火星人地球大襲撃

火星人地球大襲撃

子供の頃、学校が休みに入ると、平日の午前中にテレビで洋画をやることがあった。「夏休み子供劇場」とかそんな感じで。子供が対象だからSF映画が多い(そりゃ恋愛映画はやらんわな)。何をやったかほとんど覚えていないが、この「火星人地球大襲撃」だけは覚えている。今回「サンダーバード」の13話について書くためにいろいろ調べている時に、ふと思いついてこの映画についても調べてみたら・・ありました!何とDVDが出ている。早速ゲット!ちなみに私ずーっと「火星人」じゃなくて「金星人」だと思い込んでいたのよね。1967年の作品だから、まさに「2001年」が作られている頃だ。人類の発展に宇宙人がかかわっているというアイデアは「2001年」と同じだ。「2001年」での人類の進化の第一歩は道具(骨)を使って動物を殺し、食べ物を手に入れることだった。それはすぐに他のグループとの争いで相手を殺す手段になった。こちらの作品では自分達とは異なる者を粛清し、種の浄化をはかることが社会の安定につながるという意識が人類の祖先に埋め込まれた(一種の遺伝子操作)という設定になっている。「2001年」ではキューブリックやクラークは今までにないSF映画を作ろう・・と意気込んでいた。しかしモノリスを送り込んだ宇宙人のことは全く描かれない。「火星人」のDVDには監督や脚本家のコメンタリーが収録されているのだが、それを聞くとやはり同じようなことを言っている。ハマーと言えばホラー映画で有名なのだが「典型的なホラー映画を作る気はなかった」と・・。ただ彼らは悪魔のような火星人の姿を実際に画面に登場させなければならないと思っていた。そのためにイナゴ型の火星人が登場し、クライマックスでは夜空に白いオバケみたいなイメージが浮かび上がった。そこがキューブリック達と違っているところだが、こういうのがないと当時のお客は納得しないと考えたのだろう。ストーリーはなかなかよくできていて、当時の世相をうかがわせるようなところもある。ロンドンで地下鉄の拡張工事をしていたら500万年前の類人猿の骨が出てくる。ロニー博士達が発掘していると何やら妙なものが出てくる。不発弾か大戦末期のドイツの秘密兵器か。ここらへんはいかにもまだ戦争を引きずっているという感じだ。掘り出して洗ってみると乗り物のように見える。

火星人地球大襲撃2

500万年前の類人猿の骨と一緒に発見されたということは、太古の昔宇宙から飛来した宇宙船なのではないか・・と物理学者のクォーターマス教授は考える。中からイナゴのような動物の死体が発見され、ロニーやクォーターマスは体の構造から、火星人ではないかと推測する。この二人と対立するのがブリーン大佐。クォーターマスはロケット計画のリーダーだが、目的はあくまでも平和利用だ。しかしブリーンはロケットを軍事目的に利用することしか考えていない。この映画のオリジナルは1958年のテレビシリーズだが、1950年代、そしてこの映画の作られた1960年代、アメリカやソ連は宇宙開発にしのぎを削っていた。原爆や水爆への恐怖もあったし、地球はボタン一つで滅亡するかもしれなかった。宇宙からの侵略とか地球人の滅亡というテーマは、それら現実の恐怖の別の形での現われでもある。SF映画では危機に陥っても最後には誰かの英雄的行為で地球や人類は救われる。見ているお客もその瞬間は現実の恐怖もこの映画のように何とか解消されるかもしれない・・と楽観的になれるわけだ。だとしたら「2001年」はずいぶんかけ離れた内容の映画だということになるが。さて発見されたイナゴ型火星人の目的は不明だし、そもそも本当に火星人なのかどうかもわからない。宇宙船には操縦のための機械もない。だからクォーターマスの説は推測である。文明の進んだ火星は破滅の時が近づいていた。宇宙船に乗って地球に来てみたが、大気が彼らには合わない。それでそこにいた類人猿を連れ帰り、何らかの手術をした。発見された骨を元に復元してみると頭が異常に大きいのである。細工によって高い知能を得たが、同時にある意識も深層に埋め込まれた。前にも書いたが異種の排除、種の浄化である。人間がいつまでたっても戦争をやめないのはそのせいである。火星人が滅びたのが環境のせいなのか殺し合いのせいなのかは不明である。今回見つかったのはおそらく地球着陸に失敗して泥の中に埋まってしまった宇宙船だろう。もちろん火星人が人類の祖先だなんていう考えは政府の役人には否定されてしまう。いろいろ不思議な出来事が起こっているにもかかわらず、彼らは物体を安全なものと決めつけ、報道関係者に公開することにする。クォーターマスの忠告は無視される。彼はこういう映画にはつきものの、才能はあるのに全くむくわれない科学者だ。

