魔の家

魔の家

DVDを買ったのはジェームズ・ホエールの作品だからだ。DVDは今ではレア物になっているらしい。内容には無関係だが、このDVD・・メニュー画面やスタッフ・キャスト紹介文がおっそろしく読みづらい。テレビの近くに寄って目を凝らさないと、何と書いてあるのかわからない。どこを選択しているのかもわからない。どうしてこんな暗い色にするんだろう。さて・・夜、嵐・・水や泥で難渋する車。今の車と違い雨は完全には防げない。地図はびしょびしょで、ここがどこなのかわからない。運転しているのはフィリップ、助手席にいるのは妻のマーガレット。マーガレットは文句垂れっぱなしで、険悪なムード。そのうち後ろの座席にもう一人いるのがわかる。ペンドレルだ。フィリップ役は「エデンの東」などで知られるレイモンド・マッセイ。まだ若く苦み走った常識人タイプ。ペンドレル役はメルヴィン・ダグラス。こちらは戦争のせいで細かいことは気にしなくなった美男ののん気者。マーガレット役はグロリア・スチュワート。「タイタニック」で知られるが、私は見てない。そのうち崖崩れが起きるが、何とか巻き込まれずにすむ。おまけに人家があるらしく、明かりが見えた。やれうれしやと早速ドアをたたく。やがてドアが細めに開いて恐ろしい顔が浮かび上がる。何とか頼んで中へ入れてもらい、暖炉の火にホッとする三人。召使らしい怪人は口がきけず、うなり声だけ。そのうちこの屋敷の主人らしい男が下りてきてホレス・フェムと名乗る。上々の滑り出しだ。最悪だった車の中、その狭苦しい空間からの解放。しかし事態が好転したと言えるのか。車の中にいた方がまだマシだったのではないか。ホレスの姉レベッカも出てくるが、こちらは耳の遠い無愛想な婆さん。召使・・執事のモーガン役はボリス・カーロフ。彼の特殊メイクと、登場シーンはさぞお客を期待させたことだろう。前年の「フランケンシュタイン」によって、彼のイメージはほぼ固まった。お客は彼を見たくて足を運ぶ。作り手もメイクやうつし方に工夫を凝らす。素顔で登場したり、セリフしゃべらせたりなんかしない。イメージが壊れる。お客はそんなの見たくない。ホレスを演じているのは「フランケンシュタインの花嫁」でプレトリアスをやることとなるアーネスト・セジガー。ガイコツを思わせるメイクは、白黒映画ならではだろう。

魔の家2

品があると言うより、気取った感じのしぐさやしゃべり方が独特で、特に食事の時のポテトの発音・・ポティトゥが耳に残る。ホレスは客が来たのを喜んでいるように見えるが、レベッカは違う。明らかに迷惑そう。渋々泊めることに同意するが、「ベッドはないよ!」と、何度もくり返す。三人は明らかに都会者で、悪気はないものの、ややずうずうしいところも。レベッカにすれば彼らに提供する食物さえ予定外で、いまいましく思えたことだろう。後から考えるとそれ以外にもよそ者に入り込まれたくない理由はあったんだけど。マーガレットは着替えをしたいと、レベッカに別室に案内してもらう。その部屋は21で死んだ妹レイチェルの部屋らしい。昔父も兄弟も女を連れ込んだなどと話す。彼女は信仰に凝り固まっている。若い女も男どももみんな罪深い存在なのだ。だから肌を露出したマーガレットのドレスも気に食わない。マーガレットからするとレベッカの方こそ異常で薄気味悪い存在。若くて美しい自分が着飾るのは当然だし、称賛されたい。年を取って醜くなることなど考えられないし、考えたくもない。この部屋の鏡は一部ゆがんでいて、怪奇ムードをあおっている。一人になるとそれでも動揺したのか窓を開けるが、とたんに風や雨が吹き込んでくる。あわてて閉めようとするが閉まらない。どうするか。ほうっておく!!マーガレットは何事もなかったように戻り、男どもは目を瞠る。この映画で一番胸糞の悪いシーンだ。あの後部屋は雨風のせいでとんでもないことになったはず。後で気づいたレベッカに怒られてもあやまらない。何で一言窓が閉まらなくなっちゃったんですって言わないの?何ですまして食事始めるの?食事のシーンではレベッカの食べ方が印象的。ホレスはローストビーフを切り、レベッカはパンを切る。付け合わせはゆでたポティトゥ。ビネガーが回される。レベッカがいくつも取っていた小さな丸いものは何だろう。小玉ねぎのピクルスか。彼女は食欲旺盛で、会話はせずガツガツと食べる。食前にはホレスはジンをふるまっていたが、食事中は酒はなく、水だけのようだ。モーガンが給仕する。途中、ドアをたたく音がする。また誰か来たらしい。陽気でおしゃべりな太っちょポーターハウスと、若い女性パーキンス。ポーターハウス役はまだ若いチャールズ・ロートン。何となく落語家にこういうのいそう。

