もしも昨日が選べたら
パンフによれば、絶好調だったアダム・サンドラーは「リトル★ニッキー」で大失敗し、路線を変更したのだそうな。その後また調子を取り戻し、この作品も1億ドルをはるかに越える大ヒット。いやめでたいことで。しかし・・日本ではさっぱりなんじゃないの?公開一週目の平日午前のシネコン・・お客は二組のカップルと私だけ、つまり五人。一週目に行ったのは、どうせすぐ回数減らされ、隅っこに追いやられるって予想つくから。そもそも今回はサンドラーではなく、クリストファー・ウォーケン目当て。もちろんサンドラーも好きだけど、最近では御無沙汰している。一番最初に見たのは「ウェデイング・シンガー」で、とっても感じのいいかわいらしい映画。次が「ウォーターボーイ」で、私はここでの無邪気キャラのサンドラーが一番好きかも。その次が問題の「リトル★ニッキー」。「モンキーボーン」みたいな感じで、ニッキーのキャラも好きだけど、最初から最後まで顔をゆがめているのがいやだった。それさえなきゃもっと好きになった。「Mr.ディーズ」はあんまりよくなくて、以後の作品見ていない。今回は・・何と言うか、お金のかかった大人のお遊び映画という感じ。仕事一筋で家庭を顧みない主人公マイケルが、面倒なことは早送りできる万能リモコンを手に入れ、人生すっとばして出世するが、気がついてみれば失ったものも多く、後悔しても死はすぐそこに・・。ドタバタコメディー、SFファンタジーの形を取っているが、子供には見せられない下ネタもいっぱい。その下品さには正直言って時々嫌気がさした。ところが後半思いがけない展開を見せる。泣かせどころが二ヶ所あり、これでもかという感じで迫られる。父親の死と自分の死。くだらない下ネタに笑うのも、身内の死に涙するのも、同じ人生の一コマである。何がやりきれないって、自分の親の老いや死ほどやりきれないものはない。自分が年を取っていくのは仕方のないことだとあきらめもつくが、親の老いや死は辛い。マイケルは人生を早送りしているうちに、父親が亡くなったことを知る。最後に会った時の様子を巻き戻し再生するが、そこでの自分は仕事に没頭し、父親を邪魔者扱いしていた。老いてさびしそうな父親を、さらに打ちのめすような言葉を投げつける。早送り中のマイケルはリモコンに自動操縦され、心がないのだ。
もしも昨日が選べたら2
そんな息子にも父親は「愛してるよ」と言葉をかける。くーッ泣けるぜ!リモコンでは巻き戻して再生して見ることはできても、その時に戻ってやり直すことはできない。いくらマイケルが自分の態度を後悔しても父親は生き返らない。彼の人生はすでにリモコンに支配され、今度は自分が死の床にいる。心のないマイケルに愛想をつかし、別の男性と再婚したドナも、ろくに面倒見なかった二人の子供も、暖かく彼を見守る。家族のきずなが強調され、またまた涙腺攻撃。ずっと結束していたのではなく、心が離れていた時の方が多いのに、やっぱりどこかではつながっていたのだという・・。最初の10分でオチがわかってしまうと書いている人もいるが、うすうす感じながらもついつい乗せられホロリとさせられる・・みたいな。私には特に父親とのエピソードが心にしみましたな。出演者はドナ役がケイト・ベッキンセール。考えてみれば、私は「アンダーワールド」二作品でのケイトしか見たことない。つまりヴァンパイアでない普通の人間役のケイト見るの初めてってこと。ドナは別にケイトでなくてもいいと思う。それでいて彼女はこの役にぴったりだ。きれいでスタイルがよく、明るくて健康的。家族を愛するやさしく大らかな女性。ケイトのかちっとした魅力的な姿(開放的でありながら同時に保守的)見ながら、「奥様は魔女」のエリザベス・モンゴメリー思い出していた。ケイトはああいう役が似合うと思うな。父親テッド役はヘンリー・ウィンクラー。彼は「ウォーターボーイ」に出ていた。子役二人はとってもかわいいが、成長するにつれ他の俳優にバトンタッチ。ジャック・ニコルソンの娘とダスティン・ホフマンの息子が出ているというので、最初は「えッ、あの年寄りにこんな小さい子供が!?」ってびっくりしたけど勘違い。成長した子供の方演じていたのね。特に息子役ジェイク・ホフマンは、オヤジよりずーっとハンサム。マイケルの上司エイマーはデヴィッド・ハッセルホフ。どこかで見たような人だが、テレビの「ナイトライダー」に出ていたらしい。私は見たことないけど、雑誌で写真でも見たのだろう。ドナの再婚相手がショーン・アスティン。マイケルにリモコンをくれる謎めいた人物モーティがウォーケン。もっとマッドネスな感じかな・・と思っていたらわりとまともだった。登場した時にはかなりキていたのに・・。
もしも昨日が選べたら3
