こねこ

こねこ

中古ビデオを買って何回か見ている。猫の映画って少ないよな。「ネコのミヌース」くらいか。犬のはたくさんあるのにな。やっぱ難しいのかしら。少し前WOWOWで「子猫物語」見た。公開当時大ヒットしたけど見てなくて。今回初めて見て。最初のうちはまだいいんだけど・・と言うか、気にくわない作り(ナレーションとか詩の朗読とか)なんだけど、チャトランはかわいい。でもだんだん・・特に海に落っこちるシーン、岩にはい上がろうとしてまた落っこちるシーンにはゾーッとした。何て残酷な!そりゃ何かの拍子に海や川に落ちて命落とす猫はいるでしょうよ。でももし映画のために落としたのだとしたら許せない。海外で動物虐待だとか言われたのはこのシーンのせいかな。とにかく見ていて腹が立ったし、ゾーッとした。ラストも何じゃありゃ。チャトランかわいい~なんて喜んでる場合じゃない。何考えてるんだ作り手は・・。さてこちらの「こねこ」・・そりゃ最初はいたずら子猫チグラーシャに目を細めるわけだけど、だんだん・・。最後はとっても重苦しい気分になるし。でも腹は立たないしゾーッともしない。感じるのは別のこと。ま、おいおい書いていくけど。冒頭うつし出されるのはペット市場。いろんなのが売りに出されて・・しかも戸外。もうすぐクリスマス、新年という寒い時期。ロシアだし。何で戸外でやるのかしら。お店じゃなくて個人で売ってるみたい。子猫や子犬売って生活費の足しに?寒さこらえてじーっと立って・・売れるのかしら・・いや、いるんだな買い手が。マーニャとサーニャの姉弟。顔立ちが似てるから実の姉弟か(監督の子供らしい)。とても自然な演技。おばあちゃんに連れられて・・どのコにしようか目移り。そのうちかわいい子猫に目がとまり・・。その後マーニャの誕生パーティやってたからおばあちゃんのプレゼントってことかな。パパはフルート奏者・・髪の毛が「三ばか大将」のラリーみたい・・と言っても今の人は知らないか。ひょろっと背が高く、髪はアレだが、なかなかのハンサム。ママは・・図面があったから建築家とか?こちらも美人。何と言うか裕福そうな家庭。三ヶ月くらいの子猫というと、何にでもじゃれてじっとしていない。寝ていたパパが足の指かじられるなど、見ていて「そうそう」とうなずいてしまう。こんなにちょこまかしていて大丈夫かしらと心配になるけど、よくしたもので大人になると動かなくなる。

こねこ2

どて~っとして、面倒くせえな・・という感じになる。チグラーシャに花びんとか壊されてもおばあちゃんは怒らない。接着剤で貼り合わせ、「どうってことないわよ」と泰然自若。子供達や若夫婦とは違い、彼女は豊かでない時代も経験してるはず。たいていのことには動じないのだ。ある日チグラーシャは窓から外へ出、落っこちてトラックの荷台に。そのまま運ばれてしまう。捜し回る一家。子供達は半泣きだ。おばあちゃんがボール紙みたいなの手にしていたのが印象的。車の下を覗き込む時、肘の下にそれを敷くのだ。地面は雪だからそのままじゃ服がぬれてしまう・・なるほどね。両親も・・いたずら子猫に怒っていたけどやっぱり捜す。でも・・やっぱり・・子供達ほどせっぱつまってない。猫がいなくなるのは珍しいことじゃない。猫よりむしろ子供達の方が心配。トラックの荷台シーンは、実写もあるけど合成も。合成バレバレなのは残念と言うより微笑ましいし、子猫の安全考えりゃこっちの方がいい。その後もいろいろあるが、犬を追っぱらってくれた猫にチグラーシャがついていくところが笑える。どこまでもついていきます・・って感じで。この猫ワーシャが帰り着いた部屋には猫がわんさか。住人フェージンは日雇い労働者か。雪かきなどの雑用をして何とか暮らしている。家族はいない・・いや、猫が家族か。チグラーシャも早速仲間入りだ。ここで出てくる猫達がまた個性的で。例えばアメリカ映画で「キャッツ&ドッグス」とか見ていて悲しくなるわけよ。猫イコール意地悪、性悪、気取り屋・・決まり切ってる。しかも大げさに描かれる。見た目もかわいくない。体が大きくて犬にも負けないワーシャ。他の家の飼い猫なのにいつもここへ通ってくるプショーク。二軒の家でそれぞれ違う名前で飼われていた猫もいたっけ。真っ白な猫は子供を産んだばかり。赤ん坊がお母さんと間違えて他の白猫のところへ行くのがおかしい。シャムもいればペルシャもいる。茶色のもいる。でも一番印象に残るのは白に黒のブチ、ジンジンだろう。ほっそりしていてとにかく頭がいい。芸達者。フェージン役アンドレイ・クズネツォフの本職は猫の調教師。猫のサーカス(犬もいるけど)で有名らしい。このフェージンのキャラがなかなか興味深い。前半はもちろんチグラーシャのいたずらっぷりと、それに振り回される一家が中心。でもフェージンが出てきてからは・・。

