キラー・インサイド・ミー

キラー・インサイド・ミー

こういう映画が田舎でかかることはまずない。テレビでやるのを待つしかない。で、やってくれたので見た。原作も読んである。こちらも田舎の本屋ではまず置いてないから、東京へ行った時に捜す。幸い古本屋で見つけることができた。読み出すと止まらないって感じでおもしろいが、何がどうなってるのかわかりにくい部分もある。遠回しだったり省略されてたり。特にラストは何がどうなったんだ?1950年代の西テキサス。町の人は顔見知りで、家の中のことまでよく知っている。知っているからこそ、黙っていたり見て見ぬふりをしたり。そういう暗黙のルール守ることで、大きなトラブル避ける。保安官補のルー(ケイシー・アフレック)は、銃も棍棒も持たない変わり者。親切で愛想がよく、信頼されている。ある日保安官のボブに、ジョイス(ジェシカ・アルバ)のところへ行くよう言われる。彼女は娼婦で、わりと大人しくやっているので見逃してもいいのだが、牧師連中から苦情があった。商売停止、あるいは町を出るよう促すか、何かしなければならない。と言うわけでジョイスと会ったルーは、人生が狂い始める。子供の頃ある事件を起こしたが、それから10数年は何も起きなかった。でも、ジョイスのせいでまた目覚めてしまった。何に・・ってSMですよ。次々に人が殺されるけど、映画を見ていてもなぜ彼がそうするのかよくわからない。私が連想したのは「クアドロフォニア」。ルーは二重人格と言えないこともない。ブタ箱に入っているジョニーに言うセリフ・・柵の両側に足を下ろし、どっちにも動けずにいる・・みたいなのを聞くと特に・・。このジョニー役の子は細っこくてかわいい。リーアム・エイケン・・名前は知らんけどどこかで見たような・・。「永遠のアフリカ」の子役らしい。彼が気になったりするのは、肝腎の主役のアフレックに期待したほどの魅力がないからで・・。でもまあ順番に書いていこう。ジェシカ・アルバはとてもかわいい。この映画見る人って彼女目当てなのが多いのでは?アフレックやケイト・ハドソン目当てって人はあまりいないと思う。原作者は「ゲッタウェイ」などのジム・トンプソンだが、日本ではそれほど有名ってわけでもないんでしょ?ちなみにこの作品はステイシー・キーチ主演で1976年に映画化されているらしい。見比べてみたいものだ。

キラー・インサイド・ミー2

話を戻して、アルバは顔立ちにしろ、体つきにしろ、きちんとまとまっている。あちこち崩れているようなエイミー役ハドソンとは対照的。でも、ジョイスにはそういう崩れた部分はあるはずで。アルバは健康的すぎるし、まともすぎる。まるで観客にサービスするかのように微笑んだり見つめたりするシーンが挟まれるが、私はその度に違和感を覚えた。たぶんジョイス役はハドソンの方が合ってる。エイミーの方はルーとは子供の頃から一緒だったから、彼と結婚するのだと思い込んでいる。まわりの者もそう思っている。で、特に女性はそうなのだが、安心感のせいでずうずうしくなったりなれなれしくなったりする。私のこと愛してくれてるはず、私に秘密持ったりするなんてありえない。一方男の方は、いずれはそうなるにしても、急かされたり主導権握られたりするのは嫌だ。意地の悪さや見え透いた演技には嫌気がさすが、かと言って別れる理由にはならない。町一番のりっぱなレディなのだから、振ったりすれば何を言われるかわからない。とは言え、結婚はできるだけ先に延ばしたい。ボブはルーとエイミーが結婚するのを楽しみにしている。ルーは信頼のおける男だし、エイミーも(ルーの前ではどうであれ世間の評判では)りっぱなレディだ。だからルーが疑われ始めると心を痛めるが、エイミーのようなしっかり者がルーと結婚する気でいるのなら、まだ大丈夫だと思っている。彼女がルーを信じているのなら、自分がルーを信じるのも間違いじゃない。ところがエイミーが殺されたとなると、もういけない。いくら犯人らしいのが他にいたとしても、ルーの仕業に間違いなくて。彼女まで殺すなんて・・と絶望し、自分を責め、自殺・・となる。ボブの心理は映画でも原作でもわかりにくく、文章にしにくいが、まあこういうことだと思う。さて、ハドソンはだいぶ肉がついてきたようだ。あごのあたりのたるみ、ぶっとい二の腕。もちろんいつまでも金髪ピラピラの妖精ではいられない。汚れ役もやらなくっちゃ。崩れてずうずうしい感じはジョイスにぴったりだ。でも高慢ちきで意地の悪いエイミー役もやっぱり合っているんだよなあ。労働組合長ロスリン役はイライアス・コーティーズ。彼の存在もわかりにくい。いつも余計なこと言ってくる。ルーに何か気づかせたり、けしかけたり。いつもルーと二人きりなので、彼はルーのもう一つの人格なのでは・・と思えるくらいだ。もちろんそんなことはないけど。

