マイアミ・バイス

マイアミ・バイス

マイケル・マンと言えば「コラテラル」。のっけから「マイアミ・バイス」も騒々しいクラブでのシーン。「コラテラル」みたいに撃ち合いが始まるのかと思ったら違った。いきなりコリン・ファレルとジェイミー・フォックス登場するからてっきり・・。ところでこういう場所には絶対行きたくないよな。立錐の余地もないほどひしめき合い、大音響で音楽が流される。外で世界が滅びていてもきっと気がつかない。何も考えず人々は踊り狂っている。ああやっていれば悩みや問題があっても考えずにいられる。実は映画を見ていた時地震があった。避難するほどじゃないけど。平日の午前中でお客は15~20人くらい。私の席は入口のすぐ近くだから何かあってもすぐ逃げ出せる。映画を見つつも頭の中でそれらを確認していたけど、ああいう混雑したクラブではどうなのかな。地震が起きたら・・火事になったら・・「コラテラル」みたいに撃ち合いが始まったら・・きっと大混乱に陥るんだろうな。ああいうところに自分の身を置くことを危険と感じないんだろうか。でも踊り狂っていて何も感じないんだろうな。考えなくてすむから来ているんだろうな。・・そしてそんなクラブの中では、今おとり捜査が始まったところだ。誰もまわりを気にしないからこそ捜査ができる。ソニー(コリン・ファレル)やリコ(ジェイミー・フォックス)が刑事だってのはわかるけど、まわりで何かやってるのが仲間だとは最初は気がつかなかった。はみ出し刑事コンビの話かと思ったらチームのようで・・。テレビ版は現在テレビ東京で放映中だが見たことなし。悪役かと思った男も実は刑事で・・(わけわからん)。そこへアロンゾという情報屋から電話が入って作戦は急遽中止。ここまでこぎつけるの大変だったと思うけど、いとも簡単に中止。あのおとり役の人どうなったの?しかしウヤムヤのまま、以後この件は忘れ去られます。アロンゾ役の人は「アイデンティティー」で「モーテルの主人なりすまし男」やった人。何か情報が大量にもれて、麻薬の潜入捜査やってたFBIが、正体ばれて殺される。情報を流しているのは誰なのか、それを突きとめるため、面の割れてないソニーとリコが運び屋として潜入することに。映画のメインはこの捜査なんだけど、まあいろんなピンチに見舞われるものの、何とか切り抜けて組織を信用させ、ブツをマイアミへ運ぶこととなる。

マイアミ・バイス2

リコはニセの情報をFBIやら港湾警察やらに少しずつ内容を変えて流し、どこが反応するか見る。その結果FBIに内通者がいることがわかる。よっしゃー事件解明に向け、内通者の正体をあばくのか・・と思ったら、ウヤムヤのままこの件は忘れ去られます。おいおい・・そもそもの事件の発端がそれじゃん。アロンゾの死もそのせいだし、潜入引き受けたのもそのせい。船でマイアミへ向かう途中チームの一人ジーナが言う。「私達何を運んでいるの?」えッ麻薬じゃないの?でも船だから全部麻薬じゃないよな、他のブツ何なんでしょ、私も知りたいでーす。でも・・忘れ去られます。荷物の一部警察だか何だかに渡していたけどあれが麻薬?他の荷物は?結局よくわからないまま。教えてくれない(ケチ)。何かストーリーおかしくない?バッサバサ切り捨てられて、後は振り向きもしない。それでいてソニーと、謎の女イザべラ(コン・リー)とのかかわりは、これでもかというくらい描かれる。何でこんなのに重点置くの?こういうのほどバッサリ切って、ハードボイルドタッチにして欲しかったんだけど。彼女は自分ではビジネスウーマンだと言っているけど、麻薬密売組織のボス、モントーヤの近くにいて、いろいろ知ってるはず。捜査に役立つこと間違いなし。ところがその貴重な証人を、ソニーは国外(キューバ)に逃がしちゃうんですよ。「かってに」「こっそり」「独断で」・・。愛しているなら、美人なら、何やっても許されるのかよッ!犯罪アクション、ビシバシ決めるぜ、男くささぷんぷーん、男による男のための男の映画・・そう思って見にきたんですけど違いましたわ。男は美女に弱いというアホくさバカくさ古くさ映画でした。ロマンスに比重かかりすぎ、ムダに時間長くなり、せっかくの張り詰めたムードがふにゃふにゃ。女々しい映画になってしまった。まあ崖っぷちでかろうじて踏みとどまってはいるけどさ。そもそも何でコン・リーなのかな。この映画にはいろんな人種が出てくる。白人(ったっていろいろだけどさロシア系とか)、黒人(ったって肌の色いろいろだけどさ。リコとトルーディのラブシーンは、肌の色の比較をするがごとくうつされる)、中南米系、アジア系。・・で、アジア系代表コン・リーは重要な役だし、演技ヘタってわけでもないし、スタイルいいし英語しゃべれる。でも・・他の人はどうだか知らないけど、私的にはダメでしたな。

