ガラスの鍵

ガラスの鍵

ダシール・ハメットは生涯で長編を五つしか書いてないのだそうな。そのうちの一つが「マルタの鷹」で、私も読んだが内容は全然覚えていない。映画の内容も同様。見たのはピーター・ローレが出ていたから。こちらの「ガラスの鍵」を読んだのはアラン・ラッドが出ているから。高いけどDVDも買った。ラッドのDVDもいろいろ発売されるようになり、ファンとしてうれしい。どれも高いのでなかなか買えないが。これは1935年にジョージ・ラフト主演ですでに映画化されたとか。そんなに魅力的な題材なのか。原作を読んだばかりだから、話の流れはわかる。読んでいなかったら何が何だかさっぱりわからないだろう。省かれていることが多すぎる。主人公エド(ラッド)は賭博師だが、映画にはそういうシーンあったっけ?実は感想を書いてから、もう一度見直した。そしたら、見落としていたところ、勘違いしていたところが次々に見つかり・・。したがって感想も書き直すはめになった。話を戻して、最初の方でサイコロを振ろうとしているエドの後ろ姿が(いちおう)うつる。このシーンが彼の初登場ならなかなか印象的だが(こちらに向き直るまでエドだとわからない)、その前にすでにエドは登場ずみ。エドは、ならず者ではあるが、地域の実力者であるポールの片腕として、いろいろ助言する・・そんな感じ。詳しいことは不明だが、エドはポールに恩があるらしい。ポールは、改革派のヘンリーが知事に初当選するよう尽力している。彼の娘ジャネットに一目ぼれし、結婚したいと思っている。彼女はポールが好きになれないが、父親のため・・選挙が終わるまではとがまんしている。エドもポールほど楽観主義者ではない。配管工助手あがりのポールと上流社会の一家とでは住む世界が違いすぎる。でもそのエドが、ジャネットを見たとたん目が離せなくなる。ジャネットの方も同様。知らぬはポールばかりなり・・。さて、ジャネットには兄がいる。このテイラーは仕事にもつかず、酒とバクチに溺れている。で、このテイラーを愛しているのがポールの妹オーパル。原作では娘だが、こちらは妹にしてある。

ガラスの鍵2

オーパルはエドから借りた金をテイラーに渡す。テイラーはニックに借金がある。ニックもこの地域の実力者で、ポールのライバル。彼は警察署長のレイニーに圧力をかけ、ことあるごとにニックの商売の邪魔をする。オーパルからの電話でヘンリー邸へ様子を見に行ったエドは、テイラーの死体を見つける。ポールに知らせても無反応。オブザーバー紙はポールが殺したとほのめかす。ポールは妹とテイラーの交際には大反対していた。もっとも、オブザーバー紙の社主マシューズはニックに借金があるため、こういう記事を書くしかない。オーパルもジャネットもポールが犯人と思い込んでいる。ジャネットは結婚を承諾するフリをしつつ、裏では匿名の手紙をあちこちに送りつける。もちろん(疑われないよう)自分にも。エドはポールが犯人とは信じておらず、ニックに協力するフリをして手がかりをつかもうとするが、反対にニックの手下ジェフにさんざんボコられる。原作を読んでいても、エドが何を考えているのかはよくわからない。なぜニックのところへ行くのか。どうやら彼はニックに揺さぶりをかけるため、単身乗り込んだようだ。いくら忠告してもポールはエドの言うことに耳を貸さない。そこで彼の代わりにエドが行動を起こすのだ。いちおう成果はあった。ポールがお払い箱にしたスロスは、ポールとテイラーの口論を目撃したらしい。その供述書をニックが持っているのだが、エドはニックに協力するフリをし、それを破り捨ててしまう。それにしても映画でのエドは、原作以上に腕っぷしが弱い。主人公にしては何とも頼りないのだ。やせて、体格も貧弱というのはラッドには当てはまる。原作では口ヒゲがあって、いじくるのが癖。それだけはやめてくれって感じ。ありがたいことにラッドにはヒゲはなく、代わりにポールがヒゲつき。ま、それが妥当でしょう。原作のエドは何度も中途半端な笑みを浮かべる。唇の端を少し上げるとか、含み笑いとか。だから映画でラッドが何度も歯を見せるのは原作通りなのである。しかし・・見ていてツライのである。お尻がムズムズしてしまうのである。ぎこちなくてあいまいで、私はその度に何じゃこりゃ~とガッカリするのであった。

