キング・ソロモン(1950)
実家に帰った時ヒマつぶしに見た。最近古い映画を安いDVDで楽しめるのでありがたい。早く出てくれるといいなあ・・と思っているのが「ピラミッド」。あれはよくできていたからね。さて「キング・ソロモン」・・主人公の名前がアランというのは映画の中でそう言うからわかっていたけど、アラン・クォーターメインなのね。「リーグ・オブ・レジェンド」でショーン・コネリーがやったのと同じ人物なのね。原作もあるってことね。パトリック・スウェイジもやってるし、ポピュラーな題材なのだろう。印象としては・・ハリウッドのお決まり映画というのが半分、よくとったなあという驚きが半分。アラン役はスチュアート・グレンジャー、エリザベス役がデボラ・カー。どんなに過酷な目に会ってもエリザベスはきれいなまんま。髪だって化粧だって肌だって服だって。そりゃ仕方ないよな。1950年と言えばまだいろいろ不便なことがある。ひとときでも現実を忘れたいと思ってみんな映画館へ行く。髪ぼうぼう、泥だらけのブスなんか誰が見たいと思います?未知の大陸・冒険・秘宝・・それだけじゃだめ。美女が出ていてこそ御膳立てが揃うんですよ。英国の気品あふれる名花デボラ・カーですよ。ブロンドの頭からっぽパッパラパーのボイン美女じゃなくて、美しい大輪のバラであります。近づきがたい雰囲気。下手にさわると危ないぜ!トゲでケガする。冷たさで凍傷になる。かたや長身インテリ風グレンジャー。時々上半身裸になって女性客にサービスですよ。そりゃ下半身裸ってわけにはいきませんてば。アランはアフリカ一のガイドだけど、人間の醜さに嫌気がさし、引退を考えている。今また新しい仕事の依頼が来たけどすぐに断っちゃう。妻をなくして六年、そろそろ息子と一緒に住まないと・・アンタ誰?って言われちゃう。その決心もすぐにぐらつきます。だって引退したら映画にならないもん。それに依頼人絶世の美女だし、礼金がっぽり入るし。エリザベスは夫を捜している。ソロモンの秘宝を捜す・・とアフリカの奥地へ行ったまま行方の知れない夫。エリザベスはお金持ちだけど夫は夫で自分の財産が欲しい。デボラ・カーを奥さん役にしたからこそこの設定が生きる。お高くとまっている美女が妻ではねえ・・。伝説の秘宝でも見つけなきゃ対等にはなれませんてば。
キング・ソロモン2
しかし考えの浅い亭主ではありますな。エリザベスはいちおう体面があるから夫を捜さなくてはならない。いつまでも行方不明のままなのはまずい。夫がバカなことをしたのは自分のせいだとわかっている。ちょっぴり負い目を感じている。もうちょっとやさしく接していれば・・。でもどっちかと言うと夫の生死が不明じゃいろいろ不便なわけよ。再婚も恋もできない宙ぶらりんな状態。お約束としてアランとエリザベスは会った時から反目し合う。でももちろんお互いに引かれ合っているんですよ。エリザべスはやたらよろめいたりすべったりするけど、そばには必ずアランがいて抱きとめてくれるわけです。岩の上から降りるエリザベス、それそれ絶対すべるぞ・・あッすべった!・・で、アランと抱き合う形になってお互い見つめ合い・・いや~方程式みたい。決まってるんです。でも二人は大っぴらに仲良くしたり(イチャイチャってこと)しません。何たってエリザベスは人妻ですから。そりゃ夫は生きてるわきゃないんだけど、いちおう建前としてね。節度は守りませんと。もう一つのお約束として洞窟に閉じ込められます。そこで白骨と秘宝を見つける。この二つはセットになっておりまして、バラ売りはいたしません。白骨はモチ夫のですよ。よかったねー都合よく死んでくれていて。秘宝はこういう映画での目玉でもあるけど、この映画は何ということもなく通り過ぎちゃいます。秘宝ったって氷砂糖かべっこうアメみたいだし。普通だったら「ダイヤだ!」と浮かれ騒いだ後仲間割れして人数減らすけど・・。この時点でアランとエリザベスと、エリザベスの弟の三人。たいてい弟あたりが閉じ込められた恐怖で狂って命落とすのが定番だけど、そんなことするとアランとエリザベスの仲に傷がつくでしょ。欲を出したガイドが宝石一人じめ・・ってガイドはアランだし。女が宝石一人じめ・・ってエリザベス大金持ちですから別にぃ・・。てなわけで何も起こらないのよ。出入口を石でふさがれてもあわてたりしない。たいまつがゆらめいて、ここから風が・・。通り道があるに違いない・・って簡単に出口見つけて脱出ですよ。閉じ込めた意味全然なし。それにしてもダイヤも白骨もそのまんまにして・・。ダイヤはともかくダンナの方はちゃんと埋葬したんでしょうなあ。そこらへん全然描かずあっさりジ・エンドになってましたが・・。
キング・ソロモン3
表向きのストーリーはこんな感じでどうってことないです。ありきたり。でも舞台となっているアフリカの自然・動物・住んでいる人間の描写に関しては、これはもう本当にすごいです。CGなんか目じゃないです。例えば火事になって動物達が逃げるところ。牛の暴走では「スタンピード」があったけど、こっちはいろんな種類のがいっせいに走る。死に物狂いの大暴走。そのままだと踏みつぶされてしまうので、銃で撃ってこっちへ来させまいとするんだけど、動物にしてみれば火で気が狂いそうなのにさらに銃で撃たれるわけだから泣きっ面に蜂なわけですよ。第一撃たれたからって方向転換できません。猛スピードで走っているんだし後ろがつかえているんだし。まさに阿鼻叫喚の地獄。テレビで見てさえこれなんだから、スクリーンで見たら・・大変な迫力でしょうよ。本当にものすごいスピードなのよ。人間に関しては・・この場合原住民ってことになるけど、アフリカの厳しい自然の中でもちゃんと存在していて、何とか暮らしているわけ。いろんな種族がいて、それぞれのルール、暮らし方がある。彼らのやり方が白人と違うからって、劣っているとか野蛮だとか言えない。白人の方がよっぽど野蛮だし自然を壊す。冒頭のお客のなぐさみのために象を殺すシーンで、私はアランがいっぺんに嫌いになりましたよ。ちゃんとしたガイドなら平和に暮らしている象をいきなり理由もなく撃ち殺したりしませんてば。奥地への旅の途中、人足達は次々に死んだり逃亡したりしていなくなってしまう。途中で一人の青年が加わらせてくれと言ってくる。実は彼は追放の身の王子か何かで、後でいろいろあるんだけど193センチのグレンジャーよりずっと背が高い。彼の部族はヘアスタイルが独特で、身長が2メートル以上ある。アラン達を生き埋めにした後、悪い王の前でお祝いの踊りがくり広げられる。この踊りのシーンはかなり長い。腕を曲げ連獅子のように首を振る。中の一人はまだ若くて、香取慎吾君みたいだなーと思いながら見ていた。ストーリーそのものではなく、ドキュメンタリー風な部分に大いに感動してしまった。50年以上たってるわけだけど全然古さを感じない。とるのはものすごく大変だっただろうけど、その貴重さは今もこれからも変わらない。自然の、動物の、原住民のすごさを痛感させられる映画だった。