していて・・。いけないことだとわかってたけど、愛が再燃。このいきさつは、マープルに過去を思い出させた。マープルの場合は第一次世界大戦だろうけど。映画の時代設定は、原作より20年ほどずらしてるようだ。エインズワースは本当に戦死しちゃったから、彼とマープル、リジーの関係はそれ以上進展しないまま・・。リジーは何も知らないままだったけど、これがもしロレンスのようにある日突然現われたとしたら・・どうなっていただろう。少し立場は違うけど、マープルがたどったかもしれないもう一つの人生が、今のアンの姿なのだ。夫を殺したことを後悔していないと言い切るアンに、マープルは「何てことを・・」と非難のまなざし。とは言え、きれいごとを言っていられるのも今だけ。彼らを待っているのは絞首刑だ。プロズロウの性格の悪さも、二人の愛情の強さも、減刑の助けにはならない。このラストはちょっと変わっていると思う。処刑される二人の恐怖や絶望感。ヒクソン版ならこんなギリギリの、不快な描写は避ける。殺人があったとしても、ラストはありふれた日常とか、のどかな村の風景でしめくくる。でもマープルは雪のちらつく中、教会へ足を運ぶ。寒々しく、牧師さえいない中で、一人祈る。ロレンスが・・続いてアンが処刑される頃だ。二人がしたことは愚かで許されないことだけど、罪を償うのは当然のことだけど、でもだからと言って何もせぬままあの世へ送り込んでいいものか。誰かが祈ってあげなければ。考えてみれば、マープルが謎を解かなければ二人は一緒になれた。二人を絞首台へ送ったのは自分だ。だから祈るのは自分の務めだ。アンはマープルの分身なのだ。もし運命が変わっていたら、自分とエインズワースとでリジーを始末していたかもしれないのだ。・・こういうの考えすぎ?クリスティーファンがびっくりし、眉をひそめるような設定をあえてくっつけたのは、暴挙とも言えるし快挙とも言える。その後のエピソードでは形見の写真程度にとどめ、過去の描写はせずに抑えているのは賢いやり方だ。

パディントン発4時50分

これはNHKのアニメでやったし、原作も何度も読んだ。てきぱきと仕事をこなすルーシー、地味だけど心の温かいエマ、金髪の美男子クラドック・・この三人が好きなのだ。マープルの友人エルスぺスは、ロンドンからの列車に乗っていて、殺人事件を目撃する。居眠りしてたけど目が覚めて・・ちょうどその時別の列車と並走していて。何となくながめていたら、ある窓のおおいがはね上がって。男が女の首を絞めているのが見えた。でも彼女にできることと言ったら、車掌に知らせることくらいで。いちおう警察も調べてくれたが、列車内にも線路脇にも死体は見つからなかった。でもマープルはエルスぺスを信じる。彼女は義務を果たした。でも、この後セイロンへ行くことになってる。だから今度は自分が義務を果たそう。彼女の代わりに調べてみよう。列車がスピードを落とす、クラッケンソープ家の敷地が怪しい。おりよく、あそこではメイドを募集している。マープルは以前雇ったことのある、有能な家政婦ルーシー(アマンダ・ホールデン)を送り込む。ルーシーは、給金は高いが家事を完璧にこなすので、ひっぱりだこ。ただし、ひとところにあまり長くはいない。今もノエル・カワードとの契約期間を終えたところ(原作にはカワードは出てこない)。マープルは伯母ということにして、連絡を取り合う。泊めてもらうのは、セント・メアリー・ミード出身のキャンベル警部(ジョン・ハナー)の家。キャンベルがクラドックの代わりらしい。クラッケンソープ家はお菓子で財を成したが、当主ルーサー(デヴィッド・ワーナー)は家業を継がず、そのせいで遺産相続からはずされている。彼は管理をしているだけで、彼の死後は莫大な財産は子供や孫へ行く。原作でのルーサーはしみったれでずうずうしく、口の悪い嫌なじじいだが、映画ではそうでもない。亡くなった妻アグネス(ジェニー・アガター)をこよなく愛していたと強調される。子供達のうち、長男エドワードはマルティーヌという女性と結婚するが、ほどなく戦死。マルティーヌは行方不明だ。次男のアルフレッドと四男のセドリックは設定を逆にしてある。原作では次男がセドリック、四男がアルフレッド。別に名前入れ替える必要ないのに。原作では三男ハロルドと四男アルフレッドが殺されるが、映画は次男のアルフレッドだけ。たいてい映画の方が死者が増えるものだが。