でも突然現われるところとか、地味なギャグでもこの人がやると何だか楽しい。さてこの映画では時間が重要な要素の一つで、早送りされるマイケルの人生が現実なのか悪夢なのかという疑問がずっとつきまとう。勘のいい人は10分でわかるし、ストーリーに引き込まれた人はマイケルの運命やいかに・・と心配するわけだ。私自身はモーティに注目していた。つまりマイケルを始め、登場人物はどんどん年を取っていくが、モーティはどうなのかということ。彼が普通の人間なら彼も同じに年を取っていくはずだ。まあ彼はエキセントリックで、年月にはあんまり影響されないタイプなので、老けていってるのかどうかあんまりよくわからなかったんだけどさ。出てきた時から老けているようないないような。他にリモコンの声がジェームズ・アール・ジョーンズ、プリンスハビブーがロブ・シュナイダー。この二人はクレジットされておらず、ジョーンズの方はセリフで名前が出てくるからわかったけど、シュナイダーの方はメイクのせいで全然わからなかった。目の感じとかどこかで見たような・・と思うのだが、まああそこまで変えてしまったのでは見破るのはムリ。彼は「ウォーターボーイ」にも出ている。他に印象に残ったのはちょっとゲイっぽい店員だかお客、車の中で歌っていてマイケルに音声を消されてしまう黒人男性(顔がおかしい)、それとマイケルの秘書。いつもおどおどしていて、いちいち「トイレに行く許可をください」というメモをマイケルに渡すのがおかしい。この女性は後に性転換して男性になるのだが、ここらへんはやりすぎで見ていてしらける。まあとにかくお金のかかった大人のお遊び映画。人間の下品さだけでは足りなくて、犬を使ってまで下品な笑いを取る。子供の無邪気さを描く一方、隣家のケヴィンという子供のいやな面を見せつける。それをまたマイケルが(諭すのではなく)大人であることの優位を利用していじめることで笑いを取る。会社ではエイマーがセクハラについての講習会を開くが、どう見てもおちょくっているとしか思えない。秘書の性転換もそう。上からの押しつけ(いいことであれ悪いことであれ)を嫌い、禁止されていること(タバコ・ジャンクフード・汚い言葉など)は何でもやってやれみたいな悪ガキ精神。やってみたくてもできないことをサンドラーが全部映画の中でやってくれて、それを見てスカッとする・・みたいな。
もしも昨日が選べたら4
ただ全部がそうなのではなく、親が子供を思う気持ち、子供が親を思う気持ちもちゃんと描く。妻への気持ちももちろんなんだけど、そこはさらっと控えめにしてドロドロは描かない。で、これらきれい汚いを全部ひっくるめて、それが人生なのだと・・。だからドタバタコメディーに見えて実は奥が深いんだけど、あんまりほじくるのはかえってヤボ。笑って泣いて元気になれればそれでよしという軽い気持ちで見た方がいい。キレのいい音楽、お金と手間のかかった贅沢なファンタジー。それでいて下品でセコイギャグ。一番おかしかったのは、超肥満から脂肪吸引手術で急激にやせたマイケルが、おなかの皮があまってたるんでいるのを持ってピタピタあおぐところ。あんまりやるのでドナが「やめてくれる?」と怒る。あと注射されそうになって「あッコリン・ファレル」「えッどこ?」と相手の気をそらすギャグもおかしかった。日本だったら「あッお金が落ちてる」とか「あッ空飛ぶ円盤」とか言うところだ。コリンなのがおかしいし、男性に言うってところがこれまたおかしい。ところで途中でマツイとかイチローとか野球の話題が出てくるんですよ、びっくりー。それはいいんだけどマイケルに仕事を依頼するのが日系企業のワツヒタ氏。きっとマツシタのつもりだと思うけど、こんな珍名さんおらんぜよ。アドバイスする人誰もいなかったのかな。さてコメディーだから、マイケルがおっちんで終わりということにはなりませんよモチ。ハッピーエンドだけどこの先どうなるかは不明です。心を入れ替え家庭中心のパパになったら今の生活レベルはムリでしょう。でもそんなこと考えるよりおもしろかった、笑った、元気になった・・それで十分な映画ですよ。全部夢だったと思わせておいてラストさりげなくリモコンが置かれている。モーティはやっぱりいるのだ・・と思わせるところがいい。もちろんマイケルはリモコンを即ゴミ箱に捨て、同じ過ちはくり返さないんだけどね。楽しい映画だったけど、私はモーティが話したシリアルのたとえ話が妙に気になった。すごくおいしそうな外装や宣伝文句に釣られて買ったとしても、なかみはいつもと同じシリアル・・という。モーティは何を言いたかったのかな。面倒をいやがって人生早送りしても、面倒を全部体験する人生送っても、結局のところそんなに違わないということを言いたかったのかな。ムダや失敗があるのが人生さ!