キラー・インサイド・ミー3

ロスリンにはロスリンなりの理由がある。経営者であるコンウェイ(ネッド・ビーティ)は彼ら労働者側から見れば敵。ルーがコンウェイのことどう思っているのか、探りを入れてくる。それと言うのも、ルーの義兄マイクの事故死はコンウェイのせいなのだ。ルーはコンウェイに復讐しようと思っているのでは?コンウェイの息子エルマーが殺されると、そのきっかけを作った自分は大丈夫なのかと心配になる。ルーがつかまると、やり手の弁護士ウォーカー(ビル・プルマン)をよこしたりする。見てる人も読んでる人も、何でルーがロスリン殺さないのか不思議に思うだろう。もっとも、ルーの方にも、犯行を隠そうという意識と、少し表に出して誰か自分を止めてくれという意識と両方あるのだが。マイクのことも映画ではよくわからない。彼はルーの父親の友人の息子。両親とも病死したので、養子として引き取られたのだ。ルーは以前幼女を襲ったらしいが、その罪をかぶってくれたのがマイク。その時の幼女だけでなく、ルーは他にもやらかしたらしいが、それもひっくるめてマイクの仕業とされたようで。彼はたぶんルーの父親に恩義を感じて犠牲になったのでは?父親がルーを手元に置き、自分で教育したのも、本当はルーの仕業とわかっていたからだろう。少年院を出てきたマイクに世間の風は冷たかったが、父親は何とか仕事を見つけてやる。ところが事故で死んでしまった。そのショックで父親も病死。ルーにすれば、マイクに借りを返せずじまい。心に重荷を背負うこととなる。で、事故の原因作ったコンウェイを恨むわけだが、どうやって復讐したらいいのか思いつかないまま月日は流れ・・。でもある日ジョイスが漏らした言葉が・・。コンウェイの息子エルマーが彼女に首ったけだと・・。その瞬間ジョイスとエルマーの運命も決まってしまった。二人は、コンウェイに復讐するという、ただそれだけの理由で殺されることに・・。ルーはジョイスを殴り殺し、エルマーを(ジョイスの)銃で撃ち殺す。痴話ゲンカの果てに・・と見せかける。ところが多くの犯罪同様、それだけでは終わらない。最初の犯罪がばれそうになると次の犯罪・・殺しに殺しを、ウソにウソを重ねるはめに。ルーはいちおうアリバイも用意したし、温和な保安官補として疑われるはずがない。でも、エルマーにもらった金・・コンウェイによって印がつけられていたとも知らず、使ってしまう。そのせいでジョニーを殺すはめに。浮浪者をちょいと痛めつけてやったら、そいつが恨んで彼を尾行。

キラー・インサイド・ミー4

エルマー、ジョイス殺しでゆすってきたので、エイミー殺しの犯人に仕立て上げ、射殺されるよう仕向ける。だいたいルーはエルマーに何発も撃ち込んだり(殴られて重傷のジョイスにそんな行動はムリ)、ジョイスが完全に死んだかどうか確かめなかったり、ミスを連発。また、彼の行動を誰かが見ているというのは、うつし方でわかるから、浮浪者が出てきても、ああ、やっぱりね・・と驚かない。ところでルーはなぜエイミーを殺したのだろう。映画だとよくわからない。浮浪者を犯人に仕立てるため?結婚するのが嫌だから?原作だと、彼が(エイミーから)逃げたとたん、彼女が真相に気づくから・・みたいなこと書いてある。今起こっていることだけでなく、過去のことにまでさかのぼって真相に気づくだろう。気づくだけでなくまわりにもしゃべる。とは言え、どうやってエイミーを始末したらいいのか迷っていた。そこへノコノコ現われたのがあの浮浪者だ。その瞬間エイミーとそいつの運命は決まってしまった。ところで、郡の検事ヘンドリクス役でサイモン・ベイカーが出てきた時には本当にびっくりした。ヘンドリクスは原作では嫌なやつに描かれているので心配したが、映画ではそうでもなく一安心。どの映画でも印象の薄いベイカーだが、アフレックに比べりゃねえ。美しさの中に凄みをきかせて・・アフレックなんかまだまだヒヨッコ。もっとも、いつ振り向いて「リズボ~ン!!」と叫ぶかとドキドキしちゃったけど。彼が出ていたおかげでこのDVDは保存決定。彼がいなけりゃ録画消してた。さて、ルーが本を手に取るシーンが何度か出てくる。彼の父は医者で、マイクも父もいなくなった今、医院を兼ねた住居は一人で住むには広すぎる。でも何となく処分するのを引き延ばしている。時々父の蔵書を読み、残っている薬品で精力剤を作ったりする。映画の方には薬品は出てこない。ある時、本に写真が挟まっているのに気づく。映画の方はボケボケにされているので、何がうつっているのかさっぱりわからない。ルーがこうなった理由がわかる大事なシーンなのだが。昔家にはルーやマイクの面倒を見るためハウスキーパーがいた。父親は世間ではりっぱな医者として通っていたが、実際はこの若いハウスキーパーとSM行為をやっていたようで。