パディントン発4時50分2

その代わり作り手は、ハロルドが昔兄嫁マルティーヌをレイプしたという過去くっつける。今もルーシーを狙っている、サイテー男にする。ハロルドの妻アリス役ローズ・キーガンは「サンダーバード」に出ていた。アルフレッド役ベン・ダニエルズは「DOOM」に出ていた。ルーシー役のホールデンは、ブロンドでやわらかい感じ。ヒクソン版のルーシーはブルネットでいかつい顔立ちだったから、こっちの方がいい。長女エマ役はニーアム・キューザック。シワが増え、尖った鼻が目立つが、魅力がある。扱いにくい父親や、屋敷の管理に追われ、中年になっても独身。でも一家の主治医クインパーにプロポーズされ、やっと春がめぐってきたところ。他に次女イーディスの夫ブライアンがいる。イーディスは息子アレグザンダーの出産で死亡。ブライアンは戦時中は英雄だったが、今は何をやってもだめ。アレグザンダーの方がよっぽどしっかりしていて、ルーシーとの仲を取り持とうとあの手この手。ブライアン役の人はなかなかのハンサム。原作だと巨大な口ひげ生やしていて、いくらハンサムでも嫌なんだけど、映画はひげなしなので助かった。さて、ルーシーはクラッケンソープ家の霊廟で死体を発見する。当初マルティーヌと思われたが、そのうち違うことがわかる。アレグザンダーの友達のジェームズの母親がマルティーヌだった!死体の主はバレリーナのアナらしい。このバレエ団のマダム何とか役の人は「カレンダー・ガールズ」に出ている。クライマックスは列車の中。エルスペスが見たのと同じ状況作り出すが、二つの列車を緊急停止させるなどやり方が荒っぽすぎる。第一列車が遅れたら並走せず、アウトでしょ。原作でのルーシーは、セドリック、アルフレッド、ブライアン、ハロルド、果てはルーサーにまで言い寄られるが、ラストまで残るのはセドリックとブライアン。さあ彼女はどちらを選ぶのでしょう・・と、気を持たせて終わる。映画はブライアンとキャンベルが残り、ルーシーはキャンベルを選ぶ。ラストは、幸せそうな二人を横目で見ながら、ブルーとピンクの毛糸玉を取り出し、どちらにしようかしらと首を傾げるマープル。ずいぶん気が早いね。対照的なのが結婚の夢が破れて沈むエマ。でも原作と違ってルーサーもセドリックもいい人だから、温かく支えてくれるでしょう。