ガラスの鍵3

いくら原作でそうなっていたとしても、ラッドはクールにキメて欲しかった。どんな時もポーカーフェイスで、感情を出さない。微笑むのはラストシーンだけで十分。せっかくのハンサムぶりも変な笑いのせいでだいなし。オーパルに金を渡す時の、ひきつったような笑顔もひどい!それに比べ、検事のファーと会っている時の凄味のある表情の美しさ!ラッドの魅力はこれ!話を戻して、ジェフ達にさんざん痛めつけられたエド。原作には、カミソリを見つけたエドが自殺を図ろうとするシーンもあるが、もちろん映画ではカット。見ているお客が混乱するからね。途中でポールは、実は自分が犯人とエドに白状する。しかしエドは信じない。ポールがこんなウソをついているのは誰かをかばっているからで、その誰かはジャネット以外にいない!ってんで地方検事のファーを急き立て、ジャネットの逮捕状を取り、夜中にヘンリー邸へ押しかける。ジャネットには何が何やらだ。こうなるとヘンリーは自分が殺したと白状するしかない。それを聞くエドの表情で、彼が一芝居打ったのだとわかる。しかしよく考えればジャネットには兄を殺す動機はないのだし、ヘンリーが犯人だという決め手もどこにもない。エドがヘンリーに目をつけた理由も不明。てなわけでかなり強引な流れ。原作のヘンリーはかなり悪質で、ポールを殺して口封じしようと企むが、エドが阻止する。ポールの立場はビミョー。エドには自分が犯人と言ったけど、それはエドに犯人捜しをして欲しくないからだ。彼の潔白を証明するため動き回るエドは、そのうちヘンリーに行き着くだろうが、それは困るのだ。彼は新聞等でいくら書き立てられても平気だ。自分は警察や検事に影響力持ってる。現に警察の捜査は一向に進んでいない。そのうちに迷宮入りになってくれれば・・。エドに、ジャネットは彼を嫌っていて、兄を殺したのはポールだと固く信じていて、彼を中傷する匿名の手紙をあちこちに送っていたと聞かされても信じない。しかし自分が現実に逮捕されるとなれば話は別だ。その時は事実を言うしかない。そうなると困るのがヘンリー。

ガラスの鍵4

ポールを殺せば、テイラー殺しの犯人は彼、自分は息子の仇を討ったということで当選間違いなし!そういう狡猾なやつなのよ、原作のヘンリーは。何で映画もそうしなかったの?あれじゃお間抜けすぎて・・。原作のラストはやや重苦しい。エドとジャネットはニューヨークへ行くつもりだ。二人ともこの町から離れたい。ポールの受けるショックは大きい。生まれて初めて恋焦がれた女性が・・。片腕ともたのむ親友が・・。しかも二人は自分が全然気がつかないうちに相思相愛になっていた!!ま、踏んだり蹴ったりですわな。映画のポールはもっとドライで、二人を快く送り出す。その代わりジャネットに贈った1万5千ドルもする指輪は取り返す。と言うか、ジャネットさんよ、自分から返せよ!ポールが気づかなかったら、そのままいただくつもりだったの?いかにもハリウッド式ハッピーエンドだが、定職のない男と、豊かな暮らしに慣れた女じゃうまくいきっこありませんて。せめて原作みたいに、父親が逮捕されたとたん見捨てる冷たい女だと思われてもかまわない!くらいの決意述べて欲しかった。ジャネット役はベロニカ・レイク。衣装もそうだが、彼女の場合やはり美しい髪に目が行く。一度真っ直ぐな髪になっていたが、あれはカツラか?ポール役ブライアン・ドンレヴィは知らない人。ちょっとエロール・フリンに似ているかな。エドをさんざんいたぶるジェフ役はウィリアム・ベンディックス。「青い戦慄」に出ていた人だ。エドにまとわりつくような気持ちの悪いやつだが、これは原作通り。ジェフはニックに言われてスロスを殺すが、ここらへんは原作にはなし。だから見ていてびっくりする。その彼はニックも殺すが、エドは見ているだけで止めない。ポールのライバルがいなくなるよう持っていく。その前のマシューズが自殺するのも止めない。マシューズの妻エロイーズとわざといちゃつき、彼を追い込む。遺言書をもみ潰し、オブザーバー紙が(ニックではなく)ポールの手に入るよう持っていく。さりげないようでいて緻密に冷静に計算された行動を取る。さて「ガラスの鍵」だが、原作ではジャネットの夢の中に出てくる。しかし映画では夢の話なんかしている尺はないのか、エドとポールの会話にチラッと出てくるだけ。うっかりしていると聞き逃してしまう。