マイアミ・バイス3

彼女には華がない。じっと耐え忍ぶ役が似合う。日陰に咲く花のような・・。普段はぶすっとした感じ、でも笑うと何とも可憐でかわいらしい顔になる。でもやっぱりさびしそうで薄幸そうで、ハッピーエンドはムリだぜい・・って感じ。顔の作りがそうなんだからイザベラは暗く、映画まで暗くなる。その一方での情熱のほとばしり・・を描きたかったんだろうけど成功しているとは思えない。「トム・ヤム・クン!」に出ていた性転換美女の方がよっぽど適役だと思いながら見ていた。彼女(彼?)の方がよっぽど美人だし妖艶でゴージャスでしかもいかがわしさぷんぷん。成り上がり感、自分の望むものは何としてでも手に入れるという貪欲さ、それらが熱帯のマイアミやキューバ、人種ごたまぜ、犯罪だらけの世界にはぴったりだ。コン・リーが出てくるととたんに雪でも降りそうな雰囲気になる。彼女の思いつめた顔がアップになる度に「ヒマラヤ杉に降る雪」ムード。有能なビジネスウーマンで、世界中飛び回っているという感じしない。畑(コーリャン畑とかさ)でも耕していそう。さて、主演の二人だが適役である。コリンは長めの髪、太い眉、ヒゲなど、いつも以上に濃い。いろんなもので目が埋もれている。しかも元々目は大きい方じゃない。普通ならはっきりしないぼやけた印象の顔になるところだが、目に力があるのでそうならない。目が力を発している。にらみつけるとかぎょろりと目をむくんじゃない(そこがザ・ロック様とは違うんだけど・・って何のこっちゃ)。相手に視線据えてしゃべると異様な迫力があるのだ。これって彼の特徴だと思う。目や声で威圧することができるのだ。パンフによればソニーはプレイボーイらしい。それがイザベラに会って初めて本気になり・・ってことらしい。しかし映画ではプレイボーイぶりが省略されているので、初めて本気になり・・なんていう感じはしない。どちらかと言うと禁欲的な感じに見える。リコの方はチームの一員トルーディと熱愛中だが、仲間うちでのそういう関係っていいんですか?普通の警官以上に危険な仕事、愛する人が任務中ピンチに陥ったら判断狂うのでは?チームワーク乱れるのでは?熱い血がたぎっているようなソニーに対し、リコは冷静。フォックスはこういう役が似合う。映画はソニーとイザベラ(のいちゃいちゃ)に時間割くので、リコのカゲはうすくなっている。でもリコはちゃんと仕事こなしていく。