予告殺人

こちらの映画は「名探偵ポアロ」のオリヴァ夫人役でおなじみのゾーイ・ワナメイカーが出てくるので、もうそれで終わりって感じ。彼女が中心で、彼女が犯人でしょ!まあだいたい原作通りのセリフしゃべってるな・・とは思う。牧師夫妻と、イースターブルックの妻が省略されている。イースターブルックとスウェットナム夫人は、お互い好意を持ち合っているが、彼はアル中なので、夫人の息子エドマンドは反対している。イースターブルック役ロバート・パフは「ポアロ」の「ひらいたトランプ」に出ている。エドマンド役クリスチャン・コールソンはハンサム。フィリッパとの恋は、こちらでは省略される。フィリッパ役キーリー・ホーズは何と「サイコ2001」のイヴォンヌ。あの脱ぎっぷりのいい、奔放な人妻役とはがらりと違う、芯の強い戦争未亡人。がらりと違うと言えば、ジュリア役は「バイオハザード2」のシエンナ・ギロリーだ、びっくり~。パトリック役はマシュー・グード。マーガトロイドはエイミーに変更され、母親がマープルの知り合いということになってる。エイミー役クレア・スキナーは「ポアロ」の「鳩のなかの猫」に、ヒンチ役フランシス・バーバーは同じく「ポアロ」の「複数の時計」に出ていた。このように、「ポアロ」と「ミス・マープル」両方に出ている人は実に多い。クラドック役アレクサンダー・アームストロングは「ザ・サイト」に出ている。金髪でも美男でもなく、こんなのクラドックじゃな~い、もっと美男子出してこ~い・・と、文句言いたくなるが、でもがまんするしかない。マクイーワン版でクラドックが出たのはこの作品だけだと思う。全然出ないよりまし~。あと、ベル・ゲドラー役で「野生のエルザ」のヴァージニア・マッケンナ。さて、最初のうちはほぼ原作に沿っていた展開も、そのうち脱線してくる。作り手は性的な含みを持たせなきゃならないという強迫観念でもあるのか、懲りずに余計な描写くっつける。エドマンドがイースターブルックを嫌うのは、母親を他の男に取られたくないからだ・・つまりマザコンだからだ。それを強調するため、フィリッパとの恋はカット。ヒンチとエイミーは、はっきりレズにしてある。ヒンチは男の格好をするなど、これ見よがし。パトリックとジュリアは、兄妹なのに時々恋人どうしのようにふるまい、近親相姦的ムードを強調する。実はジュリアはエンマで、パトリックとは恋人どうしなのだが、それを知らないレティ(ワナメイカー)は不審に思う。まあ要するに何でもっと節度のある描写をしないのか・・ってことです。

書斎の死体

マープルの友人ドリーとアーサー(ジェームズ・フォックス)のバントリー夫妻。その屋敷の書斎に、若い女性の絞殺死体が・・(息してたけど)。バージル(ベン・ミラー)という男の同棲相手かと思われたが、彼女ダイナは生きていた。そのうち、海辺の高級ホテルのダンサー、ルビーが行方不明だとわかる。いとこのジョージー(メアリー・ストックリー)が確認。彼女は足をくじいたため、ルビーを呼び寄せ、ダンスを代わってもらっていたのだが、昨夜は途中から姿が見えなくなっていた。ルビーは泊り客のジェファーソン(イアン・リチャードソン)に気に入られ、養女にという話も出ていた。こういう老人の大富豪が、若くてきれいで頭空っぽの女に夢中になると、ろくなことにはならない。冒頭ジェファーソンの息子フランクの誕生パーティをやっていて、そこへロケット弾が落ちる(原作では飛行機事故)。生き残ったのは歩けなくなったジェファーソンと、娘ロザモンドの夫マーク、フランクの妻アデレイド(タラ・フィッツジェラルド)。ジェファーソンの妻、フランク、ロザモンドは死んでしまう。ルビーをかわいがったのはロザモンドに似ていたからだが、5万ポンドも残すとなれば、マークやアデレイドには動機が生じる。しかも二人とも結婚時に分けてもらった財産をなくし、破産状態。しかし二人にはアリバイがあった。原作との一番の違いは、犯人がジョージーとマークからジョージーとアデレイドに変更されていること。しかも二人は恋人どうし。キスシーンまで入れる念の入れよう。もちろんクリスティーのファンからは、下品だと怒りの声が・・。私も別にレズが下品だと言うつもりはないが、描き方は他にあったと思う。マープルが手元に置いている写真の主は戦死したのか。たぶんそのせいで彼女は独身を通したのだ・・そういうほんのりした、節度のある描写をファンは望んでいるのだ。ストックリーは「マギンティ夫人は死んだ」に出ていたらしい。最近公開された「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」にも出ているらしい。ミセス・フィッシャー役・・って、原作にはいなかったぞ。フィッツジェラルドは「マン・オブ・ノー・インポータンス」の頃に比べると、太ってがっちりしてきた。リチャードソンは「ダークシティ」のミスター・ブックだ。2007年に亡くなったようで。てっきり不死身だと思ったんだけど(←アホ)。