火山高
これは予告編がものすごくおもしろかったので見に行く気になった。私が見る(見せられる)韓国映画の予告編というとたいていは不治の病が絡んでいて、ハンカチ一枚じゃ足りませんよみたいな作り。「ラスト・プレゼント」なんてダイジェスト版かよ・・と思うくらい泣かせどころを見せ続ける。私どうもああいうのは苦手なのよね。・・で「火山高」ならそういう湿っぽさはなさそうだからいいかな・・と。まあ雨はザーザー降ってるけどね。見終わって結論から言うと、もったいない度100%の映画。もっとおもしろくなったはずなのにやり方を間違えてしまった。雰囲気はとてもいい。青が強く出た色調で、何となく青銅器を連想させられる。カラフルな色彩はゼロ。舞台はほとんど校内。クライマックスはグラウンド。梅雨時みたいに雨がザーザー降り、時々太陽が照りつける。運動部の部室は汗のにおいがしみつき、じめじめとカビていそう。教室の後ろの方にあるロッカー一つを見ても、欧米の学園映画で見るものとは明らかに違う。主人公を含め出演者は皆いい。ギョンスは愛嬌があってかわいい。ハンニムと戦うところなんて、おっ長拳の規定套路かよ・・なんて思っちゃった。あんまり背が高くないところもよろしい。演じるチャン・ヒョクは来日した時の写真を見ると、サングラスにロングヘアーのやわらか美青年で、映画とは別人のよう。いろんな面を持っていそう。映画での精神を集中した時のキリリとした表情もいいが、個人的にはシャワー室でユ・チェイに見られてキャッとなる時のお間抜けなしぐさが気に入っている。それまでがカッコいいだけにその落差が何ともかわいい。ユ・チェイ役のシン・ミナはさほど美人だとも思えないし、演技も剣道もうまいわけではない。ただ皆からは距離を置いていて、でもまわりの者からは一目置かれている、孤独ではあるけれど、でも心の中には暖かいものを持っている・・そんな難しい役をうまくこなしていたとは思う。ギョンスとマー先生の戦いの最中、雨粒が突然空中に停止するといういいシーンがあるのだが、それを見てフッと顔をほころばせるところなんか、彼女のいつもは隠している暖かな内面が一瞬こぼれ出たようで非常によかった。一方この映画をだいなしにしているのがチャン・リャンの扱い。この映画の主人公はギョンスのはずなのに、とにかく彼が前に出まくる。どんな時でも前に、前に、前に・・だ。
火山高2
クライマックスでやっとギョンスの出番・・と思ったらまた出てくる。あんなにこてんぱんにやられたのに何で不死鳥みたいに甦ってまた出てくるのよ。ラスト近くまでそのくり返し。ギョンスはとんでもないパワーを持っているのだけど、9校目の火山高だけは退学にならぬようにしようと決心し、学校のナンバーワン争いにも、「師忘備録」争奪戦にも加わらない。チャンにひどい目に会わされても、あこがれのユ・チェイに助力を頼まれてもじっとがまん、固く辞退の毎日だ。こういう、能力のある者が忍耐に忍耐を重ね、最後に大爆発というのは使い古されたテだが、見る者をあきさせず最後まで持っていく方法はいくらだってあるはず。でもこの映画ではその工夫が足りない。エンジンがかかりそうになっては止まる車を見ているようなものだ。同じことを延々とくり返すだけで話がちっとも前に進まない。予告編はあんなにおもしろかったのに、きっとヒットしてリピーター続出だろうなんて思っていたのに。このまま最後まで行っちゃうのかしらと見ていて心配になるくらいの不完全燃焼モード。最後の最後、ギョンスとマー先生だけの戦いになってからは、はっきり言ってものすごい。どうせやるなら「陰陽師2」もこれくらいやってちょ。ここだけはもう本当に脱帽もの。二人が互いに気を発しての戦いだから、バカバカしいと言えばそれまでなんだけど、あそこまで堂々とやられるとかえって気持ちいい。こういう戦いでの決め手となる敵役のマー先生がすばらしい。主人公が戦うのはこういう相手でなくっちゃ。ポマードで頭髪きっちり。上から下まで黒ずくめで、いつだってポーカーフェイス。チャンの挑戦に対して腕時計を見て「家に帰る時間なんだが・・」だって。マー先生家があるんですか?(魔界に住んでいそう)まさか家族・・奥さんとかいるんですか?(いたとして人間ですか?)何があっても動じない彼の前ではイキがるチャンはただのバカ。マー先生を演じるホ・ジュノ様のすばらしいこと。彼を敵役に据えたのは大正解でしたわ。さてこの映画、ストーリーはメチャクチャだからつじつま合わせをする必要もないんだけれど、気がついたことを少し。最初の方でなぜカタツムリがヘンな筒を持って窓から飛び降りるのかわけがわからなかった。校長先生が毒入りのお茶を飲まされ、犯人としてハンニムがつかまるんだけどそこらへんもよくわからない。
火山高3
しかし二回目を見ていてやっとわかった。カタツムリはわざとケガをし、保健室で寝ている。そしてハンニムがいつも校長先生のためにブレンドして持ってくるお茶と、チャンに渡された毒入りのお茶とをすり替える。ハンニムは無実の罪でつかまり、ナンバーワンの地位はチャンのものになる・・なるほどね。もう一つはラストの方で戦う決心をしたギョンスに向かって、マー先生が「誰か余計なことをした者がいるらしい」とか何とか言うところ。これってハンニムのことなのね。このハンニムの扱いが軽すぎたのがストーリーが盛り上がらない原因の一つ。彼はギョンスとの面会以後全く出てこない。チャンがくり返し甦って「またかよー」なんて見ている者(つまり私のことね)をうんざりさせる、そのうちの一回か二回がハンニムの活躍シーンだったら、この映画もだいぶ印象が違ってきたと思う。くり返しはゲームならいいが、映画だと限度があるのだ。チャンに関しては一から十まで全部見せます、セリフも全部聞かせますみたいなやり方をせず、1時間30分くらいにおさめておけばもっとすっきりとスピーディーな展開になっていたと思う。韓国版は121分だそうだからもっとくどい作りなんだろうな。私には日本版の1時間48分でさえしんどかった。ラストの凄まじい戦いで不満はあらかた帳消しになったけど・・ね。でもチャン役のキム・スロ君には何の罪もないんですよ。あくまでも編集方法にお国柄が出ているってだけのことで。さて中盤のギョンスとハンニムの戦いは「マトリックス」そのまんまだけど、漢字が飛び回るところなんか洋もの映画ではお目にかかれないようないいアイデア。ハンニム役のクォン・サンウの手さばきも見事。彼ってもしN氏が降りたら「陰陽師3」はあなたにお願いしますね・・って言いたくなるくらいの端正な二枚目。狩衣・烏帽子が似合いそー。それとクライマックスで崩れたやぐらみたいな中からギョンスが浮かび上がり、それを見たマー先生も浮かぶところは「ダークシティ」を思い出してにんまり。校舎の上空で鳥が群れているところは「ザ・クロウ」みたいだったし、何だかんだ文句言っても結局私好みの映画なのよね。最初出演者の名前がシュボッという感じで小さく出てくるのも好き。音楽がとてもいいので早速サントラを買ったが、主題歌を歌っているのは女性なのね。てっきり男性だと思っていたのでびっくり。