記憶探偵と鍵のかかった少女

記憶探偵と鍵のかかった少女

WOWOWで見た。ここんところ私の見たサスペンス物は、「危険なメソッド」とか「パラノイド・シンドローム」とかみんなはずれだったけど、これはなかなかよかった。ジョン(マーク・ストロング)はマインドスケープ社で働く記憶探偵。耳慣れない言葉だが、例によって国防情報局の極秘実験、超能力者、それが今では犯罪捜査に活用。要するに相手の記憶に入り込むってことだが、こんなの実際にあるのかね。障害もある。入り込む方に悲惨な記憶があると、相手の記憶と混入してしまう。相手の記憶もたいていは悲惨だから?ジョンはそのせいで発作を起こしてしまう。とは言えいつまでも休んでいるわけにはいかない。金が必要だ。どうも彼の妻は自殺したらしい。幼い息子を失い、鬱病になって・・だから家には悲惨な記憶がまとわりついている。売るつもりだったが、ふんぎりがつかない。今の彼はアパートで暮らしているらしい。ボスのセバスチャンが、簡単な仕事だと紹介してくれたのが、アナのケース。亡くなった妻と同じ名前で、気が進まないが金は欲しい。グリーン家はすごい金持ち。資産家なのは妻のミシェル(サスキア・リーブス)の方。夫のロバートは再婚相手。彼はアナを治療施設に入れるべきだと主張しているが、ミシェルはここで治せると譲らない。アナは16歳で、ずば抜けた知能の持ち主。今はハンスト中だ。絶食をやめさせるだけの簡単な仕事だから、病み上がりのジョンでも大丈夫。セバスチャンはそう考え、アナが過去にしでかした事件のことは黙ってる。ストロングと言えば「サンシャイン2057」の迷惑船長。あるいは「シャーロック・ホームズ」のブラックウッド。ツルツル頭で、ヒゲが濃そうで、目がギョロリ。主役なんて珍しいけど、地味でもちゃんとしてるから安心して見ていられる。アナ役ティッサ・ファーミガは名前でわかるけどヴェラ・ファーミガの妹。21歳くらい年が離れているらしい。こちらもなかなかの曲者ぶり。セバスチャン役はブライアン・コックス。相変わらずいろんなのに出てるなという感じ。ジョンはアナの問題行動の元になったものを探り出すため、彼女の記憶に入り込む。

記憶探偵と鍵のかかった少女2

催眠術とあまり変わらない気もするが、ジョンもその場にいて、見て聞いて感じることができるというのが特徴か。催眠術だと相手の言うことを聞くだけだから。もっとも、記憶に入り込んで何かできるわけではない。その場にいるだけだ。問題は、記憶イコール真実ではないこと。勘違いしていることもあるし、自分に都合のいいようにねじ曲げられてる可能性も。最初のうちはともかく、途中からジョンがいいように操られているのがわかる。原因が性的虐待にあるかと思われたが、最初はロバート、次はセバスチャンの仕業になっていた。この時点でジョンはアナに操られていると気づくはずだが。また、セバスチャンはジョンの様子がおかしくなった時点で、ムリにでも仕事からはずすはずだが。途中で、アナのせいで人生棒に振るはめになったオルテガが出てくる。高校で教えていたが、いつの間にか未成年への淫行の罪で刑務所送り。いくら無実を訴えても相手は大金持ち。金をばらまき、警察も検事も味方につけてしまう。考えてみりゃこういう依頼ができるのはほんの一握りの大金持ちだけだ。一般の家庭とは無縁な世界。りっぱなビルに会社を構え、スタッフには給料を払い、セバスチャンの家もりっぱ。莫大な料金を支払ってくれる客がいるから、こういうことが成り立つ。金のないオルテガにはとてもそんなことはできない。身の潔白を晴らす手立てもなく、仕事も自由も婚約者も失い、自分の不注意を悔やみ、アナ達を呪うことしかできない。こんなの不公平だ。と言うか、アナはなぜこんなことをしたのか。同級生三人を毒殺しようとしたのはなぜなのか。ミシェルはトラブルは金で解決し、それをいつまで続けるつもりなのか。彼女は断酒会に通っているようだから、それなりに苦しんでいるのだと思う。でも無実の人を刑務所送りにして、それですむと思っているのか。まあ、思っているんだろうな。自分達は金持ちだからという特権意識。看護師のジュディスはアナに突き落とされ、重傷を負う。でもアナは自分ではないと主張し、ジョンは彼女がやったというジュディスの言葉を信じない。

記憶探偵と鍵のかかった少女3

映画の後半は、いつジョンがはめられて破滅するか、待っている状態。小娘にいいように操られ、自分が見えなくなっている。いいかげん目を覚ませよハゲチャビン。男が少女に対する時は、いついかなる場合でも用心しなければいけないのだ・・と、つくづく思う。もちろん逆の場合もそうだけど。ジョンはアナ殺しの罪を着せられ、刑務所送りになる。彼のパソコンにはいつの間にか少女達の写真がわんさか。彼は全部釈明できると思ってるけど・・。形勢不利・・と思わせといて、引っくり返る。まず、冒頭から今まで見せられていたものが全部・・別の記憶探偵によって探られていたものだとわかる。ここはちょっとびっくりしたな。何度か正体不明の男がうつるけど、彼だったのね。今まで何度か名前が出ていたランドグレン。最初ジョンがやりたがった仕事があったけど、セバスチャンはランドグレンにやらせた。途中でジョンの様子がおかしくなると、ランドグレンと交替させようとした。ジョンは断ったけど。つまりランドグレンは優秀なのだ(ジョンよりも)。今彼はジョンの記憶を探り、何があったのか全部把握した。目撃証言ほどではないが、彼の意見も考慮してもらえるだろう。セバスチャンも全面的にサポートすると約束してくれたし。ジョンは運がいい。でも、一番の決め手となったのは、行方をくらましたアナが自分の写真を送ってきたこと。掲げている新聞を見れば日付がわかる。生きている証拠になる。でも彼女は自分が死んだ・・殺されたことにするため、ジョンを陥れたはずだが。ただの失踪では両親が捜索し続ける。だから殺されたことに・・。それと16歳の少女がこの先どうやって暮らしていくのか。映画はジョンが釈放され、家を売り、ジュディスを訪ね、過去に別れを告げ、新しい一歩を踏み出すところで終わる。いちおうハッピーエンドだが、説明不足なとこはいっぱいある。何よりもオルテガが拘束されたままじゃ解決したとは言えず、後味が非常に悪い。ランドグレン役はノア・テイラー。最初デヴィッド・ボウイかと思っちゃった。「チャーリーとチョコレート工場」等で知られるが、私は「アドルフの画集」のヒトラー役が印象に残っている。私情をはさまないランドグレンがアナを担当していたら・・そう想像するのも一興。