マネキン

マネキン

マネキンに恋をしてしまうというストーリーは、一歩間違えれば変態映画になってしまうけど、主演がアンドリュー・マッカーシー。画面にうつっただけでとろーりと蜜が垂れそうなあま~い顔立ち。ケーキの上に飾るお砂糖で作った人形みたいに甘くて端正。彼ならいくらマネキンに目を輝かせようが甘い言葉をささやこうが変態には見えない。純情なお坊ちゃま、応援してあげたくなる。人間に変身するエミー役キム・キャトラルがまたチャーミングだ。頬や口のあたりがミシェル・ファイファーに似ていて、表情にカゲがある。ちょっとお姉様ぽい雰囲気。アンドリュー扮するジョナサンは小柄で若々しいので、エミーは年齢的には20歳くらいでちょうどいいのだが、それだと両方若すぎて浮わついた感じになる。だからちょっとお姉様風でリードする感じのキムで釣り合いが取れる。あまりいやらしくせず、全体的に健全ムード。いちおう冒頭に古代エジプトのおバカシーンをくっつけ、いろいろ歴史を経験した後ジョナサンの作ったマネキンに魂が宿るというふうにしてある。オタク青年が自分の作ったマネキンに恋をしてしまうという変態ムードを和らげる。マネキンがエミーの顔をしているのも、ジョナサンが恋してしまうのもみんな運命なのさッ!出てくる人がみんな変人なので、ジョナサンとエミーの関係も普通に見えてしまう。さてこういうのによく出てくるのがオカマキャラ。自分が一般の人と違っているって承知しているので、はみ出し者のジョナサンともすぐ仲良くなれる。黒人のオカマ、ハリウッドはしゃべり方やしぐさでいろいろ笑わせてくれる。エミーの助けで、失業中だったジョナサンはプリンスデパートの在庫係に、さらにショーウインドー担当にと出世する。デコレーターのハリウッドは先を越されたわけだが、やっかみもせずマイペース。彼のかけているサングラスはよく見るといろいろ奇抜な形をしている。ジョナサンが飾りつけるショーウインドーも奇抜。もっとよく見せて欲しいくらいだ。経営不振だったプリンスは、ジョナサンのおかげで大繁盛。商売敵のイラストラデパートは、プリンスを安値で買い取り、合併するつもりだったのに当てがはずれる。ジョナサンの恋人ロキシーはイラストラの職員だが、エミーと出会ったジョナサンはもうロキシーには興味なし。このロキシー役の人はなかなかの美女。いろんな男に言い寄られるのがおかしい。

マネキン2

クライマックスではエミーも含め、マネキンを破壊しようとするのだが、悪役なのに憎めない。プリンスの部長でありながら、プリンスをつぶそうと裏工作しているのがジェームズ・スペイダー扮するリチャーズ。映画を見終わった時、印象に残っているのはアンドリューとキムだろう。何気なく見ているとスペイダーのことは忘れてしまう。現に私も「スーパーノヴァ」や「ザ・ウォッチャー」でスペイダーのファンになり、「マネキン」を見直すまで、リチャーズのことは完全に忘れていた。白い肌、いきいきと輝くグリーンの瞳、赤い唇・・アンドリューは見ているこちらが気恥ずかしくなるほど若くて甘い。演技もそれなり。こういうキャラはひねりようがない。裏表がなく直球ストレート。軽くてノーテンキ、うすっぺら。エミーに振り回されていればいい。この役ならそう演じなくちゃならない。ジョナサンのキャラが単純なのにくらべ、リチャーズは複雑である。裏表がある。変化球、クセ玉。無能だが何とかとりつくろっている。親切ヅラして裏では裏切る。正直、信義とは無縁。誰も好きにならないし、好かれようとも思わない。愛しているのは自分だけ。だから見てくれには気を配る。髪は一本のおくれ毛も許さない。分け目きっちり、ぺったりなでつけ、まるで滑らかなミルクチョコレートか飴細工。逆さにして振っても乱れない(たぶん)。それでも時には乱れることもある。走りながらツバで髪をなでつけるシーンには本当に感心した。しかも走り方も、腿をくっつけて走るような感じ。時代劇の腰元か町娘みたい。スソを乱しちゃいけないわ走り。見ていて何となく女性っぽい。いつも肩を丸め、メガネに手をやり、目を丸く見張り、口をすぼめる。肌が白くてすべすべなのはアンドリューと同じだけど、若さや甘さを別の方向に向けている。二人とも同じタイプ・路線演じたのでは芸がない。またいくら演技がうまいと言っても、リチャーズがジョナサンより目立ったのでは映画のバランスが崩れる。スペイダーはコミカルさや憎たらしさを十分発揮しながらも、一歩引いたポジションにいる。彼ばかりが目立ち、彼ばかり印象に残るのではなく、見ている間は大いに笑わせ、見終わると忘れられる。でもしばらくして見直してみると、彼に注意して見ていると、実に緻密に計算された演技をしていることに驚く。・・ちょっとほめすぎかな。

マネキン3

でも私はそう思う。悪役なのにリチャーズが気にかかるのは、彼みたいな人が実際いるからである。若くてハンサムで身ぎれいで、大学出てそれなりの地位や肩書き持っていて、それでいてどうしようもなく無能な人。人間性が一部欠落しているような人。常識が全く通用せず、自分独自の基準で行動する人。・・つまり自己チュー。いるでしょ?そういうの。こんな人そばにいて欲しくないしこっちから近づく気もない。こんな人のために自分の人生ムダにしたくない。それでいて何とも気の毒な気もする。リチャーズを見ていて感じるのも気の毒とか哀れとかいうこと。全然憎たらしくないの。脇役では他に夜警のフィリックス(G・W・ベイリー)が笑わせてくれる。「ポリス・アカデミー」シリーズのハリス教官役の人だ。犬を連れて見回るのだが、ブルドッグの「ランボー」、シェパードの「ターミネーター」、獰猛そうに見えていずれも弱虫なのがお約束。このフィリックスがまたどうしようもなく無能でトンチンカンな男。リチャーズといいコンビ。二人ともさんざんな目に会う。ストーリーはありえないふうで始まり、都合よく進む。善人はむくわれ、悪人はこらしめられるけどちっとも憎たらしくなく滑稽。ノリノリの軽快な曲が流れ、舞台のほとんどはデパートの中だからきれいなものがいっぱいある。夜警が一人?宝石売り場に警報装置なし?・・など、すべてがいいかげんだけど、まあ気にせず楽しめばいい。ラストシーンは夢があってハッピー、とっても感じがいい。人間になれたエミーはジョナサンと結婚する。式はショーウインドーの中で。お客が見守る中で。みんなしてマネキンみたいに突っ立っていて、それから動き出す。花嫁の投げたブーケをキャッチするのがハリウッドというのもお約束のギャグ。キムも美しいが、アンドリューの屈託のない笑顔がすばらしい。一点のくもりもなく晴れやかで、人のよさまる出し。ああ・・若いっていいな、人を愛するっていいな・・ピカピカ輝いている。かかっている曲(「愛はとまらない」)もいいし。とにかく明るく楽しく夢のある、見ていて元気のもらえるロマンチックコメディーですよ!さて・・アカデミー賞が発表されたけど、受賞した人の多くは「夢は必ずかなう」とスピーチしていましたな。夢が全然かなわない老ピーター・オトゥールが目の前にいるのが何とも皮肉でした。