マイアミ・バイス4

ソニーが脱線していてもリコが踏みとどまっているから、我々は安心して見ていることができる。我々の関心はソニーのロマンスの行方ではなく(立場から言って二人が結ばれることはありえない)、事件の解決である。それでなくても長い(2時間12分)から見ていて疲れてくる。リコが出てきてストーリーが進み始めるとホッとする。ロマンス部分では時間止まってますから。他の出演者ではジーナ役の人がよかった。てきぱきしていて勇敢。悪役側ではイエロ役のジョン・オーティス。ジェイク・ギレンホールの中南米版・・という感じ。イエロは密かにイザベラに恋していたのか。ソニーとイザベラが佐渡おけさ・・じゃない、サルサを踊るのを隠しどりしながら、目に涙を浮かべる。報われぬ恋・・って感じで印象的でしたな。ソニー達の上司カステロ役の人は「コラテラル」「ターミナル」にも出てた。さて、私がこの映画見に行く気になったのは、予告編で流れた曲がカッコよかったから。映画の冒頭のクラブのシーンでこの曲が早速流れ、コリンやフォックスがうつったので、早いなあ・・でもこの曲が言わば二人のテーマ曲として何度も使われるのかも・・と期待したんだけど・・違いましたわ。以後忘れ去られましたわ残念何でやねん。ここまで書いてきたように、この映画にはいくつか失望させるものがあって、名作だとか傑作だとかそういうふうには思わない。でも娯楽作品としては十分満足できる出来。スケールのでかさがはんぱじゃなく伝わってくる。あちこちロケしている。ちゃっちいCGでごまかしたりせず、どーんと惜しげもなく本物を見せてくれる。ただ一つケチって見せてくれなかったものありますけど(コン・リーのヌード)。いや別に見せてくれなくてもいいですけどさ。しかもシネマスコープ・サイズでゆったりと、画面の隅っこまで手を抜かず、充実した映像見せてくれる。製作費2億ドルかけたとパンフには書いてある(IMDbでは1億3500万ドルとある)が、こっちが心配になるほどの大盤ぶるまい。「コラテラル」同様美しく鮮明な夜のシーン。加えて今回はマイアミが舞台ということで、海を始め自然が出てくる。疾走するボート、見渡す限り何もない大海原。レーダーにうつらないよう超低空飛行する飛行機。他の機の下に隠れたり。文明の利器の落とし穴。計器飛行故に見つからないのか。

マイアミ・バイス5

わき上がる巨大な雲・・まあとにかくきれいで雄大で、実写だからリアル。もう一つはんぱじゃなかったのがクライマックスの銃撃戦。今までだと「スズメバチ」とか「ブルー・レクイエム」見てすごいなーって思ったけど、今回はそれ以上。何か音が違う。重い感じだったりパラパラという感じだったりいろいろ。スクリーンの上での出来事なのに、臨場感がはんぱじゃない。何か自分がそこにいて釘づけにされていて、銃弾のあふりまで感じるような・・そんな迫力。こういうのはテレビで体感するのムリ。音響設備のいい映画館で見てこそ。爆発シーンも迫力あるけど、私はこの銃撃シーンの方が強く印象に残った。敵なのか味方なのか何がどうなっているのかよくわかんないんだけど、そこがまたリアルで。このシーンだけで「見にきてよかった!」と思いましたぜ。さて最初の方はなぜか画面がゆれていて、とてもいやだった。ゆらす必要ないのにわざとゆらし、見づらくしている。ゆらすのはダルデンヌ兄弟だけでたくさんだ!あんた達もカンヌ狙ってるのかよッ!・・と心の中で毒づいていましたな。まあ後半はそんなでもなかったけど(ゆらすのやめたのか目が慣れてきたのかそこらへんわからん)。手など体の一部のクローズアップもやたら多かったな。リコのラブシーン、ソニーのラブシーン、何手にこだわってんの?って感じ。テンポ悪くて必要以上に長くて停滞感感じた。風景のうつし方はよかったのになあ・・。まあとにかくこの顔ぶれで「2」も作って欲しい。ヒロインはコン・リーのようなしょぼくれた(顔立ちやイメージがですよモチ。演技はうまいです)タイプじゃなくて、ボリュームのあるゴージャスなタイプでひとつお願いしますぜ。カジノのシーン設定して叶姉妹の登場なんていかがでしょう。ぴったりだと思うんですけど。・・でもムリかな、大金かけたけど思ったほどヒットしなかったからなあ(興行収入6000万ドル代だからはっきり言ってコケたってことよね)。余談だけどパンフによればコン・リーは「ヤング・ハンニバル」という作品に出演するらしい。ハンニバルってカルタゴの?なんて思ったらハンニバル・レクターの若き日らしいオヨヨ。ギャスパー・ウリエルがレクター役で、他に知ってるのは「フォーガットン」に出ていたドミニク・ウェストくらいか。コン・リーの役はレディー・ムラサキになってるけど何じゃそりゃ。日本人?