魔の家3

パーキンスは歌手の卵で、演じているのはリリアン・ボンド。はすっぱな感じなので、レベッカがにらみつける。彼女にとっては厄日だ。しかもこれからもっと悪くなるんだけど。食後みんなしてタバコをくゆらせ、くつろぐ。ホレスは私は犯罪者とほのめかすが、誰も話に乗ってこない。ここはちょっと不自然に思える。その後はポーターハウスの打ち明け話になってしまう。彼は愛する妻を心労で亡くし、その後はまわりを見返すため金儲けに励む。と言って一人ぼっちはさびしいので、パーキンスのような若くて元気のいいのをそばに置く。さて、ネットで調べるとこの映画はホラー・コメディーになっている。え?コメディー?とびっくりする。でも、モーガンの登場シーンを除き、怖いシーンはほとんどないのだ。おまけに陽気でおしゃべりなポーターハウスとペンドレル。そりゃ、マーガレットに妙な視線向けるモーガンはいる。しかし彼が何を考えているのかはわからない。彼は酒を飲むと狂暴になるらしい。しかも今夜は給仕がすむと台所で酒を飲み始めた。そのうち嵐のせいで電気が消えてしまった。いつもならモーガンが直すが、酔っ払っていたのではそれも無理。階上にランプが置いてあると言いつつ、ホレスは行くのをいやがる。無理について行くフィリップ。ここらへんで階上に何やら秘密があるらしいことがわかる。今までは階下でひとところに集まっていたのが、あちこちにばらけ始める。階段の上と下とか。酔ったモーガンにマーガレットが襲われたりするが、理由が不明なので怖くも何ともない。当時のお客にとっては金髪の美女と恐ろしい野獣というだけで十分だったのだろうが。階上には鍵がかかっていて、ドアの前に夕食らしい皿の置かれた部屋がある。別の部屋にはおそろしく年を取った老人がベッドに横たわっていた。レベッカが話していた、102歳になる父親ロドリックだ(ただし演じているのは女性)。彼は自分以外は皆気が変とか、一番上の息子サウルが特に危険だとか、モーガンが監視してるとか話す。もっともロドリック自身正常かどうか怪しいものだが。とにかくあの鍵のかかった部屋にはサウルがいるのだ。火をつけるのが好きで、前にも一度やったことのあるのが。狂人、幽閉、放火と言うと、「ジェイン・エア」のバーサを思い出す。監視役には体が頑丈で、口の堅い者・・こちらではモーガン、あちらではグレイス・プール。飲酒が弱点というのまで共通している。

魔の家4

一方ペンドレルとパーキンスは納屋へウィスキーを取りに行き、そのまま話し込む。お互い会ったとたん引かれた。でもペンドレルにすればポーターハウスとの関係が気になる。でも、パーキンスはポーターハウスを愛してはいない。お金が目的で一緒にいるだけ。また、ポーターハウスが孤独なことには同情している。男女関係はなく、ただの友達関係。それを聞いて安心するペンドレル。夜が明けたら彼女にプロポーズだ!ポーターハウスと違い彼にはお金がないが、そんなことは問題じゃないのだ。何て健全なのだ!どこがホラー映画なんだ!暴れたり気絶したり何だかよくわからないモーガンに代わり、クライマックスではサウル(ブレンバー・ウィリス)が登場する。見る人によって、この映画はモーガンのおかげで怖い、いやサウルのおかげで・・と意見が分かれるが、私はサウル派。最初手首から先だけ見せる。後から考えるとこの手が放火をしたり、ナイフをもてあそんだり、首を絞めたりいろいろ悪事を働くわけだ。レ・ファニュの「白い手の怪」じゃないけど、見ている人の目にこの手が焼きつく。サウルと対決するのはペンドレル。最初は彼のこと被害者だと思っている。サウルは見たところ小柄で、顔立ちは整っている。臆病そうで、凶悪とはほど遠い。しかしすぐ異常さがわかってくる。表情が変わってくる。カーテンに火をつけて喜ぶ。止めようとするペンドレルと格闘になるが、小柄なのに力が強い。ぴょんと猿のように絡みついてくる気持ちの悪さ。ペンドレルと組み合ったまま階下へ転落する。台所に閉じ込められていたモーガンは、厚い扉を壊して飛び込んでくる。サウルの死体に気づき、悲しむ。死体を抱き上げ、そのまま階上へ消える。以後出てこない。それにしても・・モーガンはなぜサウルを部屋から出したのだろう?パーキンスはペンドレルが生きていたので喜ぶ。たぶん転落した時、サウルがクッション代わりになったのだろう。朝・・嵐はやんでいる。フィリップ達は車で出発し、ペンドレルとパーキンス、ポーターハウスの三人はここに残って救急車を待つ。おっと、プロポーズもするんだった。レベッカとホレスからすると兄が亡くなったわけだが、全く触れられない。朝、太陽、出発、プロポーズ・・といったハッピーエンド的品揃えで映画は終わる。夜の間のあれこれはまるでなかったかのようでモヤモヤ感が残る。ネットで見るとほめてる人ばっかだけどね。