こねこ3

比重は彼にかかり始める。マーニャ達の子猫捜しも描かれるが、見ている者はフェージンの境遇の方が気にかかる。彼は捨て猫を見るとほうっておけず、連れ帰るやさしい性格。プショークみたいに通ってくるのもいる。みんな仲良く大人しく暮らしている。ラスト、チグラーシャはマーニャ達の元へ戻る。もう飢えることはないし、寒さにふるえることもない。みんながかわいがってくれる。とっても幸運なチグラーシャ。でも・・本当にそうだろうか。チグラーシャがフェージンのところにいたのはわずかな期間だが、子猫にとって生きていくすべを学ぶ場所としてこれほど最適なところはなかった。いつでも暖かいとは限らない。いつでもごはんが食べられるとは限らない。いろんな仲間がいるのもわかった。自分より大きいの、小さいの、犬さえやっつける強いの、のんびりしてるの、頭のいいの。お皿がからっぽで何も食べさせてもらえない時、他の猫は黙ってるけどチグラーシャだけはニャーと鳴いて催促する。まあ他の猫が黙ってるのは演技だろうけど(←?)。フェージンがケガで入院していない時、猫達は自力で食べ物を手に入れる。屋台から失敬し、食料品店に忍び込み・・。いざとなればやるのだ。元々は野良猫、昔取った杵柄・・。こういう連中といた方が絶対勉強になる。結局チグラーシャは元の楽な暮らしに戻ったけど、他の猫は今まで通りその日暮らし。でもどちらが幸せなのかな。フェージンは部屋を立ち退くよう地上げ屋(マフィア?)に脅されている。いい身なりをし、でっかい車乗り回し、態度もでかい。ただ追い出すわけじゃなく、代わりの新しいきれいな部屋用意してくれる。荷物も運んでくれる。悪い話じゃない。でもフェージンは断る。今のような猫が自由に出入りできる部屋でなくちゃ。アパートの高い階じゃ無理。画面ではわからないけど、今の部屋は猫の毛がいっぱいだろうし、爪とぎであちこちボロボロのはず。彼はきれい好きには見えず、たいていのことは気にしなさそう。猫をあやつるサーカスの芸人になることを夢見ているが、現実はただの貧乏な独身男。キオスクの女性が好きらしいが、仲が進展することもない。登場した時はそれでも仕事があって、電気がついて、テレビを見るくらいはできた。その後連中のせいで仕事クビになると、寒い街頭で新聞売ったり地下道で猫の芸見せたり。でも一瞬のスキにお金盗まれ・・踏んだり蹴ったり。

こねこ4

仕方なくペルシャ猫のシャフ使って詐欺まがいのことをするが、誰が責められよう・・と言うか、シャフを買った奥さんあんなバッグに入れて・・逃げるに決まってるじゃん!どん底でもしぶとさを見せるフェージンだが、ラストでは本当に追いつめられている。電気は止められ、食べ物はない。そばに猫がいて、頭の上には天井があるというだけ。チグラーシャの環境とは雲泥の差。フェージンとマーニャ達の一家には明確な貧富の差があって、それが埋まることはない。それと同じでジンジンやワーシャ達とチグラーシャの間にも運命の分かれ道があって(一度はまじわったけど)、再びまじわることはないのだ。チグラーシャ捜しには賞金がつけられていたから、あのままフェージンが届けていればお金をもらえた。一家との接点ができた。でもどこまでも運の悪い彼は連中のせいでケガをし、病院へ。その間にチグラーシャはひょんなことから一家の元へ戻る。コンサート会場、パパのフルートの音・・この展開はとっても楽しくていいけど、フェージンと一家の接点は永遠に失われてしまった。彼の帰りをじーっと待ってる猫達がけなげで・・。彼らにとって生活が今より楽になるかどうかなんて関係ないのよ。前と同じようにフェージンと暮らすことしか考えてない。だから待つ。いつ帰ってくるか、いや帰ってくるかどうかもわからないけどひたすら待つ。そりゃ猫が実際は何考えてるかなんてわからないけどさ。クビになって手ぶらで帰ってきたフェージンの前にジンジンが来て、後ろ足で立って、前足を差しのべるシーンには涙が出そうになるけど、あれだっていつものようにぴょんぴょんはねて遊ぼうよと催促してるのかも。ラストのフェージンはうつろな目をしていたけど、でも大丈夫。彼のことだから何とか仕事見つけて明日からまた生きていくわ、猫達のためにもね。世間的には弱い立場の彼だけど、どんなことをしてでも生きていくしぶとさがある。そんな彼を天は見捨てないで欲しい。・・基本的に出てくる人達は皆猫好きで・・そこがよかった。チグラーシャをゴミ箱から拾い上げてくれた食堂のおばあさん、つかまえたジンジンをいじめるかと思ったら餌をくれた食料品店の怖そうなオッサン(あのまま飼ってくれそうだけど、やっぱりジンジンは戻ってくるのよ)、色っぽいキオスクの女性、チグラーシャの行方を気遣う楽団員達・・みんなよかった。