火星人地球大襲撃3

唱える学説は無視され、平和を望んでいるのに研究を悪用される。演じているのはアンドリュー・キア。お約束通り、記者やカメラマンの集まっているところで異変が起きる。イナゴ型火星人の姿が500万年前の類人猿の脳裏に刻み込まれ、それが悪魔の形の原型になったという考えはなかなかおもしろいと思う。宇宙船の中には魔術で使う記号も刻まれている。ただ私にはイナゴと悪魔のイメージとの間にどれくらいの相似があるのかはよくわからないが・・。人間の祖先に与えられた能力(透視能力や念力)はほとんど利用されることもないが、時には表に出る。それが間違って解釈されて魔女とか悪魔とか呪いとなるのだ・・とクォーターマスは考える。発掘された宇宙船にはそれらの能力を引き出し、その能力を利用して異種を排除するよううながすパワーがあった。この場合の異種とはパワーの影響を受けない(ほど進化した)人間のことである。宇宙船は発光し始め、地下鉄の工事現場は大混乱になる。クォーターマスはかけつけてきたロニーを一度はパワーにあやつられて殺しそうになるが、意志の力で押さえる。ロニーはパワーに何の影響も受けていなかった。現場一帯には古くから幽霊が出るといううわさがあった。地下鉄の駅の名前がホッブスでHOBB’Sとつづる。しかし昔はHOB’Sとつづった。HOBは字幕では「悪魔」、辞書で調べると「いたずらな小鬼」とある。こういう小ネタもおもしろい。木を伐採したり井戸を掘ったり地下鉄を作ったり、地面に何かする度に怪奇現象が起きていた。今回はとうとう宇宙船を掘り出し、あれこれといじくり回した。起こさなくてもいいものを起こしてしまったわけだ。火星人そのものはもう死んでしまっているから、残っているのはある種の残存エネルギーである。それが人間に影響を与え、人間からはエネルギーを吸収して強大になっていく。夜空に現われた火星人のイメージ像も、イナゴの人形も安っぽい・・とDVDの解説にある。確かに今見ればチャチで子供だましだ。目の部分は特に・・せめて複眼にするとかね。あれじゃへたくそな絵にしか見えない。だがこれは大人になった今の目で見た場合の話。この映画について調べていた時に見つけたサイトで、ある人が「子供の頃たまたまテレビで見てこのシーンがトラウマになった」と感想を書いていたが、実は私も全く同じ。

火星人地球大襲撃4

クォーターマスの存在も、宇宙船もイナゴの人形も私の記憶からは全く欠落していた。覚えていたのは白いオバケと、それに立ち向かうジェームズ・ドナルド、この二つのことだけ。白いオバケは子供にとっては十分に怖いものだった。さてロニーは正体がエネルギーなら鉄を通して地面に放電させてしまえばいい・・と、近くにあったクレーンによじ登る。それに気づいたバーバラが念力で邪魔をしようとするのをクォーターマスは押さえつける。最後までひるむことなく冷静に怪物に立ち向かっていくロニーの姿は強く印象に残った。演じているジェームズ・ドナルドは「大脱走」とか「戦場にかける橋」などの名作で知られている。だからこういうB級SF映画に出ているのはちょっと妙な感じがした。ただ彼の出演でこの映画の格は上がったように思う。警官の役で「UFO」のヘンダーソン長官ことグラント・テイラーが出ていたのでびっくりした。調べてみたら彼は1971年に亡くなっている。「UFO」が1970年だから・・。あと最初の方で地下鉄に乗ろうとするお客の一番前にいる帽子をかぶった若い女性は、「UFO」のストレイカーの秘書ミス・イーランドだと思う。だってそっくりなんだもん。この映画の紅一点バーバラ・シェリーは「妖女ゴーゴン」や「白夜の陰獣」でおなじみの女優さんだ。髪の毛がヘビの女の人の話とか、ラスプーチンの悪行(?)の話とか、子供にはよく内容がわかんないんだけど、バーバラの美しさは印象に残っている。これらは確か土曜映画劇場で見たんだよね。私はこの番組の最後に流れる曲がとても好きで・・。後になってホルストの「惑星」の中の「木星」だとわかったけど。バーバラのような女優さんは最近ではあんまりいない。当時と今では同じ美しいと言っても美しさの種類が違うのよね。CGのない時代にこういう映画を作る大変さを、監督や脚本家は収録されたコメンタリーの中で述べている。彼らの言う「ハリウッドの全資本を投入して完成させた説得力のある宇宙映画」というのは「2001年」のことだろうか。予算も技術も限られたこちらの映画では、ポルターガイスト現象が起きるシーンで舞い上がったいろんな品物を吊っている糸が見えるのがご愛敬だ。くれぐれも最新技術でリメイクなんかして(なんたって今はネタ切れでリメイクや続編に頼ってばかりの時代ですからね)夢をぶちこわさないで欲しいな。