松本清張ドラマ

顔(2009 NHK)

「証言」のついでに見た。昭和31年の東京、映画の最盛期。白楊座の井野(谷原章介氏)は、石井監督の映画に端役で出ることになった。芝居と違い映画は全国の人が見るし、お金も入ってくる。本来ならうれしいことなのだが・・。でき上がった映画・・自分は数カットしかうつっていない、これなら大丈夫。しかし監督に気に入られ、次の映画ではもっと重要な役を・・。昭和22年、井野は堕胎を拒むミヤ子(原田夏希さん)を絞殺した。彼女との関係は誰にも知られていないが、目的地へ向かう列車の中でミヤ子は知り合いの石岡(高橋和也氏)を見かけ、声をかけた。あの時ミヤ子の隣りに座っていた自分の顔を石岡は覚えているのではないか。彼は九州に住んでいるし、自分は東京。それに俳優という仕事とは言え、芝居なら都内の客だけ。今までは少しは安心していられたけど・・。井野には次々に幸運が舞い込む。名声とお金を手にしたい。その一方でますます不安はつのる。こうなったら石岡を殺すしかない。手紙で彼を呼び出そう。場所は東京と九州の中間、京都がいい。会う時は変装し、スキを見て毒を飲ませ・・。ここらへんまで見てあれ?と思った。もしかして原作読んだことあるかも・・と、調べてみると、あった。文庫の短編集「張り込み」の中の一つだ。石岡のことは「目のぎょろりとした男」と書いてある。高橋氏の目もぎょろっとしている。さて、ミヤ子殺しは迷宮入りになっていたけど、石岡が刑事の田村(大地康夫氏)に相談したことから事態が動き出す。あの時石岡も田村にさんざん聞かれたけど、容疑者らしい男の顔は思い出せなかった。今回だって自信はない。要するに井野はやらなくてもいいことをやってしまったわけ。でも強迫観念から逃れるため行動を起こしてしまった。結局石岡は素顔の井野を見ても何も思い出さなかった。井野は自信を持ち、不安も消え、映画の仕事に打ち込む。公開された映画のあるシーンを見た石岡は、たちまち記憶が戻る。原作はここまでだが、驚いたことにこちらはその後も延々と続く。この付け足し部分はあまりよくない。どうしても言い訳めいた描写が多くなるからだ。看板女優葉山(原田夏希さん二役)は原作には出て来ない。谷原氏や原田さんが大きな口を開けるシーンが多いので、「顔」と言うより「口」でしたな。