キラー・インサイド・ミー5

それだけでなく彼女は幼いルーにも手ほどき。それを知って父親は激怒。女と口論になる。幼いルーは意味もわからずそれを聞いていて。また、父親に折檻されたせいで、何の意味も持たないただの遊びが意味を持ってしまった。以来ある時期までルーは女性を殴ったようだが、それはハウスキーパーと他の女性との区別がつかなかったせいで。今考えてみると、ジョイスもエイミーもハウスキーパーに似ていて。映画にはこの部分は出てこないが、要するにルーが女を殴るのは、”血筋”と”教育”のせいなのだ。で、最後にアフレックだが、脳みそも筋肉でできているみたいな兄のベンに比べると、繊細で大人しい感じ。スクリーンにおさまりきれぬほど顔が長いわけでもなく、丸っこい顔に誠実そうな目がくっついている。開けっぴろげな兄に対し、彼から受けるのは屈折感。兄貴とは違う路線で成功しそう。でも・・話し出すとやっぱり兄弟。口のあたりが、声の感じが、しゃべり方が・・トローン、デローン。今にもよだれがタラーンと垂れそう。うぶで純情そうに見えて実はとんでもないワル、女だって手玉に取っちゃいますとばかりにベッドシーン連発。アルバの方も私、汚れ役もできるんですとばかりにハッスル。で、アルバファンはアフレックなんてどうでもいいから彼女に注目するわけだが・・。何回もそれらしきシーン出てくるのに結局はちゃんと見えなかったような。必ずその前に腕があって見えない。あるいは画面から切れている。その腕をどかしてくれれば・・もう少し下までうつしてくれれば・・。男性陣の声なき怒りが聞こえたような気がしたのは私だけ?まあ確かに潔くない。見せたくないならこの役引き受けるな。引き受けた以上はちゃんと見せろ!隠そう隠そうとしてるのを見させられることほどしらけるものはない。ラストの方で死んだはずのジョイスが現われるんだけど、ここらへんもわかりにくい。ルーがよく確かめなかったせいで、あるいはコンウェイが駆けつけるのが早かったせいで、ジョイスは虫の息ながらまだ生きていた。息子を殺した犯人として、このまま死なせてたまるものかと、コンウェイは彼女をフォート・ワースの病院へ運ぶ。ルーはボブと一緒に付き添っていくが、ボブの様子がおかしくなったのはその頃からだ。

キラー・インサイド・ミー6

ジョイスは死んだと聞かされホッとしたものの、ボブが何か隠しているようなのが気になる。この部分もよくわからない。どんなに信頼されている人間でも、そのまわりで妙な事件が続けばおかしいな・・ということになる。まして殺人が続くとなると。ジョイスが死んだことにするというのはコンウェイの発案に違いない。彼女が息子を殺したと思い込んでいる彼がそうしたってことは、彼女が犯人ではないと気づいたからだ。うわごとか何かで。だから彼女が死んだことにして、真犯人を安心させ、油断させ、尻尾を出すよう仕向け・・そういうことだと思う。うわごともルーに関したことに違いない。そうでなければルーにもジョイスが生きてることは知らされたはずだ。何たって彼は保安官補なのだから。ラスト近くに現われたジョイスは、「私は何もしゃべってない」とルーに言うけどね。コンウェイ達はジョイスが証言できるほど回復するまで待つ必要があった。その間ジョニーが逮捕され、一度は彼が・・となったけど、ルーの面会の後自殺しているのが見つかり、しかも後で彼にはアリバイがあって無実だとわかり・・ルーへの疑いは決定的なものに。ジョニーの父親の店の改装をコンウェイが請け負ったのは、ジョニーの死に対する罪滅ぼしか。ウォーカーの助けも断ったルーは、今ではジョイスが生きていると気づいている。ボブの態度から当然気づいていいはずだったのに。ボブはルーにウソをつくのが気に食わなかった。でも本当のことを話すわけにもいかないから、それとなく注意したり、町を出るよう促したり。でも自信家のルーは気に止めなかった!クライマックス部分は、原作を読んでいてもはっきりしなかったので、ああそういうことかと思いながら見ていた。家に戻った彼はガソリンをまく。酒・・アルコールもまく。でもいくら何でもガソリンは臭いがすると思うが・・。保安官補のジェフ達が気づくと思うが。原作では薬品・・硝酸などを利用する。で、ルーがジョイスをナイフで刺して、ジェフに撃たれて。撃ったせいで引火してルーとジョイスは火だるまに。爆発が起こり、他の連中・・ヘンドリクスやコンウェイ達も死亡?それはともかく火だるまのシーンが稚拙で。せっかく一つのムード保っていたのに、ここでドボン。残念でした。好青年による連続殺人物としては、私は断然「クアドロフォニア」の方に